半世紀を越え愛され続けるハーモニー 本日の作品;vol.130 [デジタル化格闘記]

今回の作品は、寒さの中にも日中は、どこかほのかな暖かさを感じられるようになった今日この頃、そうなると欲しくなるのが、ゆったりとした雰囲気で、まだ体には冷たさの感触が残っているも、心の中には暖かさを吹き込んでくれるような、そんなサウンド。

しかし、そんなお誂え向きのサウンドってあるのかな思いつつ、先日音楽を聴きながら、冷たい空気の残る街を歩いていた時に聴こえてきたそのサウンド。

これまで長きに渡り親しんできたサウンドなのに、そのサウンドにこんな力があったなんて!!
不思議な新鮮さを感じながらその余韻を楽しんでしまったのですが、今回は季節柄、少し顔をのぞかせた春の到来を味あわせてくれたこの作品、それを選び聴いてみることにいたしました。

これが、その作品のジャケット。

Blues-Ette curtis fuller.jpg


ジャズ・ファンの方ならこのジャケットを一見しただけでお分かりでしょうけど............。
トロンボーン奏者Curtis Fullerの1958年の作品”Blues-Ette”

現在でもトロンボーン奏者のリーダー作品というのは、かなり希少なのですが、その中のあってこの作品は、トロボーンという楽器の枠を越えジャズの名盤中の名盤の誉れの高き作品なのです。

その聴きどころは、この作品に参加しているテナー・サックス奏者のBenny Golsonの、Golsonハーモニーと呼ばれる心地良さを感じさせる絶妙なアレンジと、Fuller自身の思わず共に口ずさみたくなるようなトロンボーンのソロ。

トローンボーン奏者といえば、J.J. Johnsonがその第一人者として今もそれを越える演奏家は出現していないと言われているのですが、Fullerもその腕前はJ.Jに譲るものの、その良く歌うサウンドとマイルドな音色で人々を魅了し続けているアーティストなのです。

それでは、そのFullerとGolsonの、浮き浮きとした春の訪れの気分を感じさせるようなハーモニー、早速聴いてみることにいたしましょう。







曲は、Benny Golson作曲の”Five Spot After Dark”でした。
一度聴いただけで耳に焼き付いてしまうメロディ、60年代に入ってCM曲の作曲家としても名を馳せたGolsonならでは名曲だと思います。

その昔、ジャズ評論家の故油井正一さんが案内役を務めていたNHK FM放送のジャズ・アワーのテーマ曲として使われていた曲で、私など、この曲を聴くと曲に続いて現れる「今晩は、油井正一です。」という語りの言葉と、油井氏の蘊蓄深い選曲と解説から、ジャズについて多くのことを教えられたことが懐かしく、その思い出に浸ってしまうのですけど。


甘いトーンのFullerのトロンボーンに絡みつくかのようなGolsonのハスキーな音色のテナー・サックス、その二つの音色が生み出すハーモニーの耳触りの良さは、他のジャズ作品では味わえない格別のものを感じさせてくれます。
この二人、その後の作品でも度々共演をしていることからも考えて、共にその相性の良さを認識しつつ、この作品でも自己のプレーにそれを最大限に活用して、最良のサウンドを創りだしたその結果が、この作品に名盤としての価値を付加した、そのようにも思えて来るのです。


そして、この名盤の誕生をサポートしたリズムセクション。
50年代を代表する名ピアニストとして知られるTommy Flanaganと、あの伝説のJohn Coltrane Quartetの一員としてその偉業を支え続けたベースのJimmy Garrisonの存在。

Tommy Flanaganと言えば、彼の初リーダー作品である”Overseas”が有名ですが、この作品、彼が1956年から58年まで在籍した、J.J. Johnsonのクィンテットの楽旅の途上、スウェーデンで、そのリズム・セクション・メンバーのみで録音されたもの。
J.J. Johnsonのクィンテットでも、トロンボーン奏者の特質をよく踏まえた好演を多く残していますが、この作品でも一歩後ろに下がりながらも、調和と余韻を残すプレーでフロントの二人を見事にサポートしている様子が窺えます。

一方のJimmy Garrison、自己のコンボのベーシストにPaul Chambersを渇望しながらもその願いを果たせずベーシストの起用に苦しんだColtraneが、ようやく見つけ出した逸材として名を轟かさせた名奏者なのですが、私自身、Coltrane Quartetでは、御大のColtraneを食ってしまうほどのElvin Jonesの凄まじいドラムとColtraneの情念に満ちたプレーに阻まれて、彼の資質をもう一つ理解出来ないでいたのです。
しかし、この作品で彼のプレーを聴いて、Paul Chambersばりの豊かな音量と艶やかなトーンがあるのに気付かされ、あらためてその資質を知った次第。

FlanaganとGarrison、この二人の燻銀のサポートが、フロントの二人を静かに燃え上がらせていた!!

などと言うと、そうした演奏、また聴きたくなるのではと思いますが。

そこで次の曲は、その二人のサポートを受け、珍しくハードボイルドなテナーを聴かせるGolsonと、淡々と温かみのあるメロディを紡ぎだすFullerのトロンボーンが聴ける”Love Your Spell Is Everywhere”を聴いて行くことにしたいと思います。



4人のソロが聴けるこの演奏、いつになく熱いGolsonと、控え目ながら趣味の良さが際だつプレーを聴かせるFlanaganのピアノが印象に残ります。


毎日、通う江戸城外堀の桜も、早、小さな蕾をのぞかせるようになった昨今。
こんな音楽を聴きながら、間もなく訪れる春の空気に一足浸ってみるのも良いのではないでしょうか。

Track listing
All compositions by Curtis Fuller except as indicated.
1."Five Spot After Dark" (Benny Golson)
2."Undecided" (Sydney Robin, Charlie Shavers)
3."Blues-ette"
4."Minor Vamp" (Golson)
5."Love Your Spell Is Everywhere" (Edmund Goulding, Elsie Janis)
6."Twelve-Inch"

Personnel
Curtis Fuller - trombone
Benny Golson - tenor saxophone
Tommy Flanagan - piano
Jimmy Garrison - bass
Al Harewood - drums

Recorded
May 21, 1959
Van Gelder Studio, Hackensack


そうそう、我が家の庭に出てみれば、プランタンに植えたジュリアンが、

DSCN1669m.JPG


早、こんなに花をつけていました。

本当に、今年の冬は暖かだったのですね!!

DSCN1649m.JPG









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ハンコック

おはようございます。
愛という魔法の呪文に掛けられた自分の気持ちをゴルソンのテナーが見事に歌い上げてますよね。
熱苦しくて敬遠されるゴルソンですが、その暑苦しさの演奏がLove Your Spell Is Everywhereにはぴったり合ってますね。
夏の終わりや、4月に恋人と別れ上京する学生などと何か重なるものを感じます。
うちでも引っ張り出して聴きたくなりました。
by ハンコック (2016-03-07 06:43) 

老年蛇銘多親父(HM-Oyaji)

ハンコックさん

最近は、若い時聴いていた作品を聴き直し記事に書くことにしているのですけど、こうしてやってみると何度も聴いていたはずなのにまた新たな発見があって面白いものです。

この”Love Your Spell Is Everywhere”もその一つで、ご指摘の通り、ここでのGolsonプレイ、他ではあまり聴けない激しさ、これは数あるGolsonのプレイの中でも最高の出来だなと感じ、この曲を掲載した次第なのです。

そのあたりの事情、さすがハンコックさん!!
見抜いていただき、嬉しく思っています。




by 老年蛇銘多親父(HM-Oyaji) (2016-03-08 05:54) 

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