遅すぎる春を迎えに:The Shadow Of Your Smile・いそしぎ [名曲名演の散歩道]

例年に比べ遅い春の訪れ。

しかし、日中の日射しは日々力強さを増し,春がそこまで来ていることを感じさせてくれているるような陽気が顔をだすようになった今日この頃。
先日、そんな日射しの中、音楽を聴きながら屋外を歩いていると、時折吹きつける柔らかく心地よい風に春の臭いを感じたのですが、その時聴こえていた音楽が、その雰囲気をさらに引き立て、春のやさしく穏やかな味わいを、さらに深く感じさせてくれていたのでした。

そこで、今回の名曲名演の散歩道は、その春を感じさせてくれた曲の”The Shaow Of Smile:いそしぎ”

この曲、ボサノバの名曲と思っている方も多いのではと思うのですけど、元は、映画の主題曲なのです。

その映画は、"いそしぎ;原題 The Sandpiper”、1965年、エリザベス・テーラー主演のアメリカ映画です。

映画 いそしぎ.jpg


その映画、wikiの説明によれば、

【自由な心を持つ美しい女流画家と、妻子ある学校長との半年間の恋を描くメロドラマ。題名の『いそしぎ』は、ヒロインが海岸で保護した幼鳥の種名(磯鷸)である。羽の折れた幼鳥をヒロインが手当てし、大空へ飛び立たせるエピソードは、登場人物の心情の変化を象徴している。】

とあるのですが。


私も、ずいぶん昔にこの映画TVで見たことがあるのですけど、テイラーが演じる女流画家と、怪我をした幼鳥のことはうっすらと覚えているが、そのほかのストーリーはほとんど覚えていない。
妻子ある学校長との恋といわれれば、確かそんな展開があったような気もするし、というところなです。

そのこと、どうもこの映画、この序幕部分の荒々しさを垣間見せる海の映像と、そのバックで流れる穏やかな主題曲とのコントラスト、そのインパクトが余りにも強すぎて、そのあとに続く肝心のストーリーの存在が希薄になってしまっていることに要因があるように思えるのです。

裏返せば、主題曲の素晴らしさに映画が負けている。
事実、映画よりもこの主題曲、その後フランク·シナトラ、バーブラ·ストライサンド、シャーリー·バッシー、アンディ·ウィリアムス、コニー·フランシス 等、超大物アーティストによって歌われていることから考えても、そう言わざるを得ないものがあるような気がします。


そうしたこの名曲、こうした大物アーティストの演奏以外にも多くの個性的な演奏がある。

ということで、今回も、そんな演奏のいくつかを取り上げながら、またお話を進めて行くことにしたいと思います。





それでは、まず最初はオリジナルの映画ヴァージョンから、初めてみることにいたしましょう。

(その映像は、こちら→http://youtu.be/bGZXMpOkoso

ゆったりとした抒情的なバラード演奏。
波の音、鳥の泣鳴き声までが音楽の一部のように聴こえてくる、映像との一体感を感じるサウンドだと思います。


しかし、この曲どちらかというとよく耳にするのは、ボサノバ・タッチの演奏だと思うのですが、お次はそのボサノバ・タッチの演奏。

ボサノバの女王、Astrud Gilbertoによる演奏を聴いてみようかと思います。



The Shaow Of Smile.jpg


この演奏、この映画公開されたと同じ年にリリースされたものですが、その後、ボサノバのリズムにて演奏されることが多くなったこの曲の元祖がこれなのです。

ボサノバのリズムに乗せることで、ちょと暗さが残る元ヴァージョンとはまた違った、暖か味と憂いを感じさせる、そんな演奏に仕上がっている、さすがボサノバの女王というところじゃないかと思います。


さて、私が初めてこの曲を聴いたのは、アンディ・ウィリアムスの歌唱(この演奏はこちら→http://www.youtube.com/watch?v=fmUeHIF9gAI)だったのですが、私自身、当時台頭するロックのファンだったこともあり、その時はこの歌唱、どうも甘過ぎて肌に合わず、曲自体もそれほどいいとは感じなかったのです。

私が、この曲に惹かれようになったのは、それから数年後、友人のところで聴いたフリー・ジャズの作品によってでした。

その作品は、テナー・サックスの巨匠ジョン・コルトレーンの志を強く受けたサックス奏者のArchie Shepp、その彼の”Live At The Donaueschingen Music Festival”。

LPのA面B面を通じて”One For The Trane ”1曲というこの作品、各楽器が互いに咆哮しあう混沌とした無調の前衛音楽なのですが、その暴力的ともいえる咆哮の合間に聴こえて来た、シェップの吹く”いそしぎ”のメロディに安らぎとフリーの激しさの裏に隠された憂いを感じ、以来この曲に惹かれるようになってしまったのでした。

そこで、そのアーチー・シェップ、1986年作品”True Ballads”の中でもこの曲を演奏しているので、その演奏を聴いてみたいと思います。



少し変った”いそしぎ”ではないかと思います。
ボソボソと語る、哀愁の漂うシェップのテナー、何故かまた聴きたくなる不思議な余韻が残る演奏ですね。

少し変わった”いそしぎ”の次は、ヴァイブラフォンによる”いそしぎ”。
モダン・ジャズ・カルテットのヴァイブ奏者として名を馳せた、ヴァイブの巨匠 Milt Jacksonの演奏で、1967年の作品”Born Free"収められているもの。
ミルトの作品としては、レアな作品かもしれませんが、ヴァイブの音色で聴くこの曲のメロディの心地よさを味わっていただきたく載せてみました。



Born Free  Milt Jackson.jpg


波間にやさしく降りそ注ぐ陽の光が、その動きに合わせきらきらと淡い輝きを放っているような、そんな感じがしませんか。
ミルトの後を引き継ぐ、波の上を静かに吹きぬけていく風のようなジミー・ヒースのテナーも、また印象的です。

そして、今度は暖かさを感じる”いそしぎ”。
以前、”ファンタジー・ワールドからの招待状: When You Wish Upon A Star ”で紹介したKen Peplowski。
この曲でも、暖か味のある演奏を聴かせてくれています。



このKen Peplowskiの”いそしぎ”、テナー・サックス ヴァージョンもあるのですけど、どちらかというとクラリネット ヴァージョンの方がいい。
やはり、それは、クラリネットという楽器を作っている、木のやさしい温もりが醸し出す独特な音世界ということなのかもしれません。



ところで、冒頭の春を感じさせてくれた”いそしぎ”の演奏はどれかって??
実はそれ、まだ紹介していなのです。

その演奏は日本人によるもの。

ならば渡辺貞夫さん?

渡辺貞夫さんの演奏、以前紹介したアル・クル―との共演、これも私の好きな”いそしぎ”の一つですが、それではなくて、あの時聴こえて来たのは、この演奏。



本田竹曠のピアノ・トリオによる”いそしぎ”
1985年のLive アルバム”My Funny Valentine”からの演奏です。

それにしても、この”いそしぎ”、初めは2、3の演奏を紹介して終わるつもりだったのですが、書いているうちに次から次へと名演が湧きでてくる。

おかげでこんなに長くなってしまいましたけど、どの演奏もその演奏者の個性溢れるものばかり。
演奏者のチャレンジ・スピリットを刺激する優れた素材、それが今も多くのアーティストに演奏され続けている、この曲の持つ魅力なのかもしれません。


それでは、最後に大御所Sarah Vaughanの歌唱を聴きながら、そこまで来ている春を迎えに行くことにいたしましょう。



sarah vaughan popular vocal hits.jpg



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ヒサ

僕もアンディ・ウィリアムスの曲から入っていきましたけど、
声の甘さにうっとり派です(笑)

ご紹介頂いた演奏はどれも素晴らしいですけど、
一番衝撃を受けたのは本田竹広さんでした。
すばらしいジャズピアノ演奏ですね。

思わずAmazonでCDを3枚もポチっとしてしまいました(;・∀・)
(よく知りませんけど、評価の高かったThis is hondaと
 My funny valentine, In a centimental moodです)

ご紹介ありがとうございました<(_ _)>

by ヒサ (2012-03-31 11:31) 

老年蛇銘多親父

ヒサさん

実は本田竹曠の演奏、いろいろな演奏を貼りつけ過ぎたので載せるのやめようかとも思ったのですけど、気に入っていただけ載せて良かったと思っています。

ポチっとした3枚のCD、This Is Hondaを筆頭に、本田竹曠のベスト3と言われているもの。

以前は手に入れるのが難しかったものばかりで、This Is Hondaなどは、5年間探し求めたという思い出があります。
by 老年蛇銘多親父 (2012-03-31 13:34) 

老年蛇銘多親父

(。・_・。)2kさん 初めまして


ねこのめさん
かなっぺ さん
せいじ さん
yuzman1953 さん
ばん さん
マチャ さん
siroyagi2 さん
ヒサ さん
TAMASANN さん
mk1spさん

みなさんありがとうございます。
しかし、この曲を演奏、本当に多くのものがあって、どの演奏を取り上げるかかなり悩みました。

なんとか絞ってみたのですけど、絞り切れず7つにもなってしまいました。


by 老年蛇銘多親父 (2012-04-21 10:02) 

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