フュージョンの源から巣立った不世出のトランぺッター:Lew Soloff・Rainbow Mountain [音源発掘]

前回の記事の最後に、これからは、Blood, Sweat & Tearsで出会ったアーティストたちのその後の軌跡を探して、また聴いてみようかと考えているとお話をいたしましたが、さっそく実行。
今回は、前回のLarry Willisに続くその第2弾。

その作品は、1968年から1973年まで、このBlood, Sweat & Tearsのトランペットを担当したLew Soloffの1999年の作品

Lew Soloff Rainbow Mountain.jpg


”Rainbow Mountain”をご紹介することにしました。


と言ったもののBlood, Sweat & Tears(以下略してBS&T)、その全盛は遡ること半世紀前の1970年代。
そんな昔のことであるので、今では語られることもほぼなく、一体どんなアーティストなのかとお思いの方も少なくはないではと思います。


そこで、まずはそのBS&Tのこと [exclamation×2]

その始まりは、1967年。
ロックが時代をリードするミュージックとしてシーンに躍り出た、所謂ニューロック・エイジ黎明期、アメリカンにおいて、そのけん引役ともいえる存在だったキーボード奏者でソングライターであったAl Kooperによって、3名からなるブラスセクションをレギュラー・メンバー加えた、当時としては斬新な編成のバンドとしてデビューしたのがその始まり。

そのバンド、翌1968年には「”Child Is Father to the Man(邦題;子供は人類の父である )”でレコード・デビューをしたのですが、その直後、バンドの創始者であるAl Kooperが、バンドから追放ブラスセクションの一角も崩れ、バンドはAlの後任のヴォーカルとトランペット・セクションに新たメンバーを迎え再出発。
この年の12月に第2作目となる作品” Blood, Sweat & Tears(邦題;血と汗と涙)”を発表することになります。

そして、大胆にロックとジャズ,さらにはクラシックまでも融合させたこの作品、フュージョンなどという感覚がまだなかったこの時代、当時としてはかなり先進的で大きな反響を呼び、これもってBS&Tは、ブラス・ロック元祖としての地位を確立することになったバンドなのです。

そのこと、さらに、今の視点から見てみると、その試みがその後フュージョンやファンク、ソウル等の現代に続くジャンルを越えた音楽の生み出す礎になっており、忘れ去られたと言えど大きな歴史転換点を生み出す原動力となったバンドだと考えるのです。


それではその忘れられているBS&T、ここで1曲聴いて頂き思い起こしていただくことに致しましょう。
曲は、作品” Blood, Sweat & Tears(邦題;血と汗と涙)”から、彼等最大のヒット曲となった “Spinning Wheel”です。



聴き覚えの感触、いかがだったでしょうか。

ここでトランペット・ソロを取っているのが、今回ご紹介するLew Soloffです。


さてBS&T、この曲の収められた作品” Blood, Sweat & Tears(邦題;血と汗と涙)”以後、メンバーチェンジを繰り返しながら1980年”Nuclear Blues”、計10枚の作品を残しているのですが、その間、その後のジャズ界の礎となる多くの著名ジャズ・アーティストを輩出し続けているのです。

ちなみに、その名を挙げてみると、前回取り上げたLarry Willis、今回のLew Soloffの他に、フュージョン・トランペット界の重鎮であるRandy Breckerや、エレクトリック・ベースの革命児で伝説のフュージョン・バンドのWeather Reportに新しい息吹を吹き込んだベーシストJaco Pastorius、ジャズ・サックスの重鎮として今再評価をされ多くのファン獲得しているJoe Henderson、後にMiles Davisのバンドで活躍するギタリストのMike Stern等々、70年代以降のアメリカ・ジャズ界に名を刻んだ面々の名が連なり見えてくる。

そうしたことからも、このBS&T、今は半ば忘れられた存在となっているも、後のアメリカのジャズ界に与えた影響の大きさが窺え、その名前だけでもご記憶に留めていただければと思うのです。


さて本題のLew Soloff[exclamation]

1969年から1973年のBS&T在籍、それ以降は、Miles Davisの知恵袋として次世代のジャズを生出し提示した巨匠、Gil Evansが率いるMonday Night Orchestra,のサブ・リーダーとしてその責を務めあげ、1984年には、ピアニストのDavid Matthews率いるManhattan Jazz Quinteのトランペッターとして活動、このクィンテットが日本の企画で生まれたものであったことから、日本では母国アメリカ以上にその実力を評価され、その名を轟かすことなったアーティストなのです。


先の、BS&Tのお話が長くなってしまいましたが、この辺で、あらゆるサウンドの中で最良のパーフォマンスを聴かせてくれた名トランぺッターのLew Soloff、そのリーダー作品から1曲を聴いて頂くことに致しましょう。

曲は、アルバムのタイトル曲、”Rainbow Mountain”です。





ロック色の強いサウンド中に、うっすらと感じられる晩年のMiles Davisの影。

Lew Soloffと言う人、ジャズやロックのみならずクラシックまで網羅したBS&Tで育ちということもあってか、そのサウンドによって即座に適正なスタイルでプレイの出来るアーティストだと思うのですが、ここでの Soloffのプレイには、そのサウンドに合わせてどことなくMiles に似た面持ちを見せているように感じます、

BS&T時代から、彼を聴き続けて来た私ですが、こうしたMiles想起スタイルのSoloffをはっきりと聴かされたのは初めてで、あらためて変幻自在にトラペットを操って来た彼の卓越した才能の奥深さを、深く実感することになりました。


まずは、”Rainbow Mountainを聴いて頂いたところで、今回ご紹介したこの作品、全体的に硬派なフュージョンの色が濃い作品なのですが、その中で特に気を引かれたのが、収録曲の中に3曲の70年代ロックの名曲の名があったこと。

その曲とは、Led Zeppelinの”Stairway To Heaven (邦題;天国への階段)、Creedence Clearwater Revival(以下CCR)の”Born On The Bayou”と同じくCCRのカバーでヒットした”.Susie Q ”。

いずれの曲もその時代を体験したものならば知名曲ですが、それがトランペットでどう扱われプレイされているのか想像しがたく、そのあたりことが興味津々。

それを確かめるため今度は、収録された3曲のロック・ナンバーの中から1曲、CCRの大ヒットで知られる、”.Susie Q ”をお聴き頂こうと思います。



CCRの演奏そのままのギタ-・リフに続いて、 John Fogertyのヴォ-カル・パートを綴るLew Soloffのトランペット。

Fogertyの硬質で力強いヴォ-カルが、トランペットでどう表現されているのかと、続けて耳を傾けてみると現れたのは、ワーワー・ミュートによる曲のテーマ。

それは、原曲のイメージを損うことなく、見事にジャズのフォーマットに収めた痛快な演奏[exclamation×2]

さすがSoloff、Gil EvansのMonday Night Orchestra,でサブ・リーダーを務め上げたその手腕が光るトラックだと思いました。


職人芸ともいえる燻銀の技で、絶妙サウンドを生み出すLew Soloffのトランペット、ここまで2曲聴いて頂きましたが、最後は、緊張感ある現代ジャズを聴いて頂くことにいたしましょうしょう。
曲は、SoloffとBS&Tで活動を共にしたサックス奏者Lou Mariniとのソロの継がりが聴きどころの”"Tout Va Lews"”です。



ジャズありフュージョンありロックありとバラエティに富んだ選曲のこの作品。
今回一通り聴き終えて、Manhattan Jazz Quintetでの味のあるオーソドックスなジャズ・プレイに徹しているLew Soloffとはまた違った一面を楽しむことが出来ました。

そして、そこから聴こえた、この作品のところどころにBS&Tの音色が隠されているの感じ、Lew Soloffと言うアーティストの守備範囲の広さ、その原点は、やはりBS&Tだったということを確信することになりました。


いよいよ、来た本格的な夏の日。
その暑さに負けぬよう、若き日聴いたサウンドの今に触れながら、その若やいだ力を借りて気力を漲らせ、この夏の日々を乗り越えていこうと思っています。

皆様方も、厳しい暑さなるという今年の夏、体調を崩さぬよう無事乗り越えてください。


Track listing
1.Frog Legs  Written-By – Mark Egan
2.Rainbow Mountain  Written-By – Delmar Brown
3.Don't Speak   Written-By – Lou Marini
4.Up From The Skies  Written-By – Jimi Hendrix
5.Quiero No Puedo  Written-By – Lou Marin
6.Susie Q   Written-By – Hawkins, Broadwater, Lewis
7.Starmaker  Written-By – Lou Marini
8.Born On The Bayou   Written-By – John Fogerty
9.Stairway To Heaven   Written-By – Page*, Plant*
10.Tout Va Lews  Written-By – Joe Beck

Personnel
Trumpet – Lew Soloff, Miles Evans (2 Only)
Saxophone, Flute – Lou Marini
Organ – Paul Shaffer (2 Only)
Synthesizer – Delmar Brown (2 Only)
Guitar – Hiram Bullock (2 Only), Joe Beck
Bass – Mark Egan, Will Lee (2 Only)
Drums – Danny Gottlieb, Jeff "Tain" Watts (2 Only)

Recorded
January-February 1999. at Clinton Recording Studio, NYC




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SORI

老年蛇銘多親父(HM-Oyaji)さん おはようございます。
確かに聞き覚えのあるような雰囲気の音楽でした。音楽の世界でFusionのジャンヌがあるとは知りませんでした。Fusionという言葉を初めて知ったのはアニメのドラゴンボールでした。Fusionは二人が融合して一人の戦士として戦う技でした。
by SORI (2023-07-21 07:02) 

老年蛇銘多親父(HM-Oyaji)

SORIさん

Fusionという音楽ジャンル、60年代ロックにお株奪われてしまい衰退気味だったジャズが、新境地を切り開くべく
ロックやソウル、クラシックなどのジャンルと融合して生んだ音楽なのです。

そして、70年代半ば頃から、こうした音楽がFusionと呼ばれるようになって行ったという訳なのです。







by 老年蛇銘多親父(HM-Oyaji) (2023-07-23 15:27) 

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