亡き友が愛した思い出のジャズ・レコード;Eric Dolphy・Outward Bound [音源発掘]

初夏を思わす日々が続いたと思ったら、その翌日は初春の頃へと季節は逆戻り。

おかげで、この激しい寒暖の変化の繰り返しに体が馴染まずとうとう体調不良となってしまった私。
幸い発熱することもなかったので、軽い夏風邪だろうと風邪薬を飲んで一日養生してみたところ何とか回復。

そして、悪い病ではなく良かったなと思ったら、今度は10年振りだと言われる早さの梅雨の入り。
おかげで今は、いつもの年にも増して気まぐれがすぎるお天気模様に翻弄さればっなしでどうも気が晴れず、悶々とした日々を送っているところ。

そんな日々を過ごしている中、最近聴いているのは、今年4月に亡くなった学生時代からの友人が、その昔、私に教えてくれた彼のお気に入りだと紹介してもらった諸作品。

その彼、学生時代まだジャズを聴き始めたばかりだった私が、よく彼の4畳半の下宿を訪ねそこで音楽を聴きながらジャズの教えを受けた、深い親交のあった友人なのですが、亡くなって1ヶ月、心の整理が出来たところで、彼を偲び、共に聴き教えてもらった作品を思い出し聴いていたのですが、今回取り上げたのは、その中でも最も思い出の深かったこの作品。

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マルチ・リード・プレヤーのEric Dolphyの初リーダ作品、 1960年制作の”Outward Bound"。

星が好きだったというその友人、音楽作品についても内容はともかく星や天体現象が作品のタイトルにあると即Getとしてしまう癖があるのだと語っていたのですが、実はこの作品も邦題に”惑星”とあったため即Get、聴いてみたところすっかり気に入ってしまったものだったとのこと。

原題”Outward Bound"、訳せば「外国行きの」はずが、どうして”惑星”という邦題がつけられたのか妙に思ったものの、この時が私としては初めて聴くEric Dolphy。
聴いてみて、ぶっ壊れたような音を響かせながら繰り広げられる異次元のインプロビゼーションの世界に、これこそ「惑星」だと惹き込まれてしまい、私にとっても記憶の底に深く残ってしまった作品なのです。


そこで、私が「惑星」を感じた、Eric Dolphyの一線画したソロの世界、まずは、お聴きいただくことに致しましょう。





曲は、 Dolphyのオリジナルで"G.W.",でした。

このDolphy、このデビュー作から4年後の1964年6月に、その絶頂期を迎えながらも突然、楽旅途上のパリで客死してしまうのですが、超個性を極めた晩年のDolphyと比べると久々に聴いたこの作品のDolphy、晩年Dolphyの凄まじさを知ってしまった身には、斬新さが目立つ個性的なものではあるもいささか物足りないなという感じ。

かえって、瑞々しく流麗な若き日のFreddie Hubbard のトランペットやあくの強いJaki Byard のピアノのプレイの方へ気が行ってしまい、そちらの良さが耳に残ってしまう始末。

しかし、それそれで良いのだが、やはり主役はDolphy。

そこで、そのあたりのことを白紙に戻してもう一度聴き直してみると、現代ジャズの原点とも言えるCharles Parker のアルト・サックスを継承しつつもこれまでにない独自のスタイルがを築き上げたDolphyの姿が見えて来た。

それは、Dolphyが先人たち築き上げた伝統を素地持つアーティストだということ。
そのこと、つねづね聞かされ知ってはいたことなのですが、今まで実感として理解出来ず、今回こうしてそのことを確認出来たことは大きな収穫でした。


そして思い出したのが、彼がこの作品を聴かせてくれた後、続けて”Out There”、 Mal Waldronの”The Quest ”、”At the Five Spot”と、この作品以降のDolphyを聴かせてくれたこと。
今思えば、あれは、彼が私にDolphyの変貌の過程を伝えようとしていたのだと、今さらながら気付くことになりました。

そう思うと、草葉の陰から「今更ながらそれがわかるなんて。お前今まで何を聴いていたのだ!!」と私を叱る彼の声が聞こえてくような、そんな気がして来ました。



ところで、Dolphyと言うアーティスト、冒頭にマルチ・リード・プレヤーと紹介しましたが、アルト・サックスの以外にもバス・クラリネット、フルートのプレイでも高い評価を得ている人。

特にバス・クラリネットついては、彼がジャズの世界に持ち込みその可能性に生命を与えた楽器。
そこで、今度はそのバス・クラリネットによる演奏で、ジャズのスタンダード。ナンバーとして名高い
"On Green Dolphin Street"をお聴きいただくことに致ましょう。



飄々としたDolphyのバスクラリネットのイントロで始まる"On Green Dolphin Street"。
この先どんな展開となるのかと思いきや、Freddie Hubbardの爽やかかつ憂いあるトランペットが、この曲の持つ味わいを十二分に引き出しながらテーマを綴っていきます。

そして、Dolphyのバスクラリネット。
後年のDolphyのバス・クラリネット・プレイはグロテスク感漂うかなり刺激的なものとですが、ここでの彼のソロは、Dolphyらしさの中に曲の爽やかな持ち味を踏まえたスィング感のある、初々しささえ感じるもの。


この演奏、初めて聴いた時には、バスクラリネットという楽器が、ここまでジャズにブレンドするものだったのかと新鮮な驚きを感じたこと、思い出すことなりました。



さて、今度はマルチ・リード・プレヤーとしての彼の演奏、フルートのプレイを聴いていただくことに致しましょう。
曲は、"Glad to Be Unhappy" です。



Dolphyのフルートというと小鳥のさえずりを聴くような可憐な響きが大きな魅力。
そうした彼のフルート・プレイの最良のものと言えば、彼のラスト・アルバムである”Last Date”に収められていた"You don't know what love is"だと思うのですが、この演奏も"You don't know what love is"には及ばないものの、彼の可憐さを潜ましたリリカルなフルートの音が心地良く胸に響く。

その扱う楽器それぞれに違った表情を持つマルチ・リード・プレヤーのEric Dolphy、刺激的個性が噴出すアルト・サックスやバス・クラリネットの後に聴くこのフルート・プレイは、心に安らぎのひと時を与えてくれると共に、Dolphyの唯一無二の強烈な個性を心に強く刻み込んで行ってくれます。



今回は亡き友を偲び、思い出の中に現れたDolphyのこの作品を聴いて、若き日、彼と過ごした様々記憶が呼び起こされました。
そして、この作品に始まり彼の紹介してくれたその後のDolphyの諸作品を聴きながら、彼が好んだ聴いていたJaki Byardや Booker Ervin,Richard Davis 等のアーティストと彼との接点が、Dolphyであったことに気付かされることになりました。

亡き友が教えてくれたこの作品、本作以降その死まで、僅か4年という短い時間の中で、急速にそのスタイルを進化変貌させ革新的な成果を残して行ったDolphy、今回は、あらためてその凄さを実感することになりました。



卒業後、北海道に帰ってしまい会うことも少なくなってしまっていた亡き友、しかし、Dolphyを教えてもらい共にジャズを聴き過した思い出は何事にも代えられぬ大切なもの。
真に気心の知れた人として、心の底からありがとうのメッセージを送りつつ、また忘れず天国より指南の啓示を送ってもらえればと思っています。



Track listing
1.G.W. (Eric Dolphy)
2.On Green Dolphin Street (Bronislaw Kaper, Ned Washington)
3.Les (Eric Dolphy)
4.245 (Eric Dolphy)
5.Glad to Be Unhappy (Richard Rodgers, Lorenz Hart)
6.Miss Toni (Charles "Majeed" Greenlee)

Personnel
Eric Dolphy – flute (#5), bass clarinet (#2 & 6), alto saxophone (#1, 3 & 4)
Freddie Hubbard – trumpet (except on #5)
Jaki Byard – piano
George Tucker – bass
Roy Haynes – drums

Recorded
April 1, 1960 Van Gelder Studio, Englewood Cliffs, NJ


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