忙しさを癒すトローンボン・サウンド;Slide Hampton ・Roots [音源発掘]

前回、前々回と、突然のEdward Van Halenの訃報により奇しくも70年代後半に登場し80年代の幕開け生んだ二人のロック・ギタリストの作品が続いてしまいましたが、今回は大きく趣向を変えてトローンボーン奏者がリーダーのジャズ作品を取り上げることにしました。


10月に入り暇になったかと思った私の日常。
ならば、少しのんびりしようか考えていたところ、そこに飛び込んできた仕事の嵐。

前の職場でお世話になっていたお客様からの依頼の仕事、そのこと自体長年営業に携わって来た者としては、そうした依頼が続てあること自体嬉しい限りなのですが、それにしても突然連日の依頼攻勢に四苦八苦、それを熟すため七転八倒の毎日なってしまった有様。
おまけにその仕事、どういう訳か皆遠方まで出向かねばならず、折しものGo to トラベルに乗ったかの如く、軽井沢、茨城県笠間、小田原、山梨県石和、木曽 等々、東へ西へと飛び回り続けるはめになってしまい、毎日仕事を終えるともうくたくた。

そうなってくると日々聴く音楽も、ここ最近聴いていたロック・サウンドは老体に対し少々きつく体に毒となって帰ってくる。
そこで、その疲れを癒すにはなにかいい音楽はないかと探し聴いてみたところ、逆毛立つ心をなだめ安らぎもたらしてくれたのがトローンボーンのジャズ・サウンドだったと言う訳。

そうしたことで今聴いているトローンボーンのジャズの作品、そのトロンボーン奏者がリーダーのジャズ作品というと、そもそも花形楽器のサックスやトランペット、そしてピアノなどと比べるとその数は圧倒的に希少であり、あってもJ.J.JohnsonやCurtis Fullerの作品ばかりが目に付いてしまうのですが、以前よりこの二人以外のアーティストの作品も聴いてみたいと考えいろいろ物色して来たところ、出会い私が今最高に気に入っているのがこの作品。

Slide Hampton ・Roots.jpg

Slide Hamptonの1985年の作品”Roots”。

とは言っても、Slide Hamptonというアーティスト、日本では少々馴染みが薄いように思え知らないという方も多いかと思いますが、1950年代に登場して以来88歳となった今も現役のアーティストで、1998年、2005年にはグラミー賞も受賞しているというアメリカではかなり著名なアーティストなのです。

その彼、トロンボーン奏者であるとともに、作曲、編曲の能力にも優れ、彼の作品で聴けるトロンボーンという楽器の特性を周知した秀逸なアレンジや楽曲は、なかなか魅力的。

と言いながら、かくいう私も彼の名を知りながら、トロンボーンという楽器のリーダー作品は華やさに欠けるのではという思い込みから、長い間聴かずじまいのままでいたのです。

その思いを変えたのが、この作品。

そのきっかけとなったのは、この作品で共演しているサックスのClifford JordanとピアノのCedar Walton の存在。
実は、Clifford Jordanを聴きたくていろいろ探しているうちにサイドマンにJordanとCedar の名があるこの作品を見つけ、とにかくこの二人の演奏を聴きたいという一心でGetしてしまったのがこのSlide Hamptonの作品だったと言う訳なのです。

そして、そこから聴こえて来た音楽は、サックスとトロンボーンが織りなすマイルドで奥深い味わいを感じさせる安らぎのサウンド。
Cedar のいつもながらの美しいピアノにも、また格別の響きを感じられる。
と言う訳で、トロンボーンを加えたジャズの音の深みに魅せられてしまったのです。


そこで、まずはこのサウンド、いつものようにまた聴いていただくことにいたしましょう。






曲は、Slide Hampton作曲の”Roots ”です。
トロンボーンのマイルドな響きが、疲れた体には心地良い軽快なサウンド。
メロディの芯を綴るサックスの音とトロンボーンのユニゾンが奏でるテーマに始まるこの曲、サックスにトロンボーンの音色が加わえることでサウンドに暖かさを生んでいる、編曲の才にも恵まれたSlide Hamptonの手腕の一端を感じられる1曲だと思います。
それにしてもここでのClifford Jordanプレイ、私はこれまで彼のサックスにあるちょっとしたトゲトゲ感が好きで聴いていたのですが、ここでの彼のサックスには、Stan Getzを思わせる甘いマイルド感が漂い、トロンボーンとの絶妙なコントラストを成している。

そしてCedar Waltonのピアノも、いつものマイルドな美しさはそのままに、かなり変化に富んだ表情を見せている。
この辺りに、アーティストの資質をつかみ、その未知なる能力を引き出しているSlide Hamptonの采配の巧みさを垣間見たように思います。

そうしたSlide Hamptonの隠し味一杯のサウンド、今度は、サウンドに奥深さを添える隠し味的トロンボーン・アレンジが聴ける曲を聴いてみることにいたしましょう。
曲は、Miles Davis作曲の”Solar”です。



オリジナルのMiles Davisの演奏は、1954年のMilesの作品”Walkin'”で聴くことが出来ますが、ミュートで奏でるMilesのシリアスなその演奏に対し、こちらの方は躍動的かつおおらかな包容力を感じさせる
演奏。
これも、トロンボーンという楽器の特性を知り尽くしたSlide Hamptonならでのサウンドではないかと思います。
それにしてもこの演奏、急速に深まりつつある秋の空気によく似合うと思うのですが、いかがお感じでしょうか。

こうして、聴いて行くとSlide Hampton、他のアーティストをフューチャーした作品も聴いてみたくなってきます。
調べてみると、Dexter GordonやFreddie Hubbardをフューチャーした作品もあるとのとのこと。
それぞれ、どんな味付けで彼らの魅力を引き出しているのか、おいおい聴いて行くことにしたいと思っています。

そういえば先日、山梨県石和へ出張をしたのですけど、街を歩いてみると、

DSC_5253-2m.jpg


こちらでは木々はすっかり色づいている。
この時期、毎年甲信越方面に出張をし秋の色を楽しんでいる私ですが、その様子は例年より1週間ほど早い感じ。
急に底冷えが感じられるようになった陽気のせいなのか。

いずれにせよ、これからも続く上信方面への出張の日々、またSlide Hamptonを聴きながら秋の空気、楽しめればいいなと考えています。


Track listing
1.Precipice (Clifford Jordan)
2.Solar (Miles Davis)
3.Roots (Slide Hampton)
4.Maple Street (Cedar Walton)
5.My Old Flame (Arthur Johnston, Sam Coslow) Bonus track on CD
6.Just in Time (Jule Styne, Betty Comden, Adolph Green) Bonus track on CD
7.Precipice [alternate take] (Jordan) – 10:22 Bonus track on CD
8.Barbados (Charlie Parker)

Personnel
Slide Hampton – trombone, arranger
Clifford Jordan – tenor saxophone
Cedar Walton – piano
David Williams – bass
Billy Higgins – drums

Recorded
April 17, 1985 Studio 44, Monster, Netherlands
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ハンコック

おはようございます。
Slide Hamptonは、一般的には馴染みがありませんが、流石ツーですね。
solarは凄く良いですね。
テンポが良くて、朝から元気がでます。
まさにsolarの力ですね。
cedarの正確なタッチで、
このような軽快な音楽を聴くと本当にノリノリで、
身体が弾んできます。
小生は有名な、THE FABULOUS SLIDE HAMPTON QUARTETだけ持ってますが、イマイチピントきませんでした。今聴いたら違う感想かもしれませんね。
久しぶりに聴いてみようかと思いました。
親父さんもお忙しそうですが、
どうぞご自愛下さい。
by ハンコック (2020-11-06 06:48) 

老年蛇銘多親父(HM-Oyaji)

ハンコックさん
JordanとCedarの名に惹かれ聴いたこの作品、大当たりでした。
おかげでSlide Hamptonの良さも知れ、これもまた大きな収穫。
これに気を良くして、この他Dexter Gordonとの作品も聴いてみたのですが、こちらもいつもGordonとは一味違うGordonが聴けるなかなかの秀作。
Slide Hamptonといアーティスト、相方の隠れた能力を引き出すのが実に巧いアーティストだな思いつつ、こちらの盤も愛聴しています。

仕事の方忙しいですが、年寄の冷や水とならぬよう年齢なりのペースを守って進んで行こうと思っています。



by 老年蛇銘多親父(HM-Oyaji) (2020-11-07 14:17) 

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