地味ではあるも1950年代ジャズといえばこの人あり:kenny Dorham・Short Story [音源発掘]

前回の記事の最後に、「この調子では、この夏はどっぶりと50年代ジャズに浸ることになってしまいそう。」と書きましたけど、以来50年代のジャズ・サウンドの心地良さが耳に残ってしまい、おかげで我がライブラリにある50年代のジャズ作品を物色し、かたっぱしから聴きまくったかと思えば、気になればそのアーティストの生い立ちを辿り、未試聴の作品を探し出し聴いてみたり。

そこで、今回の作品は、そうしたことをしながら探し見つけた作品から、昨今、何度も繰り返して聴いている、この作品をご一緒に聴いて行くことにいたしました。

kenny Dorham Short Story.jpg

その作品は、トランペッターkenny Dorham、1963年制作の” Short Story”。

その作品の主役のkenny Dorhamと言う人、ジャズに大きな影響与え、その在り方を大きく動かすことになったアーティストではないのですけど、50年代半ばに出現しその後ジャズをリードすることになるThe Jazz Messengersの初代トランぺッターであり、Charlie ParkerやThelonious Monk, Max Roach等、ジャズ・ジャイアントと呼ばれる人たちの下でサイド・マンとして数多くのレコーディングに参加、その軌跡を残す共に、彼自身もリーダーとして”Afro-Cuban”や”Quiet Kenny(邦題;静かなるケニー)”等の名作を残している同時代を代表するトランぺッター。

しかし、50年代と言うと、トランぺッターとしてはMiles DavisやClifford Brownが華々しく活躍し脚光を浴びていた時期。

それに比べるとDorhamの存在は、一歩引っ込んだ感じで人気の方は今一つ、世間では長らく1.5流のアーティストだとの評価を受けて来たというのです。

しかし、そうした世間の評価、私がDorhamに注目するようになったのが、1940年代Miles Davisの後任としてCharlie Parker クインテットに参加した演奏だったこともあって、私にとっては、地味ではあるけれどその人柄を感じさせる暖かく堅実なプレイに、当時のどこか稚拙な感じがあったMiles Davisにはない安定感を感じ、以後ずっと好感を持ち聴き続けて来た-アーティスト。

そうしたことから、その良さを再度見つめ直したいと、50年代のジャズに取り憑かれた今回、50年代と言えば真っ先にkenny Dorhamだと、それまで聴いていなかった彼の作品を物色、そこで出くわしたのがこの作品だったのです。


こうして出会ったこの作品、私がまず気を引かれたのは、ライブであるこの作品のレコ-ディングが行われた場所。

それは、デンマークはコペルハーゲンにある"Jazzhus Montmartre"と言うジャズハウスなのですけど、この”Montmartre"、1960年代アメリカのジャズの潮流が大きく変わり、それまでの隆盛をきわめたバップが衰退する中、多くのアメリカのバップ世代のアーティストたちが渡欧、多くのバップの名演が残されたという、欧州におけるジャズの聖地ともなっている場所でだったということ。

そして、さらに興味を引かれたのはDorhamをサポートするメンバーの顔ぶれ。
ピアノには、欧州のジャズを世界に広めたという評価のあるスペイン出身の盲目のピアニストTete Montoliu、そして、ベースとドラムには、後にピアニストのKenny Drewと共にこの"Jazzhus Montmartre"のハウス・ピアノ・トリオのメンバーとして活躍するベーシストののNiels-Henning Orsted PedersenとドラムのAlex Rielの名があったこと。

と、ここまで来ると、かなり以前より長き渡りこの”Montmartre”でのKenny DrewのトリオとDextor GordonやJohnny Griffin等のセッションの熱いサウンドに親しみ愛聴しで来た私にとっては、居ても立ってもいられない気持ち。

これは聴かずには終われないという様になってしまった訳ですが、それはともかく、大きな人気を博し高い評価を得た脚光を浴びたライバルたちに対し、いささか地味ではあるもいぶし銀の味わいがあると、現在に至るまで根強いファンを引き付けて来たkenny Dorhamというアーティスト。

この作品は、アメリカを離れヨーロッパの地という曇りない環境で、それまで過小評価気味であったDorhamのライバルたちにも勝るとも劣らない真の力量を見せつけた一枚だと思うのです。


それでは、待望の彼の真の姿を宿したサウンド、ここで皆さま方にも聴いて頂くことに致しましょう。





曲は、“Short Story”でした。

これまでのアメリカで制作されて来た作品の中のDorhamとは違う、アグレッシッブさが前面に浮き上がった感じのDorham。
後に、同じ”Montmartre”でのライブを残しているDextor GordonやJohnny Griffinにも、アメリカでのレコーディングは聴けなかった新鮮な瑞々しさを感じましたが、このDorhamの演奏にもそうした新鮮な瑞々しさが感じられます。

そのDorhamの変化、それは、Tete Montoliu以下のヨーロッパのリズム陣の貢献もさることながら、第一次世界大戦の時、ヨーロッパに派遣されたアメリカの黒人兵によってこの地に持ち込まれたというジャズという音楽。
そのサウンドに衝撃を受け畏敬の念を醸成して来たそのヨーロッパの音楽環境風土が、アメリカから訪れたDorhamはじめ他のアーティスたちに新たな創造力を芽生えさせ、その結果、こうした演奏が生まれたのだと、そんなこと考えてしまいました。


さて、1曲聴いて頂いたところで、今度はこの作品の中で私が最も気に入った演奏を1曲。
多くのアーティストが取り上げ演奏を残しているこの名曲に、耳を傾けて頂くこと致しましょう。



"Manhã de Carnaval (邦題;カーニバルの朝)”でした。

感傷的な哀愁を感じさせる演奏が多い中で、それらとは一線を画す、溌剌とした前向きな哀愁を感じさせるDorhamの"Manhã de Carnaval ”。

そこにDorhamの、ヨーロッパで演奏したことで得た、解放感と喜びの心を垣間見たような気がします。

今回は、ソロ・プレイをご紹介しませんでしたけど、もう一つこの作品で注目すべきは、ベーシストのNiels-Henning Orsted Pedersenのプレイ。
この人、驚異のテクニックの持主で、後に Oscar PetersonそしてKenny Drewのピアノ・トリオの一員として活躍、アメリカのダウン・ビートにおいて年間最優秀ベーシストに3回選ばれた程の人なのですけど、この作品がレコーディングされたこの時は、まだ19歳の若さ。

後年のプレイと比べるといささか物足りなさもありますが、既にそのしなやかなベース・ワークには将来を感じさせるものがある。

Dorhamだけではなく、そうしたところにもこの作品の面白さがあるように思います。

それにしても、1972年48歳の若さで他界したkenny Dorham。
この作品を聴きながら、あと10年、伝統的なアコースティック・ジャズが見直される時まで生きいてくれたら、どんな演奏を聴かせてくれだろうか。

真摯のジャズと向き合い続けた彼のこと、きっと、多くの人の心に残る新鮮ないぶし銀の味わいを残してくれただろうと、忘れかけていたその大きさを認識することになりました。

そして、アドリブという即興演奏を核に持つジャズという音楽。
時、所、人が変われば同じ曲でも、それぞれが異次元の世界を生み出し、そこへ導いてくれる。

この作品は、そうしたジャズを魅力、面白さを語ってくれる貴重な記録の一つだと思いました。


Track listing
1.Short Story
2.Bye Bye Blackbird
3Manha De Carnaval -
4.he Touch Of Your Lips
5.My Funny Valentineha De Carnaval

Personnel
Kenny Dorham-trumpet
Allan Botschinsky-flugelhorn
Tete Montoliu- piano
Niels-Henning Orsted Pedersen- bass
Alex Riel-drums

Recorded
"Jazzhus Montmartre", Copenhagen, Denmark, December 19, 1963

異常な暑さに加え、立て続けに大切なお盆休みに日本を襲う停滞台風。
人間の欲望がもたらした結果だとは言え、昔とは異なる自然の猛威にはいささか閉口気味。

ただ、コロナの猛威も一先ず落ち着き、今年の夏は各地で夏の風物詩、花火大会が開催されたされたことは心の救い。
我家の周りでも自衛隊の夏祭りが再開され、花火大会が再開。

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以前に比べ、ちょっとショボイ感もありましたが、我家でくつろぎながら見ることの出来る花火、ゆっくりと晩酌をしながら楽しませていただきました。

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コメント 4

mk1sp

ケニー・ドーハムは初めて知りました。
力強いトランペットですね、でも、ピリピリ感はなく安定している、良い具合にバランスしている感じが、良いですね♪
by mk1sp (2023-08-16 16:27) 

老年蛇銘多親父(HM-Oyaji)

mk1spさん

初めて知った方に、Dorhamの良さを感じていただき嬉しく思ています。

Dorhamと言えば日本では”静かなるケニー”が、真っ先に上がると思うのですが、確かに、日本人の心の琴線にふれる良い作品ではあるも、Dorhamの本来の味とは違うように感じ、この作品を取り上げさせていただきました。

とは言っても”静かなるケニー”は、Dorhamの渋さが際立つ作品。

本作と比べ聴いて伊熱田抱ければと思います。



by 老年蛇銘多親父(HM-Oyaji) (2023-08-17 16:28) 

SORI

老年蛇銘多親父(HM-Oyaji)さん おはようございます。
50年代のジャズを聴かれているとはすばらしいです。ジヤズにはさほど縁がなかったのですが、31年前にシカゴに行きはじめて、そんな中でジャズ演奏している小さなお店に行く機会が何度かありました。その雰囲気に、はまったことが思い出として残っています。
by SORI (2023-08-22 07:21) 

老年蛇銘多親父(HM-Oyaji)

SORIさん

シカゴは、ニューオリンズで生まれたジャズが発展した所。
そこで聴くジャズは、ニューヨークで育った50年代モダン・ジャズとまた違った味わいあっていいでしょうね。

そのシカゴでの思い出に浸りながら、ジャズの面白さ、楽しんでいただければと思います。

by 老年蛇銘多親父(HM-Oyaji) (2023-08-25 16:04) 

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