現代ジャズ・フュージョンギターのパイオニア:John McLaughlin・The Promise [音源発掘]

ここのところ、歴史記事やお宝音源の記事ばかりで。、気付いてみればCDアルバム関係の記事3/3以来、1ヶ月以上お無沙汰をしてしまっていました。

そこで今回は、その久し振りとなってしまっていた、CDアルバムのお話をしようかと思います。

そのアルバムのアーティストは、John McLaughlin。

60年代の後半に新しいジャズを模索していたマイルス・ディビスのグループへの参加で一躍注目の登場を果たしたマクラフリン、ジャズのギターの世界に新しいスタイルを築き上げ、その後のフュージョンへ道程の中で、多くのギタリストに影響を及ぼしたその第1人者として、記憶に留めておきたいアーティストの一人ではないか思い取上げることにいたしました。



ギターという楽器、元々ジャズの世界ではソロ楽器としては適さない楽器とされていたのです。
それは、ホーンやドラムといった楽器に較べ音が小さく、ソロをとってもそれらの楽器に音をかき消されてしまうということが理由だったようなのですが、そうしたギターにソロ楽器としての脚光が浴びだしたのは1940年代の初めこと。

それはアンプを利用することで、十分な音量確保出来るようになったことによるものでした。
そして、それは当時 現在のモダンジャズの元祖となったビ・バップの黎明期に登場した、チャーリー・クリスチャンの手によってその演奏方法が確立され、その後、クリスチャンの手法を継承する多くのギタリストが生れ50年代以降その隆盛を迎えることになったのです。

こうして、ソロ楽器としての道を歩き始めたギター、60年代になるとさらに新しい演奏の手法が試みられるようになります。
それは、60年代に力を増して来たロックの台頭。
ジャズの世界では、アンプはあくまで音量を増幅するためのもので、演奏者はあくまでギターをプレーするものであった訳ですが、ギターを楽器の主役としたロック・サイドのミュージシャンから、そのアンプを積極的に活用し新たな音響効果を創り出す道具として使う動きが出て来ることになったのです。

エリック・クラプトンやジミ・ヘンドリックスなどのミュージシャンがそれで、特にジミ・ヘンドリックスの場合は、アンプにかなりの拘りを持っていたといわれています。

そうしたロックで試されたギター演奏の新しい流れをいち早く取り入れ、ジャズの世界に持ち込んだのがJohn McLaughlin。
60年代の後半、マイルス・デイビスのグループのドラマーだったトニー・ウィリアムスのグループに参加し、その後トニーが、強力なギターリストを探していたマイルスに紹介、マイルスが初めてロックに挑戦した作品”In A Silent Way"のレコーディングに参加ししたことから彼の名前は全世界に知れ渡ることになったのです。


さて、そうして現代ジャズ・フュージョンギターのパイオニアともいうべきギタリストになったジョン・マクラフリン、今回取上げる作品は1995年発表の”The Promise”。
マクラフリンの歩んできた音楽世界を集大成ともいえるこの作品を、御一緒に聴いて行きたいと思います。

The Promise John McLaughlin.jpg





まず最初の曲は、やはり彼の才能を高く評価しその存在を自己のアルバム通じ世に知らしめた大恩人のマイルス・デイビス。
そのマイルスの音楽を彷彿とさせるこの曲から聴いて行きたいと思います。



曲は”No Return”
91年に亡くなったマイルス・デイビス。マクラフリンのもう戻ってこないマイルスに対する深い敬愛の念が感じられる演奏ですね。
それにしてもこのサウンド、”No Return”というタイトルとは裏腹に、あたかもマイルスが甦ったかのよう。
マクラグリンがマイルスの良き理解者であったことが分かるサウンドではないかと思います。

マイルス・デイビスのグループで名を上げたマクラフリン、その次のステップは自己のバンド、マハヴィシュヌ・オーケストラを立ち上げ、さらにエレクトロニクスを駆使したサウンドを創り上げていきます。

そして、ちょうどその頃、ロック・サイドのミュージシャン達にも次第に彼の影響は浸透していくことなります。
その代表的なアーティストが、カルロス・サンタナ。
その発端は、当時ジミ・ヘンドリックスに傾倒していたサンタナが、ヘンドリックスとジャムセッションで共演したミュージシャンとの共演を望み、そのヘンドリックスの共演者の一人であったマクラフリンとの共演を実現したことに始まります。

その演奏は、”Love Devotion Surrender:魂の兄弟達”という作品で聴くことができますが、ここでサンタナは、マクラフリンからテナー・サックスの巨匠ジョン・コルトレーンの存在を教えられ、さらにはマクラフリンが信仰していたヒンドゥ教の教えにも傾倒して行くことにもなります。
その結果、この共演以後のサンタナのサウンドは、それまでのハードで妖艶かつ扇情的なサウンドから、思索的なフュージョンサウンドへと大きく変化していくことなっていったように、マクラフリンから大きな影響が表れて来るのです。

そして、ロックの世界からもう一人、この人もマクラフリンによってフュージョン・サウンドへの道へと足を踏み入れることとなります。



ヨーロッパ生れの名ジャズ・ギタリストDjango Reinhardt(ジャンゴ・ラインハルト)、1953年その彼の死を悼んでMJQのピアニト、ジョン・ルイスが作曲した曲”Django”です。

この演奏でマクラフリンと共にギターを演奏しているもう一人のギタリスト、その人はロックギターの巨匠Jeff Beck。
実は、このジェフ・べックもマクラフリンから大きな影響を受けたミュージシャンの一人なのです。

ここでの演奏は、この不世出のギタリストジャンゴに敬意を払いつつ、現代のテクノロジーでこの古き名曲を甦らせた、現代のジャズ・ロック界を代表する二人のギタリストよる名演奏の一つではないかと思います。


さて、マハヴィシュヌ・オーケストラ以後のマクラフリン、その音楽は彼が洗礼を受けたヒンドゥ教の影響からか、大きくインド音楽を取り入れたものになっていきます。
その音楽は彼がインドのミュージシャンらと結成したバンド”シャクティ”の演奏で聴くことができますが、ここでの彼はそれまでのエレクトリック路線から、アコースティック・ギター路線へとその路線を大きく変更することになります。

そして、80年代に入りそのアコースティック路線は、ラリー・コリエル、そしてスペインのフラメンコ・ギターの巨匠 パコ・デルシアらとのアコ―スティック・ギター3台によるユニット、Super Guitar Trioへと発展していくことになります。


このトリオの演奏、1980年頃、私もその来日公演を行ったのですが、3台のギターが繰り広げるスピード感溢れるバトルの連続、そして緊張感に満ちた美しく迫力のあるサウンドにすっかり魅せられてしまったのでした。

この作品の中でも、コリエルからアル・ディ・メオラに替わったこのトリオの演奏が収められていますので、その演奏を聴いてみることにいたしましょう。



曲は”El Ciego”。
その情熱的なサウンドは、アコースティック・ギターの新しい可能性を提示した、素晴らしい演奏だと思います

私自身、エレクトリック路線時代のマクラフリンのサウンドは何か仰々しくどうしても好きになれなかったのですけど、アコースティック・ギター路線になったこのサウンドを聴いたことで、マクラフリンというギタリストの評価を180°修正しなればならなくなったのでした。


幾つもの顔持つマクラフリンのギター、この作品は、そのマクラフリンの全貌に接することができるものとして、お薦めの一枚ではないかと思います。


Track listing
1.Django
2. Thelonius Melodius
3. Amy And Joseph
4. No Return
5. El Ciego 9:10
6. Jazz Jungle
7. The Wish
8. English Jam
9. Tokyo Decadence
10. Shin Jin Rui 10:46 Album Only
11. The Peacocks


Personnel
John McLaughlin (acoustic & electric guitars, midi guitar, keyboards, birds song, percussion);
Nishat Khan (vocals, sitar);
Mariku Takahasi (vocals);
Susana Bйatrix (spoken vocals, birds song, percussion);
Stephania Bimbi (spoken vocals);
David Sanborn (alto saxophone);
Michael Brecker (tenor saxophone);
Joey DeFrancesco (trumpet, Hammond B-3 organ);
Tony Hymas, Jim Beard (keyboards);
Paco De Lucia, Al Di Meola, Philippe Loli (acoustic guitar);
Jeff Beck (electric guitar);
Yan Maresz (acoustic bass);
Pino Palladino, James Genus, Sting (bass);
Mark Mondйsir, Dennis Chambers, Vinnie Colaiuta (drums);
Zakir Hussain (tabla);
Toto (birds song, percussion);
Don Alias, Trilok Gurtu (percussion).

Recorded
1995
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yuzman1953

妻と一緒にマクラフリンのアコースティックギターの演奏に聞きほれてしまいました。
by yuzman1953 (2012-04-16 00:59) 

老年蛇銘多親父

yuzman1953さん

マクラフリンのアコースティックギターの演奏、気に入っていただけて良かったです。

この3人の演奏、この作品の翌年に”The Guitar Trio”というCDを出していますので、よろしければ聴いてみてください。

http://www.amazon.co.jp/Guitar-Trio-Paco-De-Lucia/dp/B000004756/ref=ntt_mus_ep_dpi_4

by 老年蛇銘多親父 (2012-04-17 06:50) 

マチャ

以前、パヴァロッティのチャリティコンサートで、
アル・ディ・メオラ、パコ・デ・ルシアと3人で
演奏していたのが印象的です。

そのコンサート映像で初めて知ったのですが、
マクラフリンも素晴らしいギタリストですよね。
深く知ることができました。ありがとうございます。


by マチャ (2012-04-17 22:35) 

老年蛇銘多親父

マチャ さん

マクラフリンもそうですが、このギター・トリオ、これを見た時の感想はパコ・デ・ルシアの存在の大きさ。

マクラフリンとラリー・コリエルというジャズ・ギターの名手二人がかりで、フラメンコ・ギターの名手に挑んでいる、そんな感じを受けました。

マクラフリンとともに、パコ・デ・ルシアの演奏にもまた注目していただければと思います。
by 老年蛇銘多親父 (2012-04-18 12:51) 

ituki

フラメンコダンサーの衣装の様な、とっても綺麗なアルバムジャケットですね^^
びっくりしたのはアルバムのアーティストの面々!
記事に上がってる人以外にも、マイケル・ブレッカーやサンボーンやスティングまで@@”

記事の3曲だけでも全く色合いの違う曲で、色んなジャンルの音楽が楽しめるし、このメンバーならとってもお得なアルバムですよね^^[ラブラブハート]

「No Return」は、マイルスをあまり聴いてない私でも、っぽいなと思わせる楽しいかっこいい曲♪
面白いのは、トランペットのJoey DeFrancesco
この人、本職オルガ二ストなんですね(笑)

「Django」は、こんな情緒的なきれいな曲だったっけ?って思うぐらいベックのギターがステキでした^^[ラブハート]

「El Ciego」は、一番楽しめますね(笑)
ここは誰が弾いてるんだろうって真剣に聴き入ってしまいます。
親父さんのおっしゃる通り、パコはオーラがありますね(笑)
アル・ディ・メオラやマクラフリンは色んなバージョンの奏法を取り入れたりテクニックも凄いけど、パコは音色からして違うというか、力強いスタッカートにアクセントの付いたような(笑) そうそう、まるでペトルチアーニみたいな(笑)
でも、ほんと素晴らしいトリオの演奏!次から次からたたみかける様に美しい音色のフレーズが押し寄せて来て、あっという間に9分経ってます^^;

それから曲の初めに、最初雑音かと思った^^;数秒の・・何だろ?(笑)
これとっても面白いなと思って・・・
「No Return」の雰囲気にピッタリなコミカルな、スティング何か言ってるし(笑)
「El Ciego」は小鳥の声や教会の鐘の音やピアノの音、これも素敵な前奏ですね^^♪

それと、曲のタイトル見てるとマクラフリンは日本びいきなのかなと思いました^^;

by ituki (2012-04-26 00:53) 

老年蛇銘多親父

イッチー

Joey DeFrancesco、この人はあまり詳しく知りませんでしたが、どうも超絶技巧のオルガニストのようですね。

今年は、元来あまり好きでなかったオルガンのジャズ、ロニー・スミスのオルガンが良かったこともあり、オルガンを重点聴こうと思っていたところなのでこの人もその候補に加えてみようと思います。

「Django」は、やっぱりMJQの原曲を聴いてもらってから方がいいようですね。

http://www.youtube.com/watch?v=YqnTqFyQHZc

このアルバム、60年代にケニー・バレルというギタリストの≪ケニー・バレルの全貌≫という名盤がありましたが、これはまさにジョン・マクラグリンに全貌といったところ。

スィング・ジャーナル誌のゴールド・ディスクに選定されていましたし、手軽にマクラグリンというギタリストのすべてを味わえる名盤じゃないかと思います。


あっ、そうそう
「No Return」で、何か言っては、スティングではなくてマイルス・ディビスの声なんですよ
by 老年蛇銘多親父 (2012-04-26 08:12) 

ituki

うははは^^[パー]
あれスティングじゃなくてマイルスだったんですね[汗汗]
それでつじつまが合う(笑)
ずい分ハスキーな声だからてっきり(笑)
さすが親父さん、そんなところまでよくご存じなんですね^^[ラブラブハート]

「Django」は、うちのMichel Legrandのアルバムに入ってて、あまりピンとこなかったからあまり聴いてなかったんですよね^^;
原曲も渋くていいですが、マクラフリンのはやっぱりカッコいい!
途中曲調がブルースロック調になるところも好きですね~^^♪

上に書いてなかったんですが、マクラフリンのギターの腕前だけじゃなくて、コンポーザーとしての素晴らしい才能もよくわかります[ぴかぴか]
やっぱりね( ̄・・ ̄)v ちょっと聴いて名盤だと思いましたよ(笑)

あっ 上の自分のコメント、パコについて偉そうに言ってますが(笑)
これを聴いてちょっとそう思ったんですが、やっぱりCDは何回聴いても全然誰が弾いてるのか区別がつきません^^;(笑)
「Spain」 Paco de Lucia Al di Meola and John McLaughlin
http://www.youtube.com/watch?v=oJsZT8cRaWM&fmt=18




by ituki (2012-04-27 00:48) 

老年蛇銘多親父

イッチー

マイルスの声、結構ポピュラーなんですよ。
マイルスの諸作品でも聴けるほか、TDKや三楽のTV・CMでも流れていたことがあるのでね。

http://www.youtube.com/watch?v=E54l6HKt6mk

http://www.youtube.com/watch?v=m_XUA1PKKDQ


「Django」は、やはり原曲を聴かないとその面白さが分からないようですね。
YOU TUBEに載せた上の3つ映像の中で一番アクセスが少ないのがこの曲だったので、そんな気がしてました。

ご指摘の通りこの演奏、途中曲調がブルースロック調になるところがミソで、ここにジェフ・べックとの共演の面白さがあるなぁと感じています。


パコとマクラフリンのギターの奏法の違い、これはコンサートで見ているので、
マクラグリン(デ・ミオラもたぶん)はスチール弦でピックを使って弾いてますが、パコは、ナイロン弦で素手で弾いている、そこに音の違いがあります。

テーマのところでは、それがよく分かるのですけど、ソロの応酬が始まるとその展開の余りの早さに、生で見ていても誰が弾いているか分からなくなってしまったほど。

音だけだと、その聴きわけはさらに大変になってしまいますよね。


by 老年蛇銘多親父 (2012-04-28 06:10) 

老年蛇銘多親父

RodorigesEX さん  初めまして
yukihiroさん
ジンジャーさん
keita-gotoさん
TAMAさん
タカさん
ねこのめさん
mk1spさん
R8さん
ヒサさん

皆さんどうもありがとうございます。

このCD、これだけの内容なのにあまり知られてないみたいで、よかったらまた聴きに来てください。



by 老年蛇銘多親父 (2012-05-06 17:48) 

ituki

親父さん^^ マイルスの声を聴かせて下さってありがとうございます[ぴかぴか]
面白いエピソードを見つけたので、ちょっと借りてきました^^;
マイルスの自叙伝に載ってるそうです。
親父さんご存知かもしれませんが^^;

「トロントでの出来事のすぐ後、1956年の2月か3月だったと思うが、喉の手術をして、回復するまでバンドを解散しなきゃならなかった。ずっと気になっていた非ガン性の咽頭腫瘍を取り除いたんだ。病院を出てすぐに、あるレコード会社の奴と会ったんだが、そいつはオレと契約しようと、うるさいくらい喋りつづけやがった。で、オレは嫌だったし、はっきりさせようと声を荒げて、声帯をダメにしてしまった。医者から、とにかく10日間は声を出しちゃいけないと言われていたのに、オレは喋るだけじゃなく大声で怒鳴ってしまった。だから、オレの声はこんなふうにしゃがれたんだ。最初は気になったが、結局はこんな声なんだと思うようになった。」

なんだかマイルスの人柄が出てますね(笑)

それと、ギターの弦の違いを教えてもらってから、急にパコの音が解るようになりました(笑)
硬くて芯のある音ですよね。 だから、すごく弦を押さえる方もはじく方も力入ってるなぁと思ってたんですよね。
マクラグリンやデ・ミオラのは、やっぱり金属的な鳴り方で高音の残響音みたいなのがキレイですね。
これから他のアコギを聴く時も楽しみが増えました^^♪
ありがとうございます(*^^)
by ituki (2012-05-21 00:26) 

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