突如の代役で盛大な拍手 Stanley Cowell:Illusion Suite&Musa [音源発掘]

さて今回も、前回に引き続き忘れかけられているピアニスト。

そのピアニストの名は、Stanley Cowell。
前回のバイラークの場合、相棒にマイルスのバンドにもいた名サックス奏者のデイブ・リーブマンがいたことから、彼のコンボでの演奏を耳にした方もいるのではと思うのですが、こちらはその相棒も忘れかけられた存在になっていしまっている。

今ではかなりマイナーな存在かもしれませんが、私の好きなピアニストの一人としてここに取り上げさせていただきました。


私が彼のピアノを知ったのは、ジャズもフュージョンサウンドが脚光浴び始めた1974年のことでした。
当時、エレクトリックサウンドがもてはやされる中、アコースティックな最新ジャズを求めていた私が、友人の勧めで聴いたのが、ニューヨークの若獅子と呼ばれ、この頃台頭著しかったトランペッターのChares Tolliverでした。

そして、勧められるままに聴いたこのサウンド、その、アコースティックであるのに8ビートを取り入れた乗りの良いリズム、親しみやすいメロディ・ライン がしかりと脳裏に刻まれてしまったのでした。



トリバーの1970年の作品”Music INC”

この当時、トリバーが組んでいた双頭リーダーによるこのコンボで、ピアニストとしてトリバーの相棒役を務めていたのが、スタンリー・カウウェルだったのです。

そして、お聴きいただいたこの曲”Abscretions”は、そのカウウェルの手によるもの。


さて、私がカウウェルの演奏を生で聴いたのは、友人から”Music INC”を聴かせてもらってから間もなくことでした。
それは、本当に運が良かったとしか言いようのない出来事だったのです。


おりしもこの年、来日することとなったチャールス・トリバー、この時、既にカウウェルはこのコンボを去っていたのですが、レコードで聴いたトリバーのトランペットサウンドの余韻も醒めやらない時期であり、早速友人とコンサートチケットを手に入れ会場に向かったのです。

やがて開演となり、司会者の悠雅彦が登場、ドラム。ベースの順にメンバーを呼び出しのですが、ピアノのところへ来ると、ピアニストのジョン・ヒックスが突如来れなくなったと言うのです。

一瞬の沈黙、ピアノレスで演奏するのかとの思いが走る中、代わってと名を告げられたのがスタンリー・カウウェル。
全く予期していなかった人の登場に、盛大な拍手が沸き起こり、会場は観衆の喜び満ちた熱気に包まれたのでした。

そして、そのかっての盟友トリバーとの演奏も、スリルに満ちた素晴らしいもの、ほとんどの観衆の目がカウウェルのピアノに釘付けになっていたのでした。



それでは、そうした70年代人気絶頂期のカウウェルの代表的作品から1曲。
曲は、72年制作の作品”Illusion Suite”(邦題:幻想組曲)から”Maimoun” です。



この作品、チック・コリアの名盤”リターン・トゥ・フォーエバー”で名を上げたベーシスト、スタンリー・クラークとの共演と、そのコリアやキース・ジャレットの作品を当時積極的に制作していたECMレコードからのものとして、評判を呼んだものでした。


カウウェルのピアノは、60年代モダン・メインストリームの中で語られていることが多いのですが、この60年代モダン・メインストリームのピアニストというとその多くがビル・エヴァンスの系統に属す人が多い中で、彼はそのもう一方の雄であるマッコイ・ターナーの系譜に属すピアニストではないかと思うのです。

と言いますのも、彼のピアノにはエヴァンスのクールで洗練されたピアノとはまた違った、黒人特有の熱き情念のようなものが感じられるからなのです。
そして、そこにマッコイとの相似性が見えるのですが、彼の場合、さらにそこに都会的な洗練さがあるような印象を受けるのです。


それでは、そうした彼の特徴を感じさせる演奏を1曲。
1973年制作のソロ作品”Musa”から”Equipoise”をどうぞ。



1999年以降、作品が途絶えているカウウェル。
彼の80年代に入り落着きと渋さが加わった演奏も魅力的ですが、70年代に生の彼を聴いた私にとって、その頃の若さに満ちたエネルギッシュなプレーは忘れられないものになっています。

そして、そのオリジナル曲の親しみのあるメロディの数々。
こういうピアニストもいることを、ぜひ知っていただきたいと思います。

Stanley Cowell.jpg




≪Illusion Suite≫

Track listing

1.Maimoun
2.Ibn Mukhtarr Musutapha
3.Cal Massey
4.Miss Viki
5.Emil Danenberg
6.Astral Spiritual

Personnel

Stanley Cowell Piano
Stanley Clarke Bass
Jimmy Hopps Drums

Recorded

November 29, 1972 at Sound Ideas Studio, New York



≪Musa≫

Track listing

1.Abscretions
2.Equipoise
3.Prayer For Peace
4.Emil Danenberg
5.Maimoun
6.Travelin' Man
7.Departure #1
8.Departure #2
9.Sweet Song

Personnel

Stanley Cowell (Piano, Electric Piano, Kalimba [African Thumb Piano])

Recorded

December 10th and 11th, 1973.


それでは最後に、最初に聴いていただいた”Abscretions”、カウウェルのソロ・ピアノでお楽しみください。









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コメント 3

マチャ

とても貴重な瞬間に立ち会われたのですね。
by マチャ (2011-07-15 17:56) 

老年蛇銘多親父

マチャさん

今思えば、カウウェルを招聘したいという、この日、司会をしていたジャズ評論家の悠雅彦さん熱意の結果だと思うのですが、その場に居合わせたことは、本当にラッキーでしたね
by 老年蛇銘多親父 (2011-07-21 20:48) 

老年蛇銘多親父

podpodさん
うつマモルさん
Markさん
ねこのめさん
せいじさん
かなっぺさん

niceありがとうございます。
しかし。カウウェル、やはりマイナーだったかな。
いいピアニストなのですけどね~~。
by 老年蛇銘多親父 (2011-07-30 13:18) 

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