探究の心が生んだ隠れた名盤・Santana;Borboletta(不死蝶) 本日の作品;vol.111 [デジタル化格闘記]

今回も、前回引き続き、私のレコード・ライブラリーの中から、何度も聴いているのに、何かと言えば聴きたくなる作品のお話。

前回は、ロックの作品の中からPink Floydの作品を取り上げてみましたが、今回もロックのアーティストの作品を取り上げてお話をすることにしたいと思います。

そのアーティストは、前回取り上げたPink Floydと同様、1970年頃に出会い、私をさらに深くジャズの世界に引きずり込んでしまった、あれから40年を経た現在も第1戦で活動を続けているCarlos Santana。

取り上げる作品は、これもまた前回のフロイド同様、リリース時点では不評であったにも関わらず、今では彼らの名盤のひとつに数えられるようになったこの作品。

Borboletta.jpg


1974年発表の ”Borboletta(邦題;不死蝶)です。

この作品、元はJimi Hendrixに傾倒しロックとラテンを融合させたサウンドの中で、ブルジーかつワイルドなギタープレーを繰り広げてきた来たカルロス・サンタナが、その過程の中で、生前のヘンドリックスとプレーしたアーティストであるBuddy Milesや、John McLaughlinとの共演を通じ、とくにマフラフリンとの共演からジャズの巨人の一人John Coltraneを知り・その精神触れジャズに傾倒して行くようになっていった頃のもの。

前作1973年の”Welcome”では、そのコルトレーンの演奏で知られるこのアルバムの表題曲を取り上げている他、自身のオリジナル曲では、当時ジャズ界に新しい息吹をもたらしたChick Coreaのバンドである初代Return To Foreverの諸作品にも通じるサウンドを聴かせてくれていたのですが、この作品では、さらにファンク色が付加され、サンタナのギターも各所で自由奔放なソロを展開する独自のフュージョン・サウンドを作り上げていたのです。

その内容は、当時、同時期にロック化の道を進んでいたチック・コリアの作品を評した、ジャズ評論家の岩浪洋三をして、サンタナの方がむしろジャズ的であると言わしめたほど。

さて。そうしたこの作品のサウンド、一体どんなものだったか。
それでは、早速ここで一曲聴いてみることにしたいと思います。
曲は、サンタナの哀愁こもるギターに導かれ始まる”One with the Sun(邦題; 太陽のもとへ)”です。





いかがですか、サンタナの艶やかなギターの音が印象に残る、リリース当時が不評であったとはにわかに信じがたい演奏ではなかったかと思います。

その不評の理由、それはジャズに傾倒する前のサンタナのサウンドとの大きな変化による違いにあったようなのです。
その違い、ラテン・パーカッションに乗り哀愁を漂わせながら激しく官能的に燃えあがっていく初期のサンタナ・サウンドが、聴き手の体にストレートに入り込みその感性に訴えていくものだったのに対し、以後のサウンドでは官能的な一面が薄まり、変わって思索的側面が強まっていったことで、それまでのファンの多くがそれに戸惑い、音楽そのもが難しくなったように感じてしまったことにその要因があったようなのです。

しかし、そうしたファンの離反への思惑、それとは裏腹に、この作品の制作に参加したミュージシャンの顔ぶれ、それを見ると、この危機を乗り越えこの作品で、さらにサウンドを追求、新たな道を切り開こうとしたサンタナの意欲の大きさが感じられのです。

ゲスト・ミュージシャンに、Chick Coreaの初代Return To ForeverのメンバーであったベースのStanley Clarke、パーカッションのAirto Moreira 、ヴォーカルのFlora Purimを迎え、72年にサンタナ・バンドに参加したキーボードのTom Costerに十二分に音楽監督としての腕をふるわせている。

それによって生まれたのは、内なるものを秘めた緊張感溢れるサウンド世界。

それではそうしたサウンド、この作品の愁眉とも言える”Flor De Canela ~Promise of a Fisherman~Borboletta”の3曲を続けて聴いてみてください。



もの凄い勢いで打ち鳴らされるパーカション群の獰猛な響き。
それに競い合い挑むサンタナのギターとコスターのオルガン。
最後のアイアートのパーカション・ソロがその緊張からの快い開放感を感じさせてくれているのを感じます。


現在も第1戦で活躍、新しい作品を世に送り出し続けているカルロス・サンタナ。
Herbie HancockやWeather Report、渡辺 貞夫といったジャズ・サイドのアーティストからも、共演を望まれる稀有なロック・アーティスト。

そうしたその後のカルロス・サンタナの歩みの原点にあるのが、この作品ではないのかと思うのです。

Track listing
1."Spring Manifestations" 春の訪れ (Airto Moreira, Flora Purim)
2."Canto de los Flores"花の歌 (Tom Coster, Santana Band)
3."Life Is Anew" 新たなる旅立ち(Carlos Santana, Michael Shrieve)
4."Give and Take"果てしなき世界 (Santana, Coster, Shrieve)
5."One with the Sun" 太陽のもとへ(Jerry Martini, Earlyrin Martini)
6."Aspirations"熱望 (Coster, Santana)
7."Practice What You Preach"君の教え (Santana)
8."Mirage" はかない夢(Leon Patillo)
9."Here and Now" (Peraza, Santana)
10."Flor de Canela" シナモンの花(Santana, Doug Rauch)
11."Promise of a Fisherman (Promessa de Pescador)" 漁民の契(Dorival Caymmi)
12"Borboletta"不死蝶(Moreira)

Personnel
Leon Patillo - vocals, piano
Flora Purim – vocals
Carlos Santana - guitar, percussion
Tom Coster - piano, keyboards
Doug Rauch - bass guitar
Stanley Clarke - bass guitar
David Brown - bass guitar
Michael Shrieve - drums
Leon "Ndugu" Chancler - drums
Jules Broussard - soprano and tenor saxophones
Armando Peraza - percussion, congas
José Areas - timbales, congas
Airto Moreira - percussion

Released
October 1974


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ミスカラス

このアルバムは聴いた事なかったな・・・。メンバーがフュージョン系で、改めて今聴きなおすと面白そうかもしれない。
by ミスカラス (2014-05-03 17:50) 

老年蛇銘多親父

ミスカラスさん

確かに、サンタナの諸作品の中では、この作品影が薄いですからね。
そういえば、この作品、当時、私の周辺にいたジャズ仲間の方がロック・ファンの方よりこの作品を評価していましたし、そんなことからも聴き直していただければと思います。
by 老年蛇銘多親父 (2014-05-04 11:09) 

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