ロータリーの思い出 その1 [思い出の車たち]

先日の新聞記事にあった、マツダRX-8の2012年6月生産終了のニュース。
1967年コスモ・スポーツの発売以来、45年近く続いた市販ロータリー・エンジン車の歴史に終止符を打つ、このこと、子供時代に1964年の東京モーター・ショーに参考出品されたコスモ・スポーツに出会って以来、自分の成長ともに進化し続けて来たロータリー車の姿を見て来た私にとって、時代の趨勢とはいえ実に寂しく感じられたものでした。


マツダが、このロータリー・エンジンの開発の着手したのは、1961年のこと。
それは当時、世界でロータリー・エンジンの耐久テストに成功し、1964年にそのエンジンを搭載した車、バンケル・スパイダーを世界に先駆け発売した、ドイツのNSU/バンケル社との提携によってのことでした。

bankeruG.jpg


そのバンケル・スパイダーのスペックは、

全長3580mm 全幅1520mm  全高1260mm 車重670 kg
エンジン
排気量 498 cc×ローター 最大出力 50 hv/6000 RPM 最大トルク 4,5 kp3250 RPM
最高速度150 km/h

といものでした。

しかし、当時バンケル社からマツダに開発用に届けられたエンジンはかなり酷いものだったそうで、40時間程度回すと、レシプロ・エンジンのシリンダーにあたるローターハウジングの内壁に何本もの傷ができてしまい白い煙を吹き出してしまうものだったのです。

そして、そこからマツダのロータリー・エンジンの社運をかけた開発への格闘が始まるのですが、それはレシプロ・エンジンのピストンリングにあたるロータとローター・ハウジングの隙間を埋めるシール材、アペックス・シールのローターハウジング内部を痛めることない素材探しだったといわれています。

その素材探し、私の記憶では金までも含むあらゆる金属が試されたものだったのですが、どれもうまくいかずとうとう開発は暗礁に乗り上げしまったという大きな難関にブチ当ってしまうことになるのです。

そこで藁を掴む思いで試されたのは非金属の素材、それはやがてカーボンという素材の発見、炭素とアルミニウムの化合物を素材としたアペックス・シールでの成功をもたらすことになったのです。


こうして、大きな難関を乗り越えたマツダのロータリー・エンジン、その後ローター・ハウジング内面への硬質クロームメッキを施すなど、さらにハウジング内部の保護対策強化を行い、1963年の東京モーター・ショーには400×1ローターと400×2ローターの試作エンジンを展示、翌年にはこのエンジンを搭載したスポーツカ―を発表することになります。


その後、そのプロト・タイプ・スポーツ・カーは、300万kmに及ぶ走行テストを経て、1967年5月市販車としてその姿を世に現すことになるのです。

その世に出た、世界初の市販マルチ・ローター・エンジンである10A型ロータリー・エンジンを搭載した、コスモ・スポーツ。
そのエンジンスペックは、

直列2ロータ、総排気量491x2cc 最高出力110ps/7000rpm 最大トルク13.3kg-m/3500rpm

そのエンジンを940kgの流麗なボデーに載せたその姿は、当時、近未来を感じさせる大変魅力的なものでした。

Mazda_cosmo_sport2.jpg


こうした苦難を経て生れたロータリー・エンジン、マツダはその後、そのエンジンを搭載した車を次々発表、モーター・スポーツの世界にも数々の歴史を刻んで行くことになります。

そして、マツダとモーター・スポーツといえばルマン24時間レース。

1991年、そのルマンで日本車として、さらにはロータリー・エンジン車として唯一の総合優勝を果たすことになるのですが、これよりあとは、その91年のレースの映像ビデオを見つけ編集いたしましたので、その映像を見ながらお話を続けて行くことにしたいと思います。






さて、ロータリー・エンジン車とモーター・スポーツ。
マツダは、コスモ・スポーツの発表された翌年の1968年8月には、早くもこの車でモーター・スポーツに参戦しています。

それは、当時市販車の耐久レースでさも過酷と言われていたニュルブルクリンクの84時間耐久レース「マラトン・デ・ラ・ルート」。
そのレースにMazda110Sの名でこのコスモスポーツを出場させ、初出場ながら見事総合4位という好成績を残し、ロータリー・エンジンの耐久性の高さを証明することになったのです。

スポーツカーで始まったロータリーの歴史、そのニュルブリングの年、ついにマツダはその10A型ロータリー・エンジンを小型乗用車ファミリアに搭載したファミリア・ロータリークーペを発表します。

そしてさらにその翌年の1969年には、10A型ロータリー・エンジンより一回り大きい654×2ccの13A型ロータリー・エンジンを搭載したルーチェ・ロータリークーペ発表、1970年には 573×2ccの12A型ロータリー・エンジンを搭載したカペラ・ロータリーを発表し、ロータリー路線を拡大して行くことになりなす。

そして、1971年、そのロータリー路線拡大の一環として、ロータリー・エンジン搭載を前提に開発された10A型エンジン搭載のサバンナが発表されることになります。

このサバンナ、当初からモーター・スポーツ参戦も視野に入れられていたもののようで、早くからスポーツ・キットの開発も進められており、その年の10月にはワークス・チームとしてレースに初参戦、その翌年の2月に開かれた富士ツーリストトロフィ500マイル・レースでは、日産ワークス勢の要する当時のツリーング・カーレースの王者だった名車KPGC10型スカイラインGTRとワークス対決となったのです。
その結果は、サバンナRX3の勝利、スカイラインGTRの50連覇達成を阻止するという快挙を成し遂げることになったのです。

サバンナrx-3.jpg


こうしてレースの覇権を得たロータリー・エンジン、そろそろ、91年のPVを見せろやという声が出て来そうなので、ルマン制覇までのマツダ・ロータリーのお話は次回に続けることとして、一足飛びにこの辺で、91年のルマンンの方にお話を進めることにしようかと思います。


この年のルマン、日本車としての参戦はマツダだけだったのですが、海外勢のエントリーは、前年優勝のジャガーをはじめ、メルセデス・ベンツ、プジョー、そして多くのポルシェと混戦模様のレース展開が予想される極めて豪華な布陣。

それにも増してドライバーも、プジョー:ケケ・ロズベルグ、メルセデス:若き日F1デビューを果たしたばかりののミハエル・シューマッハと後にF1入りを果たすカール・ベンドリンガーが、そしてマツダは、フォルカー・ヴァイドラー、 ジョニー・ハーバート、 ベルトラン・ガショーの当時の現役F1ドライバーの3人と、各チーム新旧F1パイロット配した、これまた層々たる顔ぶれがうちそろって戦った、興味深い一戦だったのです。

それではまずは、そのレース開始、1時間のところからその映像をご覧ください。



1時間余りをすぎたところでの順位は、トップ、メルセデス・ベンツC11。
前年のルマンに欠場したメルセデスは、5ℓ V8ツインターボ 700馬力超のエンジンを積んだこのマシンで総合優勝狙って戦いに挑んでいたのです。

昨年の覇者ジャガーXJR12は8位。
7ℓ 自然吸気V12 同じく700馬力を超えるエンジンを積んだこの車も、虎視眈眈とその隙を狙っている。 

そして、我がマツダの787Bも9位、11位と優勝可能の圏内につけている。

実はこの年のルマン、総合優勝を狙うこれらカテゴリー2の車には、2550リットルという燃料の使用量の制限があり、これは、優勝のためには24時間で5000kmを走破しなければならないマシンにとって、ℓ当り約2km以上の燃費で走らねばならないという過酷な試練を課せていたのです。

そのため、むやみ速く走れば燃費が悪化する、燃費と速さのバランスをとりながらより速くという、この序盤戦には、各チームのそれぞれ相手のポテンシャルをなんとか探り出そうとする思惑が見え隠れして、観戦する側もそれの思惑を読み解きながら見ていた、そんな面白さがあったことを思い出します。

そうした車の動き、F1などに較べるとかなりゆったりと動いているように見えるかもしれませんが、実際はかなりのスピード。

ルマンを走る787Bのコクピットから見た、こんな映像をPVにしてみましたので、そのスピード、ちょっと体感してみてください。

>

解説は、レ―シング・ドライバーの津々見友彦さん。
迫力のある映像でしょう。

特にユノディエールと呼ばれる直線、1990年までは全長6kmに及ぶ大変長いものだったのですが、1988年に確かプジョーよってだったと思いましたが、そのスピードは405㎞にまで至り、その後、安全上の問題から2か所のシケインが設けられ、3つの2kmの直線になったもの。

それにしてもそのスピードは凄いですね。
この映像で、787を抜いて行くプジョー、さすがユノディエールのスピード王というところだと思います。


ところでこれらの映像、当時テレビ朝日がルマンのレースの模様を生中継していたのですが、その時の放送を録画したもの。
前日の日本時間PM11時前から始まり、24時間レースのうち9時間が放映された、非常に長いものなのです。
今回は、そのビデオからPVをおこしているのですが、なにせ長いので大変。

全部編集するには、もう少しお時間をいただきたい。
ということで、今回のお話は一旦終了。

次回はこの放送の中にあったマツダのルマン参戦ダイジェストなどの映像をUpしながら、その他その後のレース・シーンの映像を見ていただこうと思っています。






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ヒサ

いやー、貴重な映像をみさせて頂きました。
マツダの787Bは早かったですね~
僕もグランツーリスモという車のゲームで、サルサ・サーキットを
24時間走りましたけど、あの直線の途中にあるシケインで何度
曲がりきれずに事故ったか覚えていません(笑)

by ヒサ (2012-06-02 21:04) 

ituki

親父さん、大作ですね~[ぴかぴか]
読んでいても、わくわくしっぱなし(笑)
赤のかわいいバンケル・スパイダーは、初めて見ました[ラブハート]
コスモ・スポーツは実物も見ましたが、ほんとに美しいラインの車ですよね^^[ラブラブハート]

ル・マンは今年ニッサン「デルタウイング」が出るので注目しているんですが、まさか車載カメラ映像、長いコース一周分が見れるなんて感激です^^[ぴかぴか]
787Bも広島の交通科学館で見たんですが、カラーリングが違うような^^;
こんなステッカーを持ってたりします(笑)
http://dl.dropbox.com/u/26637438/120603_1509%7E01.jpg

一番びっくりしたのは燃料制限!
燃費の悪いロータリーエンジンでしょ、他のマシンもパワーのあるエンジンだし、リッター2km 以上ってドライバーは大変ですね。
おまけにコースの路面が悪いし・・・
これ、ほんとに24時間3人でも神経すり減りますね( ̄Д ̄;)

シューマッハがニコのお父さんのケケと戦っていたなんて、これもびっくりです(@_@;)

親父さん、編集大変でしょうが頑張ってくださいね!
楽しみに待ってま~す(^▽^)/

by ituki (2012-06-03 16:03) 

老年蛇銘多親父

ヒサさん

ユノディエールの直線のシケイン、ゲームの場合Gや振動などの五感を働かせコントロールすることができない分、また違った難しさがあるように思います。

貴重な映像、そうなんです、ひととおりビデオを見てみて、787Bがルマンで優勝したことは有名だけど、実際にどんなドライブをしていたのか、コクピット中からの映像はでていないようで、これを見た時、やったと思いPVにしてみることにしました。

by 老年蛇銘多親父 (2012-06-03 19:16) 

老年蛇銘多親父

イッチー

バンケル・スパイダーお気入りのようですね。
この車の世に出た1964年年を考えると、アペックス・シールにマツダの技術が生きていることが分かりますね。
マツダのバンケルとの技術提携では、開発した技術はすべてバンケル社に公開することになっていたそうですから。


787Bのカラーリング、一般に知られているのは優勝した55号車のレナウン・カラー。この年の787B、出場した車のカラーそれぞれ別々だったのですよ。
このレナウン・カラー、このカラーリングになった訳、これにはちょっと笑える逸話があるのですが、これは次回のお楽しみです。

燃料制限、ロ―タリーは不利?
このレースでは、車自体に別の条件があって、同等かむしろ良かったのではないか思っています。
そのことも、次回書こうと思っていました。

ところで次回、実はルマンの夜明けマツダがトップに立つシーンとゴールシーンのビデオがまだ見つかっていないのです。

さて、それを探さなければ。


by 老年蛇銘多親父 (2012-06-03 19:41) 

mk1sp

コスモスポーツかっこいいですね!

RE=マツダRX-7、そして那智さん、の「よろしくメカドック」世代です(笑)

ロータリーがなくなるのは残念ですね、スポーツカーが下火ですから存続も難しいのでしょうか(-_-;)

円運動から円運動を作り出すロータリーエンジン、その発想は面白かった・・・今後も、ズームズーム、スカイアクティブ、独自の発想の車作りに期待です(^_^)v

by mk1sp (2012-06-03 20:32) 

囚

待ってました、親父さんの車記事。
何を隠そう私の前の車はRX-7(FC3S)だったのです。
食費も削ってやっとの思いで新車で買ったのは20歳の時。
当時、13Bロータリーターボの加速には痺れました。

ロータリーエンジンの考案したバンケルさんは、他の回転型エンジンやスーパーチャージャーなんかも色々発明していたんですよね。
実用化したマツダの技術者の努力も語り種ですよね。

コスモスポーツはウルトラ警備隊でも採用されたり、初代RX-7(SA22C)がデビューした頃は丁度スーパーカーブームでリトラクタブルライトが実に印象的でした。
(確かロータリーの単車もあったような気がします。)

なんだか発散気味のコメントになってますね。

そしてやはり圧巻だったのはル・マンの優勝ですね。
あの時は全身の毛が逆立つ程感動しました。

そんなロータリーエンジン搭載車も生産終了。
エンジン自体は発電機用として細々と生き残るようですが、一つの時代が終わったような、ちょっと切ない気もします。
でも世間の流れには逆らえませんやね。

by (2012-06-05 02:23) 

老年蛇銘多親父

mk1spさん

スポーツカーが下火、確かにそうなのかもしれませんが、マツダという会社、スポーツカーを愛する下地がある会社のようですね。

この間、新聞を読んでいたらそこあったマツダとフィアットの提携の記事。
その第一弾が、間もなく発表される新型ユーノス・ロードスターをベースに、アルファ・ロメオの味付けした車になって登場するとか。

この提携、他の海外メーカーとの提携とは、一味違ったものになるかもしれませんね。


by 老年蛇銘多親父 (2012-06-05 05:57) 

老年蛇銘多親父

囚さん

お待ちしておりました。
RX7に乗っていたのですか。

あの車は私も憧れましたが、家族持ちじゃ自分で持つのはちょっと考えものということで、おとなしくコロナに乗っていました。

ロータリーの単車もありましたよ。
確かオイル・ショック前に写真を見たことがありますけど、いつの間にか姿を消してしまっていました。

しかし、ロータリー・エンジン、このエンジン燃料を選ばないうことで、マツダも水素ガスロータリーの研究などもしていたようなので、今後、低廉でクリーンなエネルギーで動くロータリーとハイブリット技術の融合とか、自動車エンジン用以外に使う道を切り拓いてなんとか生き残ってもらいたいと思うのですがね.........
.。それもやはり難しいのでしょうね。
by 老年蛇銘多親父 (2012-06-05 06:28) 

ituki

マツダが低燃費のディーゼルエンジン「スカイアクティブーD」をル・マン用に開発してたんですね♪~♪ d(⌒o⌒)b♪~♪

『LMP2』のクラスで、エンジンの供給という形で参戦とはいえ
(アメリカのチーム「デンプシーレーシング」)
親父さんの記事といい、今年は大注目!ですね^^[ラブラブハート]

mk1spさんのコメント、先読みすごいなぁ(笑)
by ituki (2012-06-16 21:30) 

老年蛇銘多親父

イッチー

マツダのディーゼルエンジンが、ルマンに出場か~~

マツダとディーゼルエンジン、これは忘れられてしまっているのだけど、マツダのディーゼルエンジン技術、ロータリーの裏に隠れてしまっているけど、なかなかのものなんですよね。

20年ほど前、マツダはターボ・ファンのないプレッシャー・ウェイブ、ターボを開発、このターボをつけたディーゼルエンジンをカペラに載せ市販したことがあったのですけど、この車の加速、2ℓのスポーツ・セダンに匹敵するものだったとか。

ディーゼル・エンジン、重く鈍重なイメージがあるのですけど、そのイメージを変えるところまで来たということなのでしょうね。


太平洋戦争中の日本の潜水艦、積んでいたディーゼル・エンジンの音が大きくて、その音で敵に捕捉され撃沈された、それを考えるとガソリンエンジンもそうだけど、当時三流だった日本のエンジン技術、その進化には、欧米をはるかに凌ぐ凄まじさを感じています。
by 老年蛇銘多親父 (2012-06-17 05:27) 

ituki

親父さん、ホント何でもお詳しい^^[ラブラブハート]
プレッシャーウェーブ・スーパーチャージャーって面白いですね。
吸、排気管の圧力差?
仕組みを読んでも、さっぱり理解できませんでしたが^^;

昨夜スタートのレース、Audiがライブ中継しているんですが、親父さんの21年前の動画の景色とあまり変わらないような気がしました。
これ、速度メーターとか付いてて面白いですよ~^^
http://www.audi-liveracing.com/desktop/index.jsp?streamid=1&ref=streamId1&l=en

ニッサンの「デルタウイング」は、後続車に当てられてレース終了だそうです(〒_〒)


by ituki (2012-06-17 09:35) 

老年蛇銘多親父

りなみさん
marumaruさん
えい♪さん
ねこのめさん
Lobyさん
TAMAさん
thisisajinさん
マチャさん
tommy88さん

みなさんどうもありがとうございます。




by 老年蛇銘多親父 (2012-07-07 05:05) 

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