ジャズが育てたミュージカルの名曲 [名曲名演の散歩道]

今回のテーマは、だいぶ久しぶりとなってしまっていた名曲名演の散歩道。
前回書いたのは、いつのことだったかと、思い調べてみると、それはなんと昨年の5/25のこと。
気にはしていたものの、他に書くこともあるしもう少し後にしようと考え後回しをしているうちに、気付いてみれば10か月余りも放置という結果になってしまったのです。
そこで今回のテーマは、名曲名演の散歩道、そろそろ記事をupしなければなということで、筆を進めることにしたいと思います。


今回のお話は、元は有名なミュージカル・ナンバーであって、今やジャズのスタンダード・ナンバーとなってしまったという名曲のお話。

ミュージカルの曲というと、ベースにジャズ的要素がある曲が多く、ジャズの素材として演奏しやすいこともあって、多くのジャズ・アーティストによっていろいろな曲が取り上げ演奏されているのでが、今回選んだ曲は、数多くあるミュージカル曲の中でも、とあるジャズの巨匠がその音楽歴の大きなターニング・ポイントで、この曲を初めて取り上げ、その後、多くのアーティストによって演奏されようになった、ジャズの歴史の上でも重要な意味を持ったもの。

聴けば誰もがアッという有名なこの曲、曲名は後にして、まずはその原曲から聴いて行くことにしてみましょう。



今やミュージカルのバイブルとなった、”サウンド オブ ミュージック”からの1曲、リチャード・ロジャース作曲、オスカー・ハマースタイン2世作詞の”My Favorite Things (邦題:私のお気に入り)”ですね。

ミュージカルの中では、トラップ家に家庭教師としてやって来たマリア、ある晩仕事を終えベットに入ると突然雷鳴と共に激しい雨が降り出し、しばらくすると雷の音に怯えた子供たちがマリア先生の部屋にやって来た場面で歌われたこの曲。

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悲しい時や怖くなった時には、自分のお気に入りのことを思い浮かべなさいと、子供たちに歌い励ますマリア、やがて子供達の顔に笑みが戻ってくる、そんなシーンがこの歌から思い出されます

ひどいいたずらで先生を翻弄していた子供達、これを機に先生と子供達の絆は強くなって行く、そうした物語の展開上重要な場所で歌われたこの曲、そうしたことで映画のこのシーン、ご記憶の方も多いのではないかと思います。


そのサウンド オブ ミュージック、その初演は1959年のブロードウェイ公演のこと。
その後、リバイバル公演を重ね、1965年にはJulie Andrewsの主演で映画化されるに至ります。

現在もミュージカル映画の古典として高い評価を受け続けているこの映画、私もこの映画が日本で封切られて間もない頃に初めて見たのですが、当時は”Edelweiss”や”The Sound of Music”といった楽曲の方に目が行ってしまい、この”My Favorite Things”はシーンは心に残っているものの、音楽の方は、その歌われたタイトルとは裏腹に、長い間、お気に入りとはならなかったのです。

その私が”My Favorite Things”という曲の魅力を知ったのは、映画を見てから数年後、実は冒頭に書いたジャズの巨匠、その彼の演奏を聴き、また違った方向からそのサウンドに触れてからのことだったのです。

ということで、そのジャズ史上重要な演奏、一体どんなものか、早速、聴いていただくことにいたしましょう。



ジャズの巨人の一人、John Coltraneによる”My Favorite Things”です。

1960年 Miles Davisのクィンテットを離れたコルトレーンが、ピアノにMcCoy Tyner、ドラムにElvin Jonesを従え、後にベースのJimmy Garrison を加えジャズ史上に残る、後に黄金のカルテットと呼ばれることとなった自己のカルテットで、レコーディングにのぞんた最初の演奏を収めたのが、この作品だったです。

さらに、この演奏で、コルトレーンが手にした楽器、当時はジャズではほとんど用いられることなかったソプラノ・サックスを使い、この曲の持つエキゾチックな側面を浮き彫りして、この曲のまた別の一面を見せていたのです。
そのソプラノ・サックスというう楽器、コルトレーンのこの演奏の成功で、以後、多くのテナー・サックス奏者が、テナーと共にソプラノ・サックスをも持ち演奏するようになって行くことのになるのですが、この演奏は、ソプラノ・サックスの可能性を新たに切り拓いたという点でも、重要な意味があると言えるものなのです。

その後のコルトレーン、この”My Favorite Things”を、ライブでは必ずと言っていいほど演奏していて、それがあたかも彼のテーマ曲のような存在になって行くのですが、その演奏は、日々同じところにと留まることなく変化していた彼の他の曲の演奏と同様、その”My Favorite Things”の演奏も、大きく変化し続けて行くくことになるのです。

そこで、次の演奏はその死の直前までたゆまぬ探求の道を歩み続けたコルトレーン、その彼の死後、コルトレーンの真の後継者は誰かという論争が湧きたった中で、多くのジャズ愛好家から、その精神を受け継ぐ者こそ彼だと言わさしめた、黄金のカルテットのメンバーであり”ピアノのコルトレーンとも呼ばれるようになった、マッコイ・ターナーの演奏で、この曲をを聴いてみたいと思います。



ピアノ・ソロによるターナーの”My Favorite Things”。
愛らしいこの曲からは、全く想像がすることの出来ない、色濃い情念が感じられるこの演奏。

晩年のコルトーレーンの演奏を彷彿させものが、この”My Favorite Things”の演奏には感じられるように思います。

実はこの演奏、その演奏を収録した場所は、日本。
1972年、マッコイが来日の際、東京のビクター・レコードのスタジオで録られたものなのです。

激しさの中にも感じられる敬虔な祈りの世界。
マッコイの資質見抜き、コルトレーン後継者としての能力を発揮させてその様子を見事に捕えた、当時の日本の音楽関係者の鋭い洞察力には、畏敬の念を抱かずはにおられません。

さて、少し激し過ぎる演奏となってしまったたところで、次の演奏。
この”My Favorite Things”という曲、私の知る限りコルトレーン存命中は、、他のアーティストによって演奏されことは少なかったようなに思うのですが、コルトレーンが亡くなった1967年以後、多くのアーティストがこの曲を取り上げ演奏するようになります。

中でも、その早い時期の演奏がこちら。
1969年の、ビッグ・バンドによる演奏で、Clarke-Boland Big Bandの”My Favorite Things”です。



アメリカ以外の地で結成されたビッグ・バンドとしてもっとも成功したと言われるこのバンド、ヨーロッパに活動拠点を移したモダン・ジャズ・ドラムの開祖と言われるアメリカ人のKenny Clarkeと、ベルギー人のピアニストで作曲家のFrancy Boland 率いる、米欧混成の多国籍バンドの演奏です。

たくさんのお気に入りが、次から次へと出て来て、終いにはお気に入りの中に埋もれてしまいそうな、うきうきとした気分になる”My Favorite Things”ではないかよ思います。

サウンド オブ ミュージックのお話は、オーストリアのトラップ・ファミリー合唱団の実話に基づくもの。
ヨーロッパが舞台のこのミュージカルの音楽には、やはりヨーロッパのバンドの演奏がふさわしいのかもしれません。


ここまでいろいろな”My Favorite Things”を聴いてきましたけど、やはり最後はヴォーカルで、それも女性ヴォーカルで聴いてみたいのもの。
そこで、最後の演奏はジャズ・ヴォーカルの女王の登場。
Sarah Vaughanによる”My Favorite Thingsで締め括りをすることにしたいと思います。



スカボロー・フェアーの世界にも似た、静かな祈りの世界。この歌の本質を実に見事に表現した、サラならではの歌声です。
微笑ましい願いの心が感じられ、この曲の魅力を再発見したような、”My Favorite Things”、いくつも表情を見せてくれる、真の名曲の味わいが、そこにあるように思いました。




ところで、春一番も吹き、日々暖かさが増してきた今日この頃、仕事で街を歩いていると春を感じさせるいりろ風景に出会うようになりました。

先日も水戸の近くの笠間市に出かけると。

DSCN3383m.JPG


こんな風景が目に飛び込んで来ました。

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あたり一面、一杯に花を開いた梅の林。

桜の華やかさとは違う、どこか健気なものを感じる美しさがそこにはありました。

そう思いながら、今度は毎朝通う、江戸城外堀土手の桜の枝を見てみると。

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ここ数日間で、急速に花のつぼみを膨らまし始めた桜の木。
春本番の訪れを告げるべく、着実にその芽を育んでいる様子が感じられました。

今週末にはいよいよ開花となるかもしれませんね。












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コメント 4

raccoon

CMでよく耳にしましたね。どこかに出かけたくなります。
桜も咲きそうですし。

私は、随分前に買ったマリーンのCD(今は廃盤)に、この曲が入っていたので、聴いてみましたが、弾むような感じでしたね。

by raccoon (2014-03-28 01:04) 

老年蛇銘多親父

raccoonさん

この曲が使われていたのは確かJRのCMでしたよね。

マリーンのヴァージョン、私は聴いたことはないのですが、その弾むような感じ、どんな演奏か想像できるような気がします。

多くの人がこの曲を演奏していますが、どれもそれぞれ個性があって、それでいて曲そのもの良さは消えていない。

やはり名曲ということなのでしょうね。


by 老年蛇銘多親父 (2014-03-30 14:27) 

ミスカラス

どちらかというと・・子供の頃だったから、ドレミの唄の方が印象が強く残っていますね。映画も素晴らしかった。壮大なアルプスの風景もそうだし・・。ジュリー・アンドリュースの清楚な品格のある色気も最高でした。永遠の名画ですね。何回観ても新しい発見がありますね。
by ミスカラス (2014-04-05 18:44) 

老年蛇銘多親父

ミスカラスさん

私も最初にこの映画を見た時は、ドレミの歌やエーデルワイスの方の印象の方が強く、このMy Favorite Things はあまり好きではなかったのですよね。

それにしても、この映画、音楽だけではストーリーの方もいろいろなメッセージが隠されているように思え、おっしゃる通り見るたびに新しい発見があるなと思っています。
by 老年蛇銘多親父 (2014-04-11 05:36) 

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