狂気の果てに Pink Floyd・Wish You Were Here(炎) 本日の作品;vol.110 [デジタル化格闘記]
今回のお話は、またいつもに戻って音楽の話題。
その音楽記事、ここのところ私のレコード・ライブラリーの中から、何度も聴いているのに、何かと言えば聴きたくなる作品を取り上げ書いてきましたが、いささかジャズ作品ばかりが偏ってしまったことから、今回は他のジャンルの作品にも目を向け綴っていく事にしたいとしたいと思います。
そのアーティストは、先日ログ友さんの記事見かけたとあるバンド、実はこのバンド、今から40年ほど前に来日の折、金もないのになんとかチケットを手に入れライブに参戦、それまでに聴いたことの先進的な音楽にノック・ダウンされてしまい、その後、その動向に目を向け続けてきた人達なのです。
そのアーティストとは、今や伝説とも言われているプログレッシッブ・ロック・バンドのPink Floyd。
その作品は、私自身、どの作品にもそれぞれの思い入れがあり、今だよく手にし聴くことが多いのですが、中でもお気に入りなのがこの作品、
1975年発表の”Wish You Were Here(邦題:炎)”です。
この作品、フロイド大傑作アルバムと言われる前作 1973年の”The Dark Side of the Moon(邦題;狂気)”と1979年発表の”The Wall”の間にあって、ちょと影が薄いように思えるのですけど、かく言う私も、このアルバムが発表された当時は、彼らが大きな反響を及ぼした前作をどう乗り越えたか、期待を持って聴いたところ、一つのしっかりとしたコンセプト支えられた前作とは異なり、どこか散漫でまとまりに欠けているような印象を受け、かなりがっかりとした思い出があるのです。
そしてそれは、当時のマスコミの評価もかんばしくなかったことを考えると、けして、私だけの思いではなく、当時の多くのフロイド・ファンがこの作品に抱いた感想だったようなのです。
発表当時不評であったこの作品、ところがその後は、ピンク・フロイドの諸作品の中でも、”The Wall”や”The Dark Side of the Moon”に引き続き3番目のセールスをあげた作品となっているのです。
実は、当初この作品にがっかりした私も、その後この作品聴き込むにつれ好きになっていった口の一人なのですが、そしてその好みは、この作品以後、ベーシストでリーダーのロジャー・ウォタース色が強まり、音楽的な質の変化によって、さらに助長されていくことになってしまったのです。
というのは、私自身本来このバンドのギタリストのデビット・ギルモアとキーボードのリッチャード・ライトの織りなす幻想的なインストメンタル部分が好きで、そのサウンドがロージャーの詩の世界と相まって生みだされる異次元空間の魅力に惹かれていたことにあるのですが、この作品以後は、詩の世界を強調するウォータースのコンセプトの強まり、-それはインストメンタルを強調するライトとギルモアの対立となってバンドの分裂へと発展して行くことになるのですけど-、そのサウンドの変化は歓迎するも、やはりそれ以前のスタイルを越えるものとはどうしても思うことができなかったからなのです。
さて、少々私事になってしまいましたが、4人の生み出すグループ・ミュージックが聴ける最後となったこの作品、ここでは、ギルモアの憂いを持ったギター・プレイとライトの幻想の世界へ導くキーボード・プレイが十二分味わえるということで、この作品のハイライトをなすこの曲を、ここで1曲聴いてみる事にしたいと思います。
曲は”Shine On You Crazy Diamond(邦題;狂ったダイアモンド)”です。
この曲は、フロイドの初代ギタリストでリーダーであったシド・バレットに捧げたものと言われているのですが、このバレットと言う人、初期フロイドのサウンドを作り出した人物で、その才能は60年代半ばのサイケデリック・ロック全盛の時代にあってポール・マッカートニー、ミック・ジャガー、デビット・ボーイ等のビッグ・ネームからの大きな賞賛を得、影響を与えたアーティストなのです。
ところが、そうした才能を持ちながらバレッドは、フロイドのデビュー。アルバム”The Piper At The Gates Of Dawn(邦題;夜明けの口笛吹き)”1作のみを残し、バンドを去ってしまっている。
それは、レコード会社の争奪戦の後に華々しいデビューを飾ったフロイドの中にあって、バレッドのその繊細な天才性は、その環境に馴染むことができず次第にLSDを摂取の道をたどるようになり、その結果精神を病み音楽活動継続が困難になってしまったからだったのです。
そうしてバンドを去っていたバレットでしたが、しかし、残ったメンバーに与えた影響の大きさ、そして彼らのバレットに対する思慕の念は強く、この””Shine On You Crazy Diamond”や、前作品の”The Dark Side of the Moon”も、その天才への思いが投影されることとなっていたと言われているのです。
さて、そこでその天才へのメッセージとも受け取れる曲をもう1曲。
この作品の中から、ロンドン・オリンピックの閉会式でも登場したフロイドのドラマー ニック・メイスンが演奏した曲”Wish You Were Here(邦題:あなたがここにいてほしい)”を聴いてみたいと思います。
脱退以後、一時的に創作活動に戻ったバレット。
その後、2枚のソロ作品を発表しているのですが、その2枚目の作品には、ギルモアがそのレコーディングに参加しているのです。
この演奏は、そのバレットの共演を思い出しながら、スピーカ-から聴こえてくるバレッドのギターに合わせギターを弾き歌うギルモアの演奏のようにも見え、彼のバレッドに対する深い思慕の念が感じられるように思います。
実際このアルバムのレコーディングの最中に、バレッドが現れたという逸話があるのですが、あまりの変わり果てた姿にメンバーはそれがバレットとは気付かず、しばらくしてただ一人、それがバレットだと気付いたウォタースは、いたたまれずその場を飛び出してしまったということがあったのだそうなのです。
狂気と天才の狭間で一時その才能を一機に輝かせたバレット、この作品は、フロイドのメンバーのそうしたバレットへの思慕の念と自分達をビッグ・ネームの道へ導いてくれた感謝の念を凝縮したもの、そんな作品でなのはと思うのです。
それでは最後に、私の持っているフロイドの御宝を一つ。
Pink Floydメンバーのサインです。
73年のライブに参戦した時に、そこでレコードを買い手に入れたもの。
今になってみれば、本当に大切なものとなってしまいました。
Track listing
All lyrics written by Roger Waters.
1."Shine On You Crazy Diamond, Parts I–V" 狂ったダイアモンド(パート1)
2."Welcome to the Machine" ようこそマシーンへ
3."Have a Cigar" 葉巻はいかが
4."Wish You Were Here" あなたがここにいてほしい
5."Shine On You Crazy Diamond, Parts VI–IX" 狂ったダイアモンド(パート2)
Personnel
Pink Floyd
David Gilmour – vocals, guitar, lap steel guitar, EMS Synthi AKS, keyboards, tape effects
Nick Mason – drums, percussion, tape effects
Roger Waters – vocals, bass guitar, guitar, EMS VCS 3, tape effects
Richard Wright – keyboards, EMS VCS 3, clavinet, background vocals
Additional musicians
Dick Parry – saxophone on "Shine On You Crazy Diamond"
Roy Harper – vocals on "Have a Cigar"
Venetta Fields and Carlena Williams – backing vocals
Stéphane Grappelli – violin on "Wish You Were Here" (uncredited)
Recorded
January – July 1975 at
Abbey Road Studios, London
その音楽記事、ここのところ私のレコード・ライブラリーの中から、何度も聴いているのに、何かと言えば聴きたくなる作品を取り上げ書いてきましたが、いささかジャズ作品ばかりが偏ってしまったことから、今回は他のジャンルの作品にも目を向け綴っていく事にしたいとしたいと思います。
そのアーティストは、先日ログ友さんの記事見かけたとあるバンド、実はこのバンド、今から40年ほど前に来日の折、金もないのになんとかチケットを手に入れライブに参戦、それまでに聴いたことの先進的な音楽にノック・ダウンされてしまい、その後、その動向に目を向け続けてきた人達なのです。
そのアーティストとは、今や伝説とも言われているプログレッシッブ・ロック・バンドのPink Floyd。
その作品は、私自身、どの作品にもそれぞれの思い入れがあり、今だよく手にし聴くことが多いのですが、中でもお気に入りなのがこの作品、
1975年発表の”Wish You Were Here(邦題:炎)”です。
この作品、フロイド大傑作アルバムと言われる前作 1973年の”The Dark Side of the Moon(邦題;狂気)”と1979年発表の”The Wall”の間にあって、ちょと影が薄いように思えるのですけど、かく言う私も、このアルバムが発表された当時は、彼らが大きな反響を及ぼした前作をどう乗り越えたか、期待を持って聴いたところ、一つのしっかりとしたコンセプト支えられた前作とは異なり、どこか散漫でまとまりに欠けているような印象を受け、かなりがっかりとした思い出があるのです。
そしてそれは、当時のマスコミの評価もかんばしくなかったことを考えると、けして、私だけの思いではなく、当時の多くのフロイド・ファンがこの作品に抱いた感想だったようなのです。
発表当時不評であったこの作品、ところがその後は、ピンク・フロイドの諸作品の中でも、”The Wall”や”The Dark Side of the Moon”に引き続き3番目のセールスをあげた作品となっているのです。
実は、当初この作品にがっかりした私も、その後この作品聴き込むにつれ好きになっていった口の一人なのですが、そしてその好みは、この作品以後、ベーシストでリーダーのロジャー・ウォタース色が強まり、音楽的な質の変化によって、さらに助長されていくことになってしまったのです。
というのは、私自身本来このバンドのギタリストのデビット・ギルモアとキーボードのリッチャード・ライトの織りなす幻想的なインストメンタル部分が好きで、そのサウンドがロージャーの詩の世界と相まって生みだされる異次元空間の魅力に惹かれていたことにあるのですが、この作品以後は、詩の世界を強調するウォータースのコンセプトの強まり、-それはインストメンタルを強調するライトとギルモアの対立となってバンドの分裂へと発展して行くことになるのですけど-、そのサウンドの変化は歓迎するも、やはりそれ以前のスタイルを越えるものとはどうしても思うことができなかったからなのです。
さて、少々私事になってしまいましたが、4人の生み出すグループ・ミュージックが聴ける最後となったこの作品、ここでは、ギルモアの憂いを持ったギター・プレイとライトの幻想の世界へ導くキーボード・プレイが十二分味わえるということで、この作品のハイライトをなすこの曲を、ここで1曲聴いてみる事にしたいと思います。
曲は”Shine On You Crazy Diamond(邦題;狂ったダイアモンド)”です。
この曲は、フロイドの初代ギタリストでリーダーであったシド・バレットに捧げたものと言われているのですが、このバレットと言う人、初期フロイドのサウンドを作り出した人物で、その才能は60年代半ばのサイケデリック・ロック全盛の時代にあってポール・マッカートニー、ミック・ジャガー、デビット・ボーイ等のビッグ・ネームからの大きな賞賛を得、影響を与えたアーティストなのです。
ところが、そうした才能を持ちながらバレッドは、フロイドのデビュー。アルバム”The Piper At The Gates Of Dawn(邦題;夜明けの口笛吹き)”1作のみを残し、バンドを去ってしまっている。
それは、レコード会社の争奪戦の後に華々しいデビューを飾ったフロイドの中にあって、バレッドのその繊細な天才性は、その環境に馴染むことができず次第にLSDを摂取の道をたどるようになり、その結果精神を病み音楽活動継続が困難になってしまったからだったのです。
そうしてバンドを去っていたバレットでしたが、しかし、残ったメンバーに与えた影響の大きさ、そして彼らのバレットに対する思慕の念は強く、この””Shine On You Crazy Diamond”や、前作品の”The Dark Side of the Moon”も、その天才への思いが投影されることとなっていたと言われているのです。
さて、そこでその天才へのメッセージとも受け取れる曲をもう1曲。
この作品の中から、ロンドン・オリンピックの閉会式でも登場したフロイドのドラマー ニック・メイスンが演奏した曲”Wish You Were Here(邦題:あなたがここにいてほしい)”を聴いてみたいと思います。
脱退以後、一時的に創作活動に戻ったバレット。
その後、2枚のソロ作品を発表しているのですが、その2枚目の作品には、ギルモアがそのレコーディングに参加しているのです。
この演奏は、そのバレットの共演を思い出しながら、スピーカ-から聴こえてくるバレッドのギターに合わせギターを弾き歌うギルモアの演奏のようにも見え、彼のバレッドに対する深い思慕の念が感じられるように思います。
実際このアルバムのレコーディングの最中に、バレッドが現れたという逸話があるのですが、あまりの変わり果てた姿にメンバーはそれがバレットとは気付かず、しばらくしてただ一人、それがバレットだと気付いたウォタースは、いたたまれずその場を飛び出してしまったということがあったのだそうなのです。
狂気と天才の狭間で一時その才能を一機に輝かせたバレット、この作品は、フロイドのメンバーのそうしたバレットへの思慕の念と自分達をビッグ・ネームの道へ導いてくれた感謝の念を凝縮したもの、そんな作品でなのはと思うのです。
それでは最後に、私の持っているフロイドの御宝を一つ。
Pink Floydメンバーのサインです。
73年のライブに参戦した時に、そこでレコードを買い手に入れたもの。
今になってみれば、本当に大切なものとなってしまいました。
Track listing
All lyrics written by Roger Waters.
1."Shine On You Crazy Diamond, Parts I–V" 狂ったダイアモンド(パート1)
2."Welcome to the Machine" ようこそマシーンへ
3."Have a Cigar" 葉巻はいかが
4."Wish You Were Here" あなたがここにいてほしい
5."Shine On You Crazy Diamond, Parts VI–IX" 狂ったダイアモンド(パート2)
Personnel
Pink Floyd
David Gilmour – vocals, guitar, lap steel guitar, EMS Synthi AKS, keyboards, tape effects
Nick Mason – drums, percussion, tape effects
Roger Waters – vocals, bass guitar, guitar, EMS VCS 3, tape effects
Richard Wright – keyboards, EMS VCS 3, clavinet, background vocals
Additional musicians
Dick Parry – saxophone on "Shine On You Crazy Diamond"
Roy Harper – vocals on "Have a Cigar"
Venetta Fields and Carlena Williams – backing vocals
Stéphane Grappelli – violin on "Wish You Were Here" (uncredited)
Recorded
January – July 1975 at
Abbey Road Studios, London
親父さんの紹介で、このアルバム1年くらい前に聞いてみました。その時は、ある人のお葬式の日でして、それもあってなのか「Shine On You Crazy Diamond」は、とても悲しい曲の印象が残っています。イントロから、3分50秒位までのギターソロが、哀愁にみちていて、心に沁みます。
シンセサイザーも素晴らしく、そのメロディー、何十回も聞きました。
「Wish You Were Here」は、天に居る友達へ送る曲のような感じですね。実際、その時はシド・バレッドは生きていた訳ですけど、人が変わっていく様を見るのは悲しいですね。自分も然り。
このアルバムへの思い入れが分かるような気がします。
by raccoon (2014-04-30 11:53)
”Shine On You Crazy Diamond”、ジャズ調?の曲かなと思いました♪、大作ですね♪
by mk1sp (2014-04-30 17:44)
raccoonさん
私の記事が発端でしたか。
いやいや、これは、曲もよく聴きこんでおられるようで嬉しく、本当に有難うございました。
ところで、この曲をある友人の御葬式で聴いたとのこと、この演出、誰が考えたのかのかもの凄いですね。(おそらく亡くなったご本人が選んだ選曲のような気がしますけど!!)
この曲の中には、終焉ではなく、命付きようともまた蘇る再生への願いがあるように思います。
それは、身は、この世から消えても、多くの仲間からいつまでもその存在を覚えていてもらいたいという、故人の願いが見えるように思います。
だから、”あなたがいてほしい”、この歌の意味の重さ、あらためて曲を聴きながら噛みしめてます。
その気持ち、私も同様の経験をしたことがあるので、あの時の故人への思慕の念、あらためて思いださせていただきました。
合掌。
by 老年蛇銘多親父 (2014-04-30 19:43)
mk1spさん
フロイドの中では、この曲は大作とは言いきれないのでけどね。
ジャズとはまた違いますし、今こういうサウンドを持った連中、本当に少ないですよね。
mk1spさんから、教えていただいたフロイドの影響を受けたバンド、私もその辺からフロイドが今どう理解されてているのか聴き直してみたいと思います。
by 老年蛇銘多親父 (2014-04-30 19:56)
多くのプログレのギタリストが、少なからずジャズとかクラシックをベースにしていますが、ギルモアのバックボーンは、やはりブルースですね。このアルバムの中でも、この曲は大好きです。彼なりのブルース解釈というのか・・、今聴いても時間軸の枠を越えて素敵ですね。彼の確か?2006年のソロアルバムだと思いましたが、全くブランクを感じさせない好アルバム!でした。
by ミスカラス (2014-05-03 17:42)
ミスカラスさん
おっしゃる通り、ギルモアのギターのベースはブルースだと思います。
そのブルースと現代人の心の傷を表しているかのような前衛的なサウンド・アプローチが調和してギルモアの音楽を作り上げているのだと考えています。
2006年のソロアルバム”On An Island”もそうした彼の魅力を堪能できるという意味で大好きな作品です。
この作品の制作にあたっては、ウォータスの励ましがあったということが伝えられていましたが、叶うものなれば、もう一度この二人が一緒で新作を制作してもらいたいものだと思っています。
by 老年蛇銘多親父 (2014-05-04 11:00)
ギルモアに関連して、私が以前に記事で取り上げた事があるピンク・フロイドのツァーメンバーで、ギルモアの代役にも参加した事があるスノゥイー・ホワイトを思い出しました。ギルモア程は大物でもなく、音楽性も豊かではないのですが、職人肌の彼のブルースもカッコいいですよ。ロジャー・ウォーターズと共演した画像がありました。彼の登場は39秒からです。
http://youtu.be/eDhsRjsZqP8
by ミスカラス (2014-05-04 14:27)
ミスカラスさん
スノゥイー・ホワイト聴かせていただきました。
この人、確かにツアー・メンバーとして名に記憶がありましたが、こうやって聴いてみるとギルモア彷彿させるものがあり、やはり、ギルモアのギターのベースがブルースあることがよくわかります。
この人のプレー、私の好みですね。
by 老年蛇銘多親父 (2014-05-20 05:42)