影に隠れたパイオニア!老いて輝く燻銀のプレー・Don Friedman;Timeless [音源発掘]

今回は、またいつもの音楽話題。

最近ご無沙汰していたこともあってか、ピアノ・トリオの作品が聴きたくなり、その辺りを物色していろいろ聴いてみているのですけど、その中でもよく聴いているのが、50年代から60年代初頭に活躍をしていながらも一旦はシーンからも消えながらも、70年代半ば以後、再び復帰した名手たちの諸作品。

その代表的なピアニストとしては、Hank JoensやTommy Flanaganが有名なのですが、今回聴いてみて印象に残ったのは、その二人に遅れて再登場したピアニストで、60年代のより新しい時代のスタイルを纏ったピアニストのこの作品。

Don Friedman Timeless.jpg


Don Friedmanの”Timeless”を取上げ語ることにいたしました。

彼の作品としては、以前に1962年制作の、その後、彼の名を不朽のものとした名盤”Circle Waltz”について語らしていただきましたが、それを書いた後、60年代の半ば以降一旦は引退してしまったものの、10年の時を経て70年代半ばにカムバックした彼の演奏に接してみたくなり、探し聴くことが出来たのがこの作品。

この作品の制作は、2003年なのですが、これまで、ミレニアムの前後に制作発表されたジャズ全盛の50年代、60年代に活躍したアーティストの諸作品に接して来た私にとって、そのどれものにアーティスト自身の人生から得たであろう奥深い思慮の痕跡と年輪を重ねた円熟味を感じたことから、この年68歳を迎えたFriedmanのこの作品にも、そうした何かがあるのではと考え選び聴いてみることにしたものなのです。

さて、そのDon Friedmanのピアノ・スタイル、それは、通常現代ジャズ・ピアノのスタイル原点といわれているBill Evansのスタイルを踏襲していると言われることが多く、実際に聴いてみても両者は瓜二つとまでは言わないにせよ、さもありなんと思ってしまうほどの相似性を感じてしまうのですけど、Friedmanについていろい
ろ調べてみると、本人自身は、どうもそう思っていなかったどころか、自分こそ新時代のピアノ・スタイルの生みの親だと思っていた節があるというのです。

というのも、Bill Evansの代表作とされる”Portrait in Jazz”や”Waltz for Debby”でその好演に大きな役割を果たしたベーシストの Scott LaFaroや、LaFaroの死後、代わってBill Evansトリオのベースを努めたChuck Israelsの二人のべーシストは、Evansのトリオに参加する前にはFriedmanのトリオに在籍していたからで、Friedmanしてみれば、Evansのピアノ・トリオのそもそもの根源は自分自身だと考えていたのではないかというのです。

さて、こうしたFriedman草創期におけるベーシストへの強いこだわり、実は今回取り上げた”Timeless”でもそのこだわりには変わりはなく、起用されたベーシストは、80年代後半Chick Coreaのエレクトリック・バンドに参加、驚異のエレクトリック・ベース・テクニックで脚光を浴び、90年代に入るとアコースティックに回帰した
Chick Coreaの下で、彼もアコースティックに器を持ち替えエレクトリック同様の驚異のベースプレイでピアノ・トリオに新鮮な息吹を吹き込んだ名手John Patitucci 。

実は、私がこの作品に注目したのは、メンバーにこのPatitucciの名を見つけたからなのです。

1959年生まれの、このレコーディング時には44歳であったPatitucciと一回り以上の年の差のあるFriedmanとのコラボ。60年代ジャズ・ピアノの世界に新風を吹き込んだFriedmanと、フュージョンの洗礼を受けつつ現代のアコースティックなジャズ世界に新風をもたらしたPatitucciとの出会いが、どんなサウンドを生み出し聴かせてくれるのか!!

そんなことを思いながら、この作品に針を落としてみたのですが........。

といところで、その二人の織り成すサウンド、ここでご一緒に、まずは1曲聴いてみることにしたいと思います。

曲は、Bill Evansの演奏でも有名な”Emily”です。

















繊細に音を紡ぎ上げ耽美的な音空間を形作って行くEvansの”Emily”に対し、一つ一つの音を噛みしげながらも大らかにその旋律を歌い上げて行くFriedmanの”Emily”。

極めて相似性の高さが話題になる二人ですが、聴き比べてみると、それぞれの持ち味がくっきりと浮かび上がってくるように感じます。

そうした二人の持ち味の違い、そこに視点を移し二人の演奏をさらに深く聴き比べてみると、それぞれが起用しているドラマーの個性に大きな違いがあることに気付かされます。

そのこと、1960年代にこの二人をそれぞれサポートしたドラマーで見てみると、Evansのトリオにおいて”Portrait in Jazz”や”Waltz for Debby”等の名演を支えたPaul Motian と、Friedmanのトリオにおいて不世出の名演”Circle Waltz”を支えたPete La Rocaの個性の違い。

この二人を比べてみると、EvansのトリオにおいてのPaul Motianの場合は、ドラムがその演奏の前面にでることは少なく、サウンド全体を包み込むようにしてその流れを支えながら、ここ一発というところでサウンドに強いインパクト与えトリオのプレイに佳境をもたらして行く役割に徹しているかのように見えるのに対し、FriedmanのトリオにおいてのPete La Roca の場合は、一音一音クリアな打法で、他のプレーヤーと互いにサウンドをぶつけ合いながら、共に起伏に満ちたサウンド作り上げて行く役割を担ってる、そうした違いがあるように見えてくるのです。

そのことは、その後のEvansトリオを支えた諸代のドラマー、そしてFriedmanのこの作品でドラムを務めるOmar Hakim の存在にも同様のことが言え、そこにEvansとFriedmanのドラムという楽器の好みの違いを通じて、それがそれぞれの音造りへの考え方の違いとなって現れているように思えてくるのです。


ところで、この作品でドラムを担当し、過去のLa Roca 以上にその存在感を示しているOmar Hakim。
この人、あのジャズ史上に大きな足跡を残したフュージョン・バンドWeather Reportのドラマーとして名を知られるアーティストなのですが、実はこの私、Report以降もフュージョンのフィールドでの活動が目立っていた彼のドラム・プレーについては、これまでは全くと言っていいほど評価してはいなかったのです。

そうしたこともあって、こうした純ジャズ作品での彼のプレイには期待するどころか大きな懸念を抱いていたのですけど、実際に聴いてみるとそのマルチな打法でトリオをけん引、Evansとは異なったFriedmanのスタイル創出の大きな原動力となっていることに気付かされ、その評価を180°逆転せざるおえなくなってしまったのした。

そして、そのHakimの経歴をあらためて調べてみると、この人、日本人アーティストとの関係も深く、驚いだことに吉田美和、スマップ、嵐などのJ-Popアーティストのバックも務めことがあるのだとか。

それは、Omar Hakimというアーティストのサウンドの変化に対する優れた順応性と、その本質を見極める鋭い直感力を示すものであり、その才能がベースのJohn Patitucciの存在と合わさり、この作品をFriedmanの魅力を十二分に引き出した聴き応えのあるピアノトリオ作品に至らしめたのではないかと思うようになったのです。

それでは、そうして生まれたFriedmanの魅力に満ちたこの作品から、もう1曲。
曲は、この曲にはちょっと珍しい清々しさ漂う軽快なアレンジが光る”Body And Soul”です。



さて、こうして聴いてきたDon Friedmanの演奏、つねづねBill Evansのそっくりさん的な捉え方をされる彼ですが、今回この記事を書きながらよく聴いてみてEvansとまた違った魅力を発見、そのプレーを新しい気持ちで堪能することが出来ました。

似ているようでも、それぞれアーティスト自身の風味がある。
それを一つ一つ解き明かし聴いてゆくのも、また一つのジャズの楽しみ方だということ、今回それを会得出来たことは大きな収穫でした。




ところで私儀、3月の終わりに病院でもらった薬の副作用で胃腸障害を引き起こし、1ケ月間食事もままに取れない状態になってしまいまして。
しかし、ここ2週間ほど前より、やっとのことで、その体も回復の方向に進み始め、万全とは言えないまでも今は元気を取り戻し、さらに体力と気力の回復に努めるているところ。

そんなこともあって、記事のUpも滞ってしまいましたが、なんとか今回記事を更新することが出来ました。

最後に、この記事の末尾にBill Evansの”Emily”の演奏を掲載しましたので、興味のある方はFriedmanの演奏と聴き比べてみてください。

Track listing
1 Alone Together
2 Star Eyes
3 Body And Soul
4 Emily
5 Turn Out The Stars
6 What Is This Thing Called Love?
7 Bouncing With Bud
8 'Round Midnight

Personnel
Piano – Don Friedman
Bass – John Patitucci
Drums – Omar Hakim

Recording Date
October 14, 2003


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ハンコック

こんにちは。
回復されているとのことで、安心いたしました。
副作用は怖いですね。
さて、こうしてfriedmanとevansを
親父さんの解説を読みながら聴いてみると、
結構な違いが見えてきますね。
私もこのアルバムは持っていますので、
改めて聴き込んでみたいと思います。
改めてサイドマン含め、背景を知る事の大切さを思い知りました!
ジャズは奥が深くて、面白いですね。
by ハンコック (2018-05-26 10:35) 

老年蛇銘多親父(HM-Oyaji)

ハンコックさん
いろいろご心配をかけたようですが、不調より完全脱出出来そうで一安心といったところです。

今回は、病気の回復途上リラクッスを得ようとこの作品を聴きなおしたところ、Hakimのドラムの存在感に気付き、そこからこうしたことを思い書いてしまったのですけど、逆にEvans側のドラマーについても、Evansと彼をサポートした歴代のベーシストの凄さから、陰に隠れがちだったドラマーの重要性を知ることが出来たように思います。
特にMotian、この人のプレーは生でも見たことがあるにもかかわらず、これまでピーンと来ていなくて、今回目からうろこの思いすることになりました。

日頃聴いている作品でも、視点を変えて聴いてみると、また別の世界にが見えて来る、ジャズって本当に面白いものですね。



by 老年蛇銘多親父(HM-Oyaji) (2018-05-27 20:07) 

yuzman1953

老年蛇銘多親父さん、こんばんは。
しばらくブログが更新されなかったので、お仕事が大変なのだろうと思ってました。健康を第一に無理をなさらないでください。
by yuzman1953 (2018-05-28 02:08) 

mk1sp

Bill Evansは、完成型という印象です
紳士のエレガントさ、内に秘めた強さが滲み出ている感じがします
Friedmanは、未完成という印象です
軽やかで若い強さを感じます。個々の音が共鳴している感じもします
聴き比べてみると違いがあって面白いですね
薬の副作用、大変ですね、体調いかがでしょうか
この所の不安定な気候も影響あるのでしょうか?
どうかご自愛ください
by mk1sp (2018-05-28 21:38) 

老年蛇銘多親父(HM-Oyaji)

yuzmanさん

大変ご心配かけすみませんでした。

しかし、薬の副作用、医師からそういうこともあると説明を受け承諾して薬の服用を始めたのですけど、その害が、まさか2ヶ月近くも引きずることになろとうは思いもよらず本当にまいりました。

今は、ほぼ回復体力も徐々に戻って来たようなので、ここでまたひと踏ん張りしたいと思っています。

もちろん、健康第一としながらですけど。
by 老年蛇銘多親父(HM-Oyaji) (2018-05-29 20:29) 

老年蛇銘多親父(HM-Oyaji)

mk1spさん

お見舞いの言葉ありがとうございます。

完成型と未完成、そういう捉え方も出来ますね。
なるほどと思いました。

ただFriedmanの演奏、サポートするバックの二人、Friedmanより1回り以上若く、共にフュージョンを体現して来たこともあって、それが軽やかさと若い躍動感をもたらしたように思うのです。
そしてこのこと、完成したEvansのこの名曲の演奏に対し、それとはまた違う演出を施し自己の音楽を作るためのFriedmanのあらかじめのもくろみだったのではとも思うのです。

それにしてもmk1spさんの着目、両者の違いをうまく言い表しているなと思いつつ、何か嬉しくなりました。






by 老年蛇銘多親父(HM-Oyaji) (2018-05-29 21:07) 

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