光に輝く荒波のしぶき舞い踊るピアノ音;山本剛・Misty [音源発掘]

今年になってから聴いている音楽、どいう訳かいつの間にかピアノ・トリオ作品ばかりになってしまって。

60年代後半ロックを中心だった私が、ある日ラジオで聴いたピアノ・トリオの演奏に、当時ギター中心だったロックでは前面に出ることの少なかったピアノの音に,非常に新鮮なものを感じ、以来ジャズを聴くようになった、そのきっかけがピアノ・トリオだったこともあって、大変好きな演奏フォーマットであることには間違いないですけど、ここまでピアノ・トリオOnlyになってしまったのは、近年では珍しいこと。

とは言え、やはりピアノ・トリオはいい。

ということで、今回取り上げる作品は、もちろんピアノ・トリオ。
かなり前に手に入れた作品なのです、高所に上がって透き通った景色を見ているうちに、ふと思い浮び頭の中で鳴り続けていたのがこの作品。

山本剛トリオ misty.jpg


日本のジャズ・ピアニスト山本剛の1974の作品 ”Misty”。

1970年代半ばというと、日本にもようやくジャズ専門のレコード・レーベルが誕生し、世界に日本のジャズを発信し始めていた時。
この作品も、日本のジャズ専門レーベルのTHREE BLIND MICE が制作した作品で、当時はかなりの評判となったものなのです。


しかしながら、この頃まだジャズを聴き始めたばかりだった私は、日本のジャズには興味がなく、この作品については知ってはいたものの聴いてみようとは思わず、この時はこの作品、見過ごしたままにしてしまっていたのです。

私がその彼のピアノ・プレーを初めて聴いたのは、それから5年後の1979年のこと。
日本のジャズが、海外でも認知されるようになったこの年のスイスで開かれたモントルー・ジャズ・フェスティバルにおいて、一日を日本のジャズ・ミュージシャンだけで飾った初めてのプログラム、ジャパン・デーに山本剛が出演、後にFMで放送された彼の演奏を聴いてのことでした。

そして、そこで聴いたのは、メロディを形作る一つ一つ音が、くっきりと浮かび上がり水の飛沫のように空間を漂い消えていくように感じるピアノの音。

特に、この日最後に聴いた、日本の童謡の”七つの子”は、豊かな四季に彩られた日本の美しさと、自然と共生する日本人のやさしき心根が伝わってくるような演奏で、心の中に深く刻み込まれてしまい、そこから、それ以前発表されたこの作品も聴き、そのサウンドとしっかり向き合ってみたいという心境に駆りたてらることにしまったのです。


さて、それではその余韻豊かなピアノ、まずこの作品の最初を飾るこの曲から聴き始め、その心境の内の一端を味わっていただくことにいたしましょう。









ジャズのスタンダード・ナンバーとして有名な、Erroll Garner作曲の”Misty”です。

Sarah Vaughanをはじめ多くのジャズ・アーティストによって演奏されている名曲ですが、山本剛の演奏は、ご本家エロル・ガーナーのピアノを意識しつつも、さらに余韻深く、エレガントなガーナーの演奏に対して、音が一瞬の光を発しながら消えて行くようにも感じられる、可憐な美しさを備えた演奏だと思います。

この”Misty”、数あるこの曲の演奏の中でも、さも秀逸なものの一つと言ってもけして過言はないと思うのですが、いかがだったでしょうか。、


極上のバラード演奏を聴いたところで、次の曲は。

山本剛、バラードもいいのですけど彼のスィンギーな曲の演奏も、また捨て堅い魅力があるもの。

くっきりとした音色で、その曲のツボをしっかりと心得、高らかに歌い上げるピアノ・プレー。

次はそんな彼のプレーが満喫できる、これまた有名なスタンダード・ナンバーから”Smoke Gets In Your Eyes(邦題;煙が目にしみる”を聴くことにいたしましょう。



佐渡ヶ島の相川出身だという山本剛。
ここは、佐渡金山でも有名な場所なのですけど、この地を出張で訪れたことのある私にとって印象的だったのは、

それは、小鳥たちのさえずりが清々しさ覚えさせる林の中を通って、お客様を訪ねる途中見たとある光景。
林を抜けると、そこには、護岸用の大きなテトラ・ポットがいくつもあって、見回すとさらにいくつかのテトラ・ポットが製作途中で、そこのあったのです。

お客様の所に着いて、仕事の話を終えた後、そのことを尋ねてみると、このテトラ・ポットは重量40tから50tにもなる程の大きなものなのだそうなのですが、岸壁に据えても一冬越すとそのほとんどが海に流されなくなってしまうのだとか。

そのため、この不足分を補うために、毎年冬を越すとこの場所で、護岸のための新たなテトラポットが製作され、また海に運び置かれるのだというのです。

確かに冬の日本海の荒々しさ、それは聞いてはいましたが、その話を聞き、さらに冬の日本海の荒波の破壊力の凄まじさをまざまざと実感させられたのでした。

そしてその後、聴いた山本剛のピアノに、その陸地に叩きつけ舞い上がる波のしぶき飛沫の情景と、彼の余韻を残すピアノの音の粒が飛翔する情景が重なり合い見えてくるような気がするようになってしまい、山本剛のピアノ・スタイルは、彼の育った佐渡の自然環境の中から生まれたものではと考えるようになってしまったのです。

tetra1.jpg



さて、海外デビューする日本人ジャズ・アーティスト珍しくなった今、しかしその日本のジャズが世界に認められるようになったその黎明期に制作されたこの作品。

日本の風土が生んだこのピアノサウンド、他とは違った日本のジャズの魅力と質の高さの証として、そして、日本のジャズが世界に飛躍するその原点の存在として、山本剛のこの作品は、是非聴いていただきたいものだと思います。

それでは、最後に、力強さ可憐さを宿した”I Didn't Know What Time It Was”の演奏を聴きながら、今回のお話はお開きしたいと思います。



Track listing
1. Misty
2. Blues
3. Yesterdays
4. Honey Suckle Rose
5. Smoke Gets In Your Eyes
6. I Don't Know What Time It Was
7. Angel Eyes

Personnel
山本剛(p)
福井五十雄(b)
小原哲次郎(ds)

Recorded
August 7 1974





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ハンコック

こんばんは。
このMistyは、オーディオ仲間にも評判が良く、ピアノの余韻を上手く鳴らすために大分試行錯誤しましたよ。
ピアノの鍵盤の重みと、空間に消え行く余韻、この盤を夜一人静かに聴くのがなんとも心地よいです。
by ハンコック (2015-02-24 23:00) 

老年蛇銘多親父

ハンコックさん

確かに、あの微妙な余韻をアナログで自分が納得するように鳴らすというのは、ファンにとって実にやりがいのあるチャレンジだと思います。

今でこそ、ういったことには怠慢になってしまって、手軽に聴けるデジタル・オーディオでいろいろな音楽を楽しむようになってしまった私ですが、かっては自分の好みの音を出せるようおオーディオと格闘していたこともある私としては、その気持ちよくわかります。

しかし、このピアノ、今回記事にするにあたって、他のピアノ奏者の演奏ともいろいろ聴き比べをしましたが、実に個性的!!

やはり山本剛、多くの人に知っていただきたいアーティスの一人だなと、再び強い思いを抱くようになりました。
by 老年蛇銘多親父 (2015-02-27 20:27) 

raccoon

Misty いいですね。
Sarah Vaughan のMisty は、持ってたCDに入っていたので、
印象に残ってます。
ピアノがしおらしく奏でる、この曲、素敵です。
by raccoon (2015-03-07 08:51) 

老年蛇銘多親父

raccoonさん

Mistyは 、Sarah Vaughanの十八番ですものね。
特にライブが面白くて、途中で歌声が変わるので、あれっと思っているとお客さんが笑っている。
サラは口パクをしていて、歌はピアニストが変わって歌っている。
私が行った日本公演でも、その妙技やってくれましたっけ。

そうしたサラの名演がありながら、山本剛のMisty、さらに個性的に輝いている、本当に素晴らしい演奏だと思っています。
by 老年蛇銘多親父 (2015-03-07 09:37) 

ituki

本当に美しいMisty^^[ラブラブハート]
教えていただいて感謝です[ぴかぴか]

小曽根さんやペトルチアーニのMistyは、それぞれの個性でまた違う味わいがありますが、山本さんのはエロール・ガーナーへの敬意が感じられ、スローテンポの中に控えめな上品な美しさがある、とても素晴らしい曲になっていると思います。

しかし、テトラポットが流されるなんて初めて知りました^^;
テトラポットが出来るまで、随分国土が削られちゃったのかななんていろいろ考えてしまいました(笑)
by ituki (2015-03-08 01:35) 

老年蛇銘多親父

イッチー

このMistyという曲、ピアノの場合、そのタッチの美しさが鍵だと思いますが、そういう意味で小曽根やペトルチアーニの演奏も聴くに値するものだと思います。

それにしても、山本剛のエロール・ガーナーへの思慕の念、それを感じられたとは、ずいぶんこの演奏、聴き込んでいただいたようで、紹介した私としてもその点、嬉しく思います。


ところでテトラポット、鹿児島でも離島向けに作っているのを見たことがあるのですけど、佐渡のものはそれよりさらに一回り大きい。
それが、一冬の間に、ほとんど波に流されてしまうとは、日本海に波の力の凄まじさ、テトラがある今でも国土が削られているらしく、本当に恐るべしというところです。
by 老年蛇銘多親父 (2015-03-08 11:54) 

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