忘れていたピアノの名手、晩年の名品・Roland Hannna:Milan, Paris, New York [音源発掘]
1月は,Jeff Beckの訃報を知って以来、彼を偲びずっと彼の生涯を辿ってその作品を聴き続けていたのですけど、歳のせいなのかロックばかりを聴き続けているというのは、精神的に少々きつい。
ここ来て、しっとりとした優しさを感じるサウンドがやたら欲しくなってしまい、そこで、聴き始めたのがピアノのジャズ作品。
初めは、思い浮かぶアーティストの作品を手当たり次第に聴いていたのですが、そうした中で思い巡らし,ふと思い当たったのが、昨年末に30年ぶりに腰を据えて聴いたとあるアーティストのピアノ作品。
それは、1970年代の半ば、50年代終りに二つのリーダー作品を発表するも、それ以来70年代に入るまで新たなリーダー作品がなかったためか、半ば忘れられていていたにもかかわらず突如ジャズ雑誌等で大きく紹介され大きな評判を呼んだピアニストの作品。
当時、私も実際にそのアーティストの演奏に接してみるところ、その良さは評判以上。
とは思いながらも、若気の至りといべきか、当時の私は何とも渋く感じたそのサウンドが、好みから外れていたことで深追いすることもなく、さらに、1980年代なるとそのアーティスト自身半ば引退してしまったことから、その後は、その人のピアノも聴くこともなく半ばその名も忘れかけてしまっていたのです
ろころがどういう訳か、ここに来て急にそのアーティストの名を思い出し、聴いてみたところこれが実に良く、そのアーティストの作品を探し出して片っ端からを聴くことになってしまうことになってしまったです。
そうした中で、今回ご紹介する作品は、いろいろ聴て来た中でも特に気に入ったこの作品。
アメリカのピアニストRoland Hannna による2002年制作の作品、”Milan, Paris, New York”です。
この作品は、2002年11月に亡くなったHannnaの最晩年の作品なのですが、中でも引かれたのが70年代半ばに彼とサックス奏者のFrank Wess率いたNew York Jazz Quartetでそのプレイを支え、その後たびたび共演を重ねながら心に残る名演を生み出して来た盟友、ベーシストGeorge Mrazとの最後の共演作品だということ。
そして、収録曲に目を移してみると、ずらっとジャズ史に残るあの偉大なる名コンボModern Jazz Quartet(MJQ)の楽曲が並んでいる。
特に不朽の名曲”Django”、この名曲にHannnaとMrazの名コンビががどんなアプローチで迫るのか、大いに興味が湧いてきて、この作品! これは聴いてみなければと耳にすることにしたものなのです。
と言うところで、HannnaとMrazが奏でる名曲”Django”。
早速、聴いて頂くことに致しましょう!!!!!
MJQのオリジナルの空気を残しながらも、Hannna、Mraz、二人だからこその世界を見せつける、この作品のオープニングを飾るにふさわしい演奏です。
Hannnaのピアノの魅力は、そのメロディラインの親しみやすさ。
くっきりとした音色で人が歌うかのように美しいメロディを紡いでゆくそのプレイには、他ではなかなか味わえない格別なものがある。
そして、そこに絡むMrazのプレイ。
この人、Eddie Gómez、Niels-Henning Ørsted Pedersenらと共に、最もピアノ・トリオを真髄を知り尽くしたベーシストの一人ではないかと私は思うのですけど、ここでも攻に守にHannnaのプレイを時には触発しつつ、また時にはその色合いを深く染めて、さらなる深みを醸し出しているのが感じられます。
気心知れた二人だからこその、はりつめた緊張の中にもリラックス・ムードを感じさせるそのサウンド、私自身、こうしたところに心惹かれてしまったのかもしれません。
さて、ここでもう1曲。
今度は、Hannnaのオリジナル曲で、MJQのピアニストであるJohn Lewisに捧げた曲。
”Portrait Of John Lewis”を聴いて頂くことに致しましょう。
いつものHannaとは違った、異質なタッチを感じさせるピアノ・プレイ。
それは、どこかあのMJQでのJohn Lewisのタッチを想起させるピアノのサウンド。
確かに、Hannaらしい曲想を持つ曲ではあるけれど、そのプレイには至る所にJohn Lewisの面影が散りばめ浮かび上がって来ているという感じで、その感は、ちょっと気をそらすと、これはJohn LewisがMJQのために書き下ろした曲なのではとの錯覚に陥ってしまうほど。
その影響か、ドラムのLewis Nashの後半のドラム・ソロも、NashではなくMJQのドラマーであったConnie Kayがそこにいてプレイしているのではと思えて来てしまう。
聴くほどのJohn Lewisに対するHannaの深い敬慕の念が感じられる1曲だと思います。
しして、その敬慕の念、それは、Hannaをして70年代、New York Jazz Quartetという自らのコンボの結成に至らさしめた大きな原動力だったのではと、そうした思いが芽生えて来てしまう。
感慨深い何かを感じさせる1曲だと思いました。
そうしたところで、次はこの作品からではありませんが、映像を漁っているうちに見つけたHannaとMrazの緊密な関係が垣間見れるライブ映像を発見しましたので、ちょとご紹介することに致しましょう。
ニューヨークの名門ジャズクラブVillage Vanguardでのライブでした。
最晩年に至るまで精力的な活動を続けていたHanna。
彼の人生最後の年となった2002年には、4月制作のこの”Milan, Paris, New York”に始まり6作もの作品を残しているのですが、この作品と彼の最後のトリオ作品となった”Après Un Rêve(邦題;夢のあとで)”を聴いて気付いたのは、それまでの、くっきりとした音色で人が歌うかのように美しいメロディを紡いでゆくプレイはそのままに、さらに愛らしさが加わってまろやかになっていたということ。
そんなところにも、彼の最後の最期まで真摯に自己の音楽を探求し続け来た姿が垣間見れるような気がします。
さて今回は、彼の1959年発表の2作目のリーダー作品”Easy to Love”から聴き始め、70年代、90年代と順を追って彼の作品を聴いてみて、何故こんな素晴らしいピアニストを長きにわたり忘れてしまっていたのだろうかと、我ながら修練の足りなさを痛感してしまいました。
最晩年の2002年の6作のうち2作を日本のVeusレコードが手掛け、2002年10月制作の最後の作品”Last Concert”は、日本のべ-シスト中山英二とヴァイオリニストの硲美穂子(はざまみほこ)との日本での共演作品であったなど、日本との繋がりも深かったRoland Hannna。
この後は、中山英二や日野元彦等、日本人アーティストとの共演作品にも耳を傾けていこうと思っています。
それでは最後に、この作品より"Afternoon In Paris"を聴き、Hannnaのピアノ、さらにその魅力を味わって頂くことにしたいと思います。
Track listing
1.Django Composed By – John Lewis
2.Skating In Central Park Composed By – John Lewis
3.Afternoon In Paris Composed By – John Lewis
4.Milano Composed By – John Lewis
5.Bag's Groove Composed By – Milt Jackson
6.New York 19 Composed By – John Lewis
7.Portrait Of John Lewis Composed By – Roland Hanna
8.The Clarion Bells Of Zurich Composed By – Roland Hanna
9.Perugia Composed By – Roland Hanna
Personnel
Piano – Roland Hanna
Bass – George Mraz
Drums – Lewis Nash
Producer – Tetsuo Hara, Todd Barkan
Engineer – Katherine Miller
Recorded
April 1, 2002 The Studio, New York City, NY
ここ来て、しっとりとした優しさを感じるサウンドがやたら欲しくなってしまい、そこで、聴き始めたのがピアノのジャズ作品。
初めは、思い浮かぶアーティストの作品を手当たり次第に聴いていたのですが、そうした中で思い巡らし,ふと思い当たったのが、昨年末に30年ぶりに腰を据えて聴いたとあるアーティストのピアノ作品。
それは、1970年代の半ば、50年代終りに二つのリーダー作品を発表するも、それ以来70年代に入るまで新たなリーダー作品がなかったためか、半ば忘れられていていたにもかかわらず突如ジャズ雑誌等で大きく紹介され大きな評判を呼んだピアニストの作品。
当時、私も実際にそのアーティストの演奏に接してみるところ、その良さは評判以上。
とは思いながらも、若気の至りといべきか、当時の私は何とも渋く感じたそのサウンドが、好みから外れていたことで深追いすることもなく、さらに、1980年代なるとそのアーティスト自身半ば引退してしまったことから、その後は、その人のピアノも聴くこともなく半ばその名も忘れかけてしまっていたのです
ろころがどういう訳か、ここに来て急にそのアーティストの名を思い出し、聴いてみたところこれが実に良く、そのアーティストの作品を探し出して片っ端からを聴くことになってしまうことになってしまったです。
そうした中で、今回ご紹介する作品は、いろいろ聴て来た中でも特に気に入ったこの作品。
アメリカのピアニストRoland Hannna による2002年制作の作品、”Milan, Paris, New York”です。
この作品は、2002年11月に亡くなったHannnaの最晩年の作品なのですが、中でも引かれたのが70年代半ばに彼とサックス奏者のFrank Wess率いたNew York Jazz Quartetでそのプレイを支え、その後たびたび共演を重ねながら心に残る名演を生み出して来た盟友、ベーシストGeorge Mrazとの最後の共演作品だということ。
そして、収録曲に目を移してみると、ずらっとジャズ史に残るあの偉大なる名コンボModern Jazz Quartet(MJQ)の楽曲が並んでいる。
特に不朽の名曲”Django”、この名曲にHannnaとMrazの名コンビががどんなアプローチで迫るのか、大いに興味が湧いてきて、この作品! これは聴いてみなければと耳にすることにしたものなのです。
と言うところで、HannnaとMrazが奏でる名曲”Django”。
早速、聴いて頂くことに致しましょう!!!!!
MJQのオリジナルの空気を残しながらも、Hannna、Mraz、二人だからこその世界を見せつける、この作品のオープニングを飾るにふさわしい演奏です。
Hannnaのピアノの魅力は、そのメロディラインの親しみやすさ。
くっきりとした音色で人が歌うかのように美しいメロディを紡いでゆくそのプレイには、他ではなかなか味わえない格別なものがある。
そして、そこに絡むMrazのプレイ。
この人、Eddie Gómez、Niels-Henning Ørsted Pedersenらと共に、最もピアノ・トリオを真髄を知り尽くしたベーシストの一人ではないかと私は思うのですけど、ここでも攻に守にHannnaのプレイを時には触発しつつ、また時にはその色合いを深く染めて、さらなる深みを醸し出しているのが感じられます。
気心知れた二人だからこその、はりつめた緊張の中にもリラックス・ムードを感じさせるそのサウンド、私自身、こうしたところに心惹かれてしまったのかもしれません。
さて、ここでもう1曲。
今度は、Hannnaのオリジナル曲で、MJQのピアニストであるJohn Lewisに捧げた曲。
”Portrait Of John Lewis”を聴いて頂くことに致しましょう。
いつものHannaとは違った、異質なタッチを感じさせるピアノ・プレイ。
それは、どこかあのMJQでのJohn Lewisのタッチを想起させるピアノのサウンド。
確かに、Hannaらしい曲想を持つ曲ではあるけれど、そのプレイには至る所にJohn Lewisの面影が散りばめ浮かび上がって来ているという感じで、その感は、ちょっと気をそらすと、これはJohn LewisがMJQのために書き下ろした曲なのではとの錯覚に陥ってしまうほど。
その影響か、ドラムのLewis Nashの後半のドラム・ソロも、NashではなくMJQのドラマーであったConnie Kayがそこにいてプレイしているのではと思えて来てしまう。
聴くほどのJohn Lewisに対するHannaの深い敬慕の念が感じられる1曲だと思います。
しして、その敬慕の念、それは、Hannaをして70年代、New York Jazz Quartetという自らのコンボの結成に至らさしめた大きな原動力だったのではと、そうした思いが芽生えて来てしまう。
感慨深い何かを感じさせる1曲だと思いました。
そうしたところで、次はこの作品からではありませんが、映像を漁っているうちに見つけたHannaとMrazの緊密な関係が垣間見れるライブ映像を発見しましたので、ちょとご紹介することに致しましょう。
ニューヨークの名門ジャズクラブVillage Vanguardでのライブでした。
最晩年に至るまで精力的な活動を続けていたHanna。
彼の人生最後の年となった2002年には、4月制作のこの”Milan, Paris, New York”に始まり6作もの作品を残しているのですが、この作品と彼の最後のトリオ作品となった”Après Un Rêve(邦題;夢のあとで)”を聴いて気付いたのは、それまでの、くっきりとした音色で人が歌うかのように美しいメロディを紡いでゆくプレイはそのままに、さらに愛らしさが加わってまろやかになっていたということ。
そんなところにも、彼の最後の最期まで真摯に自己の音楽を探求し続け来た姿が垣間見れるような気がします。
さて今回は、彼の1959年発表の2作目のリーダー作品”Easy to Love”から聴き始め、70年代、90年代と順を追って彼の作品を聴いてみて、何故こんな素晴らしいピアニストを長きにわたり忘れてしまっていたのだろうかと、我ながら修練の足りなさを痛感してしまいました。
最晩年の2002年の6作のうち2作を日本のVeusレコードが手掛け、2002年10月制作の最後の作品”Last Concert”は、日本のべ-シスト中山英二とヴァイオリニストの硲美穂子(はざまみほこ)との日本での共演作品であったなど、日本との繋がりも深かったRoland Hannna。
この後は、中山英二や日野元彦等、日本人アーティストとの共演作品にも耳を傾けていこうと思っています。
それでは最後に、この作品より"Afternoon In Paris"を聴き、Hannnaのピアノ、さらにその魅力を味わって頂くことにしたいと思います。
Track listing
1.Django Composed By – John Lewis
2.Skating In Central Park Composed By – John Lewis
3.Afternoon In Paris Composed By – John Lewis
4.Milano Composed By – John Lewis
5.Bag's Groove Composed By – Milt Jackson
6.New York 19 Composed By – John Lewis
7.Portrait Of John Lewis Composed By – Roland Hanna
8.The Clarion Bells Of Zurich Composed By – Roland Hanna
9.Perugia Composed By – Roland Hanna
Personnel
Piano – Roland Hanna
Bass – George Mraz
Drums – Lewis Nash
Producer – Tetsuo Hara, Todd Barkan
Engineer – Katherine Miller
Recorded
April 1, 2002 The Studio, New York City, NY
老年蛇銘多親父(HM-Oyaji)さん おはようございます。
さっそくRoland Hannna のMilan, Paris, New Yorkを聞いてみました。心地よいリズムと音色です。さすが水仙されていることだけのことはありました。
見つけらた演奏映像は貴重ですね。雰囲気が伝わってきました。
by SORI (2023-02-16 06:22)
SORIさん
実はRoland Hannna、最初に聴いたのは2作目のリーダー作品”Easy to Love”だったのですけど、どうもピンとこない。
そこで晩年の作品をと思い聴いてみたところ、これがしっかりフィットしてしまったことから、この作品をを取り上げることになってしまいました。
その後、いろいろ聴いて、また”Easy to Love”を聴いてみたところ、これがまたいい。
彼の名盤と言うことで、気負って聴いたのが良くなかったようです。
そんなわけでHannna、妙なことは考えず自然体で接し聴いていただければと思います。
by 老年蛇銘多親父(HM-Oyaji) (2023-02-18 00:11)
老年蛇銘多親父(HM-Oyaji)さん おはようございます。
あらためて聞いてみると意外に良かったりすることはあります。奥が深いです。
by SORI (2023-02-18 11:28)
SORIさん
音楽、特にジャズは、聴くときの気分、季節などで時々に違った聴こえ方がするので、最初はダメでも、しばらくして聴くと良さが見えてくるなどということはしょっちゅうあります。
期待外れでももう一度聴いて良さを知る。
これもジャズならではの楽しみなかもしれませんね。
by 老年蛇銘多親父(HM-Oyaji) (2023-02-19 20:31)