2018年!印象に残った作品 Japan発!  ジャズ・女性ヴォーカル編 [音源発掘]

今回は、今年よく聴いていた、その昔に聴きずっと心の底に引っ掛かっていた作品のお話。

それは、1970年代後半にフィバーし、日本のジャズ史上珍しくジャズ・ヴォーカルがもてはやされ評判を呼んだ、日本発の女性ヴォーカリストたちの作品のお話。

としたのは、今年手にし聴いてきた諸作品、さてどんな作品があったかなと見直してみると、例年は2.3.枚程度しかないジャズ・ヴォーカル作品が、今年はことのほか多く、それが自分の若き日を思い出させつ再び新しきサウンドを求めての探究心を奮い立たせることになったことから、今年の印象に残った作品として取り上げることにしたのです。


その冒頭の作品がこれ!

笠井紀美子 We Can Fall In Love.jpg


ジャズ・ヴォーカリスト 笠井紀美子の1976年の作品” We Can Fall In Love”です。

笠井紀美子というアーティスト、1998年、まだまだこれからというその時期に、音楽活動から早々と身を引いてしまったことから、若い方の中には知らないという人も多いのではないかと思いますが、彼女その経歴は、1960年代後半より新進気鋭のアーティストとして注目を浴び、70年代になるとジャズ界の巨匠、Miles Davisともにジャズの一大転換期を提示した作編曲者のGil Evansや、Charles MingusやEric Dolphy等と50年代から60年代の前半のジャズに大きな功績を残し、かつ伝説のヴォーカリスト: Billy Holiday最晩年のピアニストを務めたことでも知られるMal Waldronとの共演作を残した、世界に羽ばたく初の日本人女性ジャズ・ヴォーカリストとして大きな礎を築いたアーティストなのです。

そうした彼女のこの作品、それまで上記海外アーティストはもとより、ジャズ以外のアーティストとの共演、特にかまやつひろしとのジョイントなど、ジャズにとどまらない幅広い活動で新世代のジャズ・ヴォーカリストとしての地位を固めていた彼女が、20年以上にわたりジャズの帝王と呼ばれたMiles Davisの作品のプロデュサーを務めた名プロデューサ-のTeo Maceroの力を得て、果敢にも、この時期勃興しつつあったフュージョンに挑んだものなのです。

そしてその結果は、それまでジャズというとインストメンタルが主流で、ヴォーカル作品などは評判を呼ぶことがほとんどなかった日本において、その風潮に風穴を開けジャズ・ヴォーカル作品として初めての大きな評判を呼びよせたたのがこの作品なのです。

当時、私もFM放送でこの作品ばかりか彼女のLiveまでがたびたびオン・エアされ、その人気の高さを身をもって体験したのですけど、当時は一見ミーハー的なその雰囲気に馴染めず素直に受け入れることが出来なかったもの。
しかし、今振り返えってみると、まだまだ未成熟、発展途上にあった日本の音楽シーンにおいて、当時本場アメリカの最新サウンドを見事に熟しきり、日本の音楽シーンに新風を吹き込んだという事実に、彼女のなみならぬ先進的な感性があったということを感じ、もう一度聴き直してみなければという気持ちになったものなのです。


そうした彼女のそのサウンド!
                              果たしていかなるものなのか!.........


というところで、やはり聴くなら紀美子のオリジナル曲、ここで聴いてみることにいたしましょう。













曲は、"We Can Fall In Love "。

ロスアンゼルスで本場のミュージシャンたちに囲まれて、その彼等が生み出す本場最新のサウンドに気後れすることなく、自由自在に振舞いそれらと対等にわたりあっている紀美子の歌声、40年以上前の録音ながらその古さを感じさせないサムシングがここにあるように思います。

そして間奏部に聴かれるギターソロ、きらびやな派手さこそないものの、しっとりした面持ちで渋く曲全体を盛り上げている、演奏者のクレジットがないので何者かはわからないのですけど、やはりかなり功名なプレーヤーのもの、るこの辺りに 敏腕プロデュサーTeo Maceroの手腕のほどが窺い知れます。

この曲を聴いていただいて、この作品の時代の先駆けへの意気込みを感じていただけたと思いますが、今全体を通して聴いてみると、これぞフュージョン・サウンドと感じるのは、この曲とGeorge BensonやCarpentersの演奏で有名な”This Masquerade ”の2曲のみで、他の曲は、当時聴いた当初には、これまでのジャズとは異なったフュージョン寄りの演奏だと感じていたものが、今聞いてみると、クレジット不明のアーティストの良質なソロとあいまって、かなりオーソドックなジャズを聴いているといった印象になってしまっていることに気付かされたのです。

このこと考えてみると、時代の流れを経て今のジャズがオーソドックスといいながらも、いつのまにかフュージョン的要素を内包してしまってしまったとも考えられ、そうしたことからもこの作品、こうしたジャズの未来の姿をも提示した先駆的なものであったと言えるのではないかと思いました。



そうして2つ目の、今年印象に残った作品は・・・・・・!!!

それは単なるジャズ・ヴォーカル作品というよりは、ジャズ全般として600万枚を売り上げ、前人未到の空前の大ヒットを達成したという、このジャズ・ヴォーカル作品。

JOURNEY 阿川泰子.jpg


阿川泰子 1980年発表の”Journey”です。

この作品が出た頃の日本ジャズ界は、先の笠井紀美子をはじめ、渡辺貞夫、日野 皓正、そして本田竹広、峰厚介を中心としたフュージョン・バンドのNATIVE SONなど、国内大物ジャズ・アーティストによる、フュージョン作品が相次いで発表され、大きなブームとなっていた時期。

そうした時世の中で発表されたこの作品は、往年のジャズの名曲を現代風のアレンジで練り直し、それを阿川泰子のキュートなヴォーカルで歌い綴ってゆくと言うスタイルで、彼女の美貌ともあいまって日頃ジャズを聴かない人たちにもアピールし、大きな支持を勝ち得た作品なのです。

当時、私はこの作品の数曲をFM放送でオン・エアされた彼女のスタジオ・ライブで初めて聴いたのですが、その当時は、このスタジオ・ライブをエア・チェックしたものの、当時硬派のジャズ・ファンを自称していた私、ついにそのレコードを手にすることはなかったのですけど、今年、そのエアチェック・テープを聴き直したところ、無性に懐かしさがこみ上げ全曲が聴きたくなって作品を手に入れ聴いて、あらためてその良さに浸り印象に残ってしまったもの。

そこで、この記事を書きながら、当時のライブ映像などはないものかと探したところ、画質は悪いものの、まさにこの作品がヒットした頃のものと思われる映像を見つけることが出来ました。

それがこの映像、!!
曲は、1945年Doris Dayの歌唱によりヒットした”Sentimental Journey”です。



実は、この私、阿川泰子の歌でこの曲を聴くまでは、この”Sentimental Journey”という曲、あまり好きではなったのですけど、彼女の今風アレンジで歌唱でこの曲を見直し、好きな曲になったのを皮切りに、それまでジャズのスタンダード曲として聴きながらも、これといって気に止めることなかった”Wisper Not"や、"Lullaby of Birdland"いった曲にも興味を持つようになった者なのです。
特に前者の”Wisper Not"などは、作曲者のサックス奏者のBenny Golsonまでがそのお気に入りのアーティストの一人なってしまったほど。

そうした自らの体験を踏まえ、日頃ジャズを聴かない人たちにもアピールし大きな支持を勝ち得たこと、それを知っても「それは当然!」と思ったのですが、さらに、これだけの人気を博した阿川泰子、この作品が大きな話題を呼んでいた時期に彼女のライブに参戦した友人に聞いた話では、こうした大ヒットにも驕ることなく、ひたすらジャズと向き合いその道を極めようとしていたとのこと。

そのことからこの作品、そうした彼女のジャズに対する真摯な姿勢が、見かけはPopではあるものの、その心情が聴くほどに伝わってくるものになったのだとも感じられ、そのことがジャズの古きスタンダード曲に新たな命を与え、幅広い層の人々にジャズとジャズ・ヴォーカルの楽しさを知らしめることなった、そうした意味でこの作品、名作の称号を与えたるべきのものの一つではないかと考えるに至ったのです。




さて、こうして今年印象に残った 80年代前後の日本発の女性ヴォーカル作品、笠井紀美子、阿川泰子と聴いて来て、次に思い出し聴きたくなってしまったのがこの作品。

IT'S MAGIC マリーン.jpg


フィリッピン・マニラ出身で日本においてレコードデビューを飾ったマリーンの1983年発表の作品、、”IT'S MAGIC” です。

彼女、あの名曲メリー・ジェーンで知られる つのだ ひろが、フィリッピンを旅した際に出会い、日本に紹介したのが、日本デビューのきっかけとなったという逸話が伝わるアーティストなのですけど、

その彼女が、日本に登場した1981年にもなると、日本のフュージョン界もT-SQUARや CASIOPEAといったフュージョン・グループが続々と生まれ活躍、大いに隆盛を極めるようになっていた時期。

彼女のヴォーカルは、ここまで聴いてきたセクシーな印象を感じる笠井紀美子、キュートな印象が残る阿川泰子とは異なって、歯切れよくパワフルなスタイルで、初めて聴いたときは、日本のフュージョンの独特の馴染みやすいメロディを際立たせるものであったと感じたことが思い出されます。

その彼女が日本でのその名を多く知られるようになったのは、やはり1983年、この作品に収められた日本を代表するあのフュージョン・バンドのオリジナル曲である、あの曲のヒットがきっかけだったと記憶しているのですけど、今度は、彼女とそのフュージョン・バンドの共演による演奏、その映像を見つけましたので是非ともご一緒に見てみることにいたしましょう。、



マリーンとT-SQUARのコラボで、曲はT-SQUARのギタリスト 安藤まさひろ作曲の”IT'S MAGIC” でした。

マリーンとT-SQUARのエネルギーが激しくぶつかりあう緊張感あふれる演奏、共に両者のアルバムに収められたオリジナルの演奏の出来をはるかに越えた名演奏だったと思います。

「いやいやこれ以上話すことはない。」という心境、至芸極めた者同士の演奏、やはり凄さが違いますよね!!!!!


さて、こうして、マリーンの歌声で元気を得たところで、2018年ももう僅か。
年を越せば、また一つ年をとるのかと心がへこみがちとなってしまう私だったのですけど、皆様方共々、若き日を思いださせてくれたこの歌声の力を得て、この慌ただしい師走を、またその元気をもって乗り越えたいと思いました。


最後に笠井紀美子の1977年の未公開音源かつ彼女のどのアルバムにも収録されていない曲で、Minnie Ripertonの歌唱で知られる”Baby This Love I Have For You”を聴きながら、その元気をさらに倍加し今回のお話を締めくくることにいたしましょう。






笠井紀美子・We Can Fall In Love

TrackListing
1.We Can Fall In Love  
2.In Common
3.Love Don't Love Nobody
4.This Masquerade  
5.God Bless The Child
6.Being In Love
7.Along The Nile
8.Today, Tomorrow And More Than Yesterday

Release
1976

阿川泰子・Journey

TrackListing & Personnel
1.Sentimental Journey(Ben Homer/ Les Brown)
Arranged by Naoki Kitajima,Norio Maeda/Piano:Naoki Kitajima(Ben Homer/ Les Brown)/
Drums:Yasushi Ichihara/Percussion:Tadaomi Anai/E.Bass:Makoto Saito/Guitar:Kazumasa Akiyama/Sax:Seiichi Nakamura(T.Sax)/Chorus:Jada/Trumpet:Takeru Shiraiso Group/
Trombone:Tadataka Nakazawa Group

2. Take The "A" Train (Billy Strayhorn)
Arranged by Yasuaki Shimizu,Masanori Sasaji/Piano, E. Piano and Synthesizer: Masanori Sasaji/
Drums:Hideo Yamaki/Percussion:Yasuaki Shimizu/E.Bass:Morio Watanabe/Guitar:Takayuki Hijikata/Chorus:Jimmy Murakami, Eve

3. Lover, Come Back To Me (Sigmund Romberg/Oscar Harmmerstein Jr. )
Arranged by Tsunehide Matsuki,Norio Maeda/Piano and E.Piano :Haruo Togashi/Drums:Yuichi Togashiki/E.Bass:Akira Okazawa/Guitar:Tsunehide Matsuki/Sax:Toshiyuki Honda(S.Sax)/Strings:Joe Strings

4. Moonlight Serenade (Glenn Miller/Mitchell Parish)
Arranged by Naoki Kitajima,Norio Maeda/E.Piano:Naoki Kitajima/Drums:Yasushi Ichihara/
Percussion:Tadaomi Anai/E.Bass:Makoto Saito/Guitar:Kazumasa Akiyama/Trombone:Shigeharu Mukai/Reed:(Flute) Gaku Koyama Group/Strings:Joe Strings

5. In A Sentimental Mood (Duke Ellington/Irving Mills/Manny Kurtz)
Arranged by Naoki Kitajima,Norio Maeda/Piano and E.Piano:Naoki Kitajima/Drums:Yasushi hihara/E.Bass:Makoto Saito/Guitar:Kazumasa Akiyama/Sax:Seiichi Nakamura(T.Sax)/Strings:Joe Strings

6. Star Dust "(Hoagy Carmichael/Mitchell Parish)
"Arranged by Yasuaki Shimizu,Masanori Sasaji/Percussion:Yasuaki Shimizu/"Trumpet:Kenji Nakazawa Group /Trombone:Naoo Kagiwada Group/French Horn:Katsuyoshi Kurosawa,
Masayuki Yamashiro/Clarinet:Yasuaki Shimizu/Harp:Keiko Yamakawa/Strings:Ta Strings

7. Lullaby of Birdland (George Shearing /B.Y.Forster)
Arranged by Tsunehide Matsuki,Norio Maeda/E.Piano:Haruo Togashi/Drums:Yuichi Togashiki/
E.Bass:Akira Okazawa/Guitar:Tsunehide Matsuki/Trumpet:Takeru Shiraiso Group/
Tromborn:Shigeharu Mukai(solo),Tadataka Nakazawa Group/Prophet 5: Norio Maeda

8. Whisper Not (Benny Golson/ Leonard Feather)
Arranged by Tsunehide Matsuki,Norio Maeda/Piano and E.Piano:Haruo Togashi/
Drums:Yuichi Togashiki/E.Bass:Akira Okazawa/Guitar:Tsunehide Matsuki/Strings:Joe Strings

9. My Foolish Heart (Victor Young/Ned Washington)
Arranged by Naoki Kitajima,Norio Maeda/E.Piano:Naoki Kitajima/Drums:Yasushi Ichihara/
E.Bass:Makoto Saito/Guitar:Kazumasa Akiyama/Chorus:Chocolates/Reed:(Flute) Gaku Koyama Group/Strings:Joe Strings

10. You'd Be So Nice To Come Home To "(Cole Porter)
Arranged by Naoki Kitajima,Norio Maeda/E.Piano:Naoki Kitajima/Drums:Yasushi Ichihara/
E.Bass:Makoto Saito/Guitar:Kazumasa Akiyama/Chorus:Chocolates/Reed:(Flute) Gaku Koyama Group/Strings:Joe Strings

11. Good-Bye (Gordon Jenkins)
Arranged by Tsunehide Matsuki,Norio Maeda/E.Piano:Haruo Togashi/Drums:Yuichi Togashiki/
E.Bass:Akira Okazawa/Guitar:Tsunehide Matsuki/Strings:Joe Strings

Recorded
at Victor Studio,Sound Inn Studio,
8 Sep.-3 Oct.1980


マリーン・ It's Magic

TrackListing
1.I'm So Excited
2.Don't Let It Go
3.It's Magic
4.Saturday Night
5.We're All Alone
6.ESP
7.Woman In Love
8.Gotta Get Back
9.Let Me Be Your Angel
10.Break It To Me Gently

Personnel
マリーン(vo)
笹路正徳 1-9.11、井上鑑 10(key,arr)
安藤まさひろ 1-3.5.7、土方隆行 6.7.9。北島健二 4.6.8.11、今剛 10 (g)
岡沢章 1-3.5.7、渡辺章 2.4.11、渡辺モリオ 6.8.9、岡沢茂 10 (b)
渡嘉敷祐一 1-5.7.10.11、村上秀一 6.8、富山純 9 (ds)
イヴ 1-4.6-10 (background vo)
伊東たけし 3 (as)
山川恵子 5 (harp)
穴井忠臣 4.11 、ベッカー 10 (per) 他

Recorded
at Sony Shinanomachi Studio
May-Aug 1983








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raccoon

こんばんは。
マリーン、懐かしいですね。
私もスタンダード・ジャズを唄ったCDを1枚持ってますよ。 
この曲「It's Magic」と「Zanzibar Night」が印象に残ってます。
by raccoon (2018-12-17 22:12) 

ハンコック

IT'S MAGICが物凄く良かったです。
スカッとしますね!
by ハンコック (2018-12-18 21:46) 

ハンコック

そして、伊藤たけしさんのサックス、
カッコいいですね。
by ハンコック (2018-12-18 21:52) 

老年蛇銘多親父(HM-Oyaji)

raccoonさん

マリーンのスタンダード・ジャズを唄ったCDをお持ちなのですね。

ならば、近年のマリーン、ピアノのクリヤ マコト、ギターの吉田 次郎とTHREESOMEどいうグループ結成、しっとりとスタンダードを聴かせてくれるアルバムを発表していますので、そちらの方も聴いてみたらいかがでしょう。

それにしてもマリーン、デビューして40年、本当にいい歌手になったなと思いました。


by 老年蛇銘多親父(HM-Oyaji) (2018-12-20 17:39) 

老年蛇銘多親父(HM-Oyaji)

ハンコックさん

日頃50年代、60年代のジャズに親しんでおられるハンコックさんに物凄く良かったなどと言われると、私の耳もまんざらじゃないのかなと思いつつ、ちょっと照れくささを感じています。

それにしても伊藤たけしさんのサックス、本当にカッコいい、同感です!!





by 老年蛇銘多親父(HM-Oyaji) (2018-12-20 17:44) 

きたろう

あけましておめでとうございます
本年も宜しくお願い致します<m(__)m>
by きたろう (2019-01-04 11:30) 

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