古代空間へと誘う和楽の音・天地雅楽(Tenchi Garaku):やまとまほろば [音源発掘]

日本ではコロナ、アメリカでは前段未聞の大統領就任騒動と、なんとも騒々しいニュース続きの幕開けとなった2021年。

と言いながらも新年を迎えたばかり、正月といえば新たなる生気と清々しい心の内を届けてくれる純邦楽の音が恋しくなってくる。
その穏やかな空気に浸れば、巷の騒々しさも和らぎ気持ちを切り替えるかもと思いつき、早速探してみたところ目に飛び込んできたのが、この作品。

天地雅楽 やまとまほろば.jpg


それは、天地雅楽(Tenchi Garaku)の”やまとまほろば”という作品。
神主と巫女姿の男女が写るジャケットに引き付けられ、”やまとまほろば”というアルバムのタイトルから、収められている曲の名を見てみると、日本最初の史書である記紀(古事記、日本書紀)や和歌集である万葉集に出てくる、畝傍(うねび)、石上(いそのかみ)、三輪、宇陀などの今も奈良盆地に残る地名由来の曲が並んでいる。

かねてより、日本の古代史に大きな興味を持っている私としては、それだけで興味津々、聴かずにはいられないという気持ちになり、年明け早々即ゲット、聴いてしまったのがこの作品。

と言うことで、今回はこの作品、騒々しい新年を迎えた2021年始まりの記憶として語ってみようと思います。

さて、その天地雅楽、吉川八幡神社 (大阪府豊能郡豊能町)の現職宮司であり作・編曲家である久次米 一弥(くじめもとみ)が主宰するグループで、サポート・メンバーとして神社神職、巫女、雅楽奏者らによる篳篥(ひちりき)、龍笛(りゅうてき)、笙(しょう)といった日本の古典楽器が奏でる雅楽の世界と現代楽器の調和による現代雅楽ともいうべき独自のサウンドを生み出してきている異色ユニット。
2007年のデビュー以来、既に10作品を世に送り出しているというのですが、本作は2017年発表のその第8作目に当たるもの。

2011年以降は、日本のトップドラマーである菅沼孝三や、彼の弟子で世界のトップドラマー500人に選ばれた女性ドラマーである川口千里等がレコーディングに参加、神仙な雅楽の響きと躍動感に満ちた現代リズムのコントラストが生み出すそのサウンドが大きな聴きどころ。

という訳で、天地雅楽が生み出す日本の音の故郷雅楽の心を、現代に受け継ぐべく融合させたその世界、早速耳を傾けてみることにいたしましょう。

曲は、”畝傍 瑞山(うねび みずやま)” です。






3世紀半ばより平安京遷都に至る8世紀まで、おおよそ500年間にわたり古代日本の中心として、数々の歴史の舞台となった奈良盆地。
この曲に題されるの畝傍は、その奈良盆地の中にあって香具山、耳成山と共に大和三山の一つとして古代より神の宿る山としての信仰を集めていた山の名。

その畝傍山は、三山の中で唯一の火山とあって、その山の姿は、

万葉集に収められた中大兄皇子の歌に

”香具山は 畝火(うねび)ををしと 耳成(みみなし)と 相あらそひき 神代より かくにあるらし 古昔(いにしへ)も 然(しか)にあれこそ うつせみも 嬬(つま)をあらそふらしき”

とあるように、古来より他の二山と異なり、別名瑞山と呼ばれた神々しい美しさに加えて男性的な荒々さと荒ぶる神を早期させる雄々しさを感じるところ。

畝傍山.jpg


記紀の、初代神武天皇(和風諡号;神日本磐余彦天皇(かむやまといわれびこ))段の終りには、九州の日向の地より東征に出た神武が、幾多の苦難・試練を乗り越えてこの大和の地の辿り着き、その目的達成4の地として即位したところが、この畝傍山の西麓との伝承があるのですが、この曲を聴いていると、大和盆地の真中に小振りではあるも美しく雄々しい山容を見せ立つ畝傍山の姿と、この大和へ侵攻し奮戦する神武の姿が浮かんでくるような思いに駆られます。


さて、そうした伝承に満ちた大和の地、私も以前古代のロマンを求めてこの地を訪れたことがあるのですが、その旅の思い出の中で一番強く印象に残っているのは、天理市にある桜井市の三輪神社と並んで日本最古の社と伝えられるという石上神宮。

石上神宮.jpg


私がこの社を、訪れたのは酷暑の続くとある夏ことだったのですが、おかげで参拝に訪れる人もまばらで、拝殿入り口にまで来てみると、この社の神の使いだという鶏が数羽その門前に立ち、私たちを迎えるようにたむろしていた情景を今も忘れることが出来ません。

そして、その風景が強く静かな夏の日射しを受け古色蒼然さを増したこの建物に、さらなる奥深い時代の営みの名残を生み、そこから湧き出た身に突き刺さるような凄まじい神意をあたり一面に放ち広がっていた、そのことが強烈の印象として脳裏に刻まれてしまったのです。

そして出会った、この私に生涯の強烈な印象を残してくれた石上神宮、この私の心を惹く佇まいを描いたと思しき曲。

ということで、今度は古代よりの神の叫びが木霊するようなその曲、ここで聴いていただくことにいたしましょう。
曲は、”布留 石上(ふる いそのかみ)”です。



古代大和朝廷の武器庫であったと伝わる石上神宮、そのご祭神である布都御魂大神は(ふつのみたまのおおかみ)。
あまり聞いたことない神だと思いますが、その正体は刀剣。

しかし、この刀剣、ただの刀ではなく、その大本は出雲神話にある天照大神の弟神である素盞嗚尊(すさのおのみこと)の八岐大蛇(やまたのおろち)征伐の時に大蛇を斬った十握剣(とつかのつるぎ)だというのです。

そしてこの神剣、さらにまたの由緒には、出雲の国譲り神話の際、高天原から遣わされた武甕槌神(たけみかづちかみ)が大国主に国譲りを迫った際に使った剣として、またその後、神武東征で熊野において神武が危機に陥った時に天照大神の命により高倉下(たかくらじ)がこの剣を神武に授け、危機を脱した神武がその後や大和を平定をなしとげることになったとある、数々の伝説に包まれたご神剣、いわば大和の国の誕生に深いかかわりを持つものだというのです。

その神々しい経歴を刻んたこの神剣、神武即位後は古代大和朝廷の軍事権を担った物部氏の祖である宇摩志麻治命(うましまじのみこと)によって祭られ、第10代崇神(すじん)天皇御代(3世紀半ば)に現代のこの神宮の地に移された祭られたいわれ、それがこの社の創建譚であるというのです。


と、こんなことを思い出しながら聴いたこの曲ですが、聴いていると荘厳な霊威と大和朝廷の黎明期の葛藤の様の瞬間が走馬灯のように瞼の裏に流れて湧いてくる、古代史好きの私事なのかもしれませんがちょっと不思議な体験をしてしまいました。


以上、2曲を聴いていただきましたが、最後に、Yotubを見ていたところ、この作品の前作となる”飛鳥ものがたり”のサポート.メンバーしてドラムを叩いていた川口千里が、同作品中の曲”壬申ノ乱”を演奏する映像を見つけましたのでご覧ください。



この映像、2014年のものだと言いますから、この時、彼女は17.8歳ごろの高校生のはず。
それを物語るかのように、受験勉強のスタイルから突如変貌、そこから叩き出される凄みあるドラムの音。

女性ドラマーというのはそう多くないところに持ってきて、17.8歳の若さでこのプレイ!!
重量感とスピード感溢れるステッィク捌き、世界トップドラマー500に選ばれたのも至極当然のことだと思います。


古典的な雅楽の音色と現代器楽との融合、そこから生まれ出る音楽は、現代的でありながら聴いているうちに心を古代空間に導いて行く、そんな幻想を感じるサウンドでした。
不要不急の外出が憚られる今、この音楽を聴きながら心だけは旅に出る。

そうした感性に浸れる天地雅楽のこの作品、ジャズやロックとは一味違った色合いが、心に潤いを持たらしてくれました。


それにつけてもコロナ、昨日、久々に都内に出掛け昼時の飲食街を歩いたところ、いつもと違い人は少なく、どの店も客は少なくガラガラの様子。

その都内の地、システム関係のオフィスが多いところということもあって、これもお国要請の在宅勤務が浸透によるものかなとは思いつつ、ある意味在宅勤務が効率的ともいえる職場柄、この調子じゃコロナが明けても人出は回復することはないとの懸念が生まれ、そうなれば、コロナ後の飲食店には、さら危機が訪れるのではと、ちょっと心配になってしまいました。

そして、その後向かった東京江東区の若洲。
あたりを見るとこんな風景が。

IMG_5147m.jpg


これは、オリンピック会場に観客を運んできた観光バスの待機場となる施設。
中止で一旦工事は止まっていたものの、遅ればせながら整備工事は完了していました。
一見、着々と進んでいる開催準備。
しかし、このコロナ禍、本当に開催はできるのか。
もし、中止となったら都の用意したこの施設、これに要した多額の費用は無駄になるとの心配、歩くほどに憂いはどんどん増して続ける、いやいや本当に考えさせられしまいます。

Track listing
①畝傍 瑞山〜うねび みずやま〜
②西ノ京〜にしのきょう〜
③竹田の子守唄
④三輪 桜井〜みわ さくらい〜
⑤磐余 橿原〜いわれ かしはら〜
⑥天香久山〜あまのかぐやま〜 ⑦宇陀 阿騎野〜うだ あきの〜
⑧布留 石上〜ふる いそのかみ〜


Personnel
久次米 一弥(key)
菅沼孝三(ds)
小川ゆき(笙)
磯部寛樹(龍笛)






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mk1sp

久石譲にも似ているかなとも思いました。厳かな雰囲気でありながら、若さも感じられる、独特な躍動感がありますね♪
ドラムプレイを見ながらだと、いっそう痛快ですね!

オリンピック、実施か中止か大変悩ましい所ですね、どちらにしてもメリット・デメリットがあるはずなので、税金を投入するのであれば、もっと情報公開して欲しいテーマですね・・・
by mk1sp (2021-01-29 21:46) 

老年蛇銘多親父(HM-Oyaji)

mk1spさん

「久石譲にも似ている」、私はあまり意識していなかった」のですけど、ご指摘を受け聴いてみると、スタイルは違うけど、全体を覆う空気に久石譲と似たものがあるなと思いました。

オリンピックのこと、今は中止なんてことはとても言えませんが、東京オリンピックが中止となれば、戦前に続いてこれが2度目、それを思うとお金ことよりかなんと開催に持ち込めればという気持ちになってしまうのですが。
奇跡が起こってくれればと願うばかりです。


by 老年蛇銘多親父(HM-Oyaji) (2021-01-31 19:27) 

ituki

親父さん(≧∇≦)/
この『天地雅楽』の音楽素晴らしいです‼
親父さんの記事を読まなかったら、神主さんのジャケット写真を見ても私なら聴いてなかったアルバムです(^^;)
記事を読みながら、最初は古典的な厳かな笛の音を想像していたんですが、曲を聴いてみてびっくりしました。
雅楽の楽器とドラムやピアノやシンセがこんなに違和感なく溶け合っていて、しかも曲調はしっかり日本を感じさせるそれでいてキャッチーなメロディーライン。
中でも美しい久次米さんのキーボード!控えめながら時折前面に出てくるピアノやシンセがキース・エマーソンを思わせたし日本版プログレじゃん!なんて勝手に考えていました。
過去2作のアルバムも聴きましたがどの曲も世界に通用する素晴らしさで、作・編曲の久次米さんて天才アーティストだなと思います。
今まで聴き馴染みのない雅楽楽器の名前はよくわかりませんが数種類の素敵な笛の音や硬い太鼓の音に魅了されてイヤホンで真剣に聴いています(笑) 凛とした力強さがたまりません。天地雅楽の今後の活躍が楽しみです。

音楽についてもですが、親父さんの日本の古代史の造詣の深さにも感服するばかりです。おかげでこのアルバムを聴くことが出来ました。ありがとうございます(^▽^)/
by ituki (2021-05-17 00:53) 

老年蛇銘多親父(HM-Oyaji)

ituki さん、お久しぶりです。

日本版プログレ、おっしゃる通りですね。
母が琴を習っていたことから、私は、子供の頃から古典邦楽を聴かされていたため、70年代にプログレの出会った時より、プログレには、日本の古典に内在する幽玄へ通じる気の世界があるような気がして、洋楽と日本の伝統音楽が融合した作品を探してきたのですが、この天地雅楽の日本の古代をテーマしたこの作品は、ほぼ思っていた通りの音が聴けて、実に痛快だったもの。

ただ今もう一度聴き直すと、もう少し幻想性やドラマティック性が強ければ、さらにいいのになと思うようになっています。

まあ、その辺は、また今後期待して、
itukiさんやヒサさんなど、以前からの方が来て、コメントを残してくれことは、実にうれしいことです。

どうも、ありがとう。忘れることなく、また来てくださいね!!
by 老年蛇銘多親父(HM-Oyaji) (2021-05-20 20:12) 

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