新時代のジャズを描き続けたVirtuoso逝く・Wayne Shorterを偲んで [音源発掘]

3月、待ちに待った春到来と思ったら、そこで聴いたジャズのVirtuosoの訃報。

1月に、伝説のロックの巨匠Jeff Beckの訃報に接しばかりなのに、今度は、Beckと同様熱烈ファンではないけれど、Beckと同様、ジャズにおいて次の世代へ大きな遺産を残した、サックス奏者のWayne Shoterがこの世を去ったとの報は、先月の終りに合間を見てShoterの作品を聴き直してみようと考え、それを始めたところでの事だっただけにそのショックは、Beckの時以上。

享年89歳と聞けば天命だと思うのですけど、私としては、その年齢を知っていたことからそれ以上に、彼についてこれまで長きに渡りジャズ界をリードし影響を与えて来たことを知りつつも、そのように言われるようになった彼の音楽の本質を理解出来ずにいたことから、その理解を深めようとしていた矢先、判を押したかのように飛び込んで来たこの出来事。

これには心底堪えてしまいました。

と言うことで今回は、Shoterの歩みをご一緒に聴きながら、共に現代ジャズに及ぼした彼の遺徳を偲ぶことにいしたいと思います。



さて、このWayne Shoter、1950年代に半ばに登場、1959年には早くも名曲”Moanin”でファンキー・ブームを築き絶頂期にあった名門Art Blakey & Jazz Messengersに参加、これまでトランペットとサックスにトロンボーンを加えた3管編成となったMessengersの新しいサウンド創りに大きく寄与し、さらに1965年には、Miles Davisのクインテットのメンバーとなり、Milesが描いた次世代サウンドを開拓するに大きな能力を発揮するなるなど、ビッグ・ネームの下でその才能を大きく羽ばたかせ新時代のジャズを切り開いた巨匠とも言えるアーティスト。

特にMiles Davisに至っては、その才能を欲するあまりに、1963年に、後に60年代における黄金のMiles Davisのクインテットのリズムセクションとなる Herbie Hancock(piano); Ron Carter (bass); Anthony Williams(drums)の3人を手中に収めながらも、1965年のShoter加入まで新たなスタジオ作品の制作発表を控えさしめてしまったほどのアーティストなのです。


こうして、多くの先達よりその有り余る才能を見出され、将来を嘱望されたWayne Shoter、まずはこの辺で、この時期の彼の演奏をお聴きいただきたいと思います。

最初に、Miles Davisクインテット参加直前の1964年8月製作の作品”Ju Ju”より、

Wayne Shoter JuJu.jpg


曲は、Shoter作曲の表題曲”JuJu”と

Shoter加入後の1965年、Miles Davisのクインテットの最初のスタジオ制作作品である”E・S・P”より

Miles Davis - Esp.jpg


同じくShoter作曲の表題曲”E・S・P”です。









このShoter、John Coltraneの強い影響下にあるサックス奏者だと言われているのですが、”JuJu”の演奏は、Colitraneカルテットの一員として働いたピアノのMcCoy Tyner、ベースのReggie Workman 、そしてドラムスのElvin Jones によるリズム・セクションであることもあってか、そのサウンドはColtraneそのものと言わんばかりの仕上がりとなっていますが、よく聴いてみると、ShoterのサウンドにはColitraneが発していた、ほとばしる粘り気のある情念に感触は希薄で、爽やかに燃え滾る活力が感じられる当たりにColitraneとはまた異なったShoterのShoterたる由縁を感じてしまいます。

そしてもう一方の”JuJu”の約半年後に制作された”E・S・P”。
そこでまず気付かされるのは、僅か半年後の録音であるにも関わらず大きく変貌しているShoterのプレイ。
そこには、”JuJu”で感じたColtrane臭は薄まり、その後に聴かれるShoterのスタイルがあるということ。
そうしたことから、次に訪れたこのMiles Davisのクインテット参加後のShoterの姿は、Milesにも大きな影響を与えながらも、彼自身にとっても未知の世界への第一歩を踏み出す大きな礎であったことが見えてくるように思えるのです。

その後、このクインテットにShoterは、"Nefertiti","Pinocchio","Sanctuary"等、その後の時代のアーティストにも演奏される名曲を提供、コンポーザーとしてもその才を発揮しつつ、Miles共にエレクトリック・ジャズ・ロックの道を切り開いていくのですが、1970年11月、旧知の仲でMiles Davisの下で共に働いたキーボード奏者のJoe Zawinul と共にWeather Reportを結成、翌1971年にこれまでのジャズのあり方を超越した問題作”Weather Report”を発表します。

weather report 1971.jpg


この作品、発表当時は、ジャズ・ファンから「これはジャズではない!」との声が多くの寄せられ、私の友人なども同様の評価をしていたことが思い出されるのですが、今では翌年発表のChick Coreaの作品”Return to Forever"合わせてフュージョンの幕開けを飾った作品として知られているもの。

しかし、ここでのShoterは、従来のジャズとの手法の違いからそのプレイもサウンドの変化に色彩を加えるようなものに徹していて、以前のような奔放なサックス・プレイはあまり聴くことは出来なくなってしまったのです。

そうしたことから私としては、このWeather Reportは、確かに現代のジャズ・フュージョンに大きな影響を及ぼしたことは認めるものの、ことこの時期Shoterに関しては、大いに不満を感じているところ

とは言っても、中にはShoterのサックス・プレイがフューチャーされた曲があって、これが結構新鮮な感じ。

そこで今度は、そのWeather ReportでのShoterのサックス・プレイ満載のその演奏を聴いて頂くことにしようと思います

曲は”Eurydice”です。



これまでのジャズでは、まず聴けなかったミステリアスな音空間。
Shoter自身、神秘的世界への興味がありその憧憬も深かったといわれているのですが、この演奏には、そうしたShoterならではの神秘を感じます。

この曲は、このデビュー作”Weather Report”最後に収められている曲なのですが、実はこの私、随分長い間この作品の革新的な楽曲に満ちたサウンドばかりに目を奪われ、この曲の持つ伝統と革新の狭間を見つめられずその存在に気付かずにいたもの。

しかし、その後いろいろ聴くうちに、Milesクインテット時代よりミステリアスな曲を提供していたShoterの資質の凄さを教えられ、この作品を聴き直し見つけ心に残ったのがこの楽曲だったのです。

ジャズなれど伝統的なジャズではない、そうしたクリエーターとしてのShoterの魅力が現れた1曲として感じていただければと思います。


さて、このWayne Shoter、Weather Report発足後の1974年から1986年の解散直前の1985年まで、それ以前のJazz MessengersからMiles Davisクインテット時代にも続いていた自身のリーダー作品の制作が途絶えてしまうのですが、次に聴くのは1960-70年代のShoterが、その時代の最後となる1974年発表したこの作品、

Wayne Shorter  Native Dancer.jpg


”Native Dancer”より、曲はブラジルの名シンガー・ソングライターMilton Nascimento をフューチャーした"Ponta de Areia" です。



この”Native Dancer”と言う作品、Shoterがブラジル音楽へのアプローチを見せた1969年発表の前々作”Super Nova”の延長線上にあるもの。

今回、Shoterの偲び彼の作品をいろいろ聴き直してみたところ、この作品でのShoterのプレイの屈託のないのびのび感に満ちている抜群の感触の良さ。
1970年代Shoterの集大成とも言える作品だなと言う感を深めることになりました。

さて、Weather Report解散後、Shoterは再び精力的にリーダー作品の制作を開始します。

1995年には、第39回グラミー賞において、ベスト・コンテンポラリー・ジャズ・パフォーマンス賞を受賞した”High Life”を、1997年に、Herbie Hancockとデュオ作品”1+1”を発表、そして同年、あのThe Rolling Stonesの作品”Bridges to Babylon”のレコーディングに参加など精力的な活動を続け、2000年代に入るとアコースティック路線に回帰、2003年に第46回グラミー賞において最優秀ジャズ・インストゥルメンタル・アルバム賞および最優秀インストゥルメンタル・コンポジション賞を受賞した”Alegría”を、2005年には第48回グラミー賞最優秀ジャズ・インストゥルメンタル・アルバム賞を受賞した”Beyond the Sound Barrier”、そして、2013年にはクラシックの名門オルフェウス室内管弦楽団と共演した組曲と2016年のライブを収録した2018年の発表の作品”Emanon”で第61回グラミー賞最優秀ジャズ・インストゥルメンタル・アルバム賞を受賞する等、それまで以上の輝かしい歩みを残しています。

これら作品に耳を通してみると、一作一作異なったコンセプトが貫かれており、クリエーターとしてさらに進化したShoterの姿を感じることが出来るのですが、その一つ一つ変貌する豊かな創造力の賜物に、悲しいかな聴き手の私の方がついて行くことが出来ないというのが実情。

このあたり、よく聴きこんで、今は、少しでもこの偉大なるアーティストの全貌を理解してみたいと言う気持ちになっています。

これまであまり聴いてこなかったWayne Shorter、今回、彼の作品に一通り接してみてその非凡さ才の凄まじさを感じることが出来ました。

それでは、最後に1995年、第39回グラミー賞において、ベスト・コンテンポラリー・ジャズ・パフォーマンス賞を受賞した作品”High Life”より ”Children of the Night"を聴きながらShoterの冥福を祈ることにしたいと思います。



















nice!(15)  コメント(1) 
共通テーマ:PLAYLOG

nice! 15

コメント 1

tarou

こんばんは、中宮寺の半跏思惟像にコメントを
有難うございました。
半跏思惟像のポスターを部屋に貼られているとは
素敵なお部屋です。
by tarou (2023-03-21 20:06) 

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント