来たる秋の夜長に、色を添える寛ぎのみゅーじっく!!:Wes Montgomery・”California Dreaming” [音源発掘]

観測史上 過去の最高気温記録更新、集中豪雨、そして毎日のように台風が生まれ、ひと月の間に9個もの台風が誕生、さらに7月には日本列島を北から南へ逆走するなどという、前代未聞の経路をたどった台風まであったという、異常な気象現象に翻弄され続けた今年の夏。

ひと月に8個という台風の発生数、1951年以来67年間の過去の統計を調べてみたところ、ひと月に8個以上の台風が発生したというのは、これまでに8回ほどしかないのだとか。

と、かく言いながらも、今夏の気象の異常さは、日本近海で誕生した台風が多かったことに加えその酷暑、日本列島は、温帯から亜熱帯の地域なってしまったのではと思えたほど。

とはいっても、季節は9月秋、朝夕には秋らしい空気が忍び寄ってくる風情が感じられようになった今、これからはお天気も安定し、穏やかにゆったり過ごせる日々が続けばいいと思っているのですけど..........。



そうした季節柄、今回のお話は、これからはそうした穏やかな毎日となることを願って、ひそかに忍び来る秋の風を楽しみながら、心に安らぎを与えゆったり寛いで楽しめるジャズ作品のお話。

そうした雰囲気を醸し出すにふさわしいかと選んだのが、

wes_montgomery_california_dreaming.jpg


この作品!!

日本でも”夢のカリフォルニア”という曲名で広く知られる、アメリカのフォークロック・グループThe Mamas & the Papasによる60年代ポップを代表する名曲の名をタイトルに掲げた、ギタリストWes Montgomeryの1966年の作品”California Dreaming”です。


半世紀も前の、「また随分古い作品ですね!」と感じる向きもあろうか存じますが、今でこそジャズといってもフュージョン、スムース・ジャズなどというジャンルがあって、好みよってその時々の雰囲気に合った音楽を探しチョイスし、聴きながら寛ぎの時間を楽しむことは当たり前のこととなってしまいましたけど。

しかし、この作品の出たこの時代は、まだフュージョン、スムース・ジャズなどというジャンルはなく、ジャズは1960年代の初めに出現したロックに、それまでの人気を奪われ、進むべき道を見失い混沌の中フリー・無調の世界へとその歩みを始めた頃。
それは、聴く者にとって本来あるべき音楽の”楽”の字が”学”の変わってしまったかのもののように甚だ難解で、そうした状況も中でジャズはますます大衆の支持を失って行くと結果を招いてしまっていたというのです。

そうした時代に登場したのが、この作品。

この作品の発表の前年の1965年にの12月にリリースされ、その後大ヒットそのさ中にいち早くこのアルバムの表題曲ともなっている”California Dreaming”を取り上げ収録しているあたり、ジャズの作品と言いながらも、聴かなくても中身はかなりポップなサウンドであるとの印象を持たれるのではないかと思います。

事実本作、このアルバムが発表された1966年にはBillboard Jazzのアルバムチャートでは1位、 R&Bチャートでは4位を獲得していることからも、そのサウンドの親しみやすいポップ感がわかるのですが、当時の混沌したジャズ界にあってそうした作品制作を企んだのが、当時Verveレコードで敏腕を発揮していた名プロデューサーのCreed Taylorという人物。この人、ABCレコードのプロデューサーとして、1960年にJohn Coltraneや Gil Evans 、Oliver Nelson 、 Max Roach、 Sonny Rollins、 Art Blakey 等、後に多くのジャズ名匠たちの60年の軌跡を残すこととなる同社ジャズ専門レーベルのImpuleseレコードを設立者と知られる人で、この”California Dreaming”での成功以後は、1967年、VerveレコードからA&Mレコードに移籍、ここでWes Montgomeryと共に本作のコンセプトをさらに発展させた作品A Day In The Lifeを制作、後のクロス・オーバー、スムース・ジャズのパイオニアとして大きな功績を挙げた人物なのです。

さて、それではクロス・オーバー、スムース・ジャズの原点ともいう、この作品。
ここで、そのサウンド聴いてみることにいたしましょう。

曲は、もちろん!
”California Dreaming”です。







ジャズではあまり耳にしない幻想的な木管の響きに導かれて始まるあの有名なイントロ、しかし、それを奏でるギターのサウンドは紛れもなくジャズの響きを放っていることが感じられます。

当、この手の音楽は、イージーリスニング・ジャズと呼ばれ、そのちょっと小粋な雰囲気でかなりの人気を博したものでしたが、それまでのジャズ・ファンにとっては、大衆の受けを狙っただけの商業主義に迎合した音楽と受け取られ、これは、ただ聴き流すだけのBGMのような音楽で、そこには何も見るべきものないというぐらいの評価しか与えられていなかったのです。

かく言う私も、若気の至りで当時は、こんなものを良いというのはジャズ・ファンではないと考え、この手を音楽と向き合うことは避け続けてきたのですが、社会人になってから日々仕事に追われる中、次第にそれまで聴いていたジャズが重く感じられるようになってしまっていたところ、ある日、ラジオで耳したイージーリスニング・ジャズのサウンドの心地良さが、疲れきり物憂げとなってしまっていた私の心を癒してくれたという事実から、これまでこの手の音楽に抱いていた偏見を払拭、以来、これもジャズの一つのあり方であると認識するようになった次第。


さて、こうして偏見を払拭し聴くこの演奏、インストメンタルでは、演奏の仕方によってポップなるが故に起伏に乏しい凡庸な演奏とってしまいそうなこの曲を、歌なしに骨太で原曲に増して聴き応えサウンドに仕立て上げている立役者が、Wes Montgomeryというアーティスト。 

自らが編み出した、1オクターヴ離れた同じ音を、一人の演奏家がユニゾンで演奏する、いわゆるオクターブ奏法を武器に、それを駆使し厚く、くっきりとしたメリハリを持ったメロディラインを生み出しつ、その間に間にオリジナルのThe Mamas & the Papasのハーモニーを思い起こさせるコード・フレーズ散りばめて行く。

彼自身、譜面が全く読めなかったと言われているのですが、そのことが信じられないくらいその天才的というべき表現力を発揮するそのセンスに、ただただ脱帽という気持ちになって来ます。

そして、その神業とも思えるWesのギター・プレイのバック・アンサンブルで、そのサウンドに潤いの花を添えているのが、Don Sebesky のアレンジメント。
この人、後に、Creed Taylorの立ち上げたCTIレコードの名アレンジャーとして、CTIのサウンドの創成に大きな足跡残すこととなるアーティストなのですが、この演奏でのアレンジは、その最初期のもの。

こちらの方も、ジャズではあまり聴かれない木管など多用したクラシック的な要素も感じられる音作りで、Wesのギターの巧妙な絡まりを見せながら、そのサウンドを次第に盛り上げている、この当たり、後にCTIをしてクロスオーバー・サウンドの原点と言わせたその片鱗が、既にここにあったことを確認することになりました。

さて、まずは”California Dreaming”でWesのダイナミックなプレイを繊細さにサポートするSebesky、その二人の息のあった妙技を聴いていただきましたが、今度はWesの繊細な側面と、その美しさをさらに際立たせているSebesky その二人の妙技を聴いていただくことにいたしましょう。

曲は、."Oh, You Crazy Moon"です。



このしっとり感!!
秋の夜長を物思いに耽りながら楽しむには、打ってつけの演奏のように思うのですが、いかがだったでしょうか。

この作品を聴いた後、その後、Creed Taylorの立ち上げたCTIレコードの諸作品を聴いてみたのですけど、クロスオバー時代を告げた過去の人気盤の多くが、今では古色蒼然としたものになってしまっていたのに対し、この作品は、後年のクロスオーバー作品より5年余り前のものでしかないのにもかかわらず、色褪せることなく今だ瑞々しさを保ち続けているように感じられたのです。

そうしたことから、この作品を企画したCreed Taylorというプロデューサー、当初は真にジャズの大衆化を目指し、本作とA&Mレコードに移籍してからのWesとSebesky と組んだ3作品など見られる通り、今、偏見の目を捨てて聴いてみれば、その時代に現れた新しい音楽手法を広く取り入れつ、ジャズという音楽の持つ寛ぎのスィング感とスリリングな側面を、これまでとはまた違ったアレンジ施し聴かせ、自然と聴く人の心の中に入りこみその余韻を残して行くサウンドを残した、そのことに大いなる貢献を残した人物だと思うのです。

しかし、そう思う一方、その後は、この大成功が、彼にさらに過度な大衆への迎合を招かせしめ、次第に売れ筋を狙った安易な流行に溺れ商業主義的な音造りの罠に嵌って行ってしまった、その結果が今感じる古色蒼然となってしまったと考えられるのです。


こうしてみるとジャズというミュージック、けして制作意図ありきでなく、制作の場にいた人たちの心のふれあい、葛藤の中から自然に生まれ出来て来るもの、そうした意味でこの作品、プレヤー、アレンジャー、プロデューサーの3者の心がうまく結びつき、明確な制作意図を持ちながらもそのスピリットを内包することに至った数少ないジャズ作品のひとつではと思うのです。



それにしても、例年に増し訪れた大雨、台風の襲来の8月が一段落したと思ったら、今度は北海道で大地震発生。
聞けば、日本の東海から四国沖の南海トラフも、30年以内に大地震を引き起こすことが確実となって来たとのこと。
ここまで来ると、近い将来、この日本列島、人間を含む生物の生存環境も破壊されてしつくしてしまうのではと、あらぬ憂いが首をもたげて来たりして!

それはともかく、ようやく訪れた秋の日々、その平穏を祈りつつ寛ぎのサウンドに身を委ね、そうした憂いを癒し過ごすことしたいと思います。

最後に、この作品からではありませんが、何故か私個人的にお気に入りの、Wesの没後の1969年、1965年のWynton KellyとのLive録音にバック・オーケストラを配し編集した作品”Willow Weep For Me”を聴きながら、秋の夜長、さらに味わっていただければ幸いです。





Track listing
1."California Dreaming" (John Phillips, Michelle Phillips)
2."Sun Down" (Wes Montgomery)
3."Oh, You Crazy Moon" (Jimmy Van Heusen, Johnny Burke)
4."More, More, Amor" (Sol Lake)
5."Without You" (Rinaldo Marino, Walter Myers)
6."Winds of Barcelona" (Lake)
7."Sunny [alternate take]" (Bobby Hebb)
8."Sunny" (Hebb)
9."Green Peppers" (Lake)
10."Mr. Walker" (Montgomery)
11."South of the Border" (Jimmy Kennedy, Michael Carr)

Personnel
Wes Montgomery – guitar
Mel Davis – trumpet
Bernie Glow – trumpet
Jimmy Nottingham – trumpet
Wayne Andre – trombone
Johnny Messner – trombone
Bill Watrous – trombone
James Buffington – French horn
Don Butterfield – tuba
Stan Webb – clarinet, English horn, saxophone
Raymond Beckenstein – flute, piccolo, saxophone
Herbie Hancock – piano
Al Casamenti – guitar
Bucky Pizzarelli – guitar
Richard Davis – double bass
Grady Tate – drums
Jack Jennings – vibraphone, castanets, scratching
Ray Barretto – percussion

Production:
Creed Taylor – producer
Don Sebesky – arranger, conductor
Rudy Van Gelder – engineer
Gert Van Hoeyen – remastering
Dennis Drake – remastering
Ken Whitmore – cover photo, photography

Recorded
September 14 – 16, 1966 at Van Gelder Studio, Englewood Cliffs, New Jersey




nice!(19)  コメント(0) 
共通テーマ:PLAYLOG

nice! 19

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント