若き日の巨匠たちが挑んだ次世代のアンサンブル;THE Body and Soul・Freddie Hubbard 本日の作品;vol.137 [デジタル化格闘記]

1月も早、月半ば、しかし今年私のお正月は................、

そのお休みはが、5日間と短めであったことから、家の片付け、年老いた夫婦」双方の両親を見舞うための実家訪問、そして初詣と結構慌ただしい毎日となってしまい、逆に何故か正月空けの仕事始めを迎えた今の方が、精神的にゆったりした気分に浸れるようになってしまった今日この頃。

そうしたこともあって、日頃楽しんでいる音楽にも、そのお休み期間中にはほとんど接することも出来ず、ゆったり感を得た今になってやっとのことで楽しむ気分となったところ。
そうしたところ、何故か無性に聴きたくなったのが、若き日にアナログ盤で入手したものの最初は全く気に入らなかったのに、どういう風の吹き回しか、いつの間にかお気に入りとなってその後よく聴くようになってしまったこの作品。

the body and soul freddie hubbard.jpg


1960・70年代を代表するトランペッターのFreddie Hubbard、その彼の1963年の作品、”The Body & the Soul”。



しかし、LPアナログ音源では、到底外出時持ち歩き聴くことは叶わず、ならば致し方ないと、新年早々作品のデジタル化の作業に取り掛かることに相成った次第。

そうして出来た、デジタル音源化した”The Body & the Soul”、」、今回は久々にその音源に触ながら感じた、そのインプレッション、新年の門出を踏まえて新たな筆を進めて行こうと思います。



1960年6月制作のHubbard初リーダー作品で、今や彼の初期の代表作に数えられる”OpenSesame” 。その発表を皮切りに、破竹の勢いに乗り次々と制作発表された彼のリーダー作品群。
その中で本作は、その破竹の進撃により制作された上記の初リーダー作から数えて8作目となる作品なのですが、それまでの作品がクインテット、セクステットなど比較的小編成グループによる作品であったのに対し、こちらは10人以上のアーティストを配した大規模編成のバンドと、曲によっては、これにストリングスを伴うというHubbardにとっては初の大型作品なのです。

そして、さらに興味を惹かれるのは、この大型編成バンドのメンバー達。
そこに目を移して見てみると、あるのは当時彼が在籍しその名を知らしめたArt Blakey And The Jazz Messengersの同僚である、Wayne Shorter、 Curtis Fuller、Cedar Walton、Reggie Workman 等の他、それまでレコーディングを共にした気心の知れたアーティストであるEric Dolphy 、Louis Hayesなど、当時の若手有能アーティストの名がずらっと連なっているというその豪華な布陣。

その上、それ加えての聴きどころがもう一つ。
それは、この作品のアレンジ。
そのアレンジを担当したのが、前述のJazz Messengers時代のHubbardの同僚で、後に、あのMiles Davisが自己のバンドへの加入を乞い待ち続け、その加入によって60年代新生Miles Davis Quintetスタートの原動力となりその新黄金期創生に大いなる貢献の足跡を残したと言われるWayne Shoter。

実はこの作品、アンサンブルの中で朗々と歌う若きHubbardのトランペットの痛快さは元より、若きShoterのアレンジャーとしての才能にも触れることが出来る、貴重な音源なのです。

それでは、後に巨匠となる若き日の二人のサウンド、まずは1曲聴いていただくことに致しましょう。



















さて、お聴きいただいた曲は、”Carnival (Manha de Carnaval)”。

哀愁を帯びたアンサンブルによるテーマに引続き現れるHubbardのトランペット・ソロ、パワーフルかつ肉の厚味を感じる豊かな音色で朗々と歌う、落ち着きのあるその響きが印象的です。

そして、次第に絡み合いながら熱を増して行くトランペットとアンサブル、そこでのHubbardは、さらにそのパワーを増しアンサブル一体にとなって、いくつもの音を空間にヒットさせて行く。
それは、哀愁の中から生まれ出る刺激的な一瞬の時、その一瞬がリラックスムードのサウンドに、程よい緊張感をもたらしてくれ、いつの間にか、さらにその音の深みへと導かれてしまう。。

HubbardとShoterの共同作業によって生みだされたこのサウンド、そこから感じられるトランペットとアンサンブルの強力な一体感は、60年代初頭のJazz Messengersのフロントを共に担い、それぞれのお互いを知り尽くした二人だからこそ作り上げること出来たものではないかと考えてしまうのです。


HubbardとShoterの共同作業による音世界、まずは管のアンサンブルをバックにした演奏を聴いていただきましたが、この作品には、このほか管のアンサンブルに弦を加えたアレンジが施された曲も収められています。
そこで、今度はこの管のアンサンブルに弦を加えた演奏、
果たしてShoterの弦を加えてのアレンジにおける腕冴え、そして、そのアレンジの下で舞うHubbardのトランペットはどんな表情をみせるのか、次に1曲、ここで聴いてみることに致しましょう。

曲は、"Skylark" それではどうぞ!



管の重厚なアンサンブルに優しさと柔らかさを添える弦の響き。
Hubbardのトランペットもその響きに包まれながら、まろやかかつ暖かい音色で優しくその歌をしっとりと歌い上げています。
Hubbard
若くして、曲の本質を掴み見事な表現をみせていたHubbardというトランぺッター、こうしたストレートなジャズでは十二分の力を発揮したその姿を感じるのですが、一方そのスタイルはそれだけに留まらず、当時芽生えた広がりつつあったアヴァンギャルド・ムーブメントの世界にも深く足を踏み入れ、そこにもまた見事な働きぶりの記録を残してくれているのです。

そうしたことから、当時のHubbardは新世代のトランぺッターの代表格として、その行く末が大いに期待されていたアーティストだったようなのですが、1966年に発表した作品”Backlash”以降、今にいうスムース・ジャズの世界に転身、そのことが従来からのファンを落胆の淵へと追い込み離反へと道日てしまったのです。

私が、Hubbardを知ったのは、彼がスムース・ジャズのアーティストとして、その絶頂期を迎えた頃なのですが、そのきっかけは、Blue Noteレコードから出ていた諸作品 や彼の参加したArt Blakey、Eric Dolphyの諸作品だったことから、気の抜けてしまったスムース・ジャズのHubbardは、既に往年の輝き失ってしまい聴くに値しないアーティストだ思い込んでしまうことになってしまったのです。

ところが、そうした彼をの評価を見直したのは、1970年代の終わり、Wayne Shorter、Herbie Hancock 、Ron Carter、Tony Williams等、 60年代Mles Davis黄金のQuintetのメンバーによる一夜限りのそのQuintet再現ステージのため結成されたV.S.O.P、そのバンドのMilesに変わるトランぺッターして参加した彼のプレーを聴いてのこと。

そこで聴いたのは、若き日の溌剌感を失うことなく、さらに渋みが加わりスケールを増したHubbardのプレイ。
そこには時代の潮流に乗り忘却の彼方となってしまと思っていた彼の若きの輝きがそこにあり、完全にその迫力に圧倒されることにとなってしまったのです

後で知ったことですが、スムース・ジャズ期の彼は、スタジオではレコード会社CTIレコードの路線に乗って作品を制作していたのですけど、一たびLiveとなれば以前と変わらぬ熱いジャズを語り聴かせていたのだとか。

ジャズという音楽、各演奏家によるその場その場で繰り広げられる即興演奏が命、それがレコード会社の企画の中に収められてしまうと、いくら有能なアーティストでも、自身に秘められ湧き出るその輝きは、失われてしまものということ。

このHubbardのスタジオとライブで受ける印象の違いは、そうしたことを如実に見せつけてくれた大きな例えの一つではなかったのかと考えてしまうのです。


と、止めどもない話をしてしまいましたけど、最後にもう1曲。
この作品には、この当時のHubbardがサイドマンとしてそのレコーディング参加したEric Dolphyの名も見えるのですが、今度は、そのDolphyがアンサンブルの一員としてフルートを奏でている、ちょっと珍しい演奏。
前2曲とは異なり小さめの編成であるSeptetによる演奏で、曲は”Body And Soul”です。



コンボの演奏では、可憐かつ幻想的な世界を創ってるDolphyのフルート、しかし、ここでのそれは、不器用とも思える素朴さ放ちながら、限りない憂いのオーラを放っている。

もしかしたら、これがDolphyの本質なのかもしれないと思いつつ、だとすれば、Dolphyをこのセッションに加えその才を引き出したShorterの編曲の才もかなりなものと、
まあ、聴けば聴くほどいろいろなことが想い浮かびくるこの作品の面白さ、これからも思い出した時にはまた取り出して、新たな想像の世界を楽しむことにしたいと思います。


Track listing
All compositions by Freddie Hubbard except as indicated
1."Body and Soul" (Heyman, Sour, Eyton, Green)
2."Carnival (Manha de Carnaval)" (Bonfá, Creatore, Peretti, Weiss)
3."Chocolate Shake" (Ellington, Webster)
4."Dedicated to You" (Cahn, Chaplin, Zaret)
5."Clarence's Place"
6."Aries"
7."Skylark" (Carmichael, Mercer)
8."I Got It Bad (And That Ain't Good)" (Ellington, Webster)
9."Thermo"

Personnel
#1, 4, 5
Freddie Hubbard - trumpet
Wayne Shorter - tenor saxophone
Curtis Fuller - trombone
Eric Dolphy - alto saxophone, flute
Cedar Walton - piano
Reggie Workman - bass
Louis Hayes - drums

#2, 6, 9
Wayne Shorter - arranger, conductor
Freddie Hubbard, Clark Terry, Ernie Royal, Al DeRisi - trumpet
Eric Dolphy - alto saxophone, flute
Seldon Powell, Jerome Richardson - tenor saxophone
Charles Davis - baritone saxophone
Curtis Fuller, Melba Liston - trombone
Robert Powell - tuba
Bob Northern - French horn
Cedar Walton - piano
Reggie Workman - bass
Philly Joe Jones - drums

#3, 7, 8
Wayne Shorter - arranger, conductor
Freddie Hubbard, Ed Armour, Richard Williams - trumpet
Eric Dolphy - alto saxophone, flute
Bob Northern, Julius Watkins - French horns
Curtis Fuller, Melba Liston - trombone
Jerome Richardson - baritone saxophone
Cedar Walton - piano
Reggie Workman - bass
Philly Joe Jones - drums
Harry Cykman, Morris Stonzek, Arnold Eidus, Sol Shapiro, Charles McCracken, Harry Katzman, Harry Lookofsky, Gene Orloff, Julius Held, Raoul Poliakin - strings

Recorded
(#3, 7, 8) March 8 1963
(#2, 6, 9) March 11 1963
(#1, 4, 5) May 2 1963.


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ハンコック

Hubbard は、スムース・ジャズをやってたことも
あるんですね。
勉強になります。
自分は、相変わらず、1956年から1960年辺りから抜け出ることができないままでして...
VAN GELDERとやっていた頃がやはり素晴らしいですね。
by ハンコック (2018-01-21 17:03) 

老年蛇銘多親父(HM-Oyaji)

ハンコックさん

Hubbardの作品、今比較的手に入れやすいのは、VAN GELDERとやっていた頃の盤か、スムース・ジャズ時代の盤がほとんどのように見てるのですけど、
スムース・ジャズ以降のオーソドックスなジャズの世界に戻ったHubbardも、VAN GELDER時代の若さはちきれんばかりのパワーをぶつけた演奏にはない、噛みしめれば噛みしめるほどの味があって、そこに渋みがある、そうした演奏もいいものだと考えています。

ひとりのアーティストの履歴を追いながらその変遷を聴く、これもジャズの楽しみ方のひとつではないかと思っています。

今年も、互いに自分の聴き方でジャズを楽しみ、情報交換が出来ればと考えています。

by 老年蛇銘多親父(HM-Oyaji) (2018-01-21 20:33) 

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