メタルの元祖が遺した珠玉のクラシック作品;Jon Lord ・To Notice Such Things [音源発掘]

東日本に猛烈な風災害をもたらした台風15号に続いて、前代未聞の強烈な大雨災害をもたらした台風19号、またそれに追い打ちをかけるように襲ってきた10/25の集中豪雨と、幸い私の住む地域は大きな災害はなかったものの、これでもかこれでもかと襲い来る自然の猛威に翻弄され続ける日々に心も休まる暇のない今日この頃。

そうした中、例年なら天候にも恵まれ少しずつ訪れる秋の彩りを楽しみつつ、秋の夜長に音楽に浸っているはずの私も、これまで災害という言葉とは縁遠い場所での災害の多さとその大きさに思わず絶句、いつものようにゆったりと音世界を探訪しようとする意欲も失せてしまいそうになってしまう始末。

と言いながらもここで挫けてはと、めげる心に鞭打っていくつかの作品を聴くも身が入らず、しばらく小休止してみるか思うまでになってしまったのです。

しかし、どうせ休むならダメもとで後一枚と聴いてみたところ、そこで聴こえて来たのは、心の底までやさしく響く秋に空気にフィットした美しいサウンドだったのです。



という訳で今回は、ダメもとで出会った、心の底まで浸み込むやさしい響きで、憂いに安らぎを与えてくれた、この作品を取り上げることにいたしました。


その作品は、

Jon Lord To Notice Such Things.jpg


へヴィ・メタルの元祖的存在の一つと言われるハード・ロック・バンドのDeep Purple、その中心人物でキーボード奏者であったJon Lordの2010年の作品”To Notice Such Things”です。

と紹介するとこの作品、HM系の作品で、「メタルで憂いをふっとばしたの?」と思われるかもしれませんが、そうではなく、それとは対極の純クラシック音楽作品なのです。

Deep Purple時代、ギターのRitchie Blackmoreに戦いを挑むかの如く熱いキーボード・プレイで Purpleのハード・ロック・サウンドの一翼を担っていたJon Lordの手による純クラシック作品というと、一体どんなものか見当がつかないかと思われますが、実はDeep Purpleというバンド、その初期においては、ハード・ロック・バンドではなく、当時ムーブメントを形成していたサイケデリック・ロックにクラシックの要素を取り込んだサウンド持つバンドで、その時期の音楽主導権を握っていたのがこのLordだったのです。

その彼らがハード・ロックに路線転換したのは、1969年 Lordの主張により制作された彼らの4作目となるロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団との共演による作品”Concerto for Group and Orchestra(ディープ・パープル・アンド・ロイヤル・フィルハーモニック・オーケストラ)”を制作完了の後、当時台頭して来たハード・ロックに目を付けたギタリストのRitchie Blackmoreが、一度だけという約束でクラッシックに拘り渋るLordを説得して、1970年彼ら初のハード・ロック作品”Deep Purple in Rock”を発表、現在に繋がる大成功を収めたことによるものだったのです。

そして、それ以降ハード・ロックに路線に転換したPurpleの音楽主導権は、Blackmoreに移り、Lordはその中心から身を引くと共にバンド活動と並行して、ソロ活動を開始。そこでクラシック音楽との融合を目指した自己のサウンドを探究、発表するようなって行ったというのです。


さて、今回取り上げた”To Notice Such Things”は、そうした歩みをを残し、2012年に他界したLordの最終章ともいうべき作品なのですが、ここでメタルを牽引した男のもう一つの到達点を聴いていただこうかと思います。
曲は”To Notice Such Things”その第一楽章から”As I Walk Out One Evening”です。



柔らかく一面に敷き詰められたオーケストラ・サウンドの絨毯の上を、軽やかに歌い舞うフルートの音の可憐さな響きが、心に染み渡り残る演奏だと思います。

これまで私自身、いくつかのLordのソロ作品に接して来たのですが、それらの作品で気にかかっていたのは、聴き始めの耳触りは悪くないものの、聴き進んでいくうちにそのサウンドの流れに対して、何かちぐはぐ感があるとの印象を受けたり、曲全体を盛り上げるメリハリ感が薄くインパクトが不足しているとの感じを受けることが多々あったのです。

そうしたことから、この作品に最初出会った時は、その出来について余り大きな期待をしていなかったのですが、実際聴いてみると、オーケストラとフルートがそれぞれの色彩を放ちながら、その両者の織り成すサウンドが見事な一体となって優しく美しいサウンド世界を築いていることに、深く魅了されてしまうことになってしまったのです。

そして、さらなるこの作品の聴きどころ。
それは、オーケストラと一体となって聴かれるJon Lordのピアノ。
フルート,オーケストラにそのピアノが加わわり、これら三者が絡まり合い繰り広げられる躍動的な臨場感があります。


そこで今度は、その三者が織りなす躍動美、その演奏をお聴きいただこうかと思います。
曲は、”To Notice Such Things”その第四楽章から”Stick Dance”です。



スピーディなタッチで、オーケストラとフルートをサポート牽引して行く、さすがハード・ロック畑で熱きソロ・バトルを繰り返してきたLordの面目躍如といった演奏です。
また、Purpleのオルガン・プレイでは味わえないLordピアノの音色の静謐な美しさも印象に残ります。

1976年、Blackmoreの脱退後、一旦は解散したPurpleの1984年の再結成に尽力し、2002年までその中心として活動を続けて来た、Lord。

その中にあって、ハード・ロックとは全く裏腹の自己の音楽美を探究昇華させ続けていた、この作品は、そうしたLordの深淵たる懐の深さと、最晩年における彼の音楽の到達点を記録したものとしてしっかりと記憶しておきたいと思いました。

最後に、Lordの美しいピアノが光る楽曲 ”Air on the Blue String”を聴きながら、今回の稿を締め括ることにいたします。




Track listing
1."To Notice Such Things: I,As I Walked Out One Evening"
2."To Notice Such Things:Ⅱ,At Court"
3."To Notice Such Things: Ⅲ,Turville Heath"
4."To Notice Such Things: IV,The Stick Dance"
5."To Notice Such Things: V,The Winter of a Dormouse"
6."To Notice Such Things:Ⅵ,Afterwards"
7."Evening Song"
8."For Example"
9."Air on the Blue String"
10."Afterwards" (Poem by Thomas Hardy)

Personnel
Tracks 1-6: To Notice Such Things - In memoriam of Sir John Mortimer, CBE, QC (1923–2009)
Track 7: Original vocal version appears on Jon Lord's Pictured Within album
Track 8: Dedicated to Øyvind Gimse and The Trondheim Soloists
Track 9: Dedicated to Matthew Barley
Track 10: Read by Jeremy Irons w/Jon Lord, piano

Recorded
30 September – 1 October 2009, The Friary, Liverpool
Released 29 March 2010


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