絶え間ぬチャレンジ精神が落とし残したアルトの響き;JackieJackie McLean・Jacknife [音源発掘]

2度目となったコロナの夏を象徴するような厳しい残暑に見舞われたと思ったら、次に訪れたのは突然の深まる秋を思わせる過ごしやすい毎日。

その激しい気候の変化に戸惑いながらも、ちょと旅に出るにいい陽気と思いつつ、しかし、今は遠出・不急の外出は避けなければならないこのご時勢。
そろそろ、来る秋の訪れを風情を探しどこかに出掛けたいその気持ちを抑えて、今回も、お家時間を過ごす中、音楽を聴きながら探し出会ったジャズ作品のお話。
それは、前回記事のCharles Tolliverの"Live In Tokyo 1973"を聴いて以降、さらに彼の近作を聴いてみたいと物色してみたところに見つけた、彼がサポート・メンバーとして参加していたあの名アルトサックス奏者の1965年制作のこの作品。

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50年バップの始まりと共のシーンに登場し、アルト・サックスのビッグ・ネームの一人として数々の名演を残してきたJackie McLeanの”Jacknife”取り上げることにいたしました。

Jackie McLeanというと、1955年の初リーダ作品である”Jackie McLean Quintet ”やPrestige盤の”4,5&6”、そして1950年代後半から1960年代に入っての” New Soil ”や"Swing Swang Swingi′n",'” Let Freedom Ring”、” Its Time”等のBlue Noteの諸作品がよく知られていますが、私が、それ等対し有名どころとは言えないこの作品に惹かれたのは、サポート・メンバーとして冒頭に上げたCharles TolliverをはじめピアノのLarry Willis、そして今やジャズ・ドラムの巨匠となったJack DeJohnetteの名を見つけ、ジャズ界のこれからを担うことになる若き日の彼等と、すでにジャズ界の中心的存在として活躍していたMcLeanとの組み合わせは、McLeanのまた違った一面を聴けるのではと考えてのこと。

特に、この作品の冒頭に収められている私の好きな曲の一つであるTolliver作曲の"On the Nile"には、John Coltraneの作品”Cresent”を想起させるこの曲を、私が抱いているバップ・スタイルの強いイメージが残るMcLeanが、どのように演奏を見せてくれるのかと興味津々となり、耳を傾けてみたところ、これまで聴いたことのなかった.McLeanに出会えたことからすっかり気に入ってしまい、ここに取り上げることにしてみたもの。

そうしたことで、そのNYの若手との共演で一味違った面持ちを見せるMcLeanの演奏、まずは聴いていただくことにいたしましょう。
曲は"On the Nile"です。




意表をつくアルトのColtraneとも思えるMcLeanのプレイ。
アルトのColtraneというと、その筆頭に1980年代後半、最晩年のMikes Davisのグループのアルト作奏者として活躍したKenny Garrett名が浮かぶのですが、Coltrane存命中のあの時代に、しかもバップを支えた立役者ともいえるMcLeanのプレイでそれが聴けるなんて、意外中の意外。

事実この作品・1965年の録音なのですけどそのリリースは、1966年のカルテットによる演奏を加えた2枚組LPとしてで、それは1975年になってからのこと。

やはり、今聴けば、McLeanの音楽に対する先進的な姿勢を示す揺るがぬ証拠として聴くことが出来るものの、当時似たエッセンスを持つJohn Coltraneの作品”Cresent”がリリースされたのが1964年であったことを考えると、レコード会社としても、従前のMcLeanのスタイルとは異なるスタイルのこの演奏を収めた作品を発表することには、当時先進的なジャズを模索していたBlue Noteレコードとしても、それまでのイメージとはかけ離れすぎていたために躊躇われ、その発表にはそれから10年の年月を必要としたうえ、またそのイメージを損なわないようにと1966年のカルテットの演奏をLPの2枚目として加えたものとなってしてしまったように思うのです。

そして、それを明かすかの如く、2002年の本作品CD化はLPの1枚目のみであり、LPの2枚目の1966年の演奏は復刻されることなく今もってCDになされていないことを考えると、当時この1965年の演奏を即発表するには、それまでMcLeanが培ってきたイメージとの乖離があまりにも大きく、その後も時代の波に翻弄されたその姿が浮かび上がってくるように見えてくるのです。


さて、この作品には、Tolliver以外にもう一人のトランぺッターが加わった別トラックがあります。
そのトランぺッターは、1950年代後半、ファンキー・ブームを生み出し” Moanin' ”等の名曲を残したArt Blakey&Jazz Messengersのメンバーとして活躍していたLee Morgan。

このMcLeanとMorgan、共にJazz Messengers出身のアーティストなのですけど、先にMessengersのメンバーだったMcLeanが1958年2月、麻薬で逮捕されキャバレー・カードを没収されたことにより演奏ができなくなったことによりバンドは瓦解。
一方、Blakeyによって見出されたBenny Golsonによってバンドは再編成され、その際の新メンバーとして加入したのがMorganで、これによりバンドは、この年の10月の初公演で大成功を収め、名声を確立することになったという、このバンドにとっては、低迷期と最盛期を生み出した明暗分かれる存在である二人。

そうしたことを知ると、McLeanとMorganのというバンドの明暗を生み出したこの新旧二人のコラボにも興味が湧いてくるもの。
というところで、今度は、McLeanとMorganの演奏で曲は”Blue Fable”、ここでちょっと聴いてみようと思います。



どことなくJazz Messengersの空気が漂うこの曲。
前の曲とは違って、McLeanのプレイも、バップのを香りを漂わせ発散しているように感じます。

そうした、聴き所満載のこの作品、サポート。メンバーとしてフロントを支える二人のトランぺッターを中心に2曲を聴いてきましたけど、他にも注目すべきは、この時期将来を期待される新人として参加しリズム・セクションを支えたLarry Willis、Jack DeJohnetteの二人。

その二人の中でもピアニストのLarry Willis。
確かに、その後Miles Davisのグループに参加し、Keith Jarrettのトリオで名を轟かしたDeJohnetteの若い日のプレイにも興味深いものがあるのですが、それに比べ知名度では遥かに劣るLarry Willis。

この人、このレコーディングの後は、1972年、当時Chicagoと並びブラス・ロックの中核的存在であったBlood Sweat & Tearsにピアニストとして参加、その後は、ギタリストRussell Maloneの共演などを経て、近年ではサックス奏者の Gary Bartz、ドラマーのAl Foster等と結成したHeads of Stateのメンバーとして活躍しているアーティスト。

その経歴はDeJohnetteに比べ地味であるも、私は、Blood Sweat & Tearsの作品で彼のピアノに初めて触れ、その派手さははないもののどことなく味わいのあるプレイが気に入りこれまで贔屓にして来たのですが、Blood Sweat & Tears在籍の7年前となるこの作品でも、すでにその味わいを発見できたことは喜ばしい限り。
特に1曲目の"On the Nile"のプレイは、後にTolliverが自己の作品に収録した際にピアニストを務めたStanley Cowellのプレイに勝るとも劣らない出来であり、そのあたりも耳を傾けていただき、その名を記憶に留めていただければと思う次第。


さて、1960年代 Blue Noteレコードと契約後は、前衛的ジャズの世界にも足を踏み入れるなど数々のチャレンジングな作品を残してきたJackie McLean。

以前私は、彼の1973年の作品である"A Ghetto Lullaby"を聴き、それまでの彼と違うそのスタイルに戸惑い覚え以後この作品を聴くことなく放置してしまって来たのですが、今回この作品を聴いて、改めて聴き直してみると、あのスタイルの変化は1960年代Blue Noteで彼が行って来た多くの試みから生まれたものだったことを、今回この"Jacknife”を聴いて知らされことなりました。

同じアーティストであっても時の流れと共にそのスタイルは大きく変化する、そうした姿の変化の意味を読み取りながらその音楽を聴き楽しむこと、これも即興を核とするジャズの面白さ。
そのアーティストの人生の一時代だけでそのイメージを固めてしまっていたという過ち、どうやらこのMcLeanに関しては冒してしまっていたようです。
これからは、もう少し突っ込んでこのJackie McLean、聴いて行くことにしようと思っています。



Track listing
1.On the Nile(Tolliver)
2.Climax (DeJohnette)
3.Soft Blue (Morgan)
4.Jacknife (Tolliver)
5.Blue Fable(McLean)

Personnel
Jackie McLean - alto saxophone
Charles Tolliver (#1, 3, 4), Lee Morgan (#2, 3, 5) - trumpet
Larry Willis - piano
Larry Ridley - bass
Jack DeJohnette - drums

Recorded
September 24, 1965 Studio Van Gelder Studio, Englewood Cliffs, NJ

オマケ
この作品の中で Tolliverが参加しているアルバムのタイトル曲”Jacknife”を見つけましたので、よろしければ聴いてください。



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