50年代と60年代を結んだピアニスト、その若き晩年を聴く:Wynton Kelly・Full View [音源発掘]

前回は、秋の夜長を楽しむにふさわしい作品としてWes Montgomeryの作品を取り上げ語らしていただきましたが、今回も引き続き、秋の夜長を楽しむにふさわしい作品のお話。

その作品のアーティストは、ピアニストのWynton Kelly。

実は、Wes Montgomeryというと私の場合、どうしても、 Kellyとの共演による名盤”Full House"や”Smokin at the Half Note”脳裏に浮かんで離れず、無性にKellyのピアノが聴きたくなってしまう性癖があることから、今回もKellyのピアノ・トリオ作品を選ぶことに相成ってしまった次第。

というのもその性癖、そもそも私がジャズに興味を持ち始めた頃、偶然FM放送で聴いたKellyの演奏が気に入ってしまったことがきっかけで、以来Kellyを私のジャズのリサーチ・ポイントの中心に定めてしまったことがその大元。

特に当時は、彼の名の記載がある作品を見つけると、有無問わず買いあさり聴くなどということを繰り返していたのですが、そんなことを繰り返しながらも、1965年以降の彼の晩年ともういうべき時期の作品手にすることを避け続けていたのです。

その因は、その若き時代に読んだ、とある評論家先生の「60年代中期、Verveレコード時代以降のKellyの作品には、ほとんど見るべきものはない。」という評価の影響だったのですけど。
そのうえ、当時のジャズ仲間による同様の評価がその行動に輪をかけることになってしまい、長い間その時期のKellyの作品は、かたくなに拒み続けほとんど聴くことはないままとなってしまっていたのです。

ところが、その禁を破ることになったのが、これも偶然聴いた、テナーサックス奏者Clifford Jordanの1969年の”In The World”という作品にサイドマンとして参加していたKellyのプレイ。

それは、1971年4月39歳の若さで亡くなったKellyの最晩年のプレイを捉えたこの演奏、聴いてみると調律の狂ったピアノに悪戦苦闘しながらも生み出された彼のサウンドの中に、ブルーな曲調を的確に捉えながらも迫りくる危機の情念を宿らせ放出している空気の流れを感じ、たちまちのうちにその音世界に圧倒されることになってしまったからなのです。

そして、そのことからこれまで信じていたKellyの評価は誤りであって、彼の感性は晩年に至るまで衰えることはなく、それ以上に、さらに深い音楽表現をしうる奥技を身に着けるに至っていたことを知ることとなり、なにも疑わず信奉し続けて来た禁を破り、65年以降、晩年のKellyの作品を探し聴くことなったのです。

そうした回り道の末、漸く出会ったのがこの作品

Full View Wynton Kelly.jpg


1966年制作の”Full View"です。

さて、いつもならここでアーティストの略歴などについて触れるところですが、今回は、以前の記事で若干触れたこともあるので、とやかく言うのは止めにして、さっそく、その期待の音源に耳を傾けることといたしましょう。

曲は、”On A Clear Day (You Can See Forever)”です。





軽快かつスウィンギーなピアノ、この演奏だけ聴くと、まさにKelly健在と思うのではないかと思います。

しかし、実はこの演奏、Kellyの絶頂期1950年代後半から1960年代初頭のものと比べ聴くと、彼らしいスウィンギーはあるものの、その部分はいささか抑え気味なっていて、それに替り心の内面にある漂いのようなものが色濃く付加されるようになっているように感じられるのです。

1931年生まれKellyも、この時は30歳代半ば迎え、彼も達観の域に達したということなのか...........!!

確かに、その時期の彼の日常を見てみると、1963年に愛娘 Tracyが誕生し、その彼女も3歳のまさに可愛い盛り。
そこから、この演奏手法の変化は、Kellyも人の子の親としての自覚し心の豊かさを身に着けた、その賜物かとも思いつ、他の演奏にもじっくりと耳を据え聴いてみたのですけど、そちらの方も彼のピアノの最大の魅力であるスウィング感は若干控えめとなっていて、それまで以上の深い情感の移入があり、それがサウンドに注ぎ込まれているように思えたのです。

そして、中でもそのことを強く感じたのが、1961年にもレコーディングしたこの曲の再演奏!!!!

ということで、今度は、この”Full View"から、深まりつつある秋にふさわしいこの曲の演奏に耳を傾けていただこうかと思います。
曲は、お察しの通り、あの有名な”Autumn Leaves”です。



そして、続いて1961年レコーディングの”Autumn Leaves”。
今度は、父となったKellyとの演奏との違い、このあたりにも気を配りながらお聴きください。



テンポは1966年の演奏の方が、若干早めですが、スウィング感は1961年の方が勝っているように思えます。
そして、1966年の演奏の方には、より深い哀愁がある。

そのように感じているのですが、いかがだったでしょうか。


ところで、この新旧両作品のドラムは、Jimmy Cobb 。
1959年よりMiles Davisのセクステットで共に働いて以来の多くのレコーディングで行動を共にして来たKellyとCobb。

この気心の知れあった二人のプレーが、安らぎのスウィングと感情の動きをくっきりと浮き上げ見せてくれているように思います。
Philly Joe Jonesの後任としてMiles Davisのセクステットに加入したCobbは、よくPhilly Joeと比べられ、そのドラム・プレーについてファンの間ではあまり良い評価を受けていませんでしたが、Philly Joeのような小技こそはないけれど、その地味目なプレーがかえってKellyとの共演では抜群の相性をもたらし、そのことが、しっとりした安らぎのスウィングを生んでいる、とそのように感じます。

さて、新旧を聴き比べながら他愛のない感想を語って参りましたが、 同じアーティスト、同じ曲でもその時々の感情・空気によってその表情は大きく変わる。
このあたり、原曲を大切にしながらもアドリブなどによる自己表現を核とする、ジャズならでは面白さだと思います。

私も、その楽しみ酔いしれながら、この秋の夜長、KellyとCobbの友情溢れるこのピアノ・トリオのプレイをさらに堪能しながら、とみに暑さの厳しかった夏の疲れ癒そうかと思います。


Track listing
1."I Want a Little Girl" (Murray Mencher, Billy Moll)
2."I Thought" (Rudy Stevenson)
3."What a Diff'rence a Day Made" (Stanley Adams, María Grever)
4."Autumn Leaves" (Joseph Kosma, Johnny Mercer, Jacques Prévert)
5."Don't Cha Hear Me Callin' to Ya" (Stevenson)
6."On a Clear Day (You Can See Forever)" (Burton Lane, Alan Jay Lerner)
7."Scufflin'" (Wynton Kelly)
8."Born to Be Blue" (Mel Tormé, Robert Wells)
9."Walk On By" (Burt Bacharach, Hal David)

Personnel
Wynton Kelly - piano
Ron McClure - bass
Jimmy Cobb - drums

Recorded
in New York City in September 1966




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ハンコック

こんばんは。
今の季節にぴったりの盤ですよね。
レコードがありましたので、引っ張り出してきて
Autumn Leavesを聴き比べてみました。
66年の演奏のほうが曲を自分の物にしている感じが強い気がしました。
しかし、61年のほうが頑張って演奏している感じが良く伝わってくる演奏に思います。これに加え、Paul Chambersのベースにより音に深みが増しているように思いました。
どちらも良い演奏ですね。
ご紹介下さり、ありがとうございました。
末永く聴きたいと思います。

by ハンコック (2018-09-29 17:54) 

老年蛇銘多親父(HM-Oyaji)

ハンコックさん

「66年の演奏のほうが曲を自分の物にしている」おっしゃる通りだと思います。

しかし、66年のベースのRon McClure 、かなり頑張っているけど61年でのPaul Chambersと比べると物足りなさを感じたり。

Ron McClure という人、70年代半ばには、ブラス・ロック・バンドのBlood, Sweat & Tearsに加入、その演奏を聴いたことがあるのですけど、その的確なサポートぶりが印象的だったことが思い出されますが、Chambersと比べるとその力量の差を感じてしまいます。


末永く聴きたいとのこと、ご紹介させていただき本当に良かったと思っております。







by 老年蛇銘多親父(HM-Oyaji) (2018-10-01 12:54) 

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