2017年!印象に残った作品 Classic編;Morgaua Quartet - Tributelogy ・David Garrett-Music  [音源発掘]

2017年!印象に残った作品今回は、Classic編。

Classicとは言っても、歴史の名を残した大作曲家の作品(それはそれで、素晴らしいのですけど)ではなく、私が語るのは、現代の音楽世相にどっかりと根を下ろしたClassic音楽作品。

そこで、まず最初に取り上げる作品は、

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日本の弦楽四重奏団 Morgaua Quartet の” Tributelogy ”です。

しかし、「このジャケット、どこかで見たことがあるよ。」という方も多いかと思いますが。


それは、このジャケットでは?

そう、それは、1970年代、急速に台頭しロック・ミュージックの核の一つになったプログレッシブ・ロック、その時代の中心的存在であったと今も語り継がれている、Emerson, Lake & Palmer(以下EL&P)の1972年のスタジオ制作の作品”Trilogy”。

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いかがですか?
一瞬、瓜二つだだなと感じながら、片や4人に対し、もう一方、描かれているのは、3人という事実。

実はこの作品、あのEL&Pのキーボード奏者のKeith Emersonとベース奏者Greg Lakeの作品を、このカルテットの第一ヴァイオリン奏者でリーダーの荒井英治が、クラシックの弦楽四重奏用に編曲演奏した、EK&P作品集ともいうべき作品なのです。

日本のクラッシック・アーティストの手によるロック・アーティストの編曲作品集とは、なんとも不可解との印象をもたれるかもしれませんが、それを生んだのは、荒井英治とKeith Emersonと間に築かれていた深い親交。

そもそもその始まりは、日本の作曲家、吉松隆が編曲を手掛けたEL&Pの名曲「タルカス」のオーケストラ版(その記事はこちら)の録音に、荒井東京交響楽団コンサートマスターとして参加したことにあったようで、後に、Keith Emersonが東日本大震災被災者に捧げたピアノ曲”The Land Of Rising Sun”を荒井が弦楽四重奏曲への編曲を提案、このカルテットの2作目となるプログレシッブ・ロック演奏集”原子心母の危機”に収めたことが、さらにその関係を密なものにしていったのです。

そうして、2016年春に予定されたエマーソンの来日コンサート、そこにモルゴーア・クァルテットもゲスト参加し、Emersonのモルゴーアのための新編曲”After All of This”で共演する予定だったのですが・・・・・・・・・。


突然訪れた、Emersonとの永遠の別れ!!!


幻となってしまった夢の共演、そこでモルゴーア・クァルテットは、急遽”After All of This”をレコーディングし、Emersonの葬儀にその演奏を捧げることにしたというのです。

そしてその1年後、Emersonへの追悼作品として発表されたのが、この” Tributelogy ”なのです。

その収録曲は、Emersonの絶筆というべきあの”After All of This”をはじめ、1970年彼らのデビュー作品”Emerson, Lake & Palmer”から1973年の作品”Brain Salad Surgery(邦題;恐怖頭脳改革)”までの、E, L & P絶頂期スタジオ制作4作品の曲が、弦楽四重奏に姿を変え新たな命を得て見事に蘇っています。

それでは、その作品の中から、”Brain Salad Surgery(邦題;恐怖頭脳改革)”に収められていた”Karn Evil 9: 1st Impression-Part 1(邦題;悪の教典#9 第1印象 パート1 ) ”を、まずはお聴きいただくことにいたしましょう。





EL&Pの楽曲の中でも一際、激しさの度合いが濃いこの曲、常々私は、この曲以前の彼らのアルバムの中のEmerson,の諸楽曲、それを聴く度に、そのサウンドからクラシックの弦の響きを感じ、その弦楽による演奏を自分の中で想像して来たのですけど、しかし、この曲だけは弦での演奏がどんなものになるのか全く想像もつかず、やはり弦楽化は難しいのではと考えていたもの。

ところが、この演奏!!!


シンセサイザーが暴れる激しく揺れるEL&Pのサウンドを、見事弦楽で再現している。

小学校高学年から1970年代のプログレッシブ・ロック大のファンとして、そのサウンドに熱中していたという荒井 英治、その彼の編曲の才が冴えわたる名演奏だと思います。

この他、この作品にはフランスの作曲家Erik Satieの"ジムノペディ第1番"の主題を巧みに使いアレンジしたGleg Lakeのペンになる”Still...You Turn Me On ”や、これまで他のアーティストによってオーケストラやピアノの楽曲として演奏されて来た大作、”Turkus”の弦楽四重奏による演奏、そして、私が初めてEL&Pの演奏で聴いて以来、弦楽での演奏の実現を願っていた” Trilogy ”等、聴きどころが一杯。

EL&Pを聴いたことない人でも一度これを聴き、あわせてEL&Pのオリジナル演奏を聴いていただければ、ロックのアーティストとして知られているKeith Emersonの心の奥底に宿っていた、クラシック音楽家としての一面を知っていただけるのではと思います。

そして、今年2017年に、結成25周年を迎えたモルゴーア・クァルテット、これからもプログレっシッブ・ロック作品に光を当て、これからも、現代にその魅力を伝えて行って欲しいと思います。



そして、2017年!印象に残った作品、次の作品は!!

ドイツ出身のアメリカを拠点に活躍するヴァイオリニスト。
David Garrettのこの作品。

David Garrett Music.jpg


2012年発表の”Music”です。

幼き日より厳しく両親にヴァイオリンのレッスンに通わされ、13歳にてドイツのクラシックの名門レーベルGrammophonと契約、レコーディング・デビューを果たしたというGarrett。

レコーディングしたのは、”Mozart: violin concertos”。
巨匠Claudio Abbadoがタクトを振るという、まさしく、早熟の天才にふさわしい純然たるクラシック作品だったのですが、今回取り上げたこの作品から聴こえて来たのは、底流に強力なビートが流れる現代的なサウンド。

と語ってみたもののそれを知るには、やはり聴くが早し!
という訳で、まずはその演奏、早速、聴いてみることにいたしましょう。
曲は、”Scherzo”です。



さてこの戦慄、どこかで聴いたことある?

と、思われたでしょう。

それもそのはず、この曲、あのベートーベンの有名な交響曲、第9の第2楽章なのです。

それが、現代ビートの力を得て、まるでメタル・サウンド如くガンガンとこの身に迫ってくる。


実は今年、印象に残った作品としてGarrettの作品を選ぼうと思ったのは、一般的な古典を演奏したクラシックにはない、サウンド・インパクトを感じたから。
元来、こうしたコンセプトのサウンドに対しては懐疑的であった私なのですが、彼のサウンドに接してみると、今風の解釈の中に、これら古典の心を大切にしつつその残像を伝える何かがあるように感じ、その可能性に惹きこまれてしまったのです。
そして、いくつか聴いた彼の作品の中でこの作品”Music”を選んだのは、そこに収めれた楽曲のジャンルの多様性。
クラッシックの楽曲だけではなく、Michael Jackson、Led Zeppelin、Queen等の現代のスーパー・スターの名曲を、クラシック畑出身のGarrettがどんな趣向で料理し演奏しているのか、その興味から聴いてみたところ、それぞれの曲の原曲の持ち味はそのままに、そこに潤いや安らぎといったような味付がなされていることを感じ、多様な音楽が互い共鳴しあうサウンドの面白さ感じたからなのです。

現在では、クラシカル・クロスオーヴァーの重要な担い手の一人とも目されるDavid Garrettですが、若き日は、両親の反対を押し切って入学した、Chick Corea、Leonard Slatkin、中村紘子、諏訪内晶子、ツトム・ヤマシタ等々、多くの著名アーティストを輩出した名門ジュリアード音楽学校、その在学中にその学費を賄うためモデルをして自ら意思を貫いた人物。

確かに音楽だけではなくその抜群ルックスはの良さは秀でたものがあるのですが、その信念がもたらしたものなのか、加えてその身のこなしも一流の極みを感じさせるものがあるように思えます
と思えば、映画『パガニーニ 愛と狂気のヴァイオリニスト』の主演・製作総指揮・音楽を担当をしたということも、至極当然と頷けるもの。

そこで、その彼のカッコいい身のこなしでプレイするヴァイオリン・サウンドを、ここでご覧いただこうと思います。
曲は、この作品の最初に収められている”Viva La Vida(邦題:美しき生命)”です。



クラシックの古典の世界でも、パガニーニやヨハン・シュトラウス2世、リスト等、現在のロック・スターの如くのカッコ良さと人気で聴衆を湧かせていたアーティストだったとのこと。

私など、この映像を見て、Garrettにもそれら古典の大家を彷彿とさせる風格が漂っている、とそのように感じてしまったのですけど、そのあたりどうお感じになったでしょうか。

こうした、音楽を聴いていつも思うのは、EL&P全盛の1970年代のクラシックの世界、どこかロックを軽蔑した空気とそのビートに乗れない人が多かったのに、現在のクラシック・アーティストのその変わり様、隔世の感を覚えます。

その興奮を求めて、来年も古典は基より、こうした新しい息吹を求めながら、また音楽の深い泉を探し当て楽しむことができたらと思います。


Morgaua Quartet ” Tributelogy”

Track listing
1.After All Of This -Keith Emaerson-
2.Turkus (Tarkus) -Keith Emaerson / Gleg Lake-
3.Still...You Turn Me On (Brain Salad Surgery/恐怖の頭脳改革) -Gleg Lake-

4.Trilogy (Trilogy)  -Keith Emaerson / Gleg Lake-
5.The Sheriff (Trilogy) -Keith Emaerson / Gleg Lake-
6. Karn Evil 9: 1st Impression-Part 1/悪の教典#9 第 1 印象パ-ト 1 (Brain Salad Surgery/恐怖の頭脳改革) -Keith Emaerson / Gleg Lake-

7.Karn Evil 9: 1st Impression-Part 2/悪の教典#9 第 1 印象パ-ト 2 (Brain Salad Surgery/恐怖の頭脳改革) -Keith Emaerson / Gleg Lake-

8.Interlude to Karn Evil 9: 3rd Impression ~excerpt from”Take A Pebble” /.《悪の教典#9 第 3 印象》への間奏曲 (《石をとれ》より抜粋) -Keith Emaerson / Eizi Arai-

9.Karn Evil 9: 3rd Impression/悪の教典#9 第 3 印象 (Brain Salad Surgery/恐怖の頭脳改革) -Keith Emaerson / Gleg Lake / Peter Sinfie-

Personnel
モルゴーア・クァルテット
荒井英治(1st Violin) (日本センチュリー交響楽団首席客演コンサートマスター)
戸澤哲夫(2nd Violin) (東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団コンサートマスター)
小野富士(Viola) (NHK 交響楽団ヴィオラ奏者)
藤森亮一(Violincello) (NHK 交響楽団首席チェロ奏者)

編曲:荒井英治 (except Tr.1) 、 Kjetil Bjerkestrand(Tr.1)

Recording Date
2016年3月28日(Tr.1)/2016年10月16日&23日、11月7日、12月26日(Tr.2-9) プライム・サウンド・スタジオ・フォーム



David Garrett”Music”

Track listing
1. Viva La Vida 美しき生命 (Coldplay, 2008)
2. Cry Me a River (Arthur Hamilton, 1953)
3. Beethoven Scherzo ベートーヴェン:交響曲第9番 (Ludwig van Beethoven, 1824)
4. Human Nature (Steve Porcaro, John Bettis, 1983)
5. Tico Tico (Zequinha de Abreu)
6. Chopin Nocturne (Frédéric Chopin)
7. Whole Lotta Bond 胸いっぱいの愛をボンドへ
8. Clementi Sonatina
9. Sandstorm
10. Music (John Miles junior, 1976)
11. Sabre Dance ハチャトゥリアン:剣の舞
12. Bach Double Harpsichord Concerto in C Major バッハ:2台のチェンバロのための協奏曲
   (Johann Sebastian Bach, 1735)
13. We Will Rock You (Brian May, 1977)
14. Celtic Rondo
15. Ode to Joy  ベートーヴェン:歓喜の歌
   (Ludwig van Beethoven, 1824, Text (An die Freude): Friedrich Schiller, 1785)
16. Child's Anthem 子供の凱歌
17. Welcome To The Jungle

Release Date
12. Oktober 2012
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ituki

親父さん^^

2枚とも素晴らしくてびっくりしています。
大好きな曲「Trilogy」がクラッシックの名曲に[!]
弦の和音の響きが何とも言えません[ラブラブハート]

David Garrettの選曲がまた面白かったです。
コールドプレイやジャスティン・ティンバーレイクや「あれっ、TOTOじゃーん[目玉]”」(笑)と、好きな曲ばかり。
美しいメロディーラインと練りに練った編曲。
親父さんのおっしゃる通り原曲の持ち味はそのままにというのがとてもうなずけました。

パワフルな親父さんの内容の濃い記事に、遅ればせながら今年も楽しませていただきますのでよろしくお願いします(≧∇≦)/


by ituki (2018-01-08 11:09) 

老年蛇銘多親父(HM-Oyaji)

itukiさん

早々のコメントありがとう。
”Trilogy”この曲晩年のEmersonもクラシック・オーケストラを従えてレコーディングしていましてね、モルゴーアの弦楽四重奏の演奏と聴き比べてみるのもいいかと思いますよ。

こうしたこともあって、この”Trilogy”いう曲、Emesonも最初から弦を想定して曲を書いたのではとないかと思ってしまうのですけど。

David Garrett、Popの有名曲をただのPopな演奏に陥ることなく、クラシックの技法で、音楽としての聴きどころをしかっりと押さえ表現しているあたりに、聴きごたえを感じてます。

今年また、いろいろチャレンジするつもりでのすので、当ブログ覗いてみてください。

by 老年蛇銘多親父(HM-Oyaji) (2018-01-08 15:09) 

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