硬質な音から生まれる白きソウルフル・プレイ・Dave Pike;Pike's Peak 本日の作品;vol.113 [デジタル化格闘記]
「何度も聴いているのに、何かと言えば聴きたくなる私の好みの作品」、今回のアーティストは、希少ではあるけれどジャズには欠かせないこの楽器の演奏者の作品から一つ。
その楽器は、ヴィブラフォン。
この楽器の演奏者というとMilt JacksonやGary Burtonno
名が圧倒的に有名なのですけど、他に誰がいるかというと、ふと考えてしまいすぐには名が浮かんでこないのではと思います。
実は、私も昔はそうだったのですが、一時期この二人以外のヴィブラフォン奏者の作品は何があるのかと探し回ったことがあり、そこでみつけ出したのが、この作品。
Dave Pike 1961年の作品、”Pike's Peak”。
ヴィブラフォン奏者というと1950年代は、MJQでの知的かつ繊細なプレーと、自身のリーダー作でのソウルフルなプレーで王道を築いたMilt Jacksonが独壇場と言ってていいほどの状態だったと思うのです。
しかし、1960年代の初めになるとヴァイブ次世代を担うプレヤーが登場、Gary BurtonやMike Mainieri現在を代表するヴィブラフォン奏者が現れて来ます。
実は本稿のDave Pikeも当時、そうした次世代を担うヴィブラフォン・プレヤーとして将来を期待され登場したアーティストの1人だったのですが、その知名度は先の二人と比べると、あまり高くないように思えるのです。
それは、どうやら、これら若手ヴィブラフォン・プレヤー登場した時期に、Pikeがフルート奏者のHerbie Mannのグループに在籍していたことに起因しているようなのです。
と言うのも、Herbie Mannのグループ、コマーシャルなイージー・リスニング的ジャズの色彩が強く、当のPikeもそのグループの中で、当時グループが指向していたラテン・ジャズに同化しようとしていたことが、その彼の才能を埋もれさせてしまっていたからだというのです。
そうした一見マイナーな感じのするPikeなのですが、この時期、そのもてる才能のすべてを発揮し、その全貌を見せてくれたのがこの作品。
私自身、今から40年以上前に手に入れた作品なのですが、今も聴くたびにPikeのオーラを感じてしまう、お気に入りの作品なのです。
それでは、前置きはこのくらいにして、この作品の中から、当時PikeがMannの下でプレイしていたラテン・ジャズ、そのラテンの名曲から曲を聴いて行くことにいたしましょう。
⭄
曲はメキシコ・ラテンの名曲”Bésame mucho”でした。
自らの肉声で歌い(唸り)、ヴァイブへとその旋律を移植して行くPikeの演奏。
湧き出でる泉のごとく生み出される歌心に満ちた旋律が魅力的な演奏です。
相対するピアノは、Bill Evans。
熱く語り歌うPikeのプレーとは裏腹の、静かな愁いで、熱さの中に知的な花を添えている、このEvansの存在が、Pikeをさらに高い極みへと導いている、そうしたことを感じる名演奏ではないかと思います。
さて、Bill Evansが出てきたとなれば、やはりモーダル・ジャズ。
そこで、Pike作曲とのクレジット??があるこの曲、モーダルな60年代的新しさを感じるPikeの演奏を聴いてみてください。
曲は”Why Not"。
というとご存じの方は、えーっと声を上げるかもしれませんね。
そうなんです、この曲あのJohn Coltraneの”Impressions”と全く同じ曲なのです。
原盤のアート・ギドラーの解説よれば、この曲のタイトル、Miles Davisのモーダル・ジャズの誕生を高らかに宣言した名曲”So What”に対する解答だというのですが。
Coltraneの”Impressions”も同じく1961年のもの。
一体どちらが、この曲の作曲者なのか。
このあたり、Evansの弾くピアノがこの曲の本来の旋律で、そこにタイトルでMilesに対する解答と、旋律でColtraneに対するメッセージを込めたなどと考えもするのですが、とすれば、そのセンス、かなり洒落たものだではないかと思うのですが。
とあれ、ああだこうだ言わずに、そうした聴き方でこの曲を楽しむというのもまた面白いのではないでしょうか。
さて、その後Mannの下を離れたDave Pike、60年代後半にはヨーロッパに移住、そこを拠点として活動を続けて行くことになります。
その初期の演奏は、アメリカから移住したミュージシャンとヨーロッパ出身のミュージシャンによって結成されたビッグ・バンド Clarke-Boland Big Bandの1968年の作品”All Smiles”で、短いけれども非常に質の高いソロをとっている様子を聴くことができますが、1969年以降は ドイツ人ギタリストのVolker Kriegel等とDave Pike Setを結成、ジャズ・ロック的なサウンドで絶大な人気を獲得しています。
しかし、この作品のようなオーソドックスなジャズで見せる彼の演奏には、ジャズ・ロック的演奏では感じることできない、スリリング閃きが潜んでいるように思われ、そのことからこの作品は、彼のジャズ・マンとしての真骨頂を捉えた貴重な記録ではないかと思うのです。
Tracks Listing
1. Why Not
2. In A Sentimental Mood
3. Vierd Blues
4. Besame Mucho
5. Wild Is The Wind
Personnel
Dave Pike, vibraphone; Bill Evans, piano; Herbie Lewis, bass; Walter Perkins, drums
Recorded
NYC, November, 1961
その楽器は、ヴィブラフォン。
この楽器の演奏者というとMilt JacksonやGary Burtonno
名が圧倒的に有名なのですけど、他に誰がいるかというと、ふと考えてしまいすぐには名が浮かんでこないのではと思います。
実は、私も昔はそうだったのですが、一時期この二人以外のヴィブラフォン奏者の作品は何があるのかと探し回ったことがあり、そこでみつけ出したのが、この作品。
Dave Pike 1961年の作品、”Pike's Peak”。
ヴィブラフォン奏者というと1950年代は、MJQでの知的かつ繊細なプレーと、自身のリーダー作でのソウルフルなプレーで王道を築いたMilt Jacksonが独壇場と言ってていいほどの状態だったと思うのです。
しかし、1960年代の初めになるとヴァイブ次世代を担うプレヤーが登場、Gary BurtonやMike Mainieri現在を代表するヴィブラフォン奏者が現れて来ます。
実は本稿のDave Pikeも当時、そうした次世代を担うヴィブラフォン・プレヤーとして将来を期待され登場したアーティストの1人だったのですが、その知名度は先の二人と比べると、あまり高くないように思えるのです。
それは、どうやら、これら若手ヴィブラフォン・プレヤー登場した時期に、Pikeがフルート奏者のHerbie Mannのグループに在籍していたことに起因しているようなのです。
と言うのも、Herbie Mannのグループ、コマーシャルなイージー・リスニング的ジャズの色彩が強く、当のPikeもそのグループの中で、当時グループが指向していたラテン・ジャズに同化しようとしていたことが、その彼の才能を埋もれさせてしまっていたからだというのです。
そうした一見マイナーな感じのするPikeなのですが、この時期、そのもてる才能のすべてを発揮し、その全貌を見せてくれたのがこの作品。
私自身、今から40年以上前に手に入れた作品なのですが、今も聴くたびにPikeのオーラを感じてしまう、お気に入りの作品なのです。
それでは、前置きはこのくらいにして、この作品の中から、当時PikeがMannの下でプレイしていたラテン・ジャズ、そのラテンの名曲から曲を聴いて行くことにいたしましょう。
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曲はメキシコ・ラテンの名曲”Bésame mucho”でした。
自らの肉声で歌い(唸り)、ヴァイブへとその旋律を移植して行くPikeの演奏。
湧き出でる泉のごとく生み出される歌心に満ちた旋律が魅力的な演奏です。
相対するピアノは、Bill Evans。
熱く語り歌うPikeのプレーとは裏腹の、静かな愁いで、熱さの中に知的な花を添えている、このEvansの存在が、Pikeをさらに高い極みへと導いている、そうしたことを感じる名演奏ではないかと思います。
さて、Bill Evansが出てきたとなれば、やはりモーダル・ジャズ。
そこで、Pike作曲とのクレジット??があるこの曲、モーダルな60年代的新しさを感じるPikeの演奏を聴いてみてください。
曲は”Why Not"。
というとご存じの方は、えーっと声を上げるかもしれませんね。
そうなんです、この曲あのJohn Coltraneの”Impressions”と全く同じ曲なのです。
原盤のアート・ギドラーの解説よれば、この曲のタイトル、Miles Davisのモーダル・ジャズの誕生を高らかに宣言した名曲”So What”に対する解答だというのですが。
Coltraneの”Impressions”も同じく1961年のもの。
一体どちらが、この曲の作曲者なのか。
このあたり、Evansの弾くピアノがこの曲の本来の旋律で、そこにタイトルでMilesに対する解答と、旋律でColtraneに対するメッセージを込めたなどと考えもするのですが、とすれば、そのセンス、かなり洒落たものだではないかと思うのですが。
とあれ、ああだこうだ言わずに、そうした聴き方でこの曲を楽しむというのもまた面白いのではないでしょうか。
さて、その後Mannの下を離れたDave Pike、60年代後半にはヨーロッパに移住、そこを拠点として活動を続けて行くことになります。
その初期の演奏は、アメリカから移住したミュージシャンとヨーロッパ出身のミュージシャンによって結成されたビッグ・バンド Clarke-Boland Big Bandの1968年の作品”All Smiles”で、短いけれども非常に質の高いソロをとっている様子を聴くことができますが、1969年以降は ドイツ人ギタリストのVolker Kriegel等とDave Pike Setを結成、ジャズ・ロック的なサウンドで絶大な人気を獲得しています。
しかし、この作品のようなオーソドックスなジャズで見せる彼の演奏には、ジャズ・ロック的演奏では感じることできない、スリリング閃きが潜んでいるように思われ、そのことからこの作品は、彼のジャズ・マンとしての真骨頂を捉えた貴重な記録ではないかと思うのです。
Tracks Listing
1. Why Not
2. In A Sentimental Mood
3. Vierd Blues
4. Besame Mucho
5. Wild Is The Wind
Personnel
Dave Pike, vibraphone; Bill Evans, piano; Herbie Lewis, bass; Walter Perkins, drums
Recorded
NYC, November, 1961
ベサメ・ムーチョって、日本ではトリオ・ロス・パンチョスのバージョンが余りに有名だったんで、てっきり彼等の作品だと思っていましたが、作者は、メキシコのコンスエロ・ベラスケスという女性の作品だったんですね。ヴィブラフォンのも素敵ですね。この曲は色んなアーティストが唄っていますね。
流石!メキシコのピアニスト&ソングライターとても上品です。
http://youtu.be/9Jw-Dodlntk
by ミスカラス (2014-06-29 22:36)
ミスカラスさん
トリオ・ロス・パンチョス、私の母が好きでしてね、このベサメ・ムーチョなどよく聴いていました。
おかげで、私も長い間このトリオ・ロス・パンチョスの作品だとばかり思っていたのですが、後にこれが15歳の少女の書いた曲だと知り、大変驚きました。
メキシコのピアニスト&ソングライターの演奏、いい味を醸し出していますね。
ジャズの世界でも、スタンダードとなっていて多くのアーティストが演奏していているのですけど、特にアルト・サックスのアート・ペッパーの演奏が有名。
こちらも、なかなかのものですよ。
https://www.youtube.com/watch?v=PR9gnQ9z1P4
by 老年蛇銘多親父 (2014-06-30 05:25)
おはようございます。
Pike's Peak良い盤ですね。
”Why Not"、私はRocy BoydのEase Itで
”Impressions”と同じ曲と知りました。
この盤も1961年なんですよね。
Dave PikeもRocy Boydも
Impressionsと知りつつ、”Why Not"と
言いながらリリースしていたのかもしれません(笑)。
by ハンコック (2014-07-02 07:33)
ハンコックさん
”Why Not"、他のアーティストもその曲名でレコーディングしているという訳ですね。
となると、やっぱりPikeの方が本家なのかもしれません。
ただColtraneの方が知名度が高いので、Impressionsの方がその曲のの名として定着してしまったとも思えて来ますね。
いずれにせよ、この時代のジャズの世界、著作権に対する認識が希薄だったようで、これもそうしたことの一つの例なのではと考えてしまいます。
by 老年蛇銘多親父 (2014-07-03 05:51)