天体ショーの名を冠したJazz作品・ Bobby Hutcherson;Total Eclipse 本日の作品;vol.136  [デジタル化格闘記]

今年の8月21日、31年ぶりにアメリカで観測された皆既日食、

これだけなら、いつもなら「ああそうか」と終わてしまう私なのですが、しかし、今回のそれは、アメリカ西海岸のオレゴンに始まり東海岸のナッシュビルに至るまで1時間余りをかけアメリカ本土を横断するという空前絶後の大天体ショーだとのこと。

ということで、その壮大なスケールの天体ショー、一体どんなものだったろうと、かなり興味をそそられていたところ、後日その様子がTVで放送されるとの話。

これは、是非見なければいけないと、即その放送の録画セットをし後日それを見てみると、月が太陽を覆い尽くす瞬間にその淵に見られる一瞬の輝きデイリービーズや、月が太陽から離れ始め再び光が輝きだす瞬間の第3接触など、その現象と名称の解説を聞きながら見事な日食の映像を堪能することが出来たのですけど、さらに勉強になったのは、この天体ビックイベントに満を持して観測に臨んでいた天文学者達らの、その動静。

その観測対象は、太陽のまわりを取り囲む太陽の冠コロナ。
普段は太陽の光の影響で観測することが難しいのですが、太陽光が月に完全に遮られる日食は、その観測の絶好の機会だというのです。

何故コロナを観測するのかというと、コロナというのはプラズマで普段は太陽の磁場によってその周り繋ぎ止められているのですが、その太陽が大爆発を起し磁場が乱れた時に一気に宇宙に放出(コロナ質量大放出)されることがあり、これが地球に達した時、少量であれば地球の磁場が防護壁となるも、多量であればその磁場が破壊され地球環境に大きな影響を与えるからだというのです。

その影響、事実過去にも、コロナ質量大放出によって人工衛星が機能喪失となったり、カナダでは州単位の大規模停電が発生したりの事例があり、さらには携帯電話などの現代社会にはなくてはならない通信機能が破壊されてしまったり、航空機などの交通網の運航に妨げてしまうなど、我々の生活に大きな混乱をもたらすことなってしまうというのです。

この発生メカニズムを解明し、予知を可能とするための天文学者たちの挑戦、つくづく生命溢れる環境を生み出した奇跡の惑星「地球」、しかし常に宇宙の脅威に晒されているのだと、そのことをつくつづくと感じさせられながら、その脅威回避に挑む人々の絶え間ない努力に、心の奥底からエールを送りたい気持ちになりました。



とまあ、音楽記事を書くはずが日食の話ばかり終始して、これでおしまい!!



としたいところですけど、タイトルにJazz作品と書いてしまったので、やはりここは続けなければいけないと考え気合を入れ直してその作品のことを続けることに.............!



実は、この放送を見た後、そういえばこの皆既食の名を冠したジャズ作品があったなあと思い出し、久々に聴いてみたのがこの作品。

Bobby Hutcherson Total Eclipse.jpg


ヴィブラフォン奏者Bobby Hutchersonの1968年の作品”Total Eclipse(皆既食)”。

60年代 Milt Jacksonの独壇場であったヴィブラフォンの世界にGary Burtonと共に登場したHutcherson。

当時主流となっていたモーダルの手法を身に着けた新主流派ジャズのヴィブラフォン奏者としてGary Burton共にヴィブラフォンの世界に新風を吹き込んだHutchersonなのですが、その両者の演奏スタイル
は、前者のBurtonが知的で繊細なプレイがその魅力なのに対し、後者のHutchersonは野性的で力強さを感じさせるというまさに対照的なもの。

これは、当時のモーダル・ジャズを牽引した二人のピアニスト Bill EvansとMcCoy Tynerとスタイルの違いと同様であり、機会があれば、ピアノと同様ヴィブラフォンにおいても、この二人の違いを聴き探してみるのも面白いようにも思います。


さて、このHutcherson 1963年にBlue Noteレコードにて初リーダー作”Dialogue”を発表、その後1966年に”Happenings”を発表、その地位を不動のものにして行くのですが、この時期の作品で面白いの、それぞれレコーディングごとに変わるピアニストとの触れ合いによるそのサウンドの違い。

”Dialogue”のAndrew Hill に始まり”Happenings”のHerbie Hancock、そして続いての次作”Stick-Up!”ではMcCoy Tynerと、当時ジャズ界の中心的存在にあったピアニストと共演し、いよいよ、この今作では、当時新進気鋭のピアニストとしての頭角を現してきた、Chick Coreaとの共演を果たしているのです。

特に、この作品のレコーディングされた時のChick Coreaは、この年の3月に彼自身初のリーダー作品であり、当時新進気鋭のピアニストして注目されていた彼の評価を決定づけた作品”Now He Sings, Now He Sobs”の録音を終えたばかりの時期で、”Now He Sings, Now He Sobs”で聴かせてくれた、フレッシュかつ斬新なプレイの感覚が、このHutchersonコラボではどのように反映され聴こえてくるのか、興味が尽きないところ。

という前置きはここまでにして、まずはCoreaの初リーダー作品、”Now He Sings, Now He Sobs”にも収められていた、初期Coreaの代表曲"Matrix"を、早速聴いていただくことにいたしましょう。


2017皆既日食.jpg










Chick とヴィブラフォン奏者との共演というとGary Burtonとのそれを思い浮かべる方が多いと思いますけど、Burtonとの共演が二人の織り成すサウンドのクリスタルな雰囲気と、その音の絡みから静かに生まれ出る、スリリングな高揚感があるのに対し、このHutchersonとの演奏は、60年代新主流派のスマートさはあるものの、それ以上にどろくさい野太さの中に熱い雄叫びを感じさせるものとなっているように思え、ここではあくまで洗練された緻密さを備えたChick Coreaが、冷静でありながらことのほか熱いプレイを聴かせてくれているあたり、この演奏の一つの聴きどころなっていると思うのです。

そしてもう一つの聴きどころは、ここでテナー・サックスをプレイするHarold Land 。
この人、1950年代半ば西海岸にその中心を奪われていたジャズを東海岸に取り戻すこと大きな功績を残した、伝説のClifford Brown & Max Raoch Quintetのメンバーとして、天才Clifford Brown を相手に怯むことなく名プレイを残した根っからのバッパーのはずなのですが、モダール・ジャズの下で育ったHutchersonやCorea等、目下売出し中の若手を相手に、60年代にJohn Coltraneの影響受けその奏法を変えて違和感なく若手の中に溶け込み、若々しいプレイを聴かせてくれている様子に痛快なものを感じさせられます。

というところで、もう1曲。
今度は、Hutchersonの作曲のこの作品の表題曲."Total Eclipse"を聴き、さらにその聴きどころ、確かめることにしたいと思います。



それぞれバックボ-ンの違う、3人のプレー、逆にそれが相乗効果生んで、程よい緊張感を醸し出していると、そう思っているのですがいかがだったしょうか。

Hutchersonというヴィブラフォン奏者、相性の良いピアニストというと、その後、共演レコーディングの機会が多かったことを考えると、やはりMcCoy Tynerだと思うのですけど、ここでのCorea 彼自身の持ち合わせている知的な側面と耽美さを備えたプレイで、McCoyとは異なったミステリアスな世界へこのQuintetを導いている。

そしてテナー・サックスのHarold Land 、こちらはJohn Coltraneのスピリチュアル感と、彼本来のバッパーとしてのスウィング感が程よくマッチングしたプレーで、若手たちのプレーに新たな風を吹き込みつつ、特にCoreaの手よる"Matrix"では、知的で繊細な感じがするCoreaのTrioの演奏に、ガッシリとした芯が通った熱さ加わっていたように思え、この辺り両者を聴き比べてみるのも面白いと思いました。

新旧、スタイルの違うが面々が一堂に会したこの作品、名盤としての誉れこそありませんが、60年代後半、混沌の中でその求心力を失ったジャズ界において、過去の伝統を踏まえ新しさの中にもそのアイデンテティを色濃くしたこんな作品があったことは、実に幸いであったと、そんな思いを噛みしめながら、その良さを楽しんでしまいました。

ジャズを聴くことの楽しみ、勝手ながら今回は存分にその味、味あわせていただきました。

Track listing
All compositions by Hutcherson except as indicated.
1."Herzog" - 6:36
2."Total Eclipse" - 8:54
3."Matrix" (Chick Corea) - 6:44
4."Same Shame" - 9:28
5."Pompeian" - 8:50

Personnel
Bobby Hutcherson - vibraphone, marimba
Harold Land - saxophone
Chick Corea - piano
Joe Chambers - drums
Reggie Johnson - bass

Recorded
July 12, 1968
Plaza Sound Studios, New York City

PS.
この記事を書き始めた最中に発生した9月7日の太陽表面の大爆発。
今回は、コロナ質量大放出による地球への大きな影響は、幸い免れることが出来ましたが、まさにこのこと書いた直後とあって、私自身かなり驚かされました。

しかし、あれが直撃していたら地震や台風と同様、大きな災害を引き起こすことを考えると、その予知体制、早く確立出来れば思いました。



ダイヤモンドリング1.jpg



ダイヤモンドリング.jpg




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ituki

親父さん^^
大規模な太陽フレアによって、地球に深刻な被害が起こるかもしれないというような記事をどこかで読んで、ちょっと心配していたのでコロナのお話は興味深かったです。
心配しながら、「オーロラの彼方へ」という米映画を思い出して、なるほど、そういうことかって一人で感心していました(笑)

Total Eclipseは神秘的ですね。
エジプトの砂漠から眺めた日食っていう感じがしました(^^;)
by ituki (2017-09-18 11:19) 

老年蛇銘多親父(HM-Oyaji)

イッチー

実は、時折、宇宙のことを学ぶようにしているのですけど、この太陽フレアに対しては、通常地球の磁場がこの脅威を防いでくれているという訳ですけど、このほかにも生命に有害な紫外線や放射線などの宇宙の脅威も地球の大気が、この生育を守ってくれている。
そのことを考えると地球は稀にみる奇跡の星だなと、その凄さに驚かされています。

Total Eclipse、エジプトの砂漠から眺めた日食という感想、、なるほどなと思いました。




by 老年蛇銘多親父(HM-Oyaji) (2017-09-18 16:54) 

U3

実を云うとかなりお高いテナーサックスを持ってます。
でもね。でもね。でもね。でもね。でもね。吹けないの(爆)
by U3 (2017-09-25 08:36) 

老年蛇銘多親父(HM-Oyaji)

U3 さん

このサウンドを聴きながら、そのサックスをくわえて持ってみたら....いかがでしょうか。

なんとなく自分が演奏しているような気分になるかもしれませんよ。


by 老年蛇銘多親父(HM-Oyaji) (2017-10-01 15:11) 

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