急速に暮れゆく秋の調べに乗せて;Europe・哀愁のヨーロッパ [名曲名演の散歩道]

ついこの間までの暑さが嘘のような近頃の朝晩の冷え込み。
この急激な気候の変化に、体調を崩してしまったという方も多いのではと思います。

そうした日々、足しげく秋の深まりを感じさせる毎日、その空気に触れていると何となく聴きたくなる曲。
ロックのカテゴリーで語られることの多い曲なのだけど、その哀愁を帯びたそのメロディは、こうした秋の空気にぴったり。

ということで今日の名曲名演の散歩道は、”Europe”。
邦題、哀愁のヨーロッパで知られる、あのCarlos Santanaの作曲によるこの曲。

この曲が発表されたのは、Santanaの7作目のスタジオ作品となった1976年のアルバム、”Amigos”によってでした。
この作品、73年のジョン・マクラフリンと共演以降、ジャズ寄りの路線に傾いていったカルロスが、その名声を確立したラテン・ロックへの回帰を図り、再びヒット・チャートにその名を返り咲かさしめるという成功をもたらしたものなのです。

santana Amigos.jpg


アルバム全体としては、ラテン・ロックの中に、当時流行していたソウル・ダンス・ミュージックのエッセンスを加えたような曲が中心となっていた中、哀愁の漂うサンタナのギーター・インストメンタルによるこの”哀愁のヨーロッパ”は、このアルバムの中ではとくに印象に残るものでしたが、さらに日本ではその哀愁を帯びたメロディが、日本人の感性にぴったりと調和したこともあり、日本でのみでシングル・カットされヒット、その後、ロックの名曲のひとつとして語り継がれていくことになったのでした。



しかし、私個人的にはこの作品、ジャズ・フュージョン的サンタナも気に入っていたこともあり、またラテン・ロックに回帰したと言っても、そこにあるソウル・ダンス・ミュージックのサウンド・カラーに対し、コマーシャルなイメージが強すぎ抵抗を感じたことから、長い間、今一つ好きになれないでいたのです。

そして、この”哀愁のヨーロッパ”も、サンタナ初期の傑作アルバム”天の守護神;原題:Abraxas”に収められていた、サンタナ・バラードの傑作”君に捧げるサンバ;原題Samba Pa Ti”の焼き直し、柳の下にドジョウのように感じ、聴くことを躊躇うようになってしまていたのです。


そうした最初の悪い印象を一掃することができたのは、日本で行われたあるライブでの演奏でした。
世界最高のリズム・セクションに囲まれてのそのプレー、オン・エアされた時に録音して、その後何度も聴き返したその演奏を聴きながら今日のお話を進めて行きたいと思います。





1981年7月、数々の名演奏を生み出した、田園コロシアムで行われたLive Under The Skyのライブ演奏です。
リズム・セクションを務めたのは、60年代のマイルス・ディビスのスーパー・リズム・セクション。
ピアノ、ハービー・ハンコック、ベース、ロン・カーター、ドラム、トニ―・ウィリアムスの3人。

サンタナのギター演奏に終始したオリジナルに対し、こちらはめくるめく変化に富んだソロで聴衆を圧倒し続けてきた3人が、それぞれ圧倒的なパワーでサンタナを鼓舞し続けそのサウンド・カラーを塗り替えて行く。
まさに、ジャズ以上のジャズ、スリル満点の演奏だと思います。

さて、サンタナの来日ライブ・ステージからもう一つ。
サンタナ・バンドにある日本人アーティストがゲスト参加した、その演奏です。



アルト・サックス奏者の渡辺貞夫とのコラボですね。
1992年の来日公演の時の映像です。
このコラボ、以前”僕のリズムを聞いとくれ;原題Oye Como Va"の演奏映像をご紹介(http://hmoyaji.blog.so-net.ne.jp/2012-05-05-12)いたしましたが、これはそのライブの後半に演奏されたもの。

”哀愁のヨーロッパ”、サックスが一体どんな歌を歌うのか、最初これを見た時はまったく想像もつかなかったのですけど、さすがナベサダ。
抒情味溢れる美しいソロを吹き上げています。

後半部で、サンタナがバンドのリズムを変えてソロを返すと、そこからはナベサダ・フュージョンの世界へ。
あたかもナベサダのオリジナル曲であったかのような演奏が繰り広げられています。

それまでのどんな哀愁のヨーロッパとは異なった世界を創り出した、ナベサダのプレーもさることながら、ナベサダの資質を理解し、最良のお膳立てを即興で創り出したサンタナのテクニックも感性も素晴らしい、爽快さを届けてくれる名演だと思います。


.ここまで、共演者を替えたサンタナによる”哀愁のヨーロッパ”紹介させてもらいましたが、次の演奏はそのカバー・ヴァージョン。
キーボードの”哀愁のヨーロッパ”を聴いていただこうかと思います。



Tom Costerの演奏。
しかし、トム・コスターって誰、という方多いかもしれませんね。

この人、この”哀愁のヨーロッパ”のオリジナルが録音された時の、第2期サンタナ・バンドのキー・ボード奏者で、当時のサンタナ・バンドの音楽監督的存在を務めていた方なのです。

ある意味この人の存在が、第1期サンタナ・バンドの熱く官能的世界とは異なった、知的なクールなサンタナ・バンドを作っていたのではないかと思うのですが、この演奏もサンタナの情熱的哀愁とは異なった、静かでクールな哀愁を感じさせてくれています。


そして、次の演奏はこの曲の舞台となっているヨーロッパのミュージシャンによる”哀愁のヨーロッパ”。
さてどんな演奏が聴けるのでしょうか。



European Jazz Trio Feat. Jesse Van Ruller(ギター)の演奏。

ヨーロピアン・ジャズ・トリオの2000年発表の作品”Europe”収められていた演奏です。

この作品、クラッシックの名曲をジャズにアレンジして演奏した作品が多い彼らの作品の中にあって、ポップ、ロック系の曲を集め演奏した一味違ったヨーロピアン・ジャズ・トリオとなっているもの。

”哀愁のヨーロッパ”では、彼ら3人加えギターのジェシ・ヴァン・ルーラーが参加、しっとりと洒落た味わいのヨーロッパを聴かせてくれています。

サンタナの情熱的なギターとは裏腹の、ジェシの抑揚を抑えた哀愁を感じさせるギターが御本家ヨーロッパ人の”哀愁のヨーロッパ”を歌い聴かせてくれてます。



歌う人が変わると大きくその色を変える、この”Europe”。
次は、どんなヨーロッパが生れてくるのか、興味は尽きることはありません。

急速に更けゆく秋、もうそこまで来ている冬の足音。
体調管理に気をつけて、健やかに乗り切ることとしたいものです。


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ミスカラス

様々なバージョンの哀愁のヨーロッパ楽しませて頂きました。

ヨーロッパジャズ・バージョン押しつけがましくなく、サラッとした中にも濃くがあって良いですね。

何故か、サンタナの哀愁のヨーロッパ・・ゲーリー・ムーアのパリの散歩道何かととオーバラップするのですよ。この音の雰囲気はやはり日本人好みですね。

by ミスカラス (2012-11-05 20:31) 

老年蛇銘多親父

ホネツギマンさん、じゃない!! ミスカラスさん

ヨーロッパジャズ・バージョンいいでしょ。
サンタナの艶やかなギターを、ジェシがどうこなすのかなと思ってこのアルバムを買ったのですが、淡々としたギターの響きが実よく、私自身も大変好きな演奏です。

ジェシ、ここ10年ぐらいの間に現れたギタリストの中でトップ・クラスの逸材ではないかと思っているのですけど、どう思いますか。
by 老年蛇銘多親父 (2012-11-06 13:05) 

NO NAME

そうですね。相当に感性が鋭いギタリストだなと感じました。
ともすれば一歩間違えれば、BGMイージリスニングの類になってしまう様な哀愁のヨーロッパ・・見事に演奏してますね。

ホンと良いですよ。


by NO NAME (2012-11-07 19:04) 

ミスカラス

スイマセン。ログインしてなかったです。上のコメント私です。
by ミスカラス (2012-11-07 19:06) 

老年蛇銘多親父

ミスカラスさん

哀愁のヨーロッパ、BGMイージリスニングの類になりがち、確かに!

そういう意味では、トム・コスターの演奏などは質の良いBGMではと思います。

ジェシもそうですけど、一流ジャズマンと共演したサンタナの演奏は、それを聴き応えのあるものにしている、さすがだなと思っています。
by 老年蛇銘多親父 (2012-11-08 07:27) 

kazpapa

ナベサダとの大人の音の応酬いいですね~。
live under the sky の音はCD化されているんですか?
by kazpapa (2012-12-02 18:05) 

老年蛇銘多親父

kazpapaさん

お久しぶりです。
ナベサダ入りのヨーロッパ、かなり気に行っていましてね。
市中に出回っているものではないので、公開してみました。

live under the sky の音源は、この日のハンコックのトリオとウィントン・マルサリスの演奏と合わせて2枚組のCDがあるようなのですけど、私もその一枚目は持っていますが、Amazonにのカタログにはないし、かなり希少なもののようです。

ちなみにここの音源は、私の所蔵テープからのものですけど。

by 老年蛇銘多親父 (2012-12-03 21:50) 

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