時の流れを越え現代に花開いた名曲 [名曲名演の散歩道]

前回は、400年の時を越え、愛された続けた名曲”Greensleeves”のお話をいたしましたが、今回もその古き時代に生まれ、現代に花開いた名曲のお話。

さて、それはどんな曲か。
おそらくこの曲を聴けば、多くの方が「この曲そんな古い曲だったの。」と思われるかもしれません。
それほどまでに、とあるアーティストの曲として親しまれているその曲、前置きはこの辺にして早速聴いてみることにいたしましょう。



サイモン&ガーファンクルの”Scarborough Fair”、これもまず知らぬ人はいないという名曲中の名曲ですよね。

ダスティン・ホフマン主演の1967年公開の映画『卒業』の挿入歌として使われ、世界中に知られることとなったこの曲、私も少年時代、当時話題を呼んでいたこの映画を見たことが、この曲との最初の出会いだったことが思い出されます。

以来、私もずいぶん長い間サイモン&ガーファンクルのオリジナルとばかり思っていたのですが、実はこの曲、元はイングランドの古い民謡。

その曲の成立は、16世紀ごろまで遡るといわれているのです。

この曲、その題名にある、Scarboroughとは、イングランド北部にある北海沿岸の都市、スカーバラのこと。

Scarborough.jpg


このスカーバラ、中世は交易都市として栄えた都市で、ここでは毎年8月15日には各地から多くの商人が集まり45日間に渡り市が催され、大いな賑わっていた所なのだそうなのです。

そのスカーバラの市が、この曲のタイトル”Scarborough Fair”。


この曲、吟遊詩人の手によって今日まで歌い継がれてきたものと言われているのですが、その形が確立したのは19世紀のこと。
S&Gの歌っている、”Scarborough Fair”もその時代のものベースにしているのだとか。


その19世紀ヴァージョン、そこで歌われている詩の意味は、なかなか分かりにくいものなのですけど、どうやら恋人に捨てれた男が、出来ないことを成し遂げた時、彼女は自分の元に戻って来てくれると、歌っているものようなのです、

詩の中で何度も繰り返し歌われる"parsley, sage, rosemary and thyme"というハーブの名前は、それぞれ温和さ、忍耐、愛、勇気を象徴するもののようで、幾多の困難を乗り越えるための呪文の役割を果たしているようにも聞こえてきます。

そうしたことから、映画『卒業』の中でもこの曲、主人公が彼の元を去って行った恋人、その恋人が結婚することを知り、その式場に彼女を取り戻すべく市場の中を駆け抜けて行くというクライマックス・シーンのバックで使われていたという私の記憶からすると、映画のこのクライマックス場面で、この曲が使われた意味も十分納得できるような気がしてきます。


これはあくまで私流のこの曲の解釈ですが、この曲がこの映画に高い演出効果をもたらし、また曲自体も多くの人の心の中に強く残るものとなったのは、そうしたこの歌の持つ力が、この映画の中で十分に発揮されたからなのだと言えるように思うのです。

今回この歌について調べてみて、あらためてこの曲の持つ意味の奥の深さに気付かされたように思います。


スカーバラ.jpg


さて、そうした奥の深さを知ったところでこの名曲、多くのアーティストよるカバーをされていますが、この辺でその多くのカバーの中から、ちょっと面白いなと思った演奏、そのサウンドの小道を散歩することにしてみたいと思います。

そこで最初の演奏は..................。









”Scarborough Fair”という曲、以前よりこの曲に讃美歌的なものを感じていて、聖歌隊による合唱で聴いてみたいなどと思っていたのですが、その念願が叶ったのがこの演奏、まずは聴いてみることにしたいと思います。



現代の名曲を歌うグレゴリア聖歌隊、Gregorianの演奏です。
2001年に発表され話題を呼んだ彼らのファーストアルバム”Masters Of Chant”に収録されていたもの。

この歌の中にある願望成就を祈る空間に、グレゴリア聖歌隊の厳かさが加味されて、聖なる世界へと昇華していく、そうした気配を感じるサウンドのように感じます。




ところで、多くのカバーがあるこの”Scarborough Fair”、S&Gによるヒットの後、この曲をいち早くカバーしたのがこの人達。

お次はボサノバのリズムに乗せて歌われる”Scarborough Fair”なんていかがでしょうか。



ボサノバ界の大御所Sergio Mendesによる”Scarborough Fair”、1984年の来日公演におけるエアチェック音源です。

セルジオ・メンデスがこの”Scarborough Fair”を最初に収録したのは、まだS&Gのヒットの余韻が色濃く残る 1968年のこと。
彼のバンドSERGIO MENDES & BRASIL'66の4作目のアルバム”FOOL ON THE HILL”にてでした。

このアルバム、この”Scarborough Fair”の他にもアルバムタイトルとなっているビートルズの”Fool On The Hill”も収録されているのですが、そのどちらもセルジオ・メンデス独自の解釈により明るいサンバの曲へと生まれ変わっており、当時ロングラン・ヒットなっていたことが思い出されます。

このPVにおける84年の演奏は68年のアレンジとはまた異なったアレンジで、よりエレクトリック・フュージョン化したボサノバ”Scarborough Fair”を聴かせてくれています。

イングランドのスカーバラの市ならぬリオの市、Rio Fairといったサウンド。
軽快なリズムが心地良い、名演奏だと思います。




3つ目の”Scarborough Fair”は、今度はHMサイドからの演奏。
私も最初この演奏を聴いた時、その趣の違いにかなり戸惑ってしまったのですが、妙に耳残り今ではお気に入りとなってしまった、その”Scarborough Fair”です。



プログレシッブ・メタルのQueensrÿcheによる演奏。
1991年のライブ映像です。

何も飾り気のない、朴訥した感じの演奏ですが、それが逆に恋人に捨てられた男の感傷が漂う、どこかしら中世を感じさせるサウンドに、いつの間にか惹かれてしまっている、そうした演奏ではないかと思います。




さて、ここでジャズ・サイドの演奏からひとつ。
この曲、一見ジャズの素材としては不向きなように思われるのですが、結構多くのジャズマンが取り上げ、それぞれ個性的な演奏している点、実に興味深いものがあります。

そうした演奏の中から、アルト・サックスによる”Scarborough Fair”。
曲の印象とは不釣り合いな感じを受けるこの楽器、どんな料理をしてくれるのか、そのサウンドちょっと覗いてみることにいたしましょう。



英国出身のサックス奏者 Chirs Hunterの”Scarborough Fair”。
原曲のメロディーを大切にしながらも、次第に熱く快調なソロが飛び交っていく、ジャズならではのパワーみなぎる”Scarborough Fair”といったところではないでしょうか。

クリス・ハンターというサックス奏者、あまり馴染みはないかもしれませんが、ギル・エヴァンス・オーケストラにデビット・サンボーンの後任として加入、現在ではマンハッタン・ジャズ・オーケストラの一員として緊迫感あふれるアルト・プレイを聴かせている、実力派のプレヤーなのです。

ジェネシスのドラマーであったフィル・コリンズが、一時ジェネシスの楽曲をジャズのビッグ・バンドで演奏したその試みにも参加、そこでもロックのビートに乗った存在感のあるソロを展開していた、ロック感覚も持ち合わせた、もっと多くの方に知ってもらいたいアルト奏者だと思っています。


長々と演奏を聴きながら、お話を進めてまいりましたが、この辺で締め括りを。
最後の演奏は、女性ヴォーカルで締めることにたいと思います。

ドイツのゴシック・メタル・バンド Leaves' Eyesによる”Scarborough Fair”です。



2009年彼の第3作目のアルバム”Njord ”からの演奏。
ノルウェー出身の女性ヴォーカリスト、リヴ・クリスティンの北欧ヴァイキングの血を感じさせる、スケールの大きなアレンジが光ります。

数多くの”Scarborough Fair”の演奏の中でも、さもシンフォニックな”Scarborough Fair”と言っても過言ではない、その荘厳な響きに圧倒されてしまいます。



いろいろ聴いて来た、いにしへの名曲。
今回ここにあげた6つの演奏を見ても、それぞれまったく違った個性を放っていることが聴き取れます。

それは、長き時の流れの中で、この歌を歌ったであろう多くの人々のそれぞれ違った思いが、今、この曲を歌うミュージシャンの心に宿り具現化したものだから、

と、何故かそう思えてきてならないのです。

この奥行の深さ、これも時代を超えた名曲の名曲たる由縁なのかもしれません。




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マチャ

400年を超えるとはすごいですね。
S&Gのを幼い頃から聴いてますが、子供心にも美しい歌だなと思ったものです。

さまざまなスタイルでの演奏も、原曲の素晴らしさが根底にあるからなのでしょう。きっと1000年超えても歌い継がれているでしょうね。
by マチャ (2013-02-11 07:56) 

老年蛇銘多親父

マチャさん

私もS&Gの歌でこの曲を初めて聴いたとき、その幻想的な美しさが強く印象に残ってしまいました。

1000年先にも歌い継がれている、本当にそうなっているような気がします。


by 老年蛇銘多親父 (2013-02-11 17:45) 

raccoon

「卒業」を見た時、美しいメロディーと感じるとともに、哀愁のようなようなものも感じました。
「parsley, sage, rosemary and thyme」の言葉には、そのような意味があったのですね。勉強になりました。
by raccoon (2013-02-16 12:36) 

老年蛇銘多親父

raccoonさん

私も初めてこの歌を聴いたとき以来、「parsley, sage, rosemary and thyme」と何度も繰り返し歌われているのは、何故なのだろうとずっと思っていたのですけど、今回調べてみてその胸のつかえがとれたような気持ちです。

日本でいえば南無阿弥陀仏のようなもの???

ちょっと違うかな?

by 老年蛇銘多親父 (2013-02-17 15:12) 

TAMA

大好きな曲です♪
この曲でギターの練習をした事も。
歌詞もやさしい英語で理解しやすいですよね。
「パセリ、セージ、ローズマリー&タイム」の所が
印象的でした。
by TAMA (2013-02-19 00:26) 

老年蛇銘多親父

TAMAさん

この歌、言葉の意味は難しくないのだけど、その奥に秘められたなにか暗示があるようで、それがまたこの歌の魅力になっているのでは。

今回これを書きながら、そんなことを感じていました。
by 老年蛇銘多親父 (2013-02-20 05:58) 

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