宙を舞うアルトの響き;Charlie Parker with Strings 本日の作品;vol.126 [デジタル化格闘記]

9月の長雨とは言うものの、それを遥かに越える異常気象に襲われた東日本、その悪夢が未曽有の大雨を降らせ各地に多くの災害をもたらしたのは、つい先日のこと。

当日、鬼怒川氾濫のニュースに接した時、年に数回仕事でこの川の流れる つくば、常総、下妻、下館を訪れている私、即座にその場所は常総市ではないかと思い映像に目を向けてみると、そこにあったのは見慣れた風景のあまりにもの変わり果てた姿。

一昨年のこの時期は、今回の氾濫現場からさほど離れていない場所で仕事をしていたのですが、その時に見えたのは、

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地平線の彼方まで広がる広大な田園地帯と、その先に筑波山を望む豊かさを感じさせる穀倉地帯の美しい風景。

その姿を、一瞬にして破壊しつくしてしまった自然の猛威、その恐ろしさをまざまざと見せつけられることになってしまいました。

それにしても、被害合われた方々、これからが大変だと思いますが、私自身何度も訪れた土地だけに他人事とは思えないものがあり、お見舞いを申し上げると共に、厳しさにもめげず、またしっかりと生き抜いていって欲しいものだと思っています。



さて、今回の記事は、このブログを始めてからちょうど500回目。

あらためて何を書こうかと考えてみたのですけど、これまで書いてきた音楽記事、中でもジャズ・アーティスト、この期を節目にモダン・ジャズの原点に戻り聴いてみようと、今回選んだのアーティストがこの人。

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1940年代初頭、トランペット奏者のDizzy Gillespieと共に、 それまでのジャズのスタイルとは異なったビ・バップ・スタイルのジャズを創造し、モダン・ジャズの父と呼ばれ、ジャズの巨人の一人に数えられている、アルト・サックス奏者のCharles Parker 。

その彼の作品から、1949~50年に吹き込まれた”Charlie Parker with Strings”を聴いてみることにいたしました。

Charles Parker with strings cd.jpg


この作品、Parkerを中心にしたカルテットのバックに、ヴァイオリン、ヴィオラ、セロ等のストリンクスを配した彼の他の作品とは かなり趣を異にしたものなのですが、その評価は賛否両論、とくにジャズ通と言われる人の間では、けして高い評価を得てるとは言えない作品なのです。

実は、私もその昔この作品を聴いていたところ、周りのParker通を自称する仲間から「あんな駄盤よく聴いているな!」と非難を浴びた思い出があり、長い間、聴くのを躊躇っていた代物なのです。

ところが、20年ほど前、Parkerを敬愛するアルト奏者の渡辺貞夫さんが、ストリングスとの共演作品”A Night With Strings”を発表、その演奏を聴きその演奏が気に入ったことから、無性にParkerのwith Stringsが聴きたくなり、聴いてみると優しいストリングスの音に抱かれて宙を飛翔するParkerの美しいアルトの響きが心に深く残ってしまったことから、この作品を見直し、私の座右の銘的作品として聴くようになってしまったのです。

そこで、その美しいアルトの響き。
繰り言はこの辺にしてもったいぶらずに、まずは1曲聴いていただくこといたしましょう。
曲は”Just Friends”です。






爽やかなストリングスの風に乗り、軽やかな装いで自由に空を駆け巡るParkerのアルト。
まさに彼のニックネームである”ヤードバード”の名を彷彿させる演奏だと思います。

そのParker、彼の絶頂期は1945年頃から48年だと言われ、その後はアルコールと麻薬禍に苛まされて次第にその天才的ひらめきにも陰りが見えて来ていた時期で、その後のものの中には悲惨な状況のものもあるのですけど、この1949年のこの演奏を聴く限り、まだ健在、凡百なアーティストにはない閃きを感じることが出来るのではと思います

そして、さらには古めかしさの目立つ、けして質的は良いとは思えないストリングスをバックにしても、そのプレーは色褪せることなく、今も光彩を放っている、そこに時代を越えて今も死しても生きる天才の姿を感じます。


ところで、先にお見せしたこのアルバムのジャケット。
これは1995年にボーナストラックを加えリマスターされたCDのもの。
LP時代のジャケットは、こんなだったのです。

Charles Parker with strings lp.jpg


私のように古くからこの作品と付き合ってきた者にとっては、LPジャケットの方がしっくりくるということで、私がデジタル化したCDのジャケットもこちらの方にしてしまったのですが、この演奏にはどちらのジャケットが相応しいのか、次の曲も聴いていただき、またご感想を教えていただきたいものだと思っています。

さて、余談はこの辺にして、ここでもう1曲。
今度は、有名なGeorge Gershwinの名曲から、."Summertime"を聴いていただくことにいたしましょう。



重苦しいブルーな空気を感じる、."Summertime"。
本来、こうした味付けがGershwinの意図したものではなかったかとも考えてしまうのですが、さて、このあたりどうお感じになったでしょうか。


これまでファンの間で物議を醸しだし続けてきたこの作品。
しかし、この”with Strings以後 こうしたストリングスとの共演がジャズ・アーティストに憧れになったのか、Clifford Brownに始まり、Stan Getz、Bill Evans、Wynton Marsalisなど、多くの著名アーティストにストリングス作品が登場するようになるのです。

そのことあらためて考えてみると、ぞれは、そうなったことの源に、このParkerのwith Stringsがあって、そこで演奏されたParkerの心の奥底深くに残るサウンドに打たれた人たちが、自らもParkerのようにストリングスの下で自身の音楽を創造したいと願った気持ちの発露としてそれらが制作されることになったようにも思え、そこに、Parkerの類い稀な天才性を見出だすことが出来るような気がするのです。

気付かないうちにParkerが残してくれていた偉大なる音楽遺産、この作品はParkerの音楽家としての鋭さを明確に捉え残したものの一つとして、彼を語る上で絶対に欠かすことの出来ない一枚ではないかと考えてしまうのです。

ビ・バップを高らかに謳歌するParkerも重要だけど、ロマンティシズムに富んだ優しく甘いParkerも、この秋の夜長、その味を試してみるのもいいのかもしれません。

Track Listings
1."Just Friends" (John Klenner, Sam M. Lewis)
2."Everything Happens to Me" (Tom Adair, Matt Dennis)
3."April in Paris" (Vernon Duke, E.Y. Harburg)
4."Summertime" (George Gershwin, Ira Gershwin, DuBose Heyward)
5."I Didn't Know What Time It Was" (Richard Rodgers, Lorenz Hart)
6."If I Should Lose You" (Ralph Rainger, Leo Robin)
7."Dancing in the Dark" (Arthur Schwartz, Howard Dietz)
8."Out of Nowhere" (Johnny Green, Edward Heyman)
9."Laura" (David Raksin, Mercer)
10."East of the Sun (and West of the Moon)" (Brooks Bowman)
11."They Can't Take That Away from Me" (G. Gershwin, I. Gershwin)
12."Easy To Love" (Cole Porter)
13."I'm in the Mood for Love" (Jimmy McHugh, Dorothy Fields)
14."I'll Remember April" (Gene DePaul, Pat Johnson, Don Raye)

Bonus Track
15."What Is This Thing Called Love?" (Porter)
16."April in Paris" (Duke, Harburg)
17."Repetition" (Neal Hefti)
18."You'd Be So Easy to Love" (Porter)
19."Rocker" (Gerry Mulligan)
20."Temptation" (Nacio Herb Brown, Arthur Freed)
21."Lover" (Richard Rodgers, Lorenz Hart)
22."Autumn in New York" (Vernon Duke)
23."Stella by Starlight" (Victor Young, Ned Washington)
20."Temptation" (Nacio Herb Brown, Arthur Freed)
21."Lover" (Richard Rodgers, Lorenz Hart)
22."Autumn in New York" (Vernon Duke)
23."Stella by Starlight" (Victor Young, Ned Washington)

Personnel
1-6
Charlie Parker - alto saxophone; Mitch Miller - oboe; Bronislaw Gimpel, Max Hollander, Milton Lomask - violins; Frank Brieff - viola; Frank Miller - cello; Myor Rosen - harp; Stan Freeman - piano; Ray Brown - double bass; Buddy Rich - drums; Jimmy Carroll - arranger and conductor

7-14
Charlie Parker - alto saxophone; Joseph Singer - french horn; Eddie Brown - oboe; Sam Caplan, Howard Kay, Harry Melnikoff, Sam Rand, Zelly Smirnoff - violins; Isadore Zir - viola; Maurice Brown - cello; Verley Mills - harp; Bernie Leighton - piano; Brown - double bass; Rich - drums; Joe Lipman - arranger and conductor; unknown xylophone and tuba

Recorded
1-6
Nov. 30, 1949

7-14
July 5,1950


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mk1sp

500記事おめでとうございます(*^_^*)
いつもジャズを始め色々な記事参考にさせて頂いています、今後もよろしくお願いしますm(_ _)m

私はLP版のジャケットに一票。

裏通りにあるライブハウスでの演奏を連想させるような雰囲気に合っているように思います♪

1950年代のアメリカの黄金期のイメージが表通りだとしたら、その逆の、裏通り、変な連想かも知れませんが、大衆酒場を連想します。

by mk1sp (2015-09-14 17:05) 

ハンコック

500記事、おめでとうございます(祝)!!!

LP時代のジャケットがしっくりきますね。
赤黄ジャケからSummertimeの演奏はイメージできませんね。単にヤードバードというだけに見えてしまいます。

Jazzを聴き込まれた方は、Charlie ParkerにはJazzの全てが詰まっている。ParkerこそJAZZの全てだと仰います。私もいつかこう思える日がくるのでしょうか?
まだまだハードバップから抜け出れません。

by ハンコック (2015-09-14 19:35) 

老年蛇銘多親父(HM-Oyaji)

mk1spさん

ありがとうございます。
私の記事を参考していただいているとは!!
ちょっと、迂闊なことは書けませんね、肝に念じねば!!(笑)

この作品のLPジャケット、私などは、LP盤の曲の並び、ここでご紹介したCD盤の曲の並びとは違っていて、最初の5曲はカーネギーホールでのライブ録音であったことから、それに馴染んでしまったせいで、大きなホールで脚光を浴びるパーカーのイメージを持っていたのですけど。
しかし、”裏通りの大衆酒場”、そういった先入観を持たずに見ると、なるほどそれもありだなと思いました。


by 老年蛇銘多親父(HM-Oyaji) (2015-09-16 05:07) 

老年蛇銘多親父(HM-Oyaji)

ハンコックさん

やはりLP盤のジャケットですよね。
私は、ジャズを聴き始めたビ・バップもハード・バップの知らない頃、仲間の一人からパーカーのダイヤルセッションを延々と聴かされたしまったせいで、自然な流れでハード・バップにも接することが出来たのですけど、その何も知らなかった私ですらパーカーを聴いて、Charlie ParkerにはJazzの全てが詰まっているなと感じたものでした。

ビ・バップ、ハード・バップにこだわらず、一度じっくりとパーカーの絶頂期ではないですけど、ハード・バップへの流れを感じる50年代初頭のVerve盤あたりを聴いてみるのもいいかもしれませんね。





by 老年蛇銘多親父(HM-Oyaji) (2015-09-16 05:21) 

mwainfo

500記事、ご健闘を祝します。
昨年だったか、新宿PITINNで、浜瀬元彦、菊池成孔氏の「チャーリーパーカーの技法」の講演がありました。岩波から出た浜瀬氏の著作に関する講演で大盛況でした。
by mwainfo (2015-09-22 10:59) 

老年蛇銘多親父(HM-Oyaji)

mwainfoさん

ありがとうございます。

「チャーリーパーカーの技法」の講演とは、面白そうですね。
ただ、その技法を学んだだけではパーカーにならない。

昨年、然もパーカーの技法をマスターしたはずの渡辺貞夫さんが、インタビューに答えて、「80歳を越えても、今だパーカー域に達していない。」 と話していたことが印象に残っています。

そうしたところにも、ジャズの面白さがあるのだと思っています。


by 老年蛇銘多親父(HM-Oyaji) (2015-09-23 09:40) 

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