天才ドラマーを支えたピアニスト・Tony Williams;Young at Heart・with Mulgrew Miller [音源発掘]

前回の記事で、ピアノ・トリオの作品が聴きたくなり、いろいろ物色し聴いている由、お話をいたましたが、前回の記事でご紹介したDon Friedmanの作品を聴き、これまで自分自身が気付かなかった新たな発見を多々得たことから、すっかりピアノ・トリオの魅力に嵌ってしまった私。

そうしたことで、「柳の下にいつも泥鰌はいない」の例えの如くになってしまうかもしれないと思いつつも、今回も前回に引き続きピアノ・トリオの作品を聴き記事することで、また何か新しい発見が出来るのではと、またその作品を選び出しその感想を書いてみることにいたしました。



そこで今回選んだピアノ・トリオの作品は............

Young at Heart tonny willams.jpg


1960年代ジャズの中核をなし、その歴史にその名を大きく刻んだMiles Davis Quintetのドラマーとして、僅か17歳の若さで抜擢され、その重責を果たしつつドラムの新たな世界を切り拓いた天才ドラマーのTony Williamsの”Young at Heart”です。

あれ~~!!!!!

ピアノ・トリオの作品に嵌っていると言いながら、ピアニストのリーダー作品ではないのですか??!

という声もあろうかと思いますが、この作品、1997年に51歳の若さで他界したTony Williamsの事実上、最後のリーダー作品であると共に、彼の名を冠した唯一のピアノ・トリオによる作品なのです。


こうしたドラマーがリーダーとなっているピアノ・トリオ作品というと、ドラマーが前に出ようとし過ぎ、そのことが全体のバランスを損なう結果をもたらしてしまっているものが多々見られるのですが、この作品、1986年以来、演奏を共にし互いに気心の知れたピアニストのMulgrew Millerとのコラボで、ともすればバンド全体を食ってしまいがちなTonyのドラム も、共々の個性を損なわずにベストの状態を引き出すプレーに徹していて、それがピアノ・トリオとしての最良のサウンドを生み出しているあたり、ピアニストがリーダーとなっている他のピアノ・トリオ作品にはない聴きどころがある作品だと感じ、ここに取り上げることにしたのです。

そこで、相対するピアニストのMulgrew Millerのこと、その経歴を見てみると、Duke Ellingtonの息子Mercer Ellington の率いるオーケストラのピアニストとして招かれたの皮切りに ヴォーカルのBetty Carterの下で活動、その後1983年にArt Blakey & The Jazz Messengers に加入、当時のこのバンドのトランペッターのTerence Blanchard、 アルトサックスのDonald Harrison 等と共に、後にジャズの新時代を担うこととなる、この名門バンドの後期黄金時代を築くに大きく貢献した素晴らしい経歴を裏付けに持つアーティストなのです。

私が、彼の存在に注目したのも、そのArt Blakey & The Jazz Messengers の作品、1985年の”Art Blakey & The Jazz Messengers Live At Sweet Basil ”で、Terence BlanchardのDonald Harrison 等、当時新進気鋭の若手の溌剌としたプレーに対し、それに負けないキラッと光る個性を放つ新鮮なプレーに接してのことだったのです。


そうしたMiller、1986年からはTony Williams Quintetに参加、以後その関係はTony の亡くなるまで続くのですが、本題に入る前に、ここでTony とMillerの最後のコラボを捉えたこの作品から、今回もこの辺で1曲聴いてみることにしたいと思います。

曲は、Mulgrew Millerのペンになる”Farewell To Dogma ”です。









聴いて思うのは、Miles Davisの下に在籍以後、ロックに傾倒した時代のTony のドラム・プレーと比べると、ずいぶん慎み深くピアノの演奏をサポートしているかのように聴こえますが、一旦、ピアノのソロが始まると、ピアノ調べに乗り、その壺を的確に捉えた素早く切れの良いスティック捌きで、そのソロと共に俊敏に自己の歌を唄っているTony のドラム。

その抜群ともいえる互いの生み出す音を知り尽くした展開に、そんじょそこいらのピアノ・トリオ作品では味わえない、奥深い気心の通い合いの様と、その瞬間を生む緊張に満ちた音の連なりに、痛快さを感じることが出来たのではないかと思います。

そうしたTony とコラボによる”Farewell To Dogma ”の演奏、後にMillorも自己のトリオで演奏しているのですけど、そのPVがありましたのでこのこの記事の末尾に掲載しておりました。

こちらの方も、是非とも一聴していただき、Tony というドラマーとの技の違い比べていただければと思います。

さて、そうした感を抱かせるTony とMiller、続いて語らなければいけないのはMillorのピアノのこと。

私は、彼のピアノについて 彼を初めて聴いた当初は、60年代、それ以前のBop期のBud Powellの系譜を引くピアニストの時代から、新時代のモーダルをリードしたBill Evansの系譜を引くピアニストがその主流を占める中、彼は、Evansに対し60年代モーダルを共に築き上げることとなった、あの伝説のJohn Coltrane  Quartetのピアニスト、McCoy Tynerの影響が強いピアニストだと単純に考えてしまっていたのです。

が、しかし、彼のピアノ、その影響は感じられるものの、単にMcCoyそのもの というには大いに違和感があるしと、彼の好んでプレイを何度も聴いているうちに、そうしたことが見えて来るようになったのです。

しからば、彼のピアノは??、ということで、さらに彼のピアノを聴きこんでみたところで気付かされたのは、McCoyのピアノのバックに感じられる、静かに揺らぐどす赤黒く燃える炎の存在、それはJohn Coltrane、Archie Shepp、Pharoah Sanders等、Coltraneと近しいのサックス奏者一派のサウンドからも感じられたものなのですが、その炎の存在がMillerのピアノには希薄にしか見えてこなかったということ。

そのこと、そういえば、この作品でMillerで絶妙のコンビネーションでを見せてくれているTony Williamsも、過去にMcCoy Tynerとのピアノ・トリオ作品(1975年;Trident)で共演しているのですが、そちらの方も聴きあわせてみると、McCoyのピアノに対しTony のドラムの軽さばかりが目立ってしまい、一体感に欠けるものであったことが思い起こされ、その辺りの印象を元に、このTonyとのコラボで、さらにMillerのピアノの資質を聴き込み探索してみることにしたのです。

その結果、辿り着いたのが彼のピアノの中に内在していた、Tony のMiles Davis Quintet加入前、そのQuintetのピアニストとしてその重責を果たしたWynton Kelly、そのKellyのピアノの遺伝子を感じさせる音があることを悟ったのです。  

それは、表向きには、現代的技法によるプレイに徹しているかのように見えるMillerのピアノ、しかし、何気に聴いていると何か妙に懐かしさ増して来て、そうしているうちに彼のピアノに引き込まれてしまう。
実は、そうした魅力のあり方が、確かWynton Kellyのピアノにもあったなと思い、さらにつぶさに聴いてみると彼のピアノ、そこには現代的なフレーズを奏でながらも、その根底にはKellyが持っていた静謐なブルーと軽快なスウィング感の血が流れていた。

それは、Wynton Kelly好きの私にとって素晴らしい発見であり、それによって、ますますMillerというピアニストへの傾倒を増長させてしまうことになってしまったのです。

そこで、そのKellyのスピリットを感じさせる演奏をここで1曲。
今度は、ジャズのスタンダード・ナンバーから、Wynton Kellyの名演でも知られる”On Green Dolphin Street”をお聴きいただきたい思います。



51歳の若さでこの世を去ってしまったTony Williams。
その最後の公式レコーディングとなったこのトリオ作品に収められたこれらの演奏からは、この天才の先進的でありながらも、先人達によって作られて来た伝統を十分に理解会得、完全に自らのものにしていたその優れた資質を感じ見ることが出来るように思います。

そういえばこう書いて思い出したのが、1977年の渡辺貞夫と当時Tonyも在籍したHank Jonesのピアノ・トリオ・The Great Jazz Trioによる全曲モダン・ジャズの父とも言われるCharlie Parker に因んだ楽曲を収録した演奏作品 ”Bird Of Paradise”の収録時のこと、1945年生まれでParkerの全盛期にまだ幼かったTonyは、Parker の曲を全く知らなかったのにも拘らず、Tonyのとにかく1回聴かせてくれという要望に応え演奏し聴かせたところ、一発でその曲を覚えてしまい、次の演奏で完璧なドラム・プレイで収録を熟してしまった言う逸話。

それこそが、Tonyが伝統に裏打ちされたアーティストであり、そこにその天賦の才をもって新時代のスタイルを切り開いていったことの証、図らずもTonyの遺作となってしまったこの”Young at Heart”いう作品は、そうした彼の楽歴の集大成なのだと、今回この作品をじっくりと聴くことで思い知ることになってしまいました。

Mulgrew Millerというベスト伴侶得て、ピアノ・トリオというシンプルなフォーマットながらも、繊細さと大胆さを合わせ持つ彼のドラム・プレーの妙技がつぶさに感じ取れるこの作品。

そして、そこにあった、70年代ロックには走ってしまっていたTonyをジャズのフィールドに連れ戻し、晩年彼がサウンド・クリエーターとして道を歩むのを支えて来たMillerのピアノ。
どの作品でも水準以上鮮やかなプレーの聴かせてくれているそのMillerのプレーも、ここでは信頼の力を得てさらに飛翔、より以上の高見へと上り詰めていた。

Tonyにとって唯一のピアノ・トリオのリーダー作品なってしまったこの作品、聴き終え思ったのは、叶うことなれば、2013年に他界してしまったMulgrew Miller共々蘇り、もう一度その続編を今に残してもらえたならばという願いでした。



PS
この記事の末尾に、Wynton Kellyの演奏による”On Green Dolphin Street”を掲載しておきました。
こちらの方もまた、このTony Williams Trioの演奏と聴き比べていただければと思います。



Track listing
1 Promethean Written-By – Mulgrew Miller
2 Young At Heart Written-By – Carolyn Leigh, Johnny Richards
3 On Green Dolphin Street Written-By – Bronislaw Kaper, Ned Washington
4 Farewell To Dogma Written-By – Mulgrew Miller
5 How My Heart Sings Written-By – Earl Zindars
6 Fool On The Hill Written-By – John W. Lennon - Paul J. McCartney*
7 Neptune : Fear Not Written-By – Tony Williams*
8 You And The Night And The Music Written-By – Arthur Schwartz - Howard Dietz*
9 Body And Soul Written-By – Edward Heyman, Frank Eyton, Johnny J. W. Green*, Robert Sour
10 This Here Written-By – Bobby Timmons, Jon Hendricks
11 Summer Me, Winter Me Written-By – Alan Bergman - Marilyn Bergman*, Michel J. Legrand

Personnel
Tony Williams(ds)
Mulgrew Miller(p)
Ira Coleman(b)

Recording Date
24-25 septembre 1996








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mwainfo

いつもお寄り頂き有難うございます。何故か、ページの起動、ナイスのページが入力ができません。
by mwainfo (2018-06-17 20:58) 

yuzman1953

二週間ぶりのオフとなった今日、軽快なジャズを聴きながらまったりと過ごしています。老年蛇銘多親父さんの選曲の良さに感謝、感謝です。
by yuzman1953 (2018-06-28 12:47) 

老年蛇銘多親父(HM-Oyaji)

mwainfoさん

ご指摘ありがとうございます。
ナイスのページ、確かに設定が変わっていました。

遅ればせながら、直しましたのでまたよろしくお願いします。


by 老年蛇銘多親父(HM-Oyaji) (2018-06-30 14:09) 

老年蛇銘多親父(HM-Oyaji)

yuzman1953さん

いつも、私の選曲を楽しんでいただているとのこと恐縮です。

私の選曲が的を得ているかは自信はありませんが、いつもいただくyuzman1953さんのコメントから、 yuzman1953さんもいい感性を持っていらっしゃるなと思い、逆にまたその音楽の新たな面を発見したりしています。


by 老年蛇銘多親父(HM-Oyaji) (2018-06-30 15:25) 

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