Jazzのスタンダード・ナンバーとなった日本の童謡;月の沙漠(Desert Moonlight) [名曲名演の散歩道]

今回は在宅勤務中、昔、録りためたジャズのライブ・カセット・テープを聴きながら仕事をしていたところ、聴こえて来た、あの日本の名曲のお話。

この曲、私のような古い世代の人間が聴くとまず思い出すのは、仮面ヒーローの元祖とも言えるあの月光仮面のこと。
というのも、この曲が月光仮面が登場のシーンで使われ、当の月光仮面自身が歌い現われていたことから、子供心ながらそこに何とも言えないカッコよさが感じ深く記憶に残ってしまってしまったからなのですが、と、ここまで書くと私と同世代の方は、ああ、あの曲か!! と、もうその曲名、お分かりなったかと思いますけど。

その曲の名は、日本の画家、詩人である加藤まさを作詞、佐々木すぐる作曲による童謡の名曲”月の沙漠”。
この曲が誕生したのは、1923年(大正12年)雑誌『少女倶楽部』に詩が掲載され、その後、当時若手の作曲家であった佐々木すぐるが童謡として曲をつけたことに始まりだったそうで、それが、1927年にラジオ放送されたところ評判となり、1932年に柳井はるみの歌唱で録音、レコード化されたことによって今に残る名曲への歩みを始めることになったのだとのこと

私としては月光仮面の印象が強かったこともあって、長きに渡り月光仮面の挿入歌だと思っていたものですが、こうしたことを知ればそこに自由な空気を宿した大正デモクラシーの心意気を感じるもの。

それでは、そうして生まれたその原曲、まずは、芹洋子さんの歌唱で味わってみることに致しましょう。



ちょっと余談にはなりますが、なぜここで芹洋子さんの歌唱を選んだかと言いますと、実は私、芹洋子さんのおじさん(おじさんの苗字は、もちろん芹洋子さん旧姓と同じ善利さんです。)と同じ職場で一緒に仕事をしていたという縁があって、その名を見ると贔屓したくなってしまうというのがその理由。

つまらないお話をしてしまいしたが、本題に戻って、

この曲の題名の”月の沙漠”、”沙”の字、それ”砂”じゃないのと気になったいらっしゃるかもしれませんね。
そこで、その”沙”の字となっている意味を調べてみると、
学生時代に結核を患った加藤が、保養のために訪れた千葉県の御宿海岸の風景から発想しこの詩を書いたからという説があり、また原文も”沙”の字が使われていることから、この”さばく”の”さ”は、湿潤な砂浜をイメージする”沙”なのだのとのこと。
しかし、そうは言っても、詩の中に描かれている駱駝に乗った王子様とお姫様が旅していく情景、駱駝が出て来るとなれば”沙”ではなくどちらかというと乾燥をイメージする”砂”の字を連想してしまうよなと、私自身ちょと矛盾めいたものを感じているところ。

でも、砂漠はオアシスもあり、そこには水流れている場所もあるのだから、描かれたのはオアシスを駱駝に乗った王子様とお姫様が通り過ぎて行く情景なのだよなと勝手な解釈で納得して、この辺で本題のこの曲をジャズのスタンダード・ナンバーとした演奏のお話。

果たして、最初にこの曲を取り上げその切っ掛けを作ったアーティストは..............!!!



”Moanin''や”Blues March”などのヒットを飛ばし、絶頂期にあったArt Blakey & The Jazz Messengersのトランペットを務めたLee Morgan。

その彼の1965年の作品”The Rumproller”に"Desert Moonlight"という英題で収めたのがその始まり。

lee morgan the rumproller.jpg


その演奏は当時結構な評判を得たらしく、その後は、Lee Morganと言えば"Desert Moonlight"
というほどの彼の代表曲となって行くのですが、聞いた話では、レコーディング当時は、この曲が日本の曲だと認識されておらず、作曲者としてLee Morganの名前がクレジットされていたのだとのこと。

恐らく、The Jazz Messengers時代に来日したLee Morganが、日本のどこかでこの曲を聴き覚え、それを、まったくこの曲が知られていなかったアメリカでのレコーディングで披露したためにこのような珍事が起きたのと思うのですけど、長らく月光仮面のテーマ曲と思っていたこの身、まあ、これもインターネットがなく世界の距離が遥か遠かった時代の話、そうしたことになったのだろうと思いながら、

この辺で、Lee Morganの"Desert Moonlight"、お聴きいただくことに致しましょう。



広大な乾いた砂地を、月の光を浴びてゆっくりと進むキャラバンの隊列を想起させる"Desert Moonlight"、こちらの”月のさばく”は”沙漠”ではなくて、それはまさしく乾燥した”砂漠”のイメージ。
そこに、童謡として作られたこの曲に、ジャズの命であるブルース心が宿り付加されいる、とそうしたことを感じてしまいます。

MorganのトランペットとJoe Hendersonのテナーのそれに絡み合いが生まれる哀愁をに満ちた響きが印象に残る演奏でした。



さて、次の"Desert Moonlight"は、私が、在宅勤務中聴いていた、その昔カセット・テープに取り残していたピアノトリオとストリングスによるCD未発表のライブ音源から。
1983年のKenny Drew トリオ+ストリングスの演奏をお聴きいただこうと思います。



メンバーは、Kenny Drew (piano),Niels-Henning Ørsted Pedersen(bass),Ed Thigpen(drums).。
1983年1月31日 東京郵便貯金ホールでの演奏です。

Kenny Drew は、私にとってJohn Coltraneの”Blue Train”で初めて彼のピアノを聴き、その後、行きつけのレコード・ショプが間違って注文したというDrew が参加していたJohnny Griffinのデンマークのカフェ Montmartreでのライブ・アルバムを見せられ、Griffinの作品聴きたさに即ゲット、そこで聴いたDrewのピアノに惚れしまって以来、大好きなピアニストの一人。
そうしたことから、彼の作品はずいぶん多くの作品を聴いて来たつもりだったのですけど、偶然我が家のカセット・テープ・ライブラリーから見つけた、この彼のトリオにストリングスを従えた演奏は、1982年の Drewのスタジオ作品”Moonlit Desert”1作があることは知っていたもの、あまり注目されることない作品なので私もすっかり忘れていて、そんなものの日本でのライブ・テープが我が家に埋もれていたのかとその発見にびっくり。

”kenny Drew Moonlit Desert.jpg


それはともあれ、そこで聴いたこの”月の沙漠”の演奏は、60年代以来20年余り相寄りそってきたDrewとPedersenの息ぴったりの、原曲のイメージを損うことなくストリングスの効果を生かし、暖かい哀愁を湛えたプレイがその白眉。
そこで、これは我が御蔵に眠らしておくのはもったいないと、ご紹介することにしたものなのです。

この1983年1月31日のライブ、この後このトリオにトランペットのClark Terryが加わったカルテットの演奏へと続くのですが、このメンバーによる演奏もかなり珍しいもの。
またいずれの機会にご紹介したいと思っています。



以上、2ヴァージョン、ジャズによる”月の沙漠”を聴いていただきましたが、なにか他に面白いカバーはないか探してみたところ、見つけたのがこの演奏。
スザンヌ・ハードが歌う英語ポップ・ヴァージョンの”月の沙漠”です。



現代的な表情を見せる”月の沙漠”。
姿は変えてもその良さは変わらない。

一瞬耳にしただけで、心をつかむ哀愁のメロディ、そのメロディがアメリカ人であるLee Morganの心をつかみ、彼の代表曲となりジャズのスタンダードして多くの知られるようになった。
そこに、知らず知らずのうちに人の心をつかんでしまう名曲の神髄を見たような気がします。

いつもの年より、ひときわの厳しい寒さが続く毎日。
しかし、春はそこまで来ている。
このを聴きながら心を温め、その訪れをじっくりと待つことにしたいものです。















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コメント 4

yuzman1953

老年蛇銘多親父さん、こんばんは。
”月の沙漠”知らないことばかりでした。
こんな名曲が埋もれていたんですね。
スザンヌ・ハードの歌声に心が洗われ涙が出そうです。
by yuzman1953 (2022-03-01 03:17) 

老年蛇銘多親父(HM-Oyaji)

yuzman1953さん

実は、若い時だったか、私も、千葉県の御宿でここが”月の沙漠”の発祥地であるという記念碑を見たのですけど、あれは乾燥地帯の砂漠、こんな海のそばでのあるのはいかさまとずっと思い続けていた輩の一人ですして........!!!

そういう意味で、今回、私にとってもいい勉強になったなと考えています。

名曲というのは、そこに至るまでは多くのドラマがある、そうした奥深いものが潜んでいるものだなと、実感しています。



by 老年蛇銘多親父(HM-Oyaji) (2022-03-01 20:37) 

mk1sp

心に残るいいメロディーですね♪
原曲が良いため、どのバージョンも素晴らしい。

歌詞は、日本の月夜の砂丘に異国の王子さまとお姫様の面影を見たと、想像しますが、何とも幻想的ですね。
by mk1sp (2022-03-04 22:39) 

老年蛇銘多親父(HM-Oyaji)

mk1spさん

「月夜に砂丘国の王子さまとお姫様の面影を見た」と言われて、昔、行った御宿の砂浜のことを目に浮かべてみたのですが、確か、あの砂浜、かなり奥行きがあったように思え、澄んだ夜空に月があれば、そうした感じになるなあと思いました。

暖かくなったら、今度はその砂浜に立ち、この曲を聴いてみることにしたいものです。


by 老年蛇銘多親父(HM-Oyaji) (2022-03-05 17:30) 

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