晩秋の空気に色を添える哀愁のラテン・サウンド:Michel Camilo with Tomatito・Spain Forever [音源発掘]

私の職場の前の銀杏並木が急速に色づきを深めて行く様に、ひしひしと迫りくる秋の終わりの気配が濃厚となって来た昨今、

IMG_6481 (1)IMG_6481 (1).⁻m.JPG


昨年は、これほどの鮮やかさはなかったのにと思い出しつつ、その景色を眺めているうちに、ふと頭の中に音が浮かび聴きたくなったとある作品、聴いてみるとその調和がどことなく心地良い。

そこで、その作品を聴きながら並木道の下を散歩してみると、これが感傷的な晩秋な空気をさらに奥深いものに思わせる感覚をもたらしてくれていた。

というわけで、今回は、秋の感傷的空気に奥深さを付加してくれたこの作品を、ご一緒に聴いて行くことにしたい思います。

michel camilo & tomatito spain forever michel camilo & tomatito.jpg



その作品は、ジャズ・ピアニストのMichel Camiloとスペイン出身のフラメンコ・ギタリストのTomatitoによる2016年発表の作品”Spain Forever”です。

1997年にバルセロナ・ジャズ・フェスティバルでスペインの誇るハードバップ・ピアニストであるTete Montoliuへのトリビュートとして初めてデュオを組み演奏し大きな反響を呼んだことから始まったCamiloとTomatitoとこのデュエット、これまで、2000年に”Spain”、2006年には”Spain Again”という作品を残しているのですが、本作は先の2作に続くデュオ3部作の最後を飾るもの。

ジャズとフランコのアーティストのデュオというと、一見違和感を覚えるかもしれませんが、ピアニストのCamiloは、かってスペイン領であった西インド諸島にあるドミニカ共和国出身のラテンの血を受け継ぐアーティストであり、また一方のギタリストであるTomatitoは、1980年代、John McLaughlinやLarry Coryell、 Al Di Meola フュージョン・ジャズ系のギタリストとアコースティックギターによるトリオを組み華麗なるプレイを繰り広げたフラメンコギタリストのPaco de Lucíaの影響を強く受け継ぐアーティストであることから、逆にそこから生まれるだろうラテンの情熱・哀愁を帯びたサウンドには大いなる期待が寄せられます。

果てして、そのサウンドはいかなるものか。
まずはその演奏、聴いていただくことにいたしましょう。
曲は” Água E Vinho”です。





銀杏並木の下で聴いたのがこの曲。
感傷的な気分をもたらすその哀愁が、なんともこの晩秋の空気にぴったりという感じ。

まずはその哀愁のメロディから聴きはじめたこの作品、全体的にこれまでの2作に比べ、情熱的ラテンの空気は抑えつつもしっとりとした哀愁が漂うトラックが多いのですけど、そのプレーにはさらに増した二人の緊密度の深まりと、そこから生まれた微妙なニュアンスのやりとりが漂い聴こえてくるように感じます。

私は、Michel Camiloというピアニストについて、マスコミ等などでその名を聞くようになってから、その超絶と言われる驚異のテクニックには一時は惹かれたものの、そのテクニックに頼り情熱過剰というべきに表現に終始するその様が次第に鼻につくようになり、以後敬遠気味となってしまっていたのですが、このTomatitoとのデュオでの抑制の効いた情感あふれるプレーに接して以降、その態度を改め、さらに本作ではその姿勢にさらに深みが加わっていること感じることになった次第。

そしてTomatito。
80年代初頭、彼の師ともいえるPaco de LucíaをJohn McLaughlinとLarry Coryellとのギター・トリオのライブ・ステージで見た私としては、そのから多大な影響を受けたといわれるこのギタリストについては、Pacoの血脈をしっかりと受け継ぎつつも、抑制のある情熱と哀愁を有す情感溢れる表現力に、またPacoとは違った趣を感じ、それ以上の好ましさを覚えることになったところ。

と言ったところで、この二人の演奏、1曲だけでは物足りないですよね。
そこで、もう1曲
今度は、今やスタンダードとなったあの名曲を聴いていただこうと思います。
曲は、”Love Theme Cinema Paradiso”です。



さて、2曲続けて、しっとりした秋の哀愁に浸っていただいたところで、そもそもラテンの血が流れるこの二人、情熱を奏でさせたら右にでる者はいないはず、ならば、その情熱の演奏も聴いてみたくなってくるところ。

そこで、締め括りとして、この二人による情感豊かな情熱のサウンドを2曲続けて聴いていただくことにいたしましょう。

曲は前作”Spain Again”から、あのAstor Piazzola作曲の、正装に身を整えた情熱を感じさせる'Libertango”と、ジャズとラテン融合のサウンドでフュージョン時代の幕開けを高らかに告げたChick Corea作曲の名曲”La Fiesta” 以上の2曲です。





あと僅かで1年の最後となる12月。
コロナ禍に明け暮れたこの1年、おかげで時間の感覚が狂ってしまったのか、何か分らぬうちに時が過ぎっていってしまったような感じで、今もって、年の瀬間近という感が湧いてこないのですが、木の葉を見るとその色はまぎれもなく師走の訪れを告げている。

今回は、Michel CamiloとTomatitoのこのデュエットは、季節の流れを忘れ追えなくっていた私に、その時の狂いを整えてくれることなった音でした。

IMG_6497-pen2m.jpg


コロナ、オリンピックと知らず知らずにのうちに時の荒波に翻弄され続けた2021年、その1年を噛みしめ思い出しつつもこの演奏で心の傷を癒し、来たるべき2022年を目指してそのパワーを充填する糧になればと思っています。



Tracklist
1.Água E Vinho (Egberto Gismonti)
2.Our Spanish Love Song (Charlie Haden)
3.Oblivion (Astor Piazzola)
4.Gnoissienne No. 1 (Erik Satie)
5.Cinema Paradiso (Ennio Morricone)
6.Love Theme Cinema Paradiso (Ennio Morricone)
7.Nuages (Django Reindhart)
8.Manhã de Carnaval (Black Orpheus) (Luiz Bonfá)
9.About You (Michel Camilo)
10.Armando’s Rhumba (Chick Corea)

Personnel
Piano, Producer: Michel Camilo
Guitar: Tomatito

Recorded
July 10-12 and November 15-19, 2015, Madrid











nice!(13)  コメント(0) 
共通テーマ:PLAYLOG

nice! 13

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント