日本のジャズ復活の灯を育んだサックス・マン;峰厚介・Bamboo Grove [音源発掘]

これからのジャズ界を、グローバルな立ち位置から担うであろう新進気鋭のアーティストとして、前回はピアニストの大林武司の作品を取り上げさせていただきましたが、今回は昨今出会い聴き入ってる、60年代衰退の一途を辿っていた日本のジャズ界において、復活の炎を育て上げるに大きな足跡を残した、一人のサックス奏者の最新作を取り上げることにいたしました。

その演奏がこちら!!!!!!



まずはダイジェスト映像でその演奏をご覧いただきましたが、この映像にあるその作品は、現在、日本を代表するサックス奏者 峰厚介の2018年制作の”Bamboo Grove"です。

峰厚介 bamboo grove.jpg


さて、その峰厚介というアーティスト、音楽活動を開始は1963年、アルト・サックス奏者としてのデビューだったというのですが、この時期の日本のジャズ界はというと、それまで日本にジャズ・ブームをもたらしていた戦後日本の占領統治にあたった駐留米軍が撤退により次第に勢いを失い、往時のパワーを失っていた時期。

そうした状況の中デビューした峰ですが、その彼が頭角を現したの始めたのは1960年代後半のこと。
それは、アメリカから帰国した渡辺貞夫をはじめ菊池雅章、日野皓正の登場、活躍が大きな転機になり日本ジャズ界に復活の光がにわかに見え始めて来た頃。
峰もその時の勢いに押されたかのように1969年、菊地雅章のグループに加入、新たにテナー&ソプラノ・サックスを手掛け、1970年には初リーダー作品”Mine”を発表、注目すべき若手サックス奏者の
一人として大いに注目される存在となっていったのです。



そして、さらに彼の名を大きく知らしめたのが、1978年に結成されたジャズ・フュージョン・グループNATIVE SONでの活動。

当時、渡辺貞夫、日野皓正が、フュージョン路線を歩みジャズをお茶の間に届けるほどのブームが訪れていた中、当時私の周囲の仲間筋では、菊池、渡辺の門下生ともいえる峰をはじめ本田竹曠(key)、村上寛(ds)等もフュージョンというコマーシャルとも見える音楽路線を志向したことに驚きと失望を感じていたものでしたが、今考えてみれば、そもそも日本のみならず本場アメリカでもジャズが衰退したのは、本来人々の心を包み込み楽しさ与え悲しみを癒すことが望まれる音楽を、聴く者の心を置き去りにし演奏テクニックを競い演奏する者だけの興味を優先する方向に傾いてことがその大きな要因だったと思え、こうしたポップな雰囲気一杯のサウンドもジャズの聴衆回帰の結果であり、共に楽しみながら聴くフュージョンとういうサウンドも、そう考えれば本来音楽のごく自然な姿ではないかと思っているところ。


ともあれそのNATIVE SON、活動を始めるや大きな評判を呼び、TV・CMに出演しお茶の間にジャズを浸透させるなどの大活躍を果たし、それと同時に峰の名も日本を代表するサックス奏者として多くの人に知れ渡るようになったのです。

それにしても、この峰等、当時若手精鋭たちのフュージョン路線への選択、結果としてジャズという音楽を身近なものとし、それが、現在海外で活躍する多数の日本人ジャズ・アーティストを生むその起爆剤としての役割を果たすことになった私自身思っているのです。


こうして日本のジャズ・サックス奏者の中心的存在となった峰厚介。
あのNATIVE SONからほぼ40年後に制作された本作品ではどんな姿となっているのか。
この辺で、1曲聴いてみることにいたしましょう。
曲は、峰厚介作曲の”Rias Coast ”です。








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New Yorkで活躍する新進気鋭の日本人ピアニスト;大林武司・Manhattan [音源発掘]

5月は、2回に渡り私にとって久々の良き出会いとなった、ネオ・プログレシッブ・ロックのアーティストを取り上げその作品を聴いて参りましたが、今月は再びいつものジャズ・フィールドに戻ってピアノ・トリオの作品を聴いて行きたいと思います。

そこで、取り上げたのがこの作品。

大林武司 Manhattan.jpg


日本人ピアニスト大林武司の”Manhattan”です。

と言ってもこの人、日本のマスコミにはあまり登場することはない人なので、その名を聞いてもピンとこないという方が多いのではと思うのですが、日本人として初めてジャズ名門レーベルBlue Noteから作品発表したトランぺッターの黒田卓也と同様に、New Yorkを拠点に活躍する新進気鋭のピアニストで、なかでも、大林とドラマーのUlysses Owens Jrを中心に日米若手アーティストによって結成されたNew Century Jazz Quintetの活動で、大きな注目を浴ている今が旬のアーティストなのです。

そもそもこの私が、大林武司を知ったのは、黒田卓也に注目し、その黒田が拠点を置くNew Yorkの若手日本人アーティストの動向を探ってみたところ、みつけたのが大林の在籍するNew Century Jazz Quintetで、その作品を聴いてみたところ、そこで聴いたピアノのプレイの心地よいインパクトに満ちた響きに、これは只者ではないと深く聴き惚れてしまってのこと。

そのこと、どうやら New Century のドラマーであるUlysses Owens Jr.の「彼のピアノはまるでMulgrew Miller のようだ」という評にある通り、もともと1980年代半ばから2013年に亡くなるまで大きな足跡を残した名ピアニスト Millerの大ファンであった私にとって、大林のピアノに知らず知らずのうちに Millerの面影を感じてしまっていたからのようなのですが、そうだとしても彼のタッチの美しさ、構成力に富んだソロの魅力は、Milerとはまた違った側面もありまた格別。

ということで、そうした彼のリーダー作品はないものかと探してみたところ見つけたのが、2016年発表のこの作品。
彼にとっては、初のピアノ・トリオ作品、より彼の音楽性と向き合えると、早速聴いてみることにしたのです。



曲は”World Peace"。
日本の琴の調べにも似た静かなメロディーとバックのメリハリのあるビートとの調和が、心に残るこの演奏、ここには、New Century Jazz Quinteで見せるMulgrew Millerを思わせるプレイとはまた一味違ったで、 日本人ピアニスト大林武司ならではの独自の世界があるように思います。


2008年の活動開始以来、先のNew Century Jazz Quintetのほか、New Yorkを拠点とする黒田卓也(tp)、中村恭士(b)、小川慶太(ds,per)、馬場智章(ts)等、日本人若手アーティストによって結成されたJ-Squadの一員として、そして、MISIAと黒田の主催するTakuya Kuroda, Jose James, MISIA, Terri LyneCarringtonのメンバーとして活躍している大林、その経歴を調べてみると、

1987年広島県広島市出身。2007年 20歳の時にバークリー音楽院へ進学。
翌年師事していたグラミー賞受賞ドラマーTerri Lyne Carringtonのバンドに加入し、プロ活動を開始。
卒業と同時にNew Yorkに活動拠点を移し、NYCの主要ジャズクラブに出演。
2016年には、米フロリダ州ジャクソンビルで毎年開催されているで若手ジャズ・ピアニストの登竜門として知られるジャズピアノの世界コンクールである”Jacksonville Jazz Piano Competition”で日本人初のグランプリを受賞。

という具合。
彼の音楽に加えそうした履歴からも、今後の有望な日本人若手ジャズ・アーティストの一人として大いに注目すべき存在だと思うのです。


さて、こうして経歴を調べているうちに、今度は、New Century Jazz Quintetでの彼の演奏を聴いてみたくたなってきました。
とういことで、またここで1曲聴いてみることにいたしましょう。
曲は、New Century Jazz Quintet 2017年の作品”Soul Conversion”より”James”です。



日本的情緒が漂うメロディに、その心を体現しようと構えるソロをとるフロント二人の欧米人ホーン・奏者の葛藤が見えてくるような微妙なスリル感が漂う演奏。

実はこの曲、N CJQを聴きたくなって、聴いてみたところ、そこで大林の感性が生み出すこの微妙な面白さを発見したということから、この曲を取り上げることにしたもの。

本来のJazzとは異質である空気を注ぎ込み、新たな現代のジャズを生み出している大林武司、今は昨年以来久々に日本に滞在し、自らのピアノでジャズの魅力伝道の旅を続けていることのこと。

そこで、最後は今年の1月に発表されたピアノ・ソロ作品”Visions In Silence”に収められた中の1曲である"Save Your Heart"を聴き、彼の日本と音楽への思いを噛みしめ味わいながら、今回を締め括ることにしたいと思います。





Track listing
1 World Peace
2 Cill My Landlord
3 Heart
4 Cyclic Ridge 2
5 In Walked Bim
6 One For Sonny
7 Untitles Bossa
8 Steel Heelscol 1016
All Compose by 大林武司

Personnel
大林 武司 Takeshi Ohbayashi (piano)
Track 1.5.6.7
中村 恭士 Yasushi Nakamura (bass)
Nate Smith (drums)
Track 2.3.4.8
Tamir Shmerling (bass)
Terri Lyne Carrington (drums)

Releases.
2016/11




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