プログレシッブ・ロックの妖精:Renaissance・Novella [音源発掘]

最近では珍しく、夜明け前から、夜遅くまで老体に鞭打っての働きずめの日々が続き、しばしの御無沙汰となってしまいましたが、とりあえず一息。

そこで今回は久々に癒しの気分で、私の好きなプログレシッブ・ロック作品を語ることにしたいと思います。

そのグループは、Renaissance。
1970年代初頭のプログレシッブ・ロックの全盛期に遅ればせながらシーンに登場したこのバンド、当時欧米での評判に対し、日本ではほとんど紹介されず話題にも登場することは少なかったのですが。

かくいう私も、彼らを知ったのは、彼らの登場からずいぶん時がたってからのことで、レコードショップで見かけたルネッサンスという、いかにも芸術的なグループ名に惹かれそのアルバムを持ちかえったのが彼らとの出会いの最初だったのです。

そこで聴いたのは、アコースティックでトラッドな雰囲気溢れる叙情的なサウンド、そしてそのサウンド導きによって現れる妖精の歌声のような女性ヴォーカルの美しい調べでした。

その歌声の持ち主は、アニー・ハズラム(Annie Haslam)。
今でこそ、女性ロックヴォーカリストというのは、けして珍しくはないのですが、その頃は、まだまだロックの女性ヴォーカリストというのは珍しかった時代。

ましては、このアニー・ハズラム、5オクターブも言われる声域の持ち主で、そこにクラシックの声楽的技法を駆使し乗り込んできた。

その歌声が、ルネッサンスというバンドに清涼感と深みの美しさを付加し、独特の個性を築き上げさしめている、それまで聴いたことのなかった新鮮な響きにすっかり惹きつけられてしまったのでした。


そこで今日聴くその作品、それは1977年発表の”NOVELLA”(邦題:お伽噺)。

renaissance-novella.jpg


アニーが加わった第2期ルネサンスの5枚目のアルバムとなった”NOVELLA”、聴き始めてまず意表を突かれるのがバックでバンドに寄り添うように流れるクラシック・オーケストラの弦の音。

このクラシック・オーケストラを加えての作品、1974年、このルネッサンスの音楽的中心人物であり、契約の関係でそれまでバンドには参加せず、外から音楽的イニシアチブを取り続けていたギターのMichael Dunford が、正式メンバーとして参加して3作目の作品”Turn Of The Cars ”(邦題:運命のカード)以来のもので、クラシック・オーケストラを加えての最後作品となったもの。 

このクラシック・オーケストラとの共演という試み、それまでディープ・パープルやキース・エマーソン等、多くのロック・ミュージシャンが憧れチャレンジして来たものなのですが、そこにあったのはロックバンドとクラシック・オーケストラとの間の大きな溝。
それぞれの演奏が個々に浮き上がってしまって一体感の感じられない、ぎこちなさが残るものがほとんどだったのです。

ところが、この”NOVELLA”でのクラシック・オーケストラの起用は、バンドの演奏だけでは暗く沈みがちになりそうな楽曲群に、活力を与えサウンド全体のスケールの大きなものに仕上げている。
その一体感の見事さが、素晴らしく際立っていると思えるのです。

そして、マイケル・ダンフォードの中世的雰囲気を醸し出しす美しいアコースティック・ギターが、そのサウンドにさらなる深みを付加している。

特に、この作品の最初に登場する."Can You Hear Me?" は、そのすべてが凝縮されているように思えるということで、まずはこの曲をお聴きください。





そこで、まず印象に残るのは混成合唱に続いて現れるオーケストラによるストリングスの音。
一聴するとイージー・リスニングのサウンドように感じるのですけど、聴き進んでいくうちにそのオーケストラの使い方、マリンバ等の打楽器やホーンが、実に巧妙にロックバンドのサウンドをサポートしていることに気付かされるのです。

それまでのロック・バンドとクラシック・オーケストラがそれぞれ別々に現れ、それぞれが対比するように演奏されていたの対し、ここではその双方が一体となりその音が飛び出してくる。

そして、そのオーケストラ・アレンジも古典的要素も取り入れながら、現代音楽的要素も多分に取り入れられている。
生き生きした音の動き一つ一つが飛び交い迫って来る、そのサウンドにたちまちのうちに虜にされてしまう、そんな魅力があるのではと思います。


ところで先日、Walkmanでこの作品を聴いていたところ、続いて出て来た現在クラシック・オーケストラを効果的に使い独自の音楽世界を築いたイタリアのシンフォニック・メタル・バンドのRhapsody Of Fireのアルバムを無意識のうちに聴いていたということがあったのですが、それが全く違和感がなく、一瞬、ラプソディの作品がルネサンスの作品の続編のように聴こえていたいうことがあったのです。

その時、このルネサンス、ラプソディをはじめそれに続くAdagioやStratovarius等、現代のシンフォニック・メタル・バンドのクラシック・オーケストラの使い方に、大きな影響を与えていると気付いたのですが、どう思われますか。



さて、そうしたこのアルバムの演奏、オーケストラを伴なわないライブではどのように演奏されていたのか、ということで、こちらを映像をご覧ください。



やはりここで耳を引くのは、マイケル・ダンフォードの森の奥から密かに聴こえてくるような美しい12弦ギターの響きと、妖精の囁きのようなアニー・ハズラムの歌声ですね。

アニー・ハズラムという人、 最初は服飾デザイナーを目指していたのだが、その後歌手なろうとオペラ歌手に歌を習い、ロック・バンドのヴォーカルとなった変り種。ちょっと音楽の乗りも不思議な風体ですね。

しかしその歌、ここでも声楽的発声法を駆使した豊かな声量で、独特な音楽世界を産み出しているのがわかります。

彼女こそ、後にクラシックサイドから登場したSarah Brightmanやフィンランドのシンフォニック・メタル・バンドNightwishのヴォーカリストTarja Turunen等の先駆的存在だといえるのではないでしょうか。




それでは最後に、このアルバムから”Midas Man” ” Captive Heart ”の2曲お聴きいただきルネサンスの幻想的美世界を堪能していただきたいと思います。







Track listing
1."Can You Hear Me?" (Camp-Dunford-Thatcher)  私の声が聴こえますか?
2."The Sisters" (Dunford-Thatcher-Tout)  姉妹
3."Midas Man" (Dunford-Thatcher)  ミダスの誘惑
4."The Captive Heart" (Camp-Dunford)  魅せられた心
5."Touching Once (Is So Hard to Keep)" (Camp-Dunford) 情熱

Personnel
Annie Haslam - lead & backing vocals
Jon Camp - bass, backing vocals, lead vocal cameo on "The Captive Heart"
Michael Dunford - acoustic guitars, backing vocals
John Tout - keyboards, backing vocals
Terence Sullivan - drums, percussion, backing vocals

Recorded
November 1976










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R8

ルネッサンスは10ヶ月前(!)に初めて聴きましたが、聴いてると癒されるプログレ。「燃ゆる灰」(Ashes Are Burning)も好きです。
by R8 (2011-11-06 22:26) 

老年蛇銘多親父

R8さん

「燃ゆる灰」も、アニー・ハズラムを加えてねの初期ルネサンスの傑作で、私もこのアルバムはお気に入りです。

このバンド、既にここでもさりげなくストリングスを使っていて、その使い方が上手い。

この手法が、後年発表されたこのNovella等のオーケストラ導入に繋がったのだなと感じています。
by 老年蛇銘多親父 (2011-11-07 05:30) 

snowman

自分もAshes Are Burningは好きなのですが(というよりそれ一枚しか持ってない^^;)、これは結構仰々しくなってますね。Can You Hear Meはすごく気に入りました^^
by snowman (2011-11-08 20:56) 

えい♪

アニー・ハズラムが参加している
プロローグからこのノヴェラまでの5枚の作品は
どれも大好きです。
今ではマダム然としたルックスのアニーも
まだまだこの頃は若々しいですね。(笑)
by えい♪ (2011-11-09 22:35) 

老年蛇銘多親父

snowmanさん

Novellaを気に入っていただきありがとうございます。

Ashes Are Burningがお好きなら、是非その後のオーケストラと共演している3作品も聴いてみてください。
by 老年蛇銘多親父 (2011-11-10 06:19) 

老年蛇銘多親父

えい♪さん

アニーは1943年生まれでしたから、間もなく70歳なですよね。
しかし、今だその歌声は衰えていないよう。

ルネサンス、このノヴェラの後、オーケストラを使わなくなてからの作品、なにか生彩がなく、今だピーンとこないのです。

やはりこの作品までの5作品が、彼らの全盛期のように思います。
by 老年蛇銘多親父 (2011-11-10 06:27) 

老年蛇銘多親父

yukihiroさん
sei さん
マチャ さん
ぼんぼちぼちぼち さん
ねこのめ さん
せいじ さん
tre さん
えーちゃんaaa さん
bee-15 さん
ヒサ さん
TAMAさん
ぷにょ さん
抹茶さん

niceありがとうございます。
いつもに増して多くのniceをいただいたこと、来ていただきこのバンドの良さが伝わったのかな。
そうであれば嬉しいですね。
by 老年蛇銘多親父 (2011-11-12 19:28) 

モンクレールダウン

更新を楽しみにしています。

by モンクレールダウン (2011-11-27 01:39) 

老年蛇銘多親父

モンクレールダウンさん

楽しみしていただき恐縮です。
またお越しください。
by 老年蛇銘多親父 (2011-12-04 15:54) 

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