天は二物を与えたなり・Eddie Henderson;Manhattan In Blue(邦題;黄昏のマンハッタン)” [音源発掘]

この時期にしては、異常な暑さが続いたり、かと思えば数日間にわたる豪雨、そのうえ復活台風7号の襲来と、今年の梅雨入りは、暴れ放題、その傍若無人さに、表で一日を過ごすことの多い私達にとっては、まったく迷惑千万。

気候のリズムをつかめないまま、やたら体力を消耗してしまい、体調も今一つ。

そんな荒れた天気の続く中、日中にその暑さに襲われたとある日の夕方のこと、いつものように事務所出て、春は桜の花で覆われる江戸城外堀土手、今は若葉も生い茂り、森の中の一本道の様相を呈してしまったその道を、音楽に耳を傾けながら歩いていると、そこで聴こえてきたサウンド。

木々の合間から湧き出る冷ややかな風と相まって、心地よい清涼感を感じさせてくれたのです。

ということで、今回の作品は,そのさわやかな清涼感を届けてくれたこの作品。

Manhattan In Blue.jpg


トランぺッターのEddie Hendersonによる,”Manhattan In Blue(邦題;黄昏のマンハッタン)”
春先以降、Walkmanに入れて、ここのところ時あるごとによく聴いていたいた作品なのですが、この日聴いた清涼感は、ちょっと思いもよらなかったもの。

もともと好きな作品だったのですけど、その意外な感触にこの作品を,今回記事に取り上げることにしてみました。


さて、Eddie Hendersonという人、あまり知られてはないかもしれませんが、その登場は1970年、当時Miles Davisの下を離れ自己のクインテットでの活動を開始したピアニストのHerbie Hancockのコンボに参加、その年の同クインテットのアルバム”Mwandishi ”でレコーディング・デビューを果たしたトランぺッターで、その燻銀の味を持つプレーで現在も活躍を続けているアーティストなのです。

その演奏、なかでも当時特に異彩を放っていたのが、彼の演奏スタイル。

それは、今でもそうなのですが、トランぺッターというとオープン・トラペットで流麗かつ華麗メロディを紡ぎあげて行くスタイルで、伝説の天才のトランぺッターといわれるClifford Brownの系譜を引くミュージシャンが多い中、彼のそれは、珍しく7色のトーンを持つといわれ陰影深いサウンドで独自の世界を築き上げていた巨匠Miles Davisのスタイルを継承したものだということがあるのです。

それでは、そのヘンダーソンのトランペット、一体どんなものなのか、まずは、1973年の彼の初リーダーアルバムとなった” Realization ”から、曲は” Mars in Libra”を聴いていただくことといたしましょう。















このアルバムが制作された70年代初頭は、フュージョンそしてファンクの黎明期。

ヘンダーソンも、当時エレクトロニクスを導入しファンクなサウンドを追及していたマイルスとその門下生と同様、ファンクなサウンドを模索し、70年代を駆け抜けその名声を獲得していたのですが、80年代に入り突如音楽界より姿を消してしまうのです。

それは、本業に専念するためだったいうのですが。

エディー・ヘンダーソン氏、実は、精神医学を専攻したお医者さんだったのです。


そして音楽界より姿消してしまったヘンダーソン、その後は、とある小さな診療所で医療に専念していたというのです。
このあたり、音楽家としての才能ばかりが、医者としてのの才能までも、凡人の私にとっては何とも羨ましい限りいうところ。


ところが、80年代の後半になると、サックスのビリー・ハーパーやベニー・ゴルソン、ピアノのマルグルー·ミラースやマッコイ・ターナー等のレコーディングに時折顔を見せるようになり、1994年には、たて続けに3枚の再びリーダー作品をレコーディングし本格的にカムバックを果たすことになるのです。

その3枚の中の一枚が、この”Manhattan In Blue(邦題;黄昏のマンハッタン)”。

そしてそのカム・バック、さらに喜ばしかったのは、今度は音楽に腰を据え専念する意志の表明があったこと。
精神医学に通じたプレーヤーが、今度はどんな音楽で人々の心を楽しませ癒してくれるのか。
この作品が発表された時私は、そんな期待を抱きながら、この作品に耳を傾けてみることにしたのでした。

それでは、その期待のカム・バック後の演奏、この作品の冒頭にも収めている”Surrey With the Fringe on Top”。
こんなライブ映像がありましたので、それをご覧ください。



以前、ファンク的な演奏とは打って変わってのオーソドックスなジャズ演奏。

50年代60年代、美しいミュート・プレイで人々を魅了した、マイルス・ディビスのプレイを彷彿とさせるミュートプレイではなかったかと思います。

この作品、全体的しっとりとした感じで、けして派手さはないのですが、そうした中にもどこかキラリとした物を感じる、大人味を持ったっ作品で、その選曲も心安らぎのあるオリジナル曲に混じった、有名なスタンダード・ナンバーがあり、その双方が程よく調和して、ゆったりとした味わい空間が生んでいると感じられるもの。


そうした演奏の中から、この作品に収められている曲のライブ映像でまた1曲。
ウィントン・ケリーやマイルス・ディビスの演奏で有名なスタンダード・ナンバーから”On Green Dolphin Street”の演奏を見てみたいと思います。



いかがでしたかEddie Henderson。
この作品、ライブには入っていませんでしたが、アルバムの方にはJoe Lockeのヴィブラフォンが入っていて、これがヘンダーソンのトランペットにもう一つの色を添えているのです。

そして、今は亡きサックス奏者のGlober Washington Jr のテナーも、彼の名演奏の一つと思えるもの。
そんなことからもこの作品、是非とも一度、腰を据え聴いていただければと思います。

Tracks Listing
1.Surrey With The Fringe On Top
2.I Remember Clifford
3.Jinrikisya
4.Oliloqui Valley
5.When You Wish Upon A Star
6.Phantoms
7.On Green Dolphin Street
8.If One Could Only See
9.Little B's Poem

Personnel
Eddie Henderson(tp), Kevin Hays(p), Joe Locke(vib) , Ed Howard(b), Lewis Nash(ds)
Glober Washington Jr (ts).

Recorded
1994

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ミスカラス

ジャズの世界、ヘンダーソンという名前が何か多くないですか?。
ジョーとウェインの名前は知っていますが、エディーさんも覚えておきます。ベースボールの世界だと、足の速いリッキー・ヘンダーソンなんてのも記憶にあります。
by ミスカラス (2014-06-22 07:54) 

ハンコック

こんばんは。
Eddie Hendersonは、まったく聴いたことがありませんが、1960年代半ば以降のMilesのサウンドを彷彿させる演奏でせすね。
すごいスリリングでスピード感が凄いです。
医者でこの感性とはびっくりです。
やはりMilesの影響は計り知れないということでしょうか。

by ハンコック (2014-06-23 22:17) 

老年蛇銘多親父

ミスカラスさん

そうかもしれませんね。
ヘンダーソン氏、この他大所では晩年のマイルス・ディビスの下でプロデュースを助けたベーシストのマイケル・ヘンダーソンという方もいましたっけ。

ところで、最近欲しいアルバムに、ピアノのマルグリュー・ミラーのものがあるのですけど、こちらではジョーと、エディのが共演していて、これが大層いいらしい。
ヘンダーソン、なかなか侮ることはできないというところでしょうか。
by 老年蛇銘多親父 (2014-06-26 05:31) 

老年蛇銘多親父

ハンコックさん

Eddie Henderson、復帰の時に初めて聴いた時、この円熟度にちょっと驚かされてしまいした。

このあたり精神医学の手法でマイルスの心根を分析し復帰したその成果なのでしょうかね?

マイルスって凄い存在だったのですよね
by 老年蛇銘多親父 (2014-06-26 05:39) 

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