月に降り立った永遠のスタンダード;Fly Me To The Moon [名曲名演の散歩道]

名曲名演の散歩道、前回は”Bésame mucho”を取り上げ、その演奏のいくつかを聴いて行きましたが、日頃何気なく接しているこれらの名曲、いろいろ調べ聴いてみるとまたいつもと違った味わいを感じられるもの。

ということで、今回もそうした名曲、その来歴を一度立ち止まって調べ、その演奏に接してみることにしたいと思います。

そこで今回の名曲はこちら。
皆さんお馴染みのこの演奏から始めることにいたしましょう。

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曲は、”Fly Me To The Moon”。
この演奏は、ご存じアニメ”新世紀エヴァンゲリオン”のエンディング・テーマですよね。

この曲、この演奏で馴染みとなった方も多いかと思いますが、原曲は1954年に発表された古いスタンダード・ナンバーなのです。

ということで、今回もその来歴を調べてみると。

原の曲は、現在親しまれているボサノバのリズムによるものではなく、3拍子のワルツで歌われていたというのです。
そしておまけに、曲のタイトルも”Fly Me To The Moon”ではなくIn Other Words"(言い換えると)”という素っ気なささえ感じるものっだったのだとか。

3拍子の”Fly Me To The Moon”とは、ちょっと時代がかった感じがしてきますけど、まずは1954年に吹き込まれたKaye Ballardによる原曲から、聴き始めて行くことにいたしましょう。




いかがです。
先の”新世紀エヴァンゲリオン”のエンディング・テーマ”とはかなり趣が違った仕上がりとなっていますよね。
このアレンジでは、いずれ時代の変化の中に埋もれてしまったいたのでは思われるのですが、そうした”Fly Me To The Moon”が、一躍脚光を浴びスタンダードの道を歩み始めたのは1960年代に入ってからのこと。
4ビートのリズムに乗って歌う、この人の歌唱によってでした。



1962年に発表されたFrank" Sinatraの歌唱。
フランク・シナトラ言えば”My Way”の歌唱を思い浮かべる方も多いでしょうが、こちらはその”My Way”歌唱の5年前のヒット。

ところで、1962年といえば、その前年の1961年、時のアメリカ大統領であったジョン・F・ケネディが、1960年代中に人間を月に到達させるとの声明を発表し、壮大なアポロ計画が始動を開始した時期。

そんなところから、当時ケネディと親交が深かったといわれるシナトラが、ケネディの声明を盛り上げるために「私を月に連れてって」と、歌うこの曲を歌ったのではとも考えてしまうのですが、この推測いかがなものでしょうか。

ともあれ、こうした時代を背景に発表されたシナトラの歌唱は、時代のテーマ・ソングとして大いにヒットし、1969年に月面着陸予行演習のため打ち上げられた有人宇宙船アポロ10号と、それに続く人類初の月面着陸を果たしたアポロ11号には、シナトラが歌う”Fly Me To The Moon”の録音テープが積み込まれ、月への旅を共にすることとなったのだとか。

月を眺めながめがら、その愛を確かめ合う恋人達の語らいを描いたこのロマンチックなワルツが、時の流れの中でいつの間にかその時代を象徴する歌に変わっていたとは、やはり名曲、その来歴、本当に奥が深いものですね。

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さて、ここまで”Fly Me To The Moon”、この曲の生い立ちにかかわる演奏2曲を聴いてまいりましたが、この辺で趣向の変え、その後多くのアーティストに取り上げるようなっていった”Fly Me To The Moon”、その中からまたいくつかを選び聴いて行くことにしたいと思います。

最初は、私が、この曲を今回の記事に取り上げようと思いたった、そのきっかけのこの演奏から。
それでは、その演奏、まずはお聴きください



"Sailing"で有名な英国を代表するロック・ヴォーカリストの"Rod" Stewartによる歌唱。

独特の嗄れ声が魅力のスティワート、私は70年代の初め 60年代に彼が在籍していたJeff Beckグループの演奏で彼のヴォーカルを聴き、ヴォーカル自体はいいのだけど、どうもそのサウンドが肌合わず、そのためスティワートについても積極的に聴こうとはしてこなかったのですけど、2002年に発表されその後4作がリリースされた、彼がアメリカン・スタンダードを唄った”Great American Songbook:”を聴いて食指が動きGet、ここのところ気に入りずっと聴いていたもの。

50歳半ばを越えた彼の歌声には年輪を重ねた渋みと、暖かさが感じられ、特にこの”Fly Me To The Moon”ではしっとりとした優しい癒しを感るように思え気に入ってしまったものなのです。

シナトラの堂々とした雰囲気とはまた違った枯れた味わい、いかがっだったでしょうか。


次の”Fly Me To The Moon”は、絶妙のアレンジが聴きどころのギターによる”Fly Me To The Moon”の演奏。
その演奏一体どんな装いで登場するのか、早速聴いてみることにいたしましょう。



演奏するは、ジャズ・ギターの巨匠 Wes Montgomery。
ウエスの最晩年の作品”Road Song”からの演奏です。

バロック調の意表をつくオープニング。
貼り付ける曲を間違えたのではと思われた方もいらっしゃるかもしれませんね。

晩年のウエスは、イージー・リスニング・ジャズの道に進んでいるのですが、A&Mレコードに移籍して発表された”A Day In The Life”とこの”Road Song”の2枚はその代表作。
この演奏のアレンジャーであるDon Sebesky の率いるオーケストラをバックに、ウエスが繊細かつ骨太のダイナミックな演奏を繰り広げている。

この演奏は、いよいよアポロが月に向かって打ち上げられる1年前の1968年の5月にレコーディングされたもの。
皆で月に行こうよと歌いかけていたシナトラの演奏に対し、いよいよその前途が、開け出発まであとわずかに迫った胸の高鳴りを感じさせる演奏だと思います。


さて、新世紀エヴァンゲリオン”のエンディング・テーマでもそうでしたが、この”Fly Me To The Moon”、私たちがよく耳にするのは、ボサノバのリズムに乗せての”Fly Me To The Moon”
そのボサノバといえば、やはりこの人を忘れてはいけませんよね。
というわけで、今度はその演奏、お聴きいただくことにいたしましょう。



”イパネマの娘”のヒットで知られる、元祖ボサノバの女王Astrud Gilbertoの1964年の歌唱です。
人類初の月面到達、その開発の道のりは未知への挑戦、悪戦苦闘の連続だったようですが、この演奏を聴いていると、いつかドキュメントで見た、多くの人々の夢を乗せ刻々と過ぎ行く時間の中で、山積する難問に立ち向かい格闘を続けいた科学者たちの姿が見えてくるような気がします。


こうして聴いてきた”Fly Me To The Moon”、その演奏された時代背景を調べ聴いてみると、その変遷に従いそのサウンドも恋人たちのロマンティック語らいの一時から人類の夢を乗せた歌へと、大きくその姿を変えていた。

そうしてこの歌に託された多くの人々のエネルギーが、この歌に今も名曲の光を与え続けている。
今回も、聴き馴れた名曲、また大きな発見をしてしまったようです。


それでは最後に”Fly Me To The Moon”の演奏番外編、ドラムのRoy Haynesと、一度に2本の管楽器を演奏する、グロテスクなサウンドのイメージを持ったマルチ・リード奏者の Roland Kirkとの風変わりなFly Me To The Moon”を聴きながら今回のお話、終えることにいたしましょう。





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raccoon

聞き比べも、おもしろいですね。
この曲、聴いたことある程度でしたが、ロッド・スチュワートの声で聴くと、しんみりしますね。
80年代のロッドしか聴いていないのですが、「Great American Songbook 」も聴いてみたくなりました。

by raccoon (2014-11-25 23:26) 

老年蛇銘多親父

raccoonさん

ロッド・スチュワートの嗄れ声で歌われるアメリカン・スタンダード、これは良さげと思い聴いてみたら、これが大当たりだったという感じです。

”Fly Me To The Moon”以外の曲も、また違った味わいがあるのでぜひ聴いてみてください。
by 老年蛇銘多親父 (2014-11-27 06:43) 

ミスカラス

どれも素晴らしいFly Me To The Moon!!
聴き惚れました。
毛色の変わったところで・・ボビー・ウォーマックのは如何でしょうか?。いかにも自分のカラーに染めた感覚が彼らしいかなぁ。

http://youtu.be/H5xdGiFbiR8
by ミスカラス (2014-11-27 19:41) 

老年蛇銘多親父

ミスカラスさん

月に行きたいなら、いつでも俺が連れて行ってやるぜ っていう感じの”Fly Me To The Moon”ですね。

月への移住計画が静かに進行している、現代ならではの演奏ではないかと思います。

そういや、日本の大手建設会社では、既に月での建設に使うコンクリートの研究が進められているのだそうで、この歌が登場した頃からの、科学進歩の凄まじいスピード、あらためて考えさせられてしまいました。

by 老年蛇銘多親父 (2014-11-28 20:53) 

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