80年代に開花した有り余る才能;Phil Collins・.But Seriously”。 [音源発掘]

前回は、1980年代に登場したジャズ・アーティストの作品を取り上げましたが、今回も引き続き80年代のサウンド。

とは言っても、今回取り上げるのは、ロックの作品。

この時期は、70年代の目覚ましいロック音楽の変貌を目の当たりし、その一喜一憂を体験してきた私にとって、80年代のロック・シーンというのは、商業的色彩が濃くなって行く様子が強く感じられ、どうも聴く気になれず次第にロックから遠ざかって行くことなってしまっていた時期なのですが、今回取り上げるのは、そうした中でも、その当時から、わずかながらもお気に入りとして聴いてきたこの作品。

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Phil Collins、1989年の4枚目のソロ作品”...But Seriously”でお話を進めることにしたいと思います。

フィル・コリンズというと1981年に最初のソロアルバムをリリース、その後の発表された作品からは、当時ディスコ全盛期だった日本でも、その波に乗って彼の曲がよく流れ、数々のヒット曲が生まれていたことを思い出される方も多いと思いますが、この作品はこれまでのディスコ的サウンド路線を踏襲しつつも、随所に新しい試みが組み込まれ、全体的に大人のための聴かせるロック・サウンドになったとの評価があったもの。

当時、80年代ロックと疎遠になりかけていた私が、この作品に惹きつけられたた大きな要因が、そこにあったように思うのです。

さて、このフィル・コリンズ、元来は英国のプログレシッブ・バンドGenesisのドラマーだったのですが、その彼のヴォーカルが脚光を浴びるようになったのは、これら一連のソロ作品が制作される5年ほど前の1976年のこと。

それまでこのバンドの顔であり、その様式美の源となっていた、ヴォーカルのPeter Gabrielの脱退によってその後釜としてのヴォーカル・デビューだったのですけど、元々ガブリエル時代の演劇性の強い様式美が好きだった私は、ガブリエルのいないジェネシス、ましてはドラマーがヴォーカルとなったジェネシスに大いなる違和感を覚えることになってしまうことを憂い、彼らから一歩距離を置いてしまうことになってしまっていたのです。

その私が、再び彼らの音楽に接し、フィル・コリンズのヴォーカルとその色彩にスタイルを変貌したサウンドに接したのは、それから2年後の1978年のこと。

ギタリストのSteve Hackettが抜け、3人となってしまった彼らが制作した作品”...And Then There Were Three...(邦題; そして3人が残った )”発表直後、友人に誘われ出掛けた来日公演への参戦によってのことでした。

そこで聴いたのは新曲は本より、より分厚くリズムが前に迫り出したスタイルに変貌したガブリエル時代の旧曲の数々。
そしてそれを歌うコリンズのヴォーカル、そのマイルドで力強いヴォーカルが、ガブリエル時代の名曲とマッチングし、聴衆に力強く迫って来たのです。
さらに、ヴォーカル以上に驚いたのがコリンズのドラム。
客演メンバーの、あの伝説のフュージョン・グループWeather Reportにも参加したドラマーのChester Thompsonとの一寸の隙もない息を呑むドラム・デュオには、すっかり圧倒され、以来この人のサウンドは私の大切なアイテムとなってしまったのでした。
さて、そうして付き合いを始めたフィル・コリンズ、その彼の数あるソロ作品の中からこの”...But Seriously”を選んだのは、初めてこの作品を聴いた時の、この作品が発表された時期のとある思い出から。

それは、私が出張で訪れた地方都市でのこと。
私が、その小さな町のCDショップの前を通り過ぎた時、にわかに聴こえて来たのが、この作品のハイライトの一つとなっていた、ある大物アーティストとの共演曲だったのです。

すぐさまコリンズの新曲と察した私、その曲の曲調が、その時訪れていたその地方の町の風情に至極マッチしているように感じ、町を歩いているうちにその印象が深く心に刻み込まれてしまったからなのでした。

それでは、その思い出深いそのメロディ、どんな町に連れて行ってくれるのか、早速、お聴きいただくことにいたしましょう。






この作品、その聴き所としてこの作品の制作に参加した二人の大物ギタリストとの共演があるのですが、この曲はそのうちの一つ。
70年代の初め、新たなフォーク・ロックあり方をを提示し、アコースティック・ギターの可能性を世に示したCrosby, Stills, Nash & Young(CSN&Y)のメンバーとしても知られるDavid Crosbyを迎えての演奏で、曲は”Another Day In Paradise”です。

そのクロスビーのギター、シンプルさと軽やかさを兼ね備えた音色で、ここでも大きな存在感を見せつけ、これまでのコリンズの作品にはなっかった新しい味付けを聴かせてくれているよう思えます。

この作品、こうした他のバラード曲にも、これまでの作品に比べ一層の深い味わいが感じられるような工夫がそれぞれに施されてたようにかんじているのですが、一方、アップ・テンポの曲も、さらに鋭さに磨きがかかりそのノリ抜群のイメージ。

ということで、今度はそのアップ・テンポの曲から”Hang In Long Enough”で、その味わい楽しんでみることにしたいと思います。



EW&Fを思わせる、ストレーrとさときらびやさを兼ね備えたかホーン・セクションの響きは、気分爽快そのもの。
バック・バンドの中には、ギターのDaryl StuermerやドラムのChester Thompson 、トランペットのHarry Kimなど、あまり名を知られてはいないかもしれませんが、超豪華なアーティストの顔が見えます。

特にトランペットのHarry Kimは、他の二人に比べさらに名を知られてはいませんが、Ew&Fのホーン・セクションも務めたこともあるプレヤーで、1999年のフィル・コリンズのビッグ・バンドでのソロは、その卓越したテクニックの冴えを十二分に披露していた見逃せないプレヤー。

その彼の演奏、CDではちょっとお目にかかれませんが、YOUTUBEにはその彼の演奏の映像がありますので、興味のある方は一度ご覧になっていただければと思います。→https://www.youtube.com/watch?v=bZK5fdbkTWQ


少しばかり、余談になってしまいましたが、話は戻ってフィル・コリンズのお話。
ヴォーカルにドラムと多彩な才能を持つフィル・コリンズですが、その才能は音楽だけに留まらず、俳優としても一流のものがあるのです。

私が、そのことに気付かされたのは、1989年発表のThe Whoの作品、”Tommy New Live '89”のビデオを見てのことだったですが、それは、そのコンサートにアニー叔父さん役で登場したコリンズの演技をしながらの歌唱を目にし接してからのこと。

そして、その後の来日公演の様子、まるで演劇のような凝った作りのセットの中で、歌い演奏するだけではなく、そのセットを活用し、その曲の意味が視覚的にも捉えられるような演技を付加しつつプレーする彼のステージを見て、コリンズの俳優としてのポテンシャルの高さをさらに実感することとなったのです。

それでは、そのコリンズの俳優としての才能、この作品に参加したもう一人の大物ギタリストとの共演映像でご覧ください。



曲は”I Wish It Would Rain Down(邦題」;雨にお願い”です。
ここに登場した大物ギタリストは、ご存じEric Clapton。
ここで聴かれる彼のギターは、この曲に秘められた深い情感をさらに深く掘り起こし、聴く者の心に大きな余韻の空間を残して行く、そうしたことを強く感じさせる、まさしくクランプトンならではの名演だと思います。

そして、この映像の中では、珍しくクラプトンが台詞を喋るシーンがあったりして、コリンズもしかりですが、クラプトンの演技もまんざらではないという感じがする点、貴重なものだと思います。



さて、ここまで聴いてきたPhil Collins、2011年には父親業に専念するため引退を表明、シーンから姿を消してしまいましたけど、今回この作品を久々に聴いてみて、今年64歳という年齢を考えればもう一度復帰して、その有り余れる才能でまた新たな音楽世界を見せて欲しいものだと願ってしまったのですが、皆さんこの気持ちどう思われますか。


Track listing
All songs written and composed by Phil Collins, except where noted.

1. "Hang in Long Enough"
2. "That's Just the Way It Is"
3. "Do You Remember?" 4:36
4. "Something Happened on the Way to Heaven" (lyrics: Collins, music: Collins, Daryl Stuermer)
5. "Colours"
6. "I Wish It Would Rain Down"
7. "Another Day in Paradise"
8. "Heat on the Street"
9. "All of My Life"
10. "Saturday Night and Sunday Morning" (Collins, Thomas Washington)
11. "Father to Son"
12. "Find a Way to My Heart"

Personnel
Phil Collins — keyboards, drums, percussion, tambourine, vocals
Daryl Stuermer — guitar
Leland Sklar — bass guitar
Dominic Miller — guitar
The Phenix Horns: Don Myrick — saxophone
Louis Satterfield — trombone
Harry Kim — trumpet
Rhamlee Michael Davis — trumpet
Alex Brown — backing vocals
Marva King — backing vocals
Lynne Fiddmont — backing vocals

Featured musicians

David Crosby — vocals on "That's Just the Way It Is" and "Another Day in Paradise"
Nathan East — bass guitar on "Hang in Long Enough" and "Something Happened on the Way to Heaven"
Pino Palladino — bass guitar on "Do You Remember?" and "I Wish It Would Rain Down"
Stephen Bishop — vocals on "Do You Remember?"
Eric Clapton — guitar on "I Wish It Would Rain Down"
Steve Winwood — Hammond organ on "All of My Life

Released
24 November 1989[

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moriyoko

暗い中高校生時代、部屋にこもってJWaveから流れる
Another Day In Paradiseをテープに録音してなんども聞いていたことを思い出しました(*_*)
思い出させていただいてありがとうございます。また聞いてみようと思いました。
by moriyoko (2015-02-01 00:06) 

ituki

本当にゴージャスなアルバムですね!
「I Wish It Would Rain Down」は、初めて聴きましたがスゴクいい曲^^[ラブラブハート]
PVめちゃめちゃ面白いし(笑)
かっこいいクラプトンがアコギでキィ~ンだし(笑)、ビル・コリンズだし(笑)
親父さんのクラプトンの解説が、またいいし[ぴかぴか]

それから、記事の一番下のゲストミュージシャンを見てびっくりしました。
Stephen BishopやSteve Winwoodまで[目玉]”
YouTubeで聴いてみましたが、言われないとわからないぐらいのところに大物アーティストを使ってるって凄いなぁと^^;
是非、早く子離れして復活して欲しいですね^^[チョキ]
by ituki (2015-02-03 01:02) 

老年蛇銘多親父

moriyokoさん

初めまして
Another Day In Paradiseもそうですが、このアルバム、特にバラード系の曲がいいように思えます。

よければ、それ等の曲も一緒に聴いていただければと思います。


by 老年蛇銘多親父 (2015-02-03 05:23) 

老年蛇銘多親父

イッチー

”I Wish It Would Rain Down”いい曲でしょ。
私など、雨が降る日は、何故かこの曲を思い出してしまうくらいお気に入りで。

この曲を知る前は、雨の日は三善英史の”雨”が頭の中でなっていたのですけど??(笑い)

ゲスト・ミュージシャン、この記事を書くに当たり、私もあらためてクレジットを見て、びっくり。

この人、音楽の面でも新しいドラムの奏法のパイオニアであったり、ロックの世界だけではなくジャズの世界にも取り組んでいて、特に後年結成した、ビッグ・バンドの演奏などは、英国ロックのミュージシャンのジャズ演奏というと、どこか陳腐なものになってしまうものが多い中、まぎれもない本格的ジャズで、そのうえその演奏曲目がロックの曲であったという点、彼の才能の奥深さには本当に驚かされました。

こうした彼の多彩な才能はもとより精力的な活動が、幅広い交友関係を築いていた、その現れがこのアルバムの豪華なゲストの顔ぶれとなったではと思っています。


by 老年蛇銘多親父 (2015-02-03 05:56) 

ハンコック

おはようございます。
懐かしいですね!
私も死ぬほど聴いたんですが、CDどこに行ってしまったやら。
ジェネシスの頃から聴いてました。
こうして、改めて聴いてみると、ロックの中にサックスが入っているのが好きだったんですよね。
それでフュージョンからJazzに嵌ってしまった訳なんですが。

そういえば、トラックリストにドミニクミラーの文字がありましたが、この人は、映画レオンで有名になった、
StingのShape Of My Heartのギターの人だったと思うんですが。どの曲でやってたんだろうかと気になってしまいました。
まだ、拙宅にCDあるといいんですけれど...

by ハンコック (2015-02-04 05:27) 

老年蛇銘多親父

ハンコックさん

ロックの中にサックスが入っている曲と言えば、この作品の前作”No Jacket Required”の中の”One More Night”のラスト部分聴こえてきたサックスが、かなり印象に残っています。

それにしてもこの作品、参加メンバーの豪華さ、自分で調べてびっくり、そしてまた皆さんに教えられて、びっくり!!

ダリル・スターマーばかりに気を取られて見落としてましたけど、ドミニク・ミラーというギタリスト、2000年代に入ってかなり意欲的な作品を発表しているということなので、そのあたりの演奏を、今度じっくりと聴いてみたいと思っています。
by 老年蛇銘多親父 (2015-02-07 17:44) 

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