平成初めの日米若手による 珠玉のサウンド・The Jazz Networks: Straight To The Standards [音源発掘]

連休中、多くの人々の外出自粛の努力のかいもあってか、ようやく下火の兆候が見えてきたコロナの脅威。
緊急事態宣言の解除の流れが加速しつつある今、とは言ってもこれは終息宣言ではなく、ここは次なる脅威に備えるべきの正念場。

宣言解除のお達しの翌日、その後どうするかの相談も合わせ一旦、勤務先に出掛けた私が、電車に乗り街に出てみると、既に電車の中も駅の周辺も人の出はこれまでより多くなっている様子。
確かにこれまで1か月以上、閉塞生活を強いられて来たことを考えると無理もないことだとも思えるだけれども、まだすべてが解決したわけではない。
一旦は解放気分に浸るも一息入れたところで、次なる感染の拡大防止に向けて、ここで気を抜くことなく再度気を引締め直して日々を過ごさねばならないところ。

そうしたことから相談の結果、私の方は、人との接触を出来るだけ避けるべくもうしばらくは在宅勤務を続けることになってしまった次第。

しかし、在宅で仕事となるとどうしても時間を持て余すことが多いしということで、この在宅期間中聴いて来た諸作品との関連で、これは聴かねばと心の中に少々引っかかりが残ってしまっていた作品を求め我が家のレコード・ライブラリーをあさってみることにしたのです。

そうして取り出し聴いたのがこれ!!!

Jazz Networks Straight To The Standards.jpg


The Jazz Networksの1991年の作品” Straight To The Standards”です。

実は、この作品が思い浮かび胸の内に引っ掛かってしまったのは、前回の記事で取り上げたNew Century Jazz Quintetを聴きの記事を書いたことがそのきっかけ。
記事を書きながら、そう言えば30年ほど前にも、日本の若手とアメリカの若手が組んだこれとよく似た連中がいて、かなりの評判を呼んでいたことを思い出し、そういえばその彼らの演奏、ずいぶん長い間聴いていなかったことだしと、ここでCentury Jazz Quintetと比べながら聴くことにしたものなのです。

さて、The Jazz Networks、メンバーを変えながら全部で5枚の作品を発表しているのですが、この” Straight To The Standards”は、その彼らのデビュー作となるもの。

そのメンバーは、当時新進気鋭の若手トランペッターとして、注目の的となっていたRoy Hargroveと、バークリー音楽院で共に学び、またRoyが最も好きなドラマーの一人として挙げていた、これまた当時将来を嘱望される存在として注目されていた大坂昌彦の親密な交友な関係を中心に、他のメンバーも、フロントにはRoyのパートナー的存在であるサックスのAntonio Hartと、リズム陣には、この時期、大坂が在籍していたピアノ椎名豊、ベース 嶋友行からなる椎名豊のピアノ・トリオが合体、結成されたもの。
当時の日米若手俊英たちがどんなアプローチで、伝統的なジャズに挑むか大いなる期待を抱かせずにおかないものだったのです。


それでは、その彼らのアプローチ、まずはNat Adderleyのあの名曲からトライして行くことにいたしましょう。









 

曲は、ファンキーの名曲、”Work Song”でした。
トランペット奏者であるNat Adderleyの曲とあって、まずを耳を引かれてしまうのがRoy Hargroveのトランペット・プレイ。
年を経るごとにそのプレイに思索的な影が備わっていったRoyですが、この収録の時はまだ22歳。
ご本家Nat Adderleyを凌ぐほどのパワーで、艶やかなトーンでこの名曲を歌いつくしている、そのフレッシュな感覚が爽快です。
私にとって最もお気に入り現代トランペット奏者だったRoyですが、一昨年49歳の若さで惜しくも亡くなってしまったことの残念さが大きく心の中に鳴り響いてきます。

それにしてもRoyとは学生時代から演奏仲間というAntonio Hart、お互いを知り尽くした絶妙な絡みでRoyのプレーに活を与えつつバンドの演奏のカラーを生み出している、そのコンビネーションの素晴らしさ。
リズムを司る日本勢も、大坂のツボを得たドラム・プレーと椎名のエレガントなピアノで、日米文化の
違いこえての一体感をこのバンドに与えています。

鬱陶し日々が続く中、久々の痛快感を得ることが出来ました。

さて、この辺でもう1曲。今度は、バラードの演奏で曲は、Benny Golson 作曲の名曲 ”I Remember Clifford"です。



なんともピュアな”I Remember Clifford"。
100年に一人と言われる天才トランぺッターのClifford Brownを偲び Golsonが書いたこの名曲を、現代に生きるトランぺッターとして、その偉業を称えつつも鎮魂の思いを込めて歌上げるRoy、そこから聴こえてくるのは敬虔な祈りをの世界。
私の好きなこの曲、これまで数多くのアーティストによる演奏に接してきましたが、ここまで純粋なBrownへの思いを感じた演奏はなかったようにも思えて来ます。

そしてそれに続く椎名のピアノ、Royの思いをそのエレガントなタッチで受け継ぎ拡散させて行く、二人の音楽を通じての深い心の触れ合いがここに感じられます。


平成の初めに接したこの作品、あの頃私は、日本全国を駆け巡る出張の続きの毎日で、その真髄を知ることが出来ないままでいたのですが、閉塞感伴う自粛ムードの中でふと思い出し、やっとのことで知ることが出来ました。

そして、奇しくも若き日のRoy Hargroveのプレーに接し、その輝きに接することが出来たこと、これは大きな収穫でした。


それにしてもコロナ、少しずつ賑わいを取り戻しつつある街の様子や、コロナ・ワクチンの順調な開発の様子などの明るいニュースが聞こえてくるようになったけれど、まだまだここは羽目を外すには早すぎる。
この収穫を教訓に私も、もうしばらくは在宅仕事の合間をみつけ、じっくりと昔に聴いた作品と向かい合うことにしたいと思います。

Track listing
1.Bohemia After Dark Written-By – Oscar Pettiford 
2.Love Your Spell Is Everywhere Written-By – Edmund Goulding, Elsie Janis
3.Work Song Written-By – Nat Adderley, Oscar Brown Jr.
4.I Remember Clifford Written-By – Benny Golson, John Hendricks
5.Straight No Chaser Written-By – Thelonious Monk
6.But Not For Me Written-By – Ira Gershwin-George Gershwin*
7.Alone Together Written-By – Howard Dietz-Arthur Schwartz*
8.Lotus Blossum Written-By – Kenny Dorham
9.Easy To Love Written-By – Cole Porter

Personnel
Trumpet – Roy Hargrove
Alto Saxophone – Antonio Hart 
Piano – Yutaka Shiina 椎名豊
Bass – Tomoyuki Shima 嶋友行
Drums – Masahiko Osaka 大坂昌彦

Arranged By – Antonio Hart, Roy Hargrove
Producer – Ikuyoshi Hirakawa, Larry Clothier

Recorded
1991年12月3&4日




nice!(19)  コメント(2) 
共通テーマ:PLAYLOG

nice! 19

コメント 2

いっぷく

>これは大きな収穫でした。
時間を有意義に使われたんですね。素晴らしいことです。
私などはそれに比べると幼くて、30年前のアイドルの歌を思い出して聴いていました(七つ星というんですけど)
トランペット拝聴しました。聴き入ってしまいますね。
by いっぷく (2020-05-26 05:38) 

老年蛇銘多親父(HM-Oyaji)

いっぷくさん

私の場合、時間を有意義に使おうとしているのですけど、家だとどうしてもしっかりと気が入らず、実際はやろうと思ったことの半分も出来ていないというのが実情でしてね。

トランペットに聴き入ってしまったとのこと、ご紹介できてよかったと思っています。


by 老年蛇銘多親父(HM-Oyaji) (2020-05-26 16:39) 

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント