火砕流に呑まれた古代の王国 [仕事の合間に]

今年に入ってから、例年になく仕事で足を運ぶことが多くなった上州路(群馬県)。

私にとって、地元の人もなかなか知らない歴史や隠れた見どころを知ってしまった甲信州路とは異なり、こちらはまだまだ未開拓の地。
こちらの方も、それまで行くたびにそれまで知らなかった新たな発見があって、はたまた仕事とは言いながらも旅を楽しむこととなっていたのですが、何度か訪れているうちふと思いあたったのが...........。


群馬県という所、一般的に尾瀬や日光白根山など美しい自然や草津、伊香保などの温泉地で有名な所なのですが、いささか地味でありますが古墳時代の古代遺跡の数とその内容においても全国有数の地だということ。

特に、人や動物、家などを模った形象埴輪では、国宝の「挂甲武人埴輪」や重要文化財となっている「」腰かける巫女埴輪」などの出土地としてその質においても見るべきものが多い所。

埴輪 挂甲武人 国宝.jpg


埴輪 腰かける巫女 国宝.jpg


となれば、仕事とは言えせっかくその地に足を運ぶのだからと、その好機を捉えて日本の古代の痕跡を探し歩いてみることに決めたのです。

そして、仕事の打ち合わせを終え帰路に着こうとしたとある日の午後。
渋川付近を車で走っていると路傍に見えてきたのが中筋遺跡の案内板。

やはり、この辺りは遺跡が多いのだな、ならば立ち寄ってみようと躊躇することなくその案内板に従い進むことにしたのです。

そして到着したのが、

DSCN3215m.JPG


一見、住宅地の中に復元竪穴式住居だけがある平凡な遺跡のように見えますが..........。

まあせっかく来たのだからと、遺跡の中に入って行くと、足元に地中からしっかりとその原形を留めた土器群が顔を覗かせています。

DSCN3212m.JPG


普通の復元遺跡では、発掘された土器を,わざわざ見学者に見せるよう半地中に埋めてある遺跡の復元形態は見たことがないし、これは一体どういうことだろう、何か意図あってのことかと思い、近くにあった案内板を見てみると。

この遺跡、今から1500年ほど前の榛名山の大爆発による火砕流に呑み込まれ、突如この世から消えてしまった集落の遺構だというのです。

つまりこれは、長きに渡り人に知られることなく地中に眠り続けた古代の集落だということ。
地上に顔を覗かす土器群が残されていた意味もこれで氷解。

それにしても、その復元された遺跡のリアル感、、元々発掘された時の保存状態の良さが想像されます。

これならば復元竪穴式住居の方も何かあるはず、竪穴式住居と言うと、中央に備えつけられた火を絶やすことない囲炉裏を囲み、そこで煮炊きし生活していた古代人の姿を連想しつつ、中に入ってみると。

DSCN3218m.JPG


そこにあったのは、壁際にしっかりと据えられた竈が。
竈の上の穴に土器を置き食作りをして煮炊きの場と居住空間の仕分けを図っていた、そこには現代のような華やかな豊かさはないけれど、どこからともなく、神々の脅威にさらされながらもその恩恵を受け豊かに暮らしていたであろう古墳時代の人々の息吹が聞えてくるような、そうした雰囲気が漂っていました。

中筋遺跡_4.jpg


そして、1500年前の榛名山の大噴火で埋もれた遺跡、その後、この中筋遺跡からさほど離れていない場所から、さらなる大発見があったというのです!!!!!!!














果たして火山灰層の下から現れたものは、

金井東浦遺跡甲冑武人出土写真2.jpg


埴輪のようにも見えるけどよくわかりませんよね。

それでは、こちらの写真。

金井東浦遺跡甲冑武人出土状況1504maizo-6.jpg


古墳時代の甲冑??

そう、しかし、ただの甲冑ではなく、甲冑と共に男性の人骨が出土したというのです。そしてその手先には刀身をむき出しにした刀があったというのです。

つまりこれは、甲冑を身に纏い刀を振りかざした古代武人の遺骨。

榛名山周辺古墳時代遺跡.jpg


私がこの遺跡のことを知ったのは、偶然にも中筋遺跡を行き大きな衝撃を受けた時から、2週間ほど後に放映されたNHKの歴史秘話ヒストリアの「謎の古代王 最後の戦い 日本のポンペイから探る」を見てのこと。

金井東裏遺跡と呼ばれるこの遺跡、番組によれば甲冑武人の周辺からは、装飾品を身に着けた女性の人骨と幼児と乳幼児、計3体の人骨が出土したのだのこと。

そしてさらには、武人の倒れたいた場所から少し離れた場所には、避難のため集落を去ろうとしたと見られる人々の足跡が発見されたというのです。

そうすると、この地に残ったこの4人は、この地の王とその家族!!

武人の遺骨は、榛名山に向かって前のめりに倒れ込んでいたとのことを考えれば、彼は王として荒ぶる山の神を鎮めようと甲冑を身に纏い刀剣を持って果敢に立ち向かい、家族もろとも火砕流に呑み込まれてしまったということなのか。

この地は、古くより第10代崇神天皇皇子の豊城入彦命を祖とする上毛野氏(かみつけのうじ)が統治、繁栄を極めていた場所。
となれば、火砕流に立ち向かったこの王も上毛野氏の血を引く者だったのか。

いずれにせよ、集落と人々を守るため、自分の身を捨て勇敢にも火砕流に立ち向かった古代の若き王のその姿に畏敬の念を覚え、以来、群馬県一体に数多く築かれた巨大古墳を訪れて、上毛野氏の王たちの御霊に敬意を表したいと考えるようになってしまったのです。


それから、その機会を待つこと4か月。
やっとのことで訪れた上州出張のチャンス。

この間、太田市にある東国最大規模の全長210メートルの前方後円墳である天神山古墳をはじめ、仕事の合間を縫ってどの遺跡に行ったらいいのか調べていたのですが、まずはここからと決めたのがこの古墳。

全長、102mたらずの前方後円墳なのですが、創建当初の姿に復元されていて、当時の人のその古墳に祀られた王の威徳崇拝の精神が、感じ取れると思えたのがこの遺跡。

_DSC0275m.JPG


高崎市のはずれにある保渡田古墳群の中にある八幡塚古墳を尋ねてみることにしてみました。

そして........

到着してまず見たのが、全身を葺石に包まれた往時の威容を今に蘇らせていたその勇姿、この古墳も、元はあの榛名山の火山灰に覆いつくされていたというのですが、それがにわかに信じられないくらい。

規模的には西方に多く存在する大王墓などの大規模古墳と比べるすべもないのですが、墳丘を取り囲む2重の周濠や円筒形埴輪なども出来た時の姿に並べられていて、小さいとはいえこの地を治めていた王の力の大きさがひしひしと伝わってくるのが感じられます。

そしてさらになる見どころは、前方部前の2重の周濠の間に設けられていた復元埴輪遺構。

_DSC0269m.JPG


人馬を従える先頭の一回り大きい武人埴輪。
後ろの武人とは装いも異なることから、この墳墓に眠る王を模ったものなのか。
そして、立ち並ぶ埴輪をさらによく見て行くと、

_DSC0272m.JPG


なにか洗礼を受けているような様子の埴輪が。
何かを授けられているのは、先頭に立っていた埴輪と同じ人物を模ってように見えます。

考えられるのは、これは王にまつわる何かの儀式の様子。
そして、他にも同じ王と思われる人物の埴輪が、いくつかあるのが見られます

ということは、この埴輪遺構は、この墓の被葬者である王の、生前の業績を描いたもの。

そういえば、あの有名な高松塚古墳の墓室壁画も近年の研究では、被葬者の生前の業績の一駒を描いたものだといわれています。

つまり、高松塚に比べ素朴ではあるが、それと同じ思いが、この埴輪遺構もあったいうこと。

そして、素朴ではあるが故に、これを創った人々の黄泉の国へと旅立った王への熱い思慕の念と生前の威徳を後世に伝えようとする思いが強く感じられる、そんなことを考えてしまったのです。

欠史の時代と言われる、1500年前の古代人の営み、今回、この地を訪れたことで肌身を持って感じ取ることができたように思えます。
これからもまた、この上州に点在する、これら遺跡を訪ね多くの東国の古代人の心に触れて行きたいと思いました。

最後に、今回訪れた遺跡の地、こんな映像にまとめてみました。
ご覧いただき、共に古代人の心、感じていただければと思います。







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raccoon

火砕流は怖いですね。 御嶽山の噴火を思い出しました。

この曲何かな、と思いましたが、プログレでしょうか。儚さ、神秘を感じました。
by raccoon (2017-08-14 22:37) 

老年蛇銘多親父(HM-Oyaji)

raccoonさん

このPVの音楽、Roxy Music、Frank Zappa & the Mothers、UKなどのキーボード奏者と知られる Eddie Jobson の1985年の作品”Theme of Secrets”に収められていた曲です。

実はこの記事、もともと私の古代遺跡好きの趣味が高じてこの地を訪れたものの、書くつもりはなかったのですけど、
この曲を聴いてインスピレーションを得、書くことにしたものなのです。

この曲から感じる儚さ、神秘、おっしゃる通りだと思います。
そう言われて考えてみれば、その感じがこのインスピレーションをもたらした大きな要因であったように思いました。


by 老年蛇銘多親父(HM-Oyaji) (2017-08-15 08:58) 

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