2017年!印象に残った作品 Jazz編Vol.2;Mulgrew Miller ”The Sequel” & Bobby Jaspar ;”Bobby Jaspar Quintet” [音源発掘]

2017年!印象に残った作品、まずは前回予告したJazzのピアノ作品から、

今年も残りあと僅かというところで、今一度気合を入れ直し、ご紹介するのは、アメリカの黒人ピアニストMulgrew Millerの2002年の作品”The Sequel ”です。

The Sequel.jpg


1970年代半ば、Duke Ellingtonの息子であるMercer Ellington 率いるエリント楽団のピアニストしてメジャー・シーンに登場したMiller、その後1984年には、あのArt Blakey の The Jazz Messengersに加入、ここでその存在を広く知られようになります。

私が、彼の演奏を聴いたのも、ちょうどその頃。
60年代モーダルジャズ洗礼を受けた年代のピアニストとして、最初はMcCoy Tynerの強い影響を受けたアーティストだなと思い聴いていたのですが、その後、さらに聴いて行くとその中に、何か懐かしさを感じる伝統的なジャズの空気が感じられようになって来たのです。


その伝統的なジャズの空気とは、Bud Powellに始まるモダンジャズ・ピアノ草創期の香り。


彼のピアノの持つそうした空気に、現代と50年代ジャズを繋ぐ不思議な響きがあるように思ったのですけどそこでふと思い浮かんだのが、バップとモーダルの転換期に登場し、多くのファンを魅了したピアニストのWynton Kellyのこと。

それはかなりの飛躍した発想のようにも思えますが、実は私自身、このMillerの作品に接し、Kellyのスタイルに比べより新しくモーダルな彼のスタイル、普通に聴けば全く違ったものでしかないはずなのに、深く聴いていくうちに、そのサウンドの根底にはKellyと同質の何かが宿っていると、そのように感じるようになり、彼のピアノに深い興味を抱くことになって行ってしまったのです。

そうした中で、今年出会ったこの作品、それまで彼がサイド・マンとし参加した、また、ピアノ・トリオでプレイした演奏は聴いたことがあったのですけど、1990年代に作曲にも傾注し、その成果を踏まえた彼の演奏には接したことがなかったことから、そうした作品、その腕前が緻密に反映され、しっかりと捉え聴くことが出来るのは、やはりスタジオ制作の作品ではないかと、探し手にしたのがこの作品。


本来ならその作品の出来栄え、PVにてご紹介したかったのですけど、探したところ見つけることが出来なかったので、今回は彼のライブの映像をご覧いただき、そのピアノ・プレイに接していただき、それから、この作品について語らしていただくことにしたいと思います。









リラックス・ムード漂う快いスウィングを感じさせるこの演奏、しかし、その間に間に一瞬きらっとした緊張感を醸し出している彼のピアノ。
このあたり、Wynton Kelly好きの私などは、その相似性を見つけたような気がして、思わずニンマリしてしまったというところなのですが....................!

そして、もう1曲、今度はアグレッシブな彼の演奏で、1988年に日本の城島で開かれたジャズ・フェスティバルに、 Benny Golson、 Freddie Hubbard、Ron Cater等の大物アーティストと共に出演、その新旧大物との珍しい組み合わせよる演奏をお聴きいただきたいと思います。



前の演奏と打って変わっての激しさのあるサウンド。
Benny Golson、 Freddie Hubbardに続く彼のソロには、前者二人とは異なった斬新な息吹が感じられます。
この相反するスタイルの演奏を聴いていただいたのは、この二つの演奏からMillerというピアニストの音楽センスの幅広さを感じてもらいたかったからなのですけど、今回取り上げた作品”The Sequel”は、そうした彼の資質のによる一つの成果のように思えるのです。

ピアノ・トリオに加えサックス、トランペット、ヴィブラフォンをフロントに配したセクステットによるこの作品、そこでは、そうした彼の持つ幅広い音楽性を遺憾なく発揮され、作、編曲においてもその才能の豊かさを知ることが出来るものに仕上がっているように思うのです。

特に、この作品中6曲目に収められた、 ”Dreamsville”などは、1960年代 Miles Davisにも通じる曲調と、それを演奏する彼自身のピアノから聴こえるサウンドには、あのBill Evansが持っていた繊細かつ叙情的で優雅さが感じられ、思わず眩惑の世界に引きつり込まれてしまうような気分に陥ってしまったほど」。。

新旧取り混ぜたサウンドが、違和感なく彼の中で熟成され、現代の響きとなって流れてくる、これこそがMulgrew Millerの魅力ではないのかと思います。


2013年に57歳で天に旅立ってしまったMulgrew Miller、同世代のピアニストであるKenny Barron やGeorge Cables が現在も燻銀の輝きをもって活躍していることを思うと、あまりにも早い死の訪れが残念でたまりません。

この作品のお話の最後に、彼を自己の良きパートナーとし、その才能を広く知らしめしたTony Williams 、そのTonyのクインテットでのMillerのプレーを聴きながら、あらためてその冥福を祈りたい思います。






と語りながらも、時はどんどん過ぎて行く。
のんびりと語っていては2017年も終わってしまうということで、今回は、さらに、もう一つの作品を取り上げることにしたいと思います

さて、その作品、前2作がピアノ作品と続きましたので、次に取り上げる作品は、楽器を変えてリード奏者によるこの作品。

Bobby Jaspar Quintet.jpg


1956年製作の”Bobby Jaspar Quintet”です。

Bobby Jaspar といえば、私の大のお気に入りのリード奏者の一人で、今年も本Blogにも取り上げ(その記事はこちら)させていただきましたが、今回選んだ作品は、私がちょうどその記事を書き終えた頃、時間潰しにブラリと、とあるCDショップに入ったところ、偶然目に飛び込んで来たもの。

こうして出会ったこの作品、Jaspar の作品は、入手するタイミングを逸するとなかなか手に入れることは難しい、それならばと考えた私は、内容はともあれ、ここで出会ったのが百年目とばかりに即GETしてしまったというがその顛末。

そして、家にち持帰り、あらためてそのレコーディング・データを見てみると!! 


1956年の11月の制作とあり、参加メンバーにピアノのTommy Flanaganとドラムの Elvin Jones の名があるのを発見。

1956年制作となると、これは、ベルギーに生まれで、欧州空気の中で育ったJasparが、アメリカに渡った年の直後に制作されたもののはず。
その上、渡米後に彼が参加した、J.J Johson クインテットで、共にそのクインテットで過ごした二人の名手の名までがレコーディング・メンバーとしてクレジットされている。

ということは、もしかしてと考え、まずは一聴する前に、この時期のJ.JとFlanaganのディスコグラフィに目を通してみると、この作品が制作された11月より前の7月に録音されたJ.Jのクインテットの演奏メンバーにJasparの名があり、それと並んで彼をサポートする二人の名があったのです。

つまり、この作品はJaspar渡米後初のリーダー作品のよう、という訳で、初めて聴くこの作品への期待も倍加、おおいなる成果を思い浮かべながら、この作品と向き合うことになったのです。

それではその演奏、期待に溺れた私の耳だけで語るに心もとない。
是非とも、読者の皆さんにもお聴きいただき、その真価を確かめてもらいたいということで、ここで1曲。

曲は、Flanagan とElvinを従えての演奏で、あのHelen Merrillの名唱で有名な”What's New”です



この演奏、Helen Merrillの名唱を思い浮かべながら聴くとちょっと違和感を感じるかもしれませんが、何回か聴いてみると、Jasparのこうしたアプローチもまた一興ありでは思います。
特に、この演奏でのJasparのサックッス・プレイ、彼のサックッス・プレイに私自身、常々Stan Getzの影響があるように感じていたのですが、この演奏では、そのことがかなり色濃く出ていて、このあたりのことも探りながら聴いてみるのもいいように思います。

そして、ここで彼をサポートするTommy Flanaganとドラムの Elvin Jones 、二人のプレイ。

まずは、Tommy Flanaganのピアノですが、 音色の一つ一つが珠玉の輝きを持ち空間に放たれるやその中に吸い込まれ静かに消えていくような、そうした美しさを感じます。

そして ドラムのElvinも、後のJohn Coltrane カルテットでの、メンバー全員のサウンドを覆い尽くしてしまうような激しいポリリズミスティックなドラム・プレイではなく、壷を心得た小気味よいブラッシュ・ワークでサウンド全体をしっかりとサポートしています。
この当たり、ブラッシュ・ワークの達人といわれたElvinの真骨頂が窺えます。


この作品には、1956年の11月に行われた3つのセッションが収められているのですが、その中で最後に行われた20日のセッションは、メンバーも変わりギターを加えたクインテットの演奏となっています。

そのメンバーの中に、この時期ギターのTal Fallowとのドラムレス・トリオの演奏で名を残したピアニストのEddie Costaの名があるのですけど、これがまたこの作品の聴き所。

このCostaというアーティスト、ピアノだけでなくヴィブラフォンのプレヤーとしても有能な人で、そのせいか、彼のピアノ・プレイには鍵盤を打楽器の如く叩き弾くことから生まれる歯切れの良さがあり、さらに、中低音をバランスよく配したスタイルが、その魅力。

前出の端正なFlanaganをバックに演奏するJasparと、Costaバックに演奏するJaspar、それぞれ聴き比べてみるの面白いかと思います。

それでは、最後にJasparとCostaによる演奏を1曲。

曲は、”They Look Alike”です。



多くの印象に残ったJazz作品に出会った2017年。
この他、ヴィブラフォンのSteve Nelson、ギターのPat Martino、ヴォーカルのSophie Milmanの作品 等々もありましたが、その作品についてはまたいずれ。

次回は、、2017年!印象に残った作品  Classic編。
現代世代のクラシックということで、こちらも良い出会いがありました。

どんな作品が出て来るのか、次回もよろしくお願いいたします。



Mulgrew Miller ”The Sequel”

Track listing
1. Go East Young Man
2. Sequel
3. Elation
4. Holding Hands
5. Know Wonder
6. Dreamsville
7. Spectrum
8. It Never Entered My Mind
9. Just a Notion
10. Samba d'Blue

Personnel
Mulgrew Miller(p), Steve Nelson(vib), Steve Wilson(as,ss), Duane Eubanks(tp), Richie Goods(b), Karriem Riggins(ds)

Recording Date
June 5, 2002 & June 6, 2002



Bobby Jaspar Quintet

Track listing
1.Clarinescapade Written-By – Bobby Jaspar 1. Wee Dot Written-By – J.J. Johnson
2.How Deep Is The Ocean Written-By – Irving Berlin
3.What's New Written-By – Haggart*, Burke
4.Tutti Flutti Written-By – Bobby Jaspar
5.Spring Is Here Written-By – Rodgers-Hart
6.I Remember You Written-By – Mercer*, Schertzinger
7,Wee Dot Written-By –J.J. Johnson
8 .I Won't Dance Written-By – Irving Berlin
9. In A Little Provincial Town Written-By – Bobby Jaspar
10.They Look Alike Written-By – Manny Albam

Personnel
Bobby Jaspar Tenor Saxophone(2,3,6,7,8,10)), Clarinet(1), Flute(4, 5,9)
Tommy Flanagan (1,-8),Eddie Costa (9,,10)-Piano
Nabil Totah (1-8),Milt Hinton (9,10), –Bass
Elvin Jones (1-8), Osie Johnson (9,10)– Drums
Barry Galbraith (tracks: 9,10)– Guitar

Recording Date
in New-York on 12th(1-5) and 14th6-8) and 20th(9,10) November 1956.




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ハンコック

EvansやKellyを踏襲しているかのような演奏、
なかなか良いですね。
特に、1988年のGoldonやHubbardとの演奏、
やはりこういう演奏が自分は大好きです。
良いものを見させて頂きました。

by ハンコック (2017-12-12 19:27) 

老年蛇銘多親父(HM-Oyaji)

ハンコックさん

私としては、Millerというピアニスト、以前より大好きなピアニストだったのですけど、長い間、自分でもその理由がわからなくてね。

ところが、最近彼のリーダー作品を手に入れ、聴き重ねてみると、何となく培われた伝統のサウンドが、彼の手により新しい装いを付加されて、聴こえ来たのがこのサウンドなのだと感じるようになり、こうした評を書いた次第。

そうした私の思い、それがハンコックさんのもご同意いただけたのだと勝手に思い、嬉しく思っています。

やはり、Jazzのスピリット、そのルーツを聴くは1950年代、そうしたをことを、今回再度確認したように思います。


by 老年蛇銘多親父(HM-Oyaji) (2017-12-13 20:37) 

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