虹を渡った少女が今に残した名曲;Over the Rainbow(虹の彼方に) [名曲名演の散歩道]

今年は曜日の関係で例年より長い連休となった方も多いのではないかと思いますが、松の内(地方によっては15日まで松の内というところもあるようですが。)も明け、仕事も本番。
この長い休みで、いつもの日常を取り戻すのにご苦労された方も多いのではなかったと思います。

そうしたところで、私のブログもここでいよいよ本番、この辺で、いつもの音楽記事にお話しを戻したいと思います。

さて、その今年最初の音楽記事は、名曲名演の散歩道。

昨年は、2月の関東地方を中心に主として太平洋側地域を襲った豪雪に始まり、7月から8月にかけて襲来した台風によってもたらされた西日本における集中豪雨、そして9月の御嶽山爆発、11月長野県北部地震 と、めまぐるしく襲い来る天変地異に翻弄され続けた日本。

そうした昨年に対し今年は、穏やかで,世情も夢を感じさせる年になって欲しいと思うのですが、今回の曲は、そうした願いこめて選んだ曲。

それは、あるミュージカル映画の中で、主人公によって歌われた劇中歌

そのミュージカルとは、

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この写真を見れば、もうお分かりですよね。
1939年に公開された名画、”オズの魔法使原題;(The Wonderful Wizard of Oz)”。
初期のテクニカル・カラーの名作としても知られるこの映画、中でも有名なのがこのJudy Garland扮する映画の中の主人公、竜巻の襲われ魔法の国オズへ運ばれてしまった少女ドロシーが歌った”Over the Rainbow(邦題;虹の彼方に)”。

まずは、劇中そのドロシーが歌う、この歌をお聴きいただき、お話を始めることにしたいと思います。



1930年代より多くのミュージカル作品を手掛け、アメリカ音楽史上名高い作曲家とされるHarold Arlenと、作詞家 Yip Harburgの手によるこの曲、2001年には全米レコード協会等の主催の「20世紀の名曲」の選定投票にて1位に輝いた名曲なのですが、よく調べてみると、この曲が劇中で使われ公開に至るには、かなりの紆余曲折があったのだとか。

それは、お聴きなって分かると思いますが、この曲がカンサス育ちの14歳の田舎娘が歌う歌としては、大人び過ぎているということ。

まず、作曲者のハロルド・アーレンがイップ・ハーバーグに作詞を依頼したところ、それを理由に一旦は断られたものの、その曲を聴いたアメリカを代表する作曲家のジョージ・ガーシュウィンの兄で、当時アメリカ音楽界の重鎮となっていた作詞家のアイラ・ガーシュウィンの説得によってようやく引き受けを承諾、何とかその関門はクリアしたと思いきや、今度は、その後撮影を終えたところで撮影所の幹部から同様のクレームが付き、あわやお蔵入り寸前にまでなったとか、受難連続という状態だったというのです。

その危難に異議を唱えたのが、この映画のプロデューサーのアーサー・フリード。
そのフリートは撮影所幹部にこの曲は外せないことを主張、この彼の働きによって一旦葬りされようとした首は繋がり、ようやく映画のワンシーンとして登場ことなったというのです。

だがお話はこれで終わらない。

主役のジュディー・ガーランド、元は肥満気味の少女だったため、レコード会社よりダイエットのため13歳の時より、覚醒剤を常用するようになり、この映画の撮影時もかなりハイ状態で臨んでいたのだとか。

とまあ、調べれば調べるほどいろいろな曰くが聞こえてくるこの曲ですが、この大人びた雰囲気を持ったこの曲を歌う、この映画撮影時には16.7歳の少女であったはずのガーランドによる歌唱は素晴らしく、そのことが、曲自体の良さもさることながら、後年この歌が多くの人に愛され名曲となっていった大きな礎の一つになったと考えられるようにも思えるのです。


さて、この”虹の彼方”に、その後どんなカバーがあるかと調べてみると、これが凄い。
驚いたことに、次から次へと、その時代を代表するアーティストのヴァージョンが出てくるのです。
その中でも、まず最初に聴くのは、この歌を最初に歌った当時16.7歳だったジュディー・ガーランドと同様、現代の16歳の少女が歌ったその歌唱、手始めにその歌声からこの名曲を聴いて行くことにいたしましょう。









若手ジャズシンガーのNikki Yanofskyによる、”虹の彼方に”です。

この曲は、彼女16歳の時の世界デビュー・アルバム”Nikki”に収録されているものですが、昨年末、私がこの歌唱を聴いた時、そういえば、ジュディー・ガーランドが映画の中でこの歌を初めて披露したのは、ニッキと同じ年頃だったことに思い当たり、ちょっと聴き比べをしてみようと思い始めたのが、この記事を書くきっかっけ。

このニッキ、現代ソウルの洗礼を浴びながらも、その唱法は、エラ・フィツジェラルドやサラ・ヴォーンと言った偉大なる女性ジャズ・ヴォーカリストのエッセンスが感じられるのはもとより、時には、ロック・クィーンとも呼ばれたジャニス・ジョップリンの歌唱にあるエッセンスまでも飛び出してくるという、白人ながらも、新旧に渡り黒人的エッセンスを見事に自己のものとして消化させた、将来が楽しみな若手ジャズ・ヴォーカリスト。

そんなニッキと、黒人の唱法を白人女性で最初に採り入れ歌ったといわれる歌手のジュディー・ガーランドとの比較は、70年の時空を越えての音楽の変遷の道程が感じ取れるのではないかと思うのですが、いかがだったでしょうか。

優しく歌いかけるジュディーと、荒削りにも聴こえるパンチの利いたニッキの歌声。
そこには、ジャズ・ロック・ソウルと時代と共に変化していった黒人音楽の変遷の歴史が見えてくるように思えます。



さて、この”虹の彼方に”、2001年に「20世紀の名曲」1位に輝いたこともあるのでしょうか、昨今、再び多くのアーティストによってこれまで以上に多くのカヴァーが生み出されているように思うのですが、その顔ぶれ、ジャズ系のアーティストばかりではなくロックのアーティストのカヴァー・ヴァージョンまでと、調べて行くとその演奏するアーティストのジャンルの幅の広さに驚かされます。

そこで、ちょっと意外なロックのアーティストの演奏、皆さんお馴染みのこの人で歌で、”虹の彼方”、ロックのとのマッチングは果たしていかに。
それではその演奏、早速聴いてみることにいたしましょう。



ご存じEric Claptonによる”虹の彼方に”です。
カントリー・ブルースタッチの”虹の彼方に”、クラプトンの持ち味がもっとも冴えるスタイルの演奏だと思いますが、ここでの聴きどころはクラプトンのギターもさることながら、その彼の歌唱力。

若きの日のクリーム時代には、もっとうまく歌えるようになりたいと願っていたクラプトン、70年台の初頭に、ソロでデビューした頃には、その歌唱力もかなり上達していたと思うのですが、その後40代半ば頃からのそれは、巧さに加えて、年々円熟味が増し、奥深い味わいが感じさせるものになっているようにも思えます。

ここでもその持前の歌唱力で、原曲の持ち味を生かしながら見事にロッカー・バラードとして、この曲を現代に再生さしめている。
そういう意味でこの演奏、クラプトン円熟の境地が生んだもの、彼の思い描いた演奏スタイルの一つの到達点と言うべきものでは、思うのです。



さて、昨年は私にとって、この”虹の彼方に”は当たり年で、意識した訳でもないのに手に入れる作品、そのクレジットを見ると、何故かこの曲が収録されているものばかり、おかげでいろいろな”虹の彼方に”を楽しむことができたのですが、中でも気に入っているのが、このジャズの器楽演奏。


こうしたジャズ・アーティストの器楽演奏の”虹の彼方に”と言えば、The Modern Jazz QuartetやピアニストのBud Powell等といった、高名なアーティストの演奏があるのですが、それらの演奏、これまで聴いてみて、原曲の持ち味から浮いてしまって、どうもしくっりとこなかった感じていたことから、私自身、ジャズの器楽演奏では、この曲の持ち味を生かし表現するのは難しいのかなと思い、そうした演奏を探すのを諦めてしまっていたのです。

ところが、偶然出会ったこの演奏...........。
これは、派手さはないが、妙にしっくり感があった。

という訳で、次にはその演奏、ここで聴いてみることにしたいと思います。



昨年末にも記事で取り上げた(http://hmoyaji.blog.so-net.ne.jp/2014-12-23)、Frank WessのフルートとKenny Burrelのギターによる1956年に収録の”虹の彼方に”の演奏です。

バレルのしっとりとした粘りを感じるオープニングに導かれて現れるウエスのフルート、メルヘンの香りを漂しわせながら、しだいに聴く者を、そのメルヘンの世界の導き、そこでの散策に誘いこんで行くような、そうした感じのする演奏ではないかと思います。


そして、ジャズの器楽演奏による”虹の彼方に”から最近の演奏からもう一つ。
こちらは夢とメルヘンの香りを保ちながらも、大人の味を感じさせる演奏です。
フルートのバックにストリングスを配した演奏で、”虹の彼方に”お楽しみください。



Manhattan Jazz QuintetやManhattan Jazz Orchestraのリーダーとして活躍するアレンジャー兼ピアニストのDavid Matthewsの演奏。

これまで、ジャズのみならずクラシックやロックまで、往年の名曲に独特のアレンジを施し、自己のバンドで演奏、高い評価を浴びて来たデビット・マシューズ。

ここでは珍しくストリングスを使い、このメルヘンの世界を可憐にかつ美しく再現しています。
マシューズといえばジャズ・コンボかビッグ・バンドの演奏というイメージが強かった私にとって、意表を突く演奏でしたが、ストリングを使うことで原曲にある夢とメルヘンのイメージを最大限に発揮させつつ、気品香るジャズの味わいを楽しまさせてくれる、さすが、アレンジの鬼才デビット・マシューズならではの演奏だと思います。


さて、意表を突かれたところで、今回、トリに聴いていただく”虹の彼方に”は.........?
これま意表を突かれた演奏。
この演奏には、さすがに、ぶっ飛んでしまいまいました。

それは、メタルの”虹の彼方に”!! 
それでは、そのメタルサウンド、さてどんな演奏が飛び出すのか、ご一聴ください。



メタル・ギターの祖、あの伝説のギタリストのJimi Hendrix による演奏。
現代メタルの頂点ともいうべきギタリストのYngwie Malmsteenも、この演奏のフル・コピーともいえるような演奏を残しているのですが、1939年生まれたこの曲を、今から40年以上前に、ここまでメタルに仕上げたヘンドリックスの才能には、驚嘆の気持ちを抱かざるをには負えません。

このヘンドリックス自身の演奏にある新しさ、少なくとも1970年初めの演奏のはずですが、そうでありながら今がある。
そうしたジミの才能の物凄さ、これにはあらためて、心底、言葉に尽くせないほどの、脅威を感じてしまいました。



新年早々長いお話となってしまいましたが、”虹の彼方に”、ジャズからメタルまでと、この多様なアレンジ創出の世界。

今から70年以上前の曲ながらこの守備範囲の広さ、これこそれこの曲が「20世紀の名曲」1位に選ばさしめた原動力だったのではと思うのですが、いかがなものでしょうか。

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mk1sp

聴き比べてみて・・・クラプトンVerが気に入りました、円熟味のある演奏、歌唱、かっこいい(>_<)、JazzVerも良いですね(*^_^*)。

私も以前記事にしたことがあり、やはり、カバー、ジェフ・ベックVerを貼ってますので、ご紹介いたします♪

http://mk1sp.blog.so-net.ne.jp/2009-07-10
by mk1sp (2015-01-14 01:20) 

ハンコック

おはようございます。
そうですね。昨年は色々ありましたからね。今年は穏やかにあってほしいものです。
over the rainbow、そういえば、クラプトンもやってましたね。自分も聴いたことがありますが、かなりシブいですよね。あの人が、歌う曲は全てカッコ良くなりますからね。

そういえば、over the rainbowは自分の中では何故か閉店の時にかかる曲という固定観念がありまして...
それは10代20代パチンコに明け暮れていた頃、往生際の悪い自分はだいたい閉店までいて、この曲を聞きながら今日も稼いだなあ、疲れたなあとか言ってて、多分このせいだと思うんですが(笑)。
なのでjazz喫茶でリクエストするときにこの曲が入ってないを選んでしまいます。お客さんが閉店と思って帰るんではなかろうかと思ってしまって(笑)。
最近でも、marty paich feat art pepperの盤のA面をリクエストしたとき、お客さんが一斉にいなくなったような気がした事があります。
気のせいかもしれませんが(笑)。
因みに、marty paichのover the rainbowを自分はかなり気に入っているんですよ。
by ハンコック (2015-01-14 06:44) 

老年蛇銘多親父

mk1spさん

ありがとうございました。
おかげで、現代ロック・ギターの礎を築いた偉大なる3人のギタリストの”虹の彼方に”を、心置きなくじっくりと聴き比べることができました。

それぞれ、強烈な個性があり、おのれのスタイル貫き極めた、他の追随をさない素晴らしさ!!
同時代に出現した3人のギタリストの演奏、心底、楽しまさせていただきました。

しかし、これら本当に素晴らしいのですけど、私にとっては、ジミ・ヘンの”虹の彼方に”、、他の二人の演奏は、ある程度予想がついたのに、ジミ・ヘンの演奏は完全に予想外。
ましては他の二人が90年代以降の演奏だと考えられるのに、ジミ・ヘンの演奏は間違いなく70年代以前、この先進性には驚き、そのサウンド、強く心に刻み込まれる結果となってしまいました。

by 老年蛇銘多親父 (2015-01-14 21:17) 

ituki

親父さん^^
最近、去年録画してた「オズの魔法使い」を消したばかりで^^;
ドロシーの素晴らしい歌唱力が親父さんの言われる『大きな礎』というのは、とてもよくわかります。同感です!
曲を彼女の色にしていて、聴いていると音のイマジネーションが湧いてくるという感じがします。
この曲が聴けた裏にそんなエピソードがあったなんて、興味深く読みました。

色々楽しませてもらいましたが、私もジミ・ヘンの演奏にはびっくりしました。
そんな大昔のものとはとても思えませんよね[目玉]”

で、私の好きなOver The Rainbowはこれです(笑)
https://www.youtube.com/watch?v=ai6dq5SFFC0


by ituki (2015-01-14 23:14) 

老年蛇銘多親父

ハンコックさん

パチンコ屋の閉店の音楽!!恐れ入りました。

でも、これ考えてみると勝った人も負けた人もこの曲を聴いて帰っていただき、いい夢を見て明日もまたお越しくださいというパチンコ屋のデモンストレーションだったようにも思えて来ますけどね。(笑い)

marty paichは知りませんでしたが、実は今回いろいろな”虹の彼方に”を聴きながらArt Pepperの演奏などもいいのではないかと思っていたのです。
そこでその演奏、Youtubeを探し聴いてみたのですけど、何か物悲しさを感じる響き、思った通りのサウンドでした。

良いものを消化していただきありがとうございます。

by 老年蛇銘多親父 (2015-01-15 06:14) 

老年蛇銘多親父

イッチー

ジミヘンの演奏、これは90年頃ジミの未発表音源に今のミュージシャンがバックをつけて再編集 した”Crash Landing”という作品に収められているものなのだそうなです。、
こういった再編集物、あまり成功した例はないのですけど、この演奏は、今のミュージシャンがバックをつけたことで、ジミのギターの先進性が却って浮彫にされることとなったように思え、一度この作品全体を聴いてみようかと思っています。

キースの”虹の彼方に”、すっかりキースのことを忘れていましたけど、はっきりは覚えていませんが、30年ほど前にキースの武道館でのソロ・コンサートの行った時、この曲を演奏したような、そんな記憶が甦ってきました。

おかげで、ピアノと対話をしているかのようにピアノを弾くキースの姿が目の前に広がり、演奏を堪能させていただきました。
どうも、ありがとうございます。

by 老年蛇銘多親父 (2015-01-15 06:39) 

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