風を切り裂く笛の音と共に・Bill Evans;What's New 本日の作品;vol.127    [デジタル化格闘記]

関東では松の内も終わり、今年もいよいよ本番開始。

そこで、私の方もいよいよ本番ということで、新年最初に取り上げる作品は、

今年は、ここ数年、取り上げる作品がマイナー傾向になっていたことから、メジャーどころの名盤を聴き直し取り上げて行こうと思っているのですが、こうした考えが芽生えたのは、年初めの日ににふと思い出した若い時に読んだ、とあるジャズ評論家先生の「名演をよりよく知るには、そのアーティストの駄作も聴かなければいけない!!」という言葉。

この言葉、同じくジャズ評論家の油井 正一さんが自身の著書の中で、とある人の逸話として紹介していた話なのですけど、そのある人とは60年代初めから80年頃までジャズの評論活動を続けた粟村 政昭さんのこと。

この粟村さん、本業はドクターで、公に評論活動をする前は、一ジャズ・ファンとして度々油井さんのところにその時々に聴いた作品などの感想を手紙にしたためて送っていたそうなのですが、ある時、送られてきた手紙の、これからのジャズの鑑賞テーマを述べたくだりに、そのことが書かれていたというのです。

確かにこの言葉、私も、特に即興演奏がその核となっているジャズにおいては、同じアーティストの演奏でも、そのアーティストのその時の気持ちや体調、そして、その日共演したアーティストの顔ぶれ等の要因で演奏の在り方が大きく変わることを体験したことがあることから、これはなるほどなと思い、それ以来、折につけそのアーティストの生み出した名盤前後の作品についても優劣問わず合わせて聴いてみるようになったのですが、今年最初に選ぶことにした作品は、その思いから、ごそごそと古いアナログ盤を出して来て聴き比べをしていた中で、あらためてそのもの凄さを体験、この作品の新たな良さを発見することとなったこの作品、
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Bill Evansのリーダー作品というと、ピアノ・トリオ作品が多いのですが、本作は珍しくフルート奏者のJeremy Steigが加わったカルテットによる作品。

Bill Evansの”What's New”といたしました。

さて、一体何がそんなに凄かったのか、この辺でまずは1曲、聴いてみることにいたしましょう。







曲はご存じ!! Joseph Kosmaの名曲”Autumn Leaves(枯葉)”ですね。

Bill Evansで”枯葉”といえば、やはり聴き比べて見たくなるのは、Evans自身の1959年の名作”Portrait In Jazz”での演奏。

ベースにScott LaFaroが参加していた、この1959年のトリオの演奏では、3者がそれぞれ独自のインプロビゼーションを展開し互いに刺激し合い生み出す、その緊張感に満ちた音空間が最大の聴きどころだったと思うのです。
しかし、1961年その天才的ベーシストを不慮の交通事故で失ってしまった、その後のEvansの作品には、そうした輝きはなく、Evans自身もその打開策を模索し続けていたように思うのですが、あらためて”Portrait In Jazz”と、その10年後に制作されたJeremy Steigを加えたこの作品を聴き比べると、そのインタープレイの輝きが、この演奏に再び戻って来ていることに気付かされます。

その飛躍をもたらしているのは、1966年から行動を共にするようになった卓越した技量で聴く者を圧倒するベーシストのEddie Gomez の存在、LaFaroの死後、作品を発表するもどこか精彩を欠いていたEvansも溌剌とした様子で奔放なピアノを聴かせてくれていることがわかります。

しかし、そのGomez の存在を勘案しても、この演奏の刺激的浮遊感、過去のトリオの演奏それ以上のものが感じられるのです。

そのテンションを生み出しているのが、Jeremy Steig。

独特なバンブー・フルートのような音色でアグレッシブに、この三位一体、固く結ばれたトリオに果敢に挑戦する彼のフルート。

自由奔放でありながら緊密な連携で展開のするトリオの演奏に割り込み、次第に自己の領域にトリオを導き、演奏に力と緊張感を付与している、

こちらも、彼の代表作1963年の”Flute Fever”と比べて聴くと、この作品自体けして出来の悪い演奏ではないのですけど、それが影が薄くなってしまうほどなのです。

やはり、これも再生したBill Evans Trioの力あってこそ、そしてその三位一体の世界に見事に溶け込み、このトリオに強いインパクトを与えていたSteigの豊かな感性、それが、この作品をさらに一段上の高見にへと昇華させて行った秘密ではないかと思うのです。


さて、この辺でもう1曲。
今度は、繊細な美しさを奏でるEvansのピアノにSteigの哀愁を帯びた笛の音が絡むバラード曲。
”Sparticus Love Theme(スパルタカス~愛のテーマ~)”をお聴きください。



現在は、来日の折に出会った朝子夫人と共に日本で暮らしているというJeremy Steig。
日本各地を演奏旅行で歩き回る傍ら、グラフィック・デザイナーとして働いたこともあるという経験を生かしてか、絵やデジタル絵本の制作に勤しんでいるのだとか。

その彼の活動の様子、こんなHP(http://www.jeremysteig.info/index.html)を見つけましたので、よろしければご覧いただき、彼の豊かな感性の味、体験していただければと思います。

Track listing
1."Straight, No Chaser" (Thelonious Monk)
2."Lover Man" (Jimmy Davis, James Sherman, Roger Ramirez)
3."What's New?" (Bob Haggart, Johnny Burke)
4."Autumn Leaves" (Jacques Prévert, Joseph Kosma, Johnny Mercer)
5."Time Out for Chris" (Bill Evans)
6."Spartacus Love Theme" (Alex North)
7."So What" (Christopher Hall, Miles Davis)

Personnel
Bill Evans-piano
Eddie Gómez – bass
Marty Morell – drums
Jeremy Steig – flute

Recorded
January 30, February 3 & 5, March 11, 1969, New York City

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ハンコック

おはようございます。
渋い盤ですね。
風を切り裂くという喩えがぴったりですね。

私は日本刀と喩えて、こんなコメントを残しておりました。
http://watt3pappy2.blog.so-net.ne.jp/2012-05-30
そういえば、ダウンビートで掛かっていた盤で、エバンスとやってない良い盤があったのですが、確かCDが出てなかったように思います。タイトルも忘れてしまいましたが、ダウンビートにレコードがあります。
今度行った時に探さないといけませんね!
by ハンコック (2016-01-13 08:18) 

老年蛇銘多親父(HM-Oyaji)

ハンコックさん

Jeremyの作品、CD化されているもの少ないですね。

この人、この後70年代に入るとフュージョンよりになってしまっているようなので、ダウンビートの盤、ちょっと聴いてみたいなと思いました。

ところで、私がJeremyを知るきっかけは、ロックからだったのですよ。

Jetro TullのIan Andreson。

その昔、ジャズ・ファンの友人にこの人のフルートを聴かせたら、これJeremy Steig じゃないかと言われたの始まりなのですけど、邪道かもしれませんが、こんな合わせ聴きも面白いかもしれませんよ。


by 老年蛇銘多親父(HM-Oyaji) (2016-01-13 20:43) 

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