秋の凉を誘うデュエット作品;Eddie Gómez/ Art of the Heart [音源発掘]

今回は取り上げる先品は、デュエットによるジャズ作品。

超猛暑の日々は一段落したものの、残暑というにはまだまだ厳しい暑さが残る毎日が続いていますけど、それでも朝晩の風には、秋の凉が感じられるようになった今、そのわずかな涼風を少しでも深く味わいたいと、そのために聴きたくなってしまったのがジャズのデュオ作品。

そこで早速いくつかの作品を探してみたところ、何とはなしにいい感じで目に入ってきたのがベーシストEddie GómezとピアニストのMark Kramerの作品だったのです。

Eddie Gómezというアーティスト、1960年代に登場し数々の功績を残したベーシストであるRon Carterと並ぶ、現代ジャズ界の重鎮とも言えるベーシストなのですが、私にとっても、彼が60年代後半Bill Evans Trioのべーシーストとして参加した作品等で聴いた、豊饒かつ美しいウッドの香りを感じる彼のベースの音色とその豊かな表現力に魅せられて以来、おりつけて彼の参加した作品に親しんでいる最も好きなベーシストの一人となっているアーティスト。

ところが、彼のデュエット作品となると、Bill Evansとの1974年のライブ作品”Eloquence”や1975年の作品である”Intuition”があることは知っているものの、彼がリーダーを務めた作品は私の記憶にはなく、今回見つけたこの作品は、私にとってはちょっと珍しいものを見つけた、しかも何か良さげな感じがするという気がして、これはぜひ聴いてみなければさっそく聴いてみることにしたものなのです。

その作品が、この2008年制作の”Art of the Heart”。
 
Eddie Gómez/ Art of the Heart.jpg


そして聴いての感想は、この作品の冒頭の楽曲”Wonderful, Wonderful”のタイトル通り、その聴き応えはなかなかのもの。

特に、巨匠Bill Evansとの先に挙げたデュオ作品と比べると、Evansとの作品では、対等の立場でのデュオと言っても、あくまでのEvansがリーダーであるこということからGómezの豊かで美しいベース・プレイには接することが出来るものの、やはりEvansの音楽の枠の中での最良を尽くしたプレイに徹しているように感じられるのに対し、彼がリーダーであるこの作品では、彼の持ち味である豊かさ美しさに加え、自由奔放さ加わってさらに彼のベースの魅力が高められているように感じられたのです。

とりわけこの作品で嬉しかったことは、ピッツィカートによるベース・プレイだけでなく、彼のべ―ス・プレイの最大の魅力である美しいアルコ(弓弾き)プレイが、この作品の随所にありそれを思う存分に聴けたこと。

器楽のデュエットというとややもすると単調になってしまいがちであるもさすがEddie Gómez、二人だけといという空間を最大限に活用し、ベースという楽器の深淵さを知らしめてくれたように思えたのです。

と言う訳で、ここのところ日暮れ時に涼風を求めて聴いているこの作品、ここでその崇高のベース・プレイ、1曲聴いていただくことにいたしましょう。

曲は、チャーリー・チャップリン作曲の、あの名曲です。











そう!! 曲は”Smile"でした。

この作品を聴き終えて強く印象に残ったのは、Gómezのベース・プレイに寄り添い包み込むように奏でられるMark Kramerの柔らく、つつましやかな美しさを備えたピアノ・プレイ。
私としては、初めて名を聞く彼の演奏に、Gómezが発見した若手のピアニストなのかと思いどんな人物か調べてみると、その年齢はGómezと同世代の、1945年生まれの今年74歳というOld Man。
しかも、その活動開始は1980年からと、かなりの遅咲きのアーティストだということ。
しかしながら、Evansのピアノの真髄を知るGómezが、お気に入りとしているピアニストだとあり、直近のGómezの作品には、共同制作者として彼の名がクレジットされているものが多いとのことで、その評価はいわば折り紙付きといえるもの。

そう聞くと、これなら強いインパクトを感じるのも当然と納得。今度は、彼のピアノに視点を向け聴くことにあいなってしまったのです。

それでは、そうしたKramerのピアノプレイ、ここで私のお気に入りの1曲を聴いていただくことにいたしましょう。
曲は、”Wonderful, Wonderful” です。



Bill Evans的であるも、Evansの思索的影を背負ったシリアスな側面は薄く、ソフトな音色で集う人々の心を結ぶ絆を紡いでゆくような色調を宿したピアノ・サウンド。、
そして、このサウンドがGómezの感性を刺激し奔放なベース・プレイを生んでいる。
知らず知らずのうちに、聴く者をこの音世界に埋没さししめてしまう力、このサウンドは、言葉はなくとも心が相通じ合う二人だからこそのもの、ささやかな涼風が呼んでくれたこの作品、これを聴きながら来る秋の夜長を楽しむことにしたいと思います。

そこでこの作品から、最後にもう1曲。
曲は、ユル・ブリンナー出演の映画でも有名な、ミュージカル”王様と私”の挿入曲として知られる”Hello, Young Lovers”です。



さてさて、凉は呼べたでしょうか。

しかし、今年は秋の虫の音が聞こえてくるのがいささか遅いような。
おまけに、7月に予想した通り台風の発生も多い様子。

まだ、暑さが残るうちは日本に進路をとることはないだろうが、この調子で涼しくなると今度は日本に向けての台風の大挙到来となりそうな気配。

加えてコロナといい、心配は尽きないけれどせいぜいこうした音楽に接しながら、平常心を保って過ごしやすい秋の日々を迎えたいものです。


Track listing
1.Wonderful, Wonderful
2 Moment to Moment
3 Chances Are
4 Call Me Irresponsible
5 Hello Young Lovers
6 They Say It's Wonderful
7 Smile
8 Easy to Love
9 Small World
10 It's Not for Me to Say
11 If I Loved You
12 I'll Be Seeing You

Personnel 
EDDIE GOMEZ (b)
MARK KRAMER (p)

Recorded
2004年4月

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SORI

老年蛇銘多親父(HM-Oyaji)さん こんにちは
ジャズと言えばピアノでありベースですね。それぞれに置いて素晴らしい演奏家2人の奏でる音楽は素晴らしいです。しばし聞き入らせていただきました。
by SORI (2020-09-08 14:50) 

老年蛇銘多親父(HM-Oyaji)

SORI さん

ジャズの場合、最少のユニットであるデュオは、それぞれ演奏者の個性がはっきりと表に出てくる面白さがあります。

そのあたりも楽しんでまた聴いてくださればと思います。


by 老年蛇銘多親父(HM-Oyaji) (2020-09-10 14:52) 

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