閃きが引き会わせてくれた名演:Ron Carter Foursight Stockholm Vol.1,Vol.2 [音源発掘]

コロナの嵐も落ち着いたところで、今年は、お客様への新年の挨拶廻りを再開。

そうした日々の中で、ここ数年、行っていなかった場所に出向き、移動の間、暫く見ていなかった街の些細な風景の変化を見つけながら歩くことを楽しんでいたのですが、そうこうしているうちに気付いてみれば1月も、もう終わり。

しかし、この1ヶ月歩き回ったことで、コロナ禍の間、すっかり運動不足で鈍ってしまっていた体力の方がいささか回復して、私的には2024年幸先の良いスタートが切れたようだと、今は一先ずは安堵しているところなのですが。


そうしたことで気を良くして、1年の始りを前向きに過ごすことが叶った1月、その勢い乗って今回選んだ作品は、


ジャズ史上に輝く、1960年代Miles Davisクインテットのベーシストとして活躍、その後もジャズ界の中核を担い、リーダーとしてまたサイドマンとして多くの名演を残して来た偉大なるベーシストのRon Caterの作品から。

Ron Carter Foursight - Stockholm, Vol. 1.jpg


798747714020.jpg

2018年のストックホルムでのライブを捉えたえた”Ron Carter Foursight Stockholm Vol.1”と”Ron Carter Foursight Stockholm Vol.2”を聴いて頂くことに致しました。

さて、今回の作品のリーダーであるベーシストのRon Carter、1960年代より長きに渡り一線で活躍している偉大なるアーティストなのですけど、いざ彼のリーダー作品というと、私の感じる限りその出来不出来が大きく、私としては長い間、彼の”これだ!”というリーダー作品を決められずにいたのです。

ところが、この意識を変えたのが、2019年、TVで見たギタリストRussell Maloneを加えたカルテットによるライブの演奏。

元よりスリムだったCarterが、80歳という年齢を迎えさらにやせ細った体で、より味わいの増したジャズを演じている様子に接したことで、これなら最晩年を迎えたCarterの作品に長年の思いを満たす作品があるかもしれないと思うようになり、そこから最晩年を迎えたCarterの作品を探してみたところ、これは聴いてみたいと目に止まったがこの作品だったのです。

そうして見つけたこの作品、そこで大きく興味をそそられたのは、なんといっても参加メンバーにが女流ピアニストのRenee Rosnesの名があったこと。
直感的に、Rosnesと今のCarterならば間違いなく聴くべきなにかがあるはずとの閃き感じたことから、早速聴いてみることにしたものなのです。


と年明け早々、こんな按配で聴いたこの作品、なにはともあれ、まずはお聴きいただきその出来を鑑賞して頂くことに致しましょう。

曲は、Vol.2より、Bill Evans,とMiles Davisの手になる”.Flamenco Sketches”です。






Carterのベースに導かれて密に歌い紡ぎ出る、Rosnesの澄んだ音色で鳴るピアノが生み出すエレガントな旋律。
唸り響きつ、サウンドの色合いをコントロールして行くCarterのベースに即座に呼応し最良な旋律を生み出して行くRosnesのピアノ。
そして時には、彼女のピアノがCarterに新たなイマジネーションを与え新たな展開を生み出して行く。二人の緊密なインター・プレイの面白さが一杯の演奏だと思いました。


さて、まずはCarterとRosnesにスポットを当てて語ってみましたけど、その二人のプレイに耳を傾けながら気を引かれたのが、ここで共演しているJimmy Greeneの優しく柔らかな音色で、しっかりと自己の色合い出すも、それを主張しすぎることなく見事に溶け合い、心地良さを届けてくれているテナー・サックスのプレイ。

そこで、今度はそのJimmy Greeneのサックスにスポットを当てて、そのマイルドなプレイに親しんでみることに致しましょう。

曲は、"You and the Night and the Music"です。



Greeneのプレイに親しんでいただきましたけど、実は私もこれまで彼の名はを知らず、この作品で彼のプレイを初めて聴いたのですけど、CaterとRosnesという二人の大物を従え、この二人をしっかり自分のカラーの中に引き込み溶け込んでいる。

そこで、一体何者かと、ちょっとJimmy Greeneについて調べてみたところ、1997年よりレコーディング活動を開始したアーティストで、2014年には彼の8作目のスタジオ作品”Beautiful Life”で、 第58回グラミー賞の最優秀ジャズインストゥルメンタルアルバム賞を獲得するとともに、最優秀編曲賞、楽器、ボーカル賞を獲得したという今旬ののアーティストだとのこと。

ならばと、そのグラミー賞作品も聴いてみたところ、それは、彼のサックスの音色の如く、暖かさと聴き易さを備えたもので、彼のアーティストとして資質の高さを窺わせる作品となっている。

しかし、このグラミー賞作品では彼のコンポーザーとしての側面の方が強く出ているように思え、本作での彼のサックス・プレーを聴いた後でこのグラミー賞作品のプレー聴くと肩透かしを食らったような感じになってしまいます。

ということは、本作でに彼のプレーの持てる要はRon CaterとRenee Rosnesの二人。

それは、この二人の緊張感に満ちたインター・プレイの影響を受け、Jimmy Greeneも持てる力のすべてを発揮したということ。

超大物二人のプレイを糧にして、さりげなく暖か味ある自己サウンドを刻み込んで行くその力量、もう少し聴き込んでみたいア―ティストだと思いました。


さて、こうした感を持ったこの作品、最後の曲は、Caterの名を多くに知らしめた、60年代Miles Davisクインテットの名曲から。
曲は、”Joshua ”で、この北欧の地に残されたCaterのカルテットの演奏を鑑賞することに致しましょう。



今回聴いていただいたこの作品、唸りを上げ空に深い余韻を刻み込むRon Carterのベースに、人を引き付ける強力な音楽の力を感じたと共に、このCarterの共演によるRenee Rosnesプレイは、数ある彼女の作品の中でも、その魅惑的な美しさがさら際立ったものであったように思いました。


何はともあれ、Ron CarterとRenee Rosnesの名があるならばと、直感的に閃き感じて聴き始めたこの作品、その予感的中に、私の2024年の音源発掘、こちらの方も2024年、幸先の良いスタートを切ることが出来たようです。

Track listing
Vol.1
1.Cominando Composed By – Ron Carter
2.Joshua Composed By – Miles Davis, Victor Feldman
3.Little Waltz Composed By – Ron Carter
4.Seguaro Composed By – Ron Carter
5.Cominando Reprise Composed By – Ron Carter
6.Nearly Composed By – Ron Carter
7.You And The Night And The Music Composed By – Arthur Schwartz & Howard Dietz

Vol.2
1.595 Composed By – Ron Carter
2.Mr. Bow Tie Composed By – Ron Carter
3.Flamenco Sketches Composed By – Bill Evans, Miles Davis
4.Seven Steps To Heaven Composed By – Miles Davis, Victor Feldman
5.You Are My Sunshine Composed By – Charles Mitchell , Jimmie Davi6:32
6.Mr. Bow Tie Reprise Composed By – Ron Carter
7.My Funny Valentine Composed By – Richard Rodgers & Lorenz Hart
8.You And The Night And The Music Composed By – Arthur Schwartz & Howard Dietz

Personnel
Acoustic Bass – Ron Carter
Tenor Saxophone – Jimmy Greene
Grand Piano – Renee Rosnes
Drums – Payton Crossley

Recorded
At Fasching, Stockholm November 17, 2018 by Sveriges Radio.




Foursight Quartet..

Foursight Quartet..

  • アーティスト: Carter, Ron
  • 出版社/メーカー: Coast to Coast
  • 発売日: 2019/10/25
  • メディア: CD




Foursight - Stockholm..

Foursight - Stockholm..

  • アーティスト: Carter, Ron
  • 出版社/メーカー: In & Out
  • 発売日: 2021/08/06
  • メディア: CD






******************************
冒頭、街を歩き回り暫く見ていなかった街の風景を楽しんでいたとお話をしましたが、その楽しんだ風景の中でとりわけ気に入っているのがこの写真の風景。

IMG_0209(1)m.jpg

夕暮れ時の、隅田川に架かる永代橋とその背後に立つ佃島の高層ビル群。

この風景、私の好きな東京の風景なのですが、それは.......
この永代橋と佃島、江戸時代、現代の東京という街の形成にあたって大きな役割を果した場所で、そのことから、この川辺に立ちこの景色を見ていると、不思議なことに江戸の昔にタイム・スリップ、その時代の人々の活気溢れる息遣いが聞こえて来るような、そうした気をもたらしてくれる場所だからなのです。

今回訪れた時は、ちょうど夕暮れ時だったということもあって、尚一層の幻影を感じることになってしまったのですが、私をいにしへの世界へ導くこの地、そのいにしへをたどってみると、

まずは、永代橋の奥に見える高層ビル群の立つ佃島。

_DSC9288(1)m.jpg

ここは、関ヶ原の戦いに勝利の後、江戸の町造りを本格化した徳川家康が、街の建設のため急速に増えた江戸の人々の食料となる魚を確保する目的で、摂津の国より漁民をこの地に呼び寄せ移住させ漁労に勤めさせた場所。

ちなみに、誰もが知る佃煮という食べ物は、ここが発祥地で、そもそも売れ残った魚を、漁民の保存携帯食としてあった佃煮に加工して販売したのが始まりだというのです。


そして、高層ビル群の前に架かる永代橋。

_DSC9275(1)m.jpg

現在の橋は、大正15年(1926年)に竣工した橋で、永代橋は都道府県の道路橋として初めて同じ隅田川に架かる勝鬨橋・清洲橋と共に国の重要文化財(建造物)に指定されているもの。

そうした現在の橋も歴史的由緒のあるものなのですが、その大元はさらに古く、最初にこの橋が架けられたのは、徳川第5代将軍徳川綱吉の治世の元禄11年(1698年)のこと。
当時30万人程度といわれた江戸の町の人口のうち、一説には10万人もの人が亡くなったと言われる1657年の明暦の大火の後、それまで、この橋から遥か上流にある千住大橋しかなかったこの川に、新たに両国橋、新大橋に続く4番目の橋として架けられたのがこの橋なのです。

その架橋の狙いは、まず明暦の大火では、火災から逃れて隅田川の川岸に逃げて来た人々が、橋がないため川を渡り猛火から逃れることが出来ず、ここで多くの人が亡くなったという教訓を生かすものだったと共に、この時期、既に超過密状態であった江戸の町を防火対策を盛り込んだ新しい街に作り改めるため。

これまで、隅田川で仕切られていた江戸の町を、この川の東対岸にまで新たに街を開き広げ過密状態を解消し、災害に対処できる街を作ろうとしたためであったようなのです。

このようにして、新たに3つの橋により容易に往来が出来るようになった隅田川東岸、その後は多くの人がここで暮らし大きく発展し、この地からあの葛飾北斎や南総里見八犬伝で知られる滝沢馬琴等を生み出すと共に富岡八幡宮発祥の興行相撲の生誕の地として爛漫たる江戸庶民文化を開花させることになるのです。


永代橋と佃島、こうした歴史を見て行くと現代の東京の礎を築いた重要な文化遺産であることが見えて来るのでは思います。


それにしても、東京をの礎を生み出した二つの遺産が見れるこの場所、その歴史の重みが、これを見る度この私に、江戸の昔の幻影を思い起こさせるのようなのです。


そうした思いにふけっているうちに、気付けばすっかり日が落ちて、永代橋もライト・アップ。

DSCN1133 (1).mJPG.JPG

江戸の人々も家路についた頃、私も、歴史の重みを感じさせる神々しい姿に装いを変えた橋を渡り、名残を惜しみながら家路につくことに致しました。

DSCN1135 (1)m.JPG.JPG






nice!(21)  コメント(2) 
共通テーマ:PLAYLOG

nice! 21

コメント 2

U3

ベースの音を聴いていると心がとても落ち着きます。
by U3 (2024-02-08 22:38) 

老年蛇銘多親父(HM-Oyaji)

U3さん

特にRon Caterのベースの音は、芯が強く粘りつくように聴く者の身を包みこんでくれるような感があるので、そうした感じはさらに強いのかもしれませんね。


by 老年蛇銘多親父(HM-Oyaji) (2024-02-09 15:12) 

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント