ブラウニーの空気を宿した日本生まれのペットの響き;黒田卓也・Edge [音源発掘]

新年も明けて、早、2週間。令和2年の空気も、だいぶ板について来たところではないかと思います。

その令和2年迎えた今年の私の正月休みは、手術後の経過は回復基調にあるものの、今だいまひとつしっくりと来ない体の調子を整えるため、ゆっくりと過ごそうと、なにをするでもなし、ボ-ッした時間を過ごしているうちに終わってしまったという感じなのですが、おかげで、それまでどこか狂いが生じていた体の各器官との体内時計の誤差もだいぶ修正され、バランスが取れてきたという感じで調子の方もすこぶる上々との実感を得ることが出来ようになった状態。

とにかくやっと体感することが出来た元気の前兆、今年の正月はそのことが何も増してめでたく、そこで得た鋭気に力を貰い、また元気に音楽探訪の旅へ出発です。

さて、今年最初に取り上げるアーティストは日本人。
ジャズの世界でも90年代半ば頃より世界を股にかけて活躍する日本人アーティスト多く現れ、それが大いなる評価を受けていることは、そのこと自体大変喜ばしいことだと常々思っていたのですが、しかし、その性別を見てみると、どういう訳か、女性アーティストの数が圧倒的に多いというような感じ

そのこと、女性とはいえ確かに皆才能のある方々であることは間違いなく、私もお気に入りのアーティストも多々いるのですけど、それにしても男性アーティストが少ないのは寂しい限り。
でも、そう感じるのは私の不勉強のせいなのかもしれないと考え、さっそく、きっと生きのいい男性アーティストはいるはずと情報収集にあたってみたのです。

そして、目に留まったのが、ジャズの名門レコード・レーベルのBlue Noteレコードとの契約した日本人初のアーティストという文言で紹介されていた、一人のアーティスト。

姿を見れば確かに男性アーティストで名は黒田卓也、そのうえ演奏する楽器はジャズの花形楽器であるトランペットとあります。
近年、海外で活躍する若手アーティストの中にホーン奏者は少ないように思っていたことから、これはいけるかもしれないとの期待が湧き、さっそくその、彼のBlue Note盤である、”Rising Son”を聴いてみることにしたのです。

しかし、聴いてみての感想は、

この作品が、フュージョン系のサウンドのトータル・バランスを重視したような作品だったこともあり、期待したインパクトが感じられず、ピーンと来るものがなにもなかったことから、その時はちょっと期待外れだったとガックリ。
そのこと、今、考えてみれば、この作品自体が御目当てのサウンドとは色違いのコンセプトで作られたものであったにもかかわらず、そこで彼のトランペットにあのClifford Brownのような、流麗かつ華やかな艶やかさを聴けるものと勝手に期待し、思いを巡らし臨んだ聴く姿勢に問題があったことが原因なのですが、その身勝手が因でそれ以後、4年近く彼の作品とは疎遠になってしまうことになってしまったのです。

ところが、その彼を再び聴いてみようと思ったのは昨年のこと、夏に行われた東京ジャズ2019の放送で、この黒田卓也とMISIAが共演した、そのステージに出会ってのこと。

ジャズの黒田卓也とJソウル系のMISIAとの異色のコラボ。
私としては珍しく、日本のJ-pop系のアーティストでありながら、20年ほど前に彼女がヒット・シーンに登場した時からお気に入りのアーティストの一人であったこともあり。果たしてアメリカで脚光浴びた黒田とどんな演奏を聴かせてくれるのかと思い、興味津々そのサウンドを聴いてみるとこれがなかなかきまっている。
そこで、そのコラボによる作品はないかと調べてみると、見つけたのが2017年にリリースされたMISIAの”Misia Soul Jazz Session”という作品。
さっそくその作品を探し聴いてみると、ドライブ感のあるホーン・セクションとMISIAのソウルフル・ヴォーカルとのマッチングの心地よさに一気にアルバム全曲を浸り聴き終えてしまうことになってしまったのです。
そして、中でも印象に残ったのが、曲の合間に聴いた黒田卓也のトランペット・ソロ。
どれも短いながらも、大きな存在感が感じられる。
以前に聴いた、”Rising Son”では味わいきれなかった、待ち望んでいたトランペットの響きがそこにあったのです。

たった1作だけを聴いただけで、遠ざけてしまっていた不覚、過去にも同じ轍を何度も踏んでいたのにまた同じことをやらかしてしまったと反省しながら、再度彼の作品を探し聴き直してみようと探し、そこで出会ったのがのがこの作品。

黒田卓也 edge.jpg


2011年発表の彼のセカンド・アルバムであるこの”Edge”だったのです。

全米ラジオチャートの3位にランクインするほどの大絶賛を浴び、その後のBlue Noterレコードとの契約へ向けての大きなステップなったいわれるこの作品、期待を胸にさっそく聴いてみると、聴こえて来たのは、オソードックスなジャズの装いを感じられるも、フュージョンの洗礼を浴びたアーティストらしい現代のジャズの響き。

黒田のトランペット・ソロも十二分に聴け、その艶やかで張りのプレイが実に頼もしい。
考えてみれば、一世代上のトランぺッターであるRoy HargroveやTerence Blanchard、Wallace Roneyも、オーソドックスなジャズと共にフュージョン・サウンドにも挑み、新し自らの境地を表現していた。

と、そう考えれば、あの”Rising Son”も多面的な表情を持つ現代のアーティストしての一つの姿、それがこの作品のようなプレイも聴かせてくれる、この黒田卓也というトランぺッター、これからのジャズを支えうる逸材ではと思うようになったのです。


それでは、この作品から、ここで1曲。
曲は、1965年の映画”いそしぎ”から、主題曲の”The Shadow OF Your Smile”です。
多くのアーティストにより取り上げられている、この名曲、黒田がどんな味付けで聴かせてくれるのか、さっそく聴いてみることにいたしましょう。









この曲が最初に使われた映画のオープニング場面は、上空から見た誰もいない静かな砂浜に波が優しく打ちつけている、悠久を感じさせる自然の営みの中、どこからともなく波の妖精にも見える一人の女性が現れ波打ち際を歩いている姿が映しだされ、そこにJack Sheldonのトランペットの情感豊かサウンドがその情景を包み込むかように流れていた、とそのようなものであったと記憶しているのですけど、黒田卓也の”The Shadow OF Your Smile”は、いきなりホーン・セクションのアンサンブルだけで始まるという、かなりの意表を突くもの。

原曲が人気少なく、どこからかともなく波の調べが聞こえて来そうな感じを受ける演奏ならば、こちらは人で賑わう砂浜で、海の光景に抱かれた寛ぎのひと時に浸る人々の会話が漏れ聞こえてきそうな海岸の情景を感じさせるものというところ。
いかにも現代的アレンジなれど、ここで聴かれる黒田の張りのあるトーンで歌われるトランペット・ソロは、そうした情景の中に聴く者を引き込み、共に寛ぎの時間を過ごさしめてくれ、聴き終えた時にほんのりとした爽快感を残してくれる、不思議な魅力を感じさせてくれる演奏になっていたように思います。

そうした彼のトランペット、そのサウンド聴いているうちに、私の脳裏に浮かんできたのは、1950年代初頭に現れた伝説の天才トランペターであるClifford Brownの響き、黒田のトランペットにはそのブラウニーと共通項を感じさせる影が潜んでいて、あたかもそのブラウニーが現代の衣装を着て、今の私たちに語り掛けているような、そんな気にさせるが何かあるよう思えて来たのです。

それでは、そうした印象ここで感じていただきたく、今度は、Clifford Brown & Max Roach Quintetの演奏を彷彿と思い出される黒田卓也の演奏をお聴きいただこうかと思います。

曲は”Edge".です。



さて、いかがでしたでしょうか。

昨年は、30年ほど前のLiveを捉えた古いビデオ・テープが見ることが出来たことから、いささかその時代中心にのめり込み過ぎたきらいもありましたが、今年は、昨年末のこの黒田卓也との出会いを契機に、次世代を担うであろうアーティストにも目を向け、そうした作品も聴き、またここで取り上げて行くことにしたいと思っています。

そして、黒田卓也も、近年はニューヨークで活躍する大林武司(p)、中村恭士(b)、小川慶太(ds)等の若手日本人アーティストと、スーパー・バンドJ-Squadを結成、意欲的な活動を続け、彼らの楽曲"Starting Five"が報道ステーションのオープニング・テーマ曲に採用されるなど、ますますの活躍が期待されるところ。

私も、まずは、彼らの動向を中心に見据えその糸を手繰り寄せることから始めることにしようか考えています。

Track listing
1 Skyrocket
2 Edge
3 Sweet And Low
4 Unlock
5 The Shadow Of Your Smile Composed By – Johnny Mandel
6 Double Dribble
7 Ichigo-Ichie
8 S.T.E.P.
Written-By – Takuya Kuroda (tracks: 1 to 4, 6 to 8)

Personnel
Takuya Kuroda -Trumpet
Jamaal Sawyer -Tenor Saxophone
Corey King-Trombone
Warren Fields- Piano
Chris Smith- Bass
Adam Jackson -Drums

Mastered By – Tom Durack
Mixed By – Yuki Takahashi

Recorded
2011
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yuzman1953

新年、おめでとうございます。
今年も当ブログで素敵な音楽との出会いを期待しています。

by yuzman1953 (2020-01-14 01:32) 

老年蛇銘多親父(HM-Oyaji)

yuzman1953さん

本年もよろしくお願いいたします。
私のつたないブログで、音楽との出会いを楽しんでいただいてるとのこと、光栄です。

今年は、ベートーベン生誕250周年の年。
てな訳で、昨年末からベートーベンの音楽についてその作曲手法などについてちょっと勉強していたのですけど、そうしたら、音楽の聴き方にも変化がでて来たようで、果たしてこれからどんなことになるかわかりませんが、今年もせいぜい戯言をのたまらしてもらいたいと考えていますので、引き続きよろしくお願いいたします。




by 老年蛇銘多親父(HM-Oyaji) (2020-01-14 16:10) 

mk1sp

本年もよろしくお願いいたします。
Jazzも詳しくないですが、すごい方なんですね、演奏も元気いっぱいな感じで良いですね♪
by mk1sp (2020-01-16 22:51) 

老年蛇銘多親父(HM-Oyaji)

mk1spさん

こちらこそ本年もよろしくお願いいたします。
私の方も mk1spさんの記事で、ロック・ソウル系のアーティストについていろいろ教えてもらっています。

おかげで、昨年はLANY、Coldplayなどが、レパートリー加わり、よく聴いています。


by 老年蛇銘多親父(HM-Oyaji) (2020-01-20 16:10) 

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