New Yorkで活躍する新進気鋭の日本人ピアニスト;大林武司・Manhattan [音源発掘]

5月は、2回に渡り私にとって久々の良き出会いとなった、ネオ・プログレシッブ・ロックのアーティストを取り上げその作品を聴いて参りましたが、今月は再びいつものジャズ・フィールドに戻ってピアノ・トリオの作品を聴いて行きたいと思います。

そこで、取り上げたのがこの作品。

大林武司 Manhattan.jpg


日本人ピアニスト大林武司の”Manhattan”です。

と言ってもこの人、日本のマスコミにはあまり登場することはない人なので、その名を聞いてもピンとこないという方が多いのではと思うのですが、日本人として初めてジャズ名門レーベルBlue Noteから作品発表したトランぺッターの黒田卓也と同様に、New Yorkを拠点に活躍する新進気鋭のピアニストで、なかでも、大林とドラマーのUlysses Owens Jrを中心に日米若手アーティストによって結成されたNew Century Jazz Quintetの活動で、大きな注目を浴ている今が旬のアーティストなのです。

そもそもこの私が、大林武司を知ったのは、黒田卓也に注目し、その黒田が拠点を置くNew Yorkの若手日本人アーティストの動向を探ってみたところ、みつけたのが大林の在籍するNew Century Jazz Quintetで、その作品を聴いてみたところ、そこで聴いたピアノのプレイの心地よいインパクトに満ちた響きに、これは只者ではないと深く聴き惚れてしまってのこと。

そのこと、どうやら New Century のドラマーであるUlysses Owens Jr.の「彼のピアノはまるでMulgrew Miller のようだ」という評にある通り、もともと1980年代半ばから2013年に亡くなるまで大きな足跡を残した名ピアニスト Millerの大ファンであった私にとって、大林のピアノに知らず知らずのうちに Millerの面影を感じてしまっていたからのようなのですが、そうだとしても彼のタッチの美しさ、構成力に富んだソロの魅力は、Milerとはまた違った側面もありまた格別。

ということで、そうした彼のリーダー作品はないものかと探してみたところ見つけたのが、2016年発表のこの作品。
彼にとっては、初のピアノ・トリオ作品、より彼の音楽性と向き合えると、早速聴いてみることにしたのです。



曲は”World Peace"。
日本の琴の調べにも似た静かなメロディーとバックのメリハリのあるビートとの調和が、心に残るこの演奏、ここには、New Century Jazz Quinteで見せるMulgrew Millerを思わせるプレイとはまた一味違ったで、 日本人ピアニスト大林武司ならではの独自の世界があるように思います。


2008年の活動開始以来、先のNew Century Jazz Quintetのほか、New Yorkを拠点とする黒田卓也(tp)、中村恭士(b)、小川慶太(ds,per)、馬場智章(ts)等、日本人若手アーティストによって結成されたJ-Squadの一員として、そして、MISIAと黒田の主催するTakuya Kuroda, Jose James, MISIA, Terri LyneCarringtonのメンバーとして活躍している大林、その経歴を調べてみると、

1987年広島県広島市出身。2007年 20歳の時にバークリー音楽院へ進学。
翌年師事していたグラミー賞受賞ドラマーTerri Lyne Carringtonのバンドに加入し、プロ活動を開始。
卒業と同時にNew Yorkに活動拠点を移し、NYCの主要ジャズクラブに出演。
2016年には、米フロリダ州ジャクソンビルで毎年開催されているで若手ジャズ・ピアニストの登竜門として知られるジャズピアノの世界コンクールである”Jacksonville Jazz Piano Competition”で日本人初のグランプリを受賞。

という具合。
彼の音楽に加えそうした履歴からも、今後の有望な日本人若手ジャズ・アーティストの一人として大いに注目すべき存在だと思うのです。


さて、こうして経歴を調べているうちに、今度は、New Century Jazz Quintetでの彼の演奏を聴いてみたくたなってきました。
とういことで、またここで1曲聴いてみることにいたしましょう。
曲は、New Century Jazz Quintet 2017年の作品”Soul Conversion”より”James”です。



日本的情緒が漂うメロディに、その心を体現しようと構えるソロをとるフロント二人の欧米人ホーン・奏者の葛藤が見えてくるような微妙なスリル感が漂う演奏。

実はこの曲、N CJQを聴きたくなって、聴いてみたところ、そこで大林の感性が生み出すこの微妙な面白さを発見したということから、この曲を取り上げることにしたもの。

本来のJazzとは異質である空気を注ぎ込み、新たな現代のジャズを生み出している大林武司、今は昨年以来久々に日本に滞在し、自らのピアノでジャズの魅力伝道の旅を続けていることのこと。

そこで、最後は今年の1月に発表されたピアノ・ソロ作品”Visions In Silence”に収められた中の1曲である"Save Your Heart"を聴き、彼の日本と音楽への思いを噛みしめ味わいながら、今回を締め括ることにしたいと思います。





Track listing
1 World Peace
2 Cill My Landlord
3 Heart
4 Cyclic Ridge 2
5 In Walked Bim
6 One For Sonny
7 Untitles Bossa
8 Steel Heelscol 1016
All Compose by 大林武司

Personnel
大林 武司 Takeshi Ohbayashi (piano)
Track 1.5.6.7
中村 恭士 Yasushi Nakamura (bass)
Nate Smith (drums)
Track 2.3.4.8
Tamir Shmerling (bass)
Terri Lyne Carrington (drums)

Releases.
2016/11




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mk1sp

「Save your Heart」優しい曲ですね♪
by mk1sp (2021-06-16 22:45) 

老年蛇銘多親父(HM-Oyaji)

mk1spさん

この曲について大林武司は、
コロナ禍により生まれた時間を利用して、数年前から興味を持っていた内観修行というものを行い、七日間寝食の時間以外は静寂に身を置く修行をしたところ、静寂から聴こえてきたのが、この曲だったと語っています。

日本人らしさが滲む優しく美しいメロディ、大林の”皆様の日々の生活に寄り添い、心の安息地となればとの思いです。”との願いの通り、心の安息地となる名曲だと私も思っています。


by 老年蛇銘多親父(HM-Oyaji) (2021-06-18 10:24) 

ituki

親父さん(≧∇≦)/
本場NYで活躍するなんて凄い日本人だなと思いながら1曲目から聴き惚れていました。”World Peace"は仰る通り流れるような美しいピアノと小刻みに淡々と刻まれる超カッコいいドラムスの対比が面白く、めちゃめちゃ私好みな曲で良かったです!

2曲目のNCJQの曲は聴いてびっくりしたんですが Pat Metheny の”James”ですね。この曲大好きでよく聴いていたので嬉しいです(*^^*)♪
これも多分親父さんに教えてもらったんだと思います(笑)
by ituki (2021-08-01 12:28) 

老年蛇銘多親父(HM-Oyaji)

itukiさん

大林武司、お気に召していただけたようで良かったです.

最近は、小曽根・上原に続いて次世代を担う日本人ジャズ・ピアニストを探し、聴いているのですが、名は余り知られていないが、なかなかと思う人に結構出会いましてねえ。
この辺もまた聴き込めたら紹介して行きたいと思います。

そして、今度はサックスでも有望人材、また探してみようと思っています。


by 老年蛇銘多親父(HM-Oyaji) (2021-08-01 16:32) 

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