異色のサックス奏者と北欧のピアニストの出会いが生んだ安らぎの世界・Mads Bærentzen Trio & Tim Ries:The New York Project [音源発掘]

前回は、ここところの、朝夕のひと際大きな寒暖差に不調を訴える体に喝を入れるため、聴いているプログレッシブ・メタルの作品をご紹介させていただきましたが、今回は日々深まりゆく秋の空気に触れ、その味わいをさらに深めるに最適と感じたこの作品を取り上げることに致しました。

Mads Bærentzen Trio & Tim Ries The New York Project.jpg


それは、Mads Bærentzenのピアノ・トリオとサックス奏者Tim Riesによる、2005年の作品”The New York Project”。

と、サラッと紹介してしまいましたけど、Mads Bærentzen、Tim Riesと言っても、「そんな名前のアーティストは聞き覚えがないな。」という方も多いのではと思います。

かく言う私も、Tim Riesのサックスを聴きたくて、彼の参加している作品を探していたところ見つけたのがこの作品であったということから、ピアニストのMads Bærentzenについてはこれまで聴いたこともなく、その名を知ったのこの作品が初めて。


そこでまずは、その出会いの切っ掛けとなったTim Ries、実はこの人、あのRollinng Stonesのツアー・メンバーとして活動していたアメリカ出身のサックス奏者で、2005年にはRollinng Stonesのメンバーの参加した、Stonesの楽曲を独自のアレンジでジャズ化した作品”The Rolling Stones Project”を発表し大きな反響を呼んだアーティスト。

その作品、Rolling Stonesが自分の音楽ルーツである私としては、Rolling Stones の楽曲がジャズ作品に取り上げられているとなると、どんなものかと大いに興味が湧いて来て内容度外視で即Getしてしまったのですが、聴いてみると、個性の強いStonesの楽曲の1曲1曲がオリジナルの味を失うことなくジャズ化されていたのです。

そして、それまで知らなかった、Tim Riesと言うアーティストの力量の凄まじさをまざまざと見せつけられ、以来、彼を思い出す度にまた違ったフィールドでの彼のプレイを聴きたく、その作品を探し追い求めるようになっていたのですが、そこで見つけたのがMads BærentzenのトリオにTim Riesが客演したこの作品だったのです。


さて、この作品のリーダであるのMads Bærentzenは、デンマーク出身のピアニスト。

この地は早くからジャズを受け入れた場所で、1960年代には、その時期に起きた本場アメリカで起きた新たなジャズの新たなうねり発生の中、その波とはスタイルを異にしたアメリカのジャズ・アーティストであるKenny Drew,Dexter Gordon,Johnny Griffin,Art Taylor,等の著名アーティスト等がその拠点を欧州に移し、このデンマークにも訪れて、ヨーロッパ・ティストを感じさせる独自の新境地を切り開いていった場所であり、名ベーシストNiels-Henning Ørsted Pedersenをも輩出したところ。

そうしたお国柄を思うとMads Bærentzen、結構いけるピアニストなのではと思い、ましてや本作はニューヨークでの録音であることを考え合わせるとこのTim Riesとの共演はかなり期待が持てそうと、聴いてみることにしたのです。

その結果は、期待以上の出来。
余り名を知られていないアーティストですが、これはぜひとも聴いていただきたいもの。

ということで、ここで1曲聴いていただくことに致しましょう






曲は”No,11”.でした。

美しい音色のTim Riesのソプラノ・サックスと柔らかなMads Bærentzenのピアノが印象的な、牧歌的雰囲気漂うピュアなサウンド。

Mads Bærentzenと言うピアニスト、Keith Jarrettの影響をかなり受けているようにも思え、ここでの欧州ティストに満ちたそのサウンドは、どことなくKeith Jarrettとサックス奏者のJan Garbarekのヨーロピアン・カルテットの演奏を思い起こさせます。

もしかすると、Tim RiesをフューチャーしたのもKeith のヨーロピアン・カルテットを意識してのことだったのかもと考えてしまいます。

さて、Mads とTimの欧州ティストに満ちたその演奏。
ここで、さらに1曲、聴いていただくことに致しましょう。

曲は軽快なリズム清々しい”West Coast"です。



テーマに続き現れるMads Bærentzenのピアノ・ソロ、何も考えずに聴いていると、あの高揚した時に現れるKeith Jarretの呻き声が聴こえてくるような、そうした錯覚に陥ってしまう。。

こうして聴いて行くと彼らのこの演奏、40年の時空を超えヨーロピアン・カルテットが蘇ったとも思えて来ます。


さて、この作品には、インストメンタルだけでなく、女性ヴォーカルをフューチャーしたが曲が3曲収目られています。

歌うは、Vivian Sessoms。
私も、全く知らないアーティストだったので、余り期待しないで聴いてみると、あにはからんや。

感情を込めながらも、抑揚を抑え淡々と響く、その歌声がこの作品のカラーにマッチして妙に心地良い。

そこで、彼女がフューチャーされている曲目に目を通して見たところあったのが、現代ジャズ界の神的存在であるDuke Ellingtonのあの楽曲。

それは、アメリカに黒人が奴隷として連れてこられて以来の苦難の歴史を描いた、1943.年コンサートで初演発表された交響詩的ジャズ作品”Black, Brown and Beige”の中の”Come Sunday”。

しかし、本作の爽やかなフィーリングとは相容れないように思える、この聖なるブラック・ソウルを宿すこの名曲が、果たしてどのような姿となって表現されているかが気になって来るところ。

ということ、今度はVivian Sessomsの歌唱を加えた、Mads Bærentzen Trioの演奏を聴いてみることに致しましょう。



私が、Duke Ellingtonの演奏よるこの曲を初めて聴いたのは、Ellingtonの1958年の作品”Black, Brown, and Beige”に収められていたゴスペルの女王と言われるMahalia Jacksonの歌唱。

オペラ歌手ばりの声量で歌われる深淵なるその歌声に、まだ黒人差別が残り黒人の公民権が認められていない時代、抑圧排除に立ち向かう人々へ向けた力強い明日への賛歌との印象を感じるものでしたが、ここで聴いていただいたVivian Sessomsの”Come Sunday”は、じんわりと心に染み入くる願いのようなものを訴えかけてくるような感じがするもの。

そこで、Vivian Sessomsとは一体どんな歌手かと、彼女のオリジナル作品にも耳を傾けてみると、かなりソウルフルな一面を備えた現代的なスタイルを持ったアーティスト。

聴き比べてその違いにとまどったものの、考えてみればそれは彼女の表現力の豊かさと卓越したテクニックを裏付けるもの。

そうしたことから、ここでの彼女の歌唱は、その卓越した表現力を駆使して、胸の内に宿る熱いソウルな思いを心の奥に潜めつつも、静かに現代に生きるすべての人々への、希望に満ちた平和への祈りをこめた明日への賛歌として歌い上げたものではないかと思うのです。



深まり行く秋、この心地良さのせいか、いつもに増して音の世界が深く心に響いてくる。

おかげで今回は、Mads Bærentzen、Vivian Sessomsという、隠れた逸材に出会うことが出来ました。

それにしても、この季節は何かしらの新たな収穫ある。

今度は、これまで聴いてきた著名アーティストの作品を聴き直し、また新たな発見に挑んでみようと思っています。


Track listing
1) Dorothy's Secret
2) West Coast
3) Tenderly
4) Tribute To Maria
5) Come Sunday
6) Rush Hour
7) Trouble Child
8) The End
9) No. 11
10) McParty
11) Winter Waltz

Personnel
Mads Bærentzen-Piano
Morten Ramsbøl-Bass
Kristian Leth-Drums
Vivian Sessoms-Vocal on 3, 5, 7 and 10
Tim Ries-Tenor and soprano saxophone, flute

Recorded
in New York at Right Track Recording
20th & 21st of May 2005.

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tarou

お早うございます、永保寺の紅葉にコメントを
有難うございました。
座禅岩から境内を見て見たく、3度もお参りに行きました。
Mads Barentzen Trio、Musicよりダウンロードしたので
これから聴いてみます。
by tarou (2022-11-07 08:08) 

老年蛇銘多親父(HM-Oyaji)

tarouさん、ありがとうございます。

コメントを頂き考えてみると、Mads Barentzen、 tarouさんのブログに重なるBGMのような感じがして来ました。

是非とも一聴して頂きお楽しみください。






by 老年蛇銘多親父(HM-Oyaji) (2022-11-17 20:15) 

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