秋の夜長はピアノ・トリオで:Bill Evans Trio '64 [音源発掘]

記録的な猛暑が続いた今年の夏。

しかし、ここ来てようやく朝夕の風に秋の訪れが感じられるようになった昨今。
長らく待ち続けていた爽やかな風の流れが愛しい秋の夜長の到来。

それは、ゆっくりと音楽を楽しむには最高の季節!!

となると、無性に聴きたくなってしまうのは、清涼かつ繊細な響きを宿したピアノ・トリオの音楽。

そして、そうしたピアノ・トリオというと真っ先に思い浮かぶのは、没後40年を過ぎた今も、ジャズ・ファンだけではなく、クラシック・サイドからも愛され影響与え続けているピアニストのBill Evans.。
 
そうした思いの中で、今回選んだのは、数あるBill Evansの作品の中から、ここのところずっと聴いているこの作品、

bill evans trio 64.jpg


1964年制作の作品 ”Trio '64”と致しました。。


さて、この選択、Bill Evans.のピアノ・トリオ作品と言えば、60年代初めのScott LaFaro(ベース)、Paul Motian(ドラムス)のトリオによる”Portrait in Jazz”や”Waltz for Debby”か、ベースがEddie Gómezとなった68年の”Bill Evans at the Montreux Jazz Festival”などの諸作品ではないのと思われるかもしれませんけど........。

確かに私としても、これまで、これらの作品に加え、Evansの最晩年、ベースにMarc Johnsonを迎えたトリオの諸作品が好きで、そうした作品を中心に聴いて来たのですけど、今回はこれまで腰を据えて聴いたことのなかった、1961年 突然、盟友Scott LaFaroを交通事故で失い失意のどん底に突き落とされてから、1967年Eddie Gómezと出会うまでのEvansの作品を中心に聴いてみようと考え、いろいろ見繕ったところ、コレダッ!!!と感じ手にしたのがこの作品。

その訳は、Evansのトリオに、この作品に限り参加しているベーシストのGary Peacockの存在。

Bill Evans のピアノ・トリオというとその醍醐味は、従来のピアノ・トリオはベースやドラムスはあくまでもリズムを刻むためのものであったのに対し、それまでのピアノ・トリオとは一線を画すまったく新しいそのスタイル。

テーマのコード進行に従ってピアノ・ベース・ドラムスの三者がそれぞれ独創的な即興演奏を奏で干渉・刺激しあいサウンドを築き上げて行く、いわゆるインター・プレイと呼ばれる演奏スタイルが最大の聴きどころなのですが、それは、各演奏者個々にかなり高度な演奏テクニックが求められる演奏スタイル。

それまで、それを可能にし、三位一体と言われるサウンドを作り出す原動力となっていたのが天性の資質を備えたベーシストのScott LaFaroだったのですが、1961年に突然訪れたLaFaroとの別れ。

その後、Evansは LaFaroの後継としてChuck Israels迎えトリオによる活動を再開するも、Israelsに天才LaFaroの成したその聖域の再生は望むべくもなく、この時期のEvansトリオにおいては、LaFaroと築いた緊密なインター・プレイの世界は希薄となってしまっていたのです。

そうしたEvanトリオ不遇の時期にレコーディングされたのが、ベースにGary Peacockを迎えたこの作品。

Gary Peacockというべーシスト、超絶テクニックの持主で、この時Scott LaFaroの再来と言われていたアーティスト。
そのうえ、私にとっては、1980年代以降、Keith JarrettのStandards Trioや菊池雅章のTethered Moonで、そのプレイを聴き親しみ楽しんで来た、お気入りのベーシスト。

果たして、Evansとどんな対話を交わしていたのか、ここで目にしたのが百年目、腹を据えてじっくり聴き込んでみることにしたものなのです。

それでは、その音楽、ご一緒に聴き始めることに致しましょう。




曲は、”Little Lulu”でした。

ベースにPeacockを迎えて、EvansもLaFaroがいた時の勢いを取り戻したかの感がある演奏。
LaFaroと共にEvansを支えて来た、この作品の後、Evans の下を去るドラムスのPaul Motian。
その彼の、LaFaroがいた時のようなビビッドなドラム・ワークも印象的です。

そのMotian、私はEvansのトリオ後、彼が参加したKeith Jarrettのカルテットのライブでそのプレイに直に接したのですけど、その時の印象は、妙にドタバタとしたドラムを叩く人だなという感じで、どうしてこの人がジャズ界で高い評価を得ているのかわからないでいたのです。
しかし、今回1959年以降のEvansの作品を聴いていてみて、ここだという時に一打でそのサウンドの色彩を明瞭にし、場合によってその流れを変えてしまうほどの、音楽的センス抜群のドラマーであることを知り、三位一体における彼のプレイの重要性を認識することになりました。

さて、秋らしい空気の中で、いろいろ新たなことを教えてくれるこの作品。
続いて聴いていただくは、X’masにはちょっと早いけど、誰もが知るX’masソング。
EvansとPeacockの絶妙な掛け合いをお楽しみください。



曲は、”Santa Claus Is Coming To Town"。

唸りをあげEvansに迫り行くPeacockのベース。
まるでギターのようにベースを弾き操るソロも圧巻。

今でこそ、このPeacockのようなベース・プレイは当たり前ですけれど、半世紀近く前のこの時代には、こうしたプレイをするベーシストは大変珍しく、LaFaroとはまた違うPeacockの凄みを感じることになりました。

そして、もう一つ気付かされたLaFaroとの違い。
それは、演奏の中でのEvansの描く曲想と、Peacockの描く曲想の一瞬の微妙なズレ。
EvansとLaFaro場合、同時にインプロヴィゼーションを奏でていても驚くべくほどの一体感を保ち、そこに一種のスリルがあったのですが、Peacockの場合は、時折Evansの曲想と異なった一音が発せられ、それがまた大きなスリルを生んでいるという違い。

この辺り、この作品のレコデーィングの直前に、アヴァンギャルト・ジャズのAlbert Aylerのレコーディングに参加していること、また、後の彼のリーダー作品の中にアヴァンギャルト的な指向があるものがあることを考えると、そのズレは彼本来の持てる資質から来るものであり、そのことが新鮮なスリルを生んでいるのだと思えて来るのです。

ちょっと、話が難しくなってしまいましたが、このトリオの演奏、この締めの曲でその深み、味わっていただくことに致しましょう。
曲は、エレガントなバラード曲で、”"Everything Happens To Me"です。



Evansのピアノの美しさがが際立つこの演奏、秋の夜長に打ってつけの演奏ですね。

さて、こうして聴いて来た、Bill Evans。
今回は、名高いレギュラー・トリオのものではない作品を聴いてみましたが、そこには、レギュラー・トリオ作品とは、また違った味覚のEvansに出会うことなりました。

おかげで今は、Harold Land 、Kenny Burrell、Ray Brown、Philly Joe Jones等、1950年代を代表するバッパーを迎えた1976年の作品”Quintessence”を聴いているところ。

やはり、Bill Evansは奥が深い。
予報によれば、10月には秋らしい日々が訪れるとのこと。
その夜長、じっくりとその真髄を探求してみることに致しました。




Track listing
1.Little Lulu (Kaye, Lippman, Wise)
2.A Sleepin' Bee (Arlen, Capote)
3.Always (Berlin)
4.Santa Claus Is Coming to Town (Coots, Gillespie)
5.I'll See You Again (Coward)
5.For Heaven's Sake (Elise Bretton, Edwards, Donald Meyer)
6.Dancing in the Dark (Dietz, Schwartz)
8.Everything Happens to Me (Adair, Dennis)

Personnel
Bill Evans – piano
Gary Peacock – double bass
Paul Motian – drums

Recorded
December 18, 1963
Webster Hall, New York City


そよぐ風に感じる秋。
しかし、最も秋の訪れを感じさせてくれるのは.................

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           月!

これは、今年の8/31のスーパームーンの時の月の姿ですが、まだまだ強烈な夏の日が続いていたこの時期。
しかし、この月が出たこの頃から、僅かにも朝夕に秋の風を感じられるようになって来て!!!!


先日、夜空を見上げたら.............

IMG_9716hupm.jpg


たなびく秋の雲をかき分け光輝く半月が
そっと何かを歌いかけて来るような。

長すぎた今年の夏。それでも季節はうつろい行く、四季ある日本の心の豊かさ源の心、しみじみと感じ入ることになりました。




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Portrait in Jazz by Bill Evans

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