闘い葛藤するベース・サウンド・Charles Mingus;Mingus Ah Um 本日の作品;vol.134 [デジタル化格闘記]

新年の喜びも一段落、今回はいつもの平常に戻って、一人のアーティストの作品にスポットあてた音楽談義。

今回は、2017年を迎えたということで新たな気持ちで、これまで何度か取り上げようとして挫折してきたアーティストの作品をと腹を決め、挑戦を必果たし得るよう物語ってみることにしたいと思います。



その挑戦を果たしたいアーティストとは、ベーシスト・コンポーザー・バンドリーダーで、時にはピアニストとしての活動、そして人種隔離反対運動の活動家としても知られる一人の男。

とそこまで語っても、その時々に見せた、彼の表情は、その時折の様相によってかなり異なって見えてくる、その捉えどころの違いによって異なってくる彼の音楽の在り方から、語ることを躊躇いが解けないでいるのですが、これも新年を無事迎えての登竜門。今年はこのアーティストの作品から、語り始めることにしたいと思います。


そのアーティストは、Charles Mingus。

ジャズ史上、その巨人の一人として名高い人物ですが、私が、3年ほど前に書いたJoni MitchellのMingusの追悼盤というべき作品”Mingus”を記事(亡き老巨匠の魂に導かれ生まれた名盤)・ を取り上げて以来、ジャズを語るには欠かすことの出来ない大巨匠である彼の作品を、しっかりと耳に叩き刻み込んで記事にしようと思いながらも、筆を起こすことが出来なかったですが、考えてみれば、前述した通りの多彩な顔を持つCharles Mingus、その作品もそれぞれ個性豊かなうえ、その共演して来たアーティスト(Eric Dolphy、Roland Kirk、Dannie Richmond 等々)もかなりの個性人ばかりということも相まり、どの作品を選択するのか、決めきれずにいたのがその原因。

しかし年の初め、ここは初心に戻って、彼の作品を再度聴き込み考えた末に選ぶことにしたのが、その彼の絶頂期にあって、強烈な個性やその主張の強力さという点では他の作品にその地位を譲るが、Mingusの多彩な全貌を さもバランスよく、かつ わかり易く捉えられていると感じたこの作品。

Mingus_Ah_Um_-_Charles_Mingus.jpg


1959年制作の”Mingus Ah Um”とすることにいたしました。



全曲すべてがMingusのオリジナルで固められたこの作品、そこ収めれているのはゴスペルやニューオーリンズ・ジャズといった伝統ジャズの面持ちを内包しつつ、時には当時最先端フリー・ジャズのエッセンスが飛び出してくる楽曲や、コンボでありながら彼が敬愛するDuke Ellingtonのビッグ・バンドのソリを体感する楽曲、人種隔離反対運動家として、その怒りを発散しながら闘うMingusの姿が宿る楽曲など。

その1曲1曲が強い個性を放ちながら、その根底のあるブルーの真髄を放ちながら強烈に語りかけて来る。

人によっては好き嫌いが大きく分かれると言われているMingusですが、しかし、それを乗り越えて聴き込めば、その奥にあるその心とその素晴らしさが見えて来るように思うのです。

ということで、まずは1曲、Mingusの雄叫びがバンドをリード鼓舞するこの曲を聴きながら、その独特な世界を味わって行くことににしたいと思います。









曲は、Mingusの太く乾いたベースで始まる”Better Git It In Your Soul”。

ニューオーリンズ・ジャズの雰囲気をも感じるこの曲、今回よく聴いてみて解ったのが、空間一杯に広がる奥行き深いMingusのベースの音の効果。
この縦横空間一杯に広がる重厚で乾いたベース・プレイが、他の楽器を包含鼓舞し、まるでビッグ・バンドの演奏のような臨場感を生み出していたということ。

かねがね強い独自色を感じていたMingusサウンド、そのすべてがMingusの強い個性から生れ出ているものとばかり思っていましたが、彼のベースがあってこそ、さらにその真価を発揮するものだということを思い知らされました。


さて、Mingusといえば、語るに欠かせないのが人種隔離反対運動の活動家としての顔。
今度は、その活動家としての彼を語るには欠かせない、その代表曲を聴くことにしたいと思います。
曲は、."Fables of Faubus(邦題フォーバス知事の寓話)"です。



「フォーバス知事の寓話」のフォーバス知事とは、アメリカ合衆国アーカンソー州の知事で、本名オーヴァル・ユージン・フォーバスのこと。
この曲は、1954年、白人と黒人の分離教育違法としたブラウン判決を受け、1957年、アフリカ系アメリカ人の学生9人の入学を認め登校許可したリトル・ロック・セントラル高校のその実施に際し、融合教育化に反対立場にあったフォーバス知事は、州兵を学校に送って黒人学生の登校を阻止した、いわゆる”リトルロック高校事件”に対し激怒したMingusが、1958年8月からライブでこの曲を演奏し歌詞の中で知事とアイゼンハワー大統領を激しく批判したプロテストソングというべき曲で、この演奏はスタジオでレコーディングされたものとしては最初のもの。

翌年の”Presents Charles Mingus”のMingusよるヴォーカル入りの同曲と比べると、メジャー・レーベルのColumbia Recordsの下での制作ということもあってか、この曲本来の痛烈なプロパガンダ性は影が薄くなっていますが、この演奏では、この曲の本来の音楽的な出来の良さを体感出来る共に、そのユーモラスなメロディが奏でる雰囲気の内に、秘められたMingusの強い怒りにオドオドとたじろぐ、フォーバス知事の姿が見え隠れしているように思えてくるのです。

この記事の一番最後に”Presents Charles Mingus”に収められた、"Fables of Faubus"の演奏を掲載しておきましたので、よろしければ聴き比べてみてください。



そして”Mingus Ah Um”と言えば、やはり、この録音の2か月前に世を去った、後のテナー・サックス奏者に大きな影響を残したサックス奏者 Lester Youngの追悼のために書かれた”Goodbye Pork Pie Hat”が聴きもの。

そこで次は、Jeff BeckやJoni Mitchellなどのフュージョン系のアーティストによっても演奏されているこの名曲を聴いていただくことにいたしましょう。



ゴスペルの薫り高い旋律に、偉大なるテナー奏者の死に対するMingusの深い悲しと敬愛の念がよく分かる名曲だと思います。

この演奏を聴きながら、ふと脳裏をよぎったのは生前のMingusと親交の深かったJoni Mitchellの歌唱。
あの歌唱はMitchellがMingusの死後に発表した作品”Mingus”に収めれていたものですが、その歌唱での追悼の主役はLester YoungではなくMingus自身であったということ。

自身の鎮魂のためにも歌われた、これぞコンポーザーMingusの代表曲だと思います。



MingusがトランぺッターのFats Navarroに語ったという「1+1の答えはは必ずしも2ではない。時よってそれは3にも4にもなるのだ。」という言葉。

これまで私自身、Mingusは、さも苦手なアーティストとして敬遠して続けて来たのですが、今回その音楽に接し直して、その言葉の真意を曲がりなりにもわかるようになったような気がします。

そしてこのことから、今年は、苦手意識を乗り越えて、これまで聴くことが少なかったお蔵入りの盤を、聴き直しその良さを再発見して行くことにしなければと思いました。


IMG_2816m.JPG




Track listing
All songs composed by Charles Mingus
1."Better Git It in Your Soul"
2."Goodbye Pork Pie Hat"
3."Boogie Stop Shuffle"
4."Self-Portrait in Three Colors"
5."Open Letter to Duke"
6."Bird Calls"
7."Fables of Faubus"
8."Pussy Cat Dues"
9."Jelly Roll"

Personnel
John Handy – alto sax (1, 6, 7, 9, 10, 11, 12), clarinet (8), tenor sax (2)[10]
Booker Ervin – tenor sax
Shafi Hadi – tenor sax (2, 3, 4, 7, 8, 10), alto sax (1, 5, 6, 9, 12)
Willie Dennis – trombone (3, 4, 5, 12)
Jimmy Knepper – trombone (1, 7, 8, 9, 10)
Horace Parlan – piano
Charles Mingus – bass, piano (with Parlan on track 10)
Dannie Richmond – drums

Recorded
May 5 and May 12, 1959
Columbia 30th Street Studio, New York City







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ハンコック

いつも重要な情報をありがとうございます。
Jazz喫茶のダウンビートで、
直立猿人が大音量で掛かっているのを
聴けるようになるまで10年以上掛かりました。
今では好んで聴くことができますが、
Mingusのことまったく知りませんでした。
このあたりを理解しつつ、改めて聴いてみたいと思います。

by ハンコック (2017-01-26 19:02) 

老年蛇銘多親父(HM-Oyaji)

ハンコックさん

私は、逆でジャズを聴き始めたころ最初に気に入ったのが”直立猿人”でしてね。

ところが、これジャズしては珍しくストーリー性のあるこの作品、当時は、どうやらプログレシッブ・ロックを聴く感覚で聴いていたのがその原因のようで、その後、他のMingus作品を聴くにつれ、違うものを感じ苦手感を持つようになってしまっていたようなのです。

しかし、今回この記事を聴きながら、聴き直し記憶を整理してみたら、この良さ素晴らしさが見えてきた。

やはり、偉大なるジャズの開拓者という印象。

ハンコックさんも、是非聴き直してみてください。


by 老年蛇銘多親父(HM-Oyaji) (2017-01-26 21:00) 

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