暑さ柔げる 和ティ-ストのスパニッシュ・サウンド;今田勝・アンダルシアの風 [音源発掘]

やっとのことで、長い梅雨が終わり、ここで一息と思ったところに突然訪れた猛暑の毎日。
出番を待ちかねていたように現れた太陽のここぞとばかりに照り付ける強い日射しが当たり一面に降りそそぐ様子は、まさしく本格的夏の到来を告げるもの。
その有様は、コロナ禍に荒んでしまった心に活力を与えてくれようにも思える反面、これまでの曇天続きの毎日で日の光を浴びることの少なかった体には、この強い輝きは少々堪えるというのも事実。


そうした中、盆のこの時期は稼ぎ時と屋外での仕事を余儀なくされている私。
今は、港の岸壁そばにあるとある場所で、体の芯まで焼き焦がされつつ日夜悪戦苦闘をする日々を過ごしているところなのですが、今回取り上げた作品は、その苦闘の日々の合間に聴いた、時折吹き訪れるやさしい海風と相まり疲れた体になんとも言えない冷涼感をもたらしてくれたピアノ・カルテット作品。

今田勝の1980年の作品”アンダルシアの風”といたしました。

今田勝・アンダルシアの風.jpg


さて、この今田勝というアーティスト、ラジオ・TVなどで紹介されることも少ないので、馴染みのないという方も多いと思うのですが、その略歴は1932年生まれで1953年頃から活動を続ける日本の戦後ジャズ黎明期より活躍を続けている大御所的存在ともいえるピアニスト。

64年ごろより自己のトリオを持っていたようなのですが、初のリーダー作品の発表は少々遅咲きとも思える1970年、”マキ”という作品がそのデビュー作とのこと。

私が彼を知ったのもちょうどその頃で、その翌年の年の年末に行われたシンガーである浅川マキの紀伊国屋でのライブを収めた作品”Live”にピアニストとして参加していた彼の演奏を聴いてのこと。
そこで私は、浅川マキのバックから聴こえてくる、どこなくブルーな空気満ち溢れる彼のピアノ・サウンドが強く耳に残ってしまい、さらに、このライブでの彼が紹介された時に湧いた観客のより大きな拍手から、これはえらい大物アーティストのようだと思い、これは彼のリーダー作品を聴いてみなければならないと考えるようになってしまったのです。

しかし、当時は彼のリーダー作品が先の1作ほかもう1作しか発表されていなかったということに加え、日本人のジャズ作品は発表されてもその制作枚数が少なかったこともあって、とうとう手に入れることが出来ないままとなってしまっていたのです。


しかし、それから時を経てのここ最近、70年代、80年代の日本のジャズ・アーティストの数々の作品が相次いで再発されるようになったことに、私としては、その昔、欲しいな思いながらもとうとう手に入れることが出来なかったが作品を入手出来ることになったことは大変嬉しく思いつつ、それらカタログを眺めていたところ目に飛び込んで来たのが今田勝の名。

長きに渡り出会いを待ち続けた今田勝のリーダー作品、このチャンスを逃したらまたいつ出会えるかわからないと考え、即手に入れ聴いたのがこの作品だったのです。


それでは、私が待ち焦がれたようやく手にしたこの今田勝のリーダー作品、ここでご一緒に楽しんでみることにいたしましょう。







”どこなくブルーな空気満ち溢れるピアノ・サウンドと聞いたのに、この演奏はスパニッシュ・タッチのフュージョン・サウンドではないか。”と言われそうですが、実は私もこの演奏を初めて聴いたときはちょっと当てが外れた気もしたのですが、よく耳を傾けてみるとあのブルーな空気が彼の指先から立ち込めている様子が聴きとれる。

しかし、これまで長き経歴を持つ彼がいつの頃よりこうした最新のサウンドを身に着けたのかと調べてみるとこの人、70年代半ばより当時ジャズに新しいの流れをもたらしたフュージョン系のサウンドに取り組み、この”アンダルシアの風”はその到達点の作品であるとのこと。

そうやってさらに聴いてみれば、確かに彼の代表作の一つと言われる1975年の作品”GREEN CATERPILLAR”と比べると、”アンダルシアの風”は、前者がエレクトリック・フュージョンの色彩を強く感じられるのに対し、ことちらはアコースティック・サウンドが中心で、なおかつリズム・タッチはスパニッシュなれどそのよく歌うブルーを内包したそのメロディは、より以上の日本的な哀愁を秘めていることがわかります。

そして、この曲の抒情性をさらに醸しだしている渡辺香津美ギーター・プレイ。
現在アコースティック・ギターで味わい深い作品を発表しているこの人も、この作品の制作時には、自己のバンドを率いエレクトリック・サウンドで日本のフュージョンを大いに賑わせていたアーティストなのですが、ここではアコースティック・ギターを奏で曲のムード創りに大いに貢献しているという感じ。
伝統的ジャズ・ギター・プレイからエレクトリックなフュージョン・サウンドまで自在にこなし、形が変わってもどれも高いレベルの充足感をもたらしてくれる、この人のプレイもこの作品の聴きどころに一つだと思います。

さて、その渡辺香津美のフュージョン・プレイが光る演奏を1曲。
曲は、アップ.テンポの今田勝の爽快なピアノ・プレイも聴きどころの、”Touch and Go”です。



前曲とは異なる、今田、渡辺 両者のダイナミックなプレイが痛快。
冷涼感を得た後で、この曲を聴きエネルギーを充填、おかげで私も暑き屋外での仕事を無事に乗り切ることが出来ました。



この”アンダルシアの風”と接して以来この時代の日本のジャズを聴くことが多くなってしまった私なのですけど、若き日、生のステージで聴いたアーティストもあり問多彩な顔ぶれのプレイを聴きながら、あの頃はまだまだ日本のジャズは本場に及ぼないように感じたその演奏が、今聴聴き直してみるとそれぞれが日本ならではの味をしたため迫ってくる。

そうしたことから、この”アンダルシアの風”、当時最先端のフュージョンという装いを纏いながらも、本場のそれとは異なる日本の歌の心を宿した名作だということを痛感した同時に、長きに渡り伝統を吸収、自己スタイルを創り上げた今田勝が、新しきサウンドに出会い、新旧を見事に合わせ表現した、そんな作品ではないかと思うようになりました。

太平洋高気圧とチベット高気圧の二つの高気圧が上下に重なり日本列島を覆ったことによるという今年超猛暑。
この現象、今月いっぱいは続くと予想に、私もせいぜい7・80年代の日本ジャズの斬新なエネルギーを感じ貯めながら、この異常な夏を乗り切れれば思っています。
皆様方も、コロナに合わせ熱中症にはくれぐれもご注意を!!!



Track listing 
1.Andalusian Breeze
2.Morning Dream
3.Gulf Stream
4.Touch And Go
5.Samba Del Centauro
6.Nowin

Personnel 
今田勝(p)
古野光昭(b)
守新治(ds)
今村祐司(perc)
渡辺香津美(g)

Recorded
1980.9.3-4

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SORI

老年蛇銘多親父(HM-Oyaji)さん こんにちは
軽快な音楽は聴きやすく、楽しませていただきました。どこかで聞いた記憶もありました。
by SORI (2020-08-15 12:10) 

mk1sp

猛暑の中、屋外でのお仕事お疲れ様です。

異国情緒の中に、日本(昭和)らしさが感じられる楽曲ですね、まるで、今日の様に暑い日にクーラーの聴いた喫茶店でアイスコーヒーを飲んでいる様です。暑さが和らぎます。
by mk1sp (2020-08-15 22:43) 

老年蛇銘多親父(HM-Oyaji)

SORIさん、
どこかで聞いた記憶、私もこの作品 タイトルからしてなにか記憶に残っていて、即Getしてしまいました。

親しみやすい曲調からしてBGMなどで使われたのが記憶に残っていたのかもしれませんね。
by 老年蛇銘多親父(HM-Oyaji) (2020-08-16 06:36) 

老年蛇銘多親父(HM-Oyaji)

mk1spさん
”クーラーの利いた喫茶店で”
この曲を聴きながら暑さを避けてのくつろぎタイム。

こんな雰囲気で、この曲に接するというイメージ、体験してみたいものです。


by 老年蛇銘多親父(HM-Oyaji) (2020-08-16 06:42) 

ハンコック

確か、ちぐさで聴いたことがあるような。
Andalusian Breezeの出だしのフレーズは、
どこか懐かしさがあり、誰の盤かと思ったら、
今田勝でした。
あの絶妙な「溜め」がブルーな空気を生み出してますね。
今田勝は、二俣川で毎年開催されている旭ジャズまつりに
参加されており、私もここで聴いたことがありました。
その時大御所ということを知ったわけです。
その後、聴く機会がなかったのですが、
Andalusian Breezeを聴いたとき、あの人がこの演奏を
しているんだなあと合点。
大御所の上手さを実感した瞬間でした。
良い演奏ですね~。
by ハンコック (2020-08-16 08:40) 

老年蛇銘多親父(HM-Oyaji)

ハンコックさん

今田勝の生を聴いていたとは、羨ましい!!

いろいろなことを思い出させるこの曲、ほかの方のコメントからも日本人なら、どこかで聴いた懐かしさ覚えるという。

我々のDNAを揮わせるなにかがあるよう思えて来ました。
by 老年蛇銘多親父(HM-Oyaji) (2020-08-16 20:34) 

きたろう

コメントありがとうございます(*^_^*)
暑中見舞いの写真はJR江戸川橋梁の南約400mから撮影しました。ここから、北へ行くほど、富士山と、東京スカイツリーの間隔は狭まります。京成線の鉄橋の北200m程のところで、富士山と東京スカイツリーは重なります。ご参考まで
by きたろう (2020-08-17 14:27) 

老年蛇銘多親父(HM-Oyaji)

きたろうさん

常々、総武線の所からだと富士山と、東京スカイツリーの間隔は写真に収めるはまだちょっと広いかなという感じはしていたのですけど。

北の位置がベストのようとのこと、秋口に京成線に乗って確かめてみようと思います。

また、荒川に新小岩駅付近の富士山と、東京スカイツリーの2ショットもなかなかいいので、あわせて行ってみたいと思っています。

by 老年蛇銘多親父(HM-Oyaji) (2020-08-21 10:07) 

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